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作者: 万吉8
残酷な描写あり
亡国の民の行方
「大賢者となるためには『聖法』の習得、聖属性を完璧に扱う制御能力が必要だ。また、『聖法』は魔力消費が激しいため、MP10万……お前たちの言う一流魔術師100人分の魔力量が必要だ。」
 
「MP……?」
 
 サクヌッセンムの言葉の中に知らない言葉があったので聞き返す。
 
「ああ、この世界ではMPとは言わないのだったな。お前たちの言う外つ国の言葉で魔力の量を数値化したものだ。現在のお前のMPは893だ」
 
「893? なら……あの男……冥王は?」
 
 ゼニスはサクヌッセンムが言った10万との差に目眩がした。ならば先ほど戦った冥王はどうなのだろうか? そう思いゼニスは尋ねてみた。
 
「………53万だ」
 
「53万? 勝負にならないではないですか!」
 
 サクヌッセンムの言葉にゼニスは驚きを隠さず声を上げる。
 
「魔王や他の真なる王たちでさえ40万前後。『冥王』を名乗るだけはあるということだ」
 
「冥王を名乗るあの男……。魔族のはずでは? 魔族と言えども神ではない。にも関わらず、真なる王たちを上回る力を持っているというのか?」
 
 『冥王』を称する存在ものは真なる王の一柱である『冥王ハデス』と『冥王を僭称する魔族』が存在する。ゼニスたちが遭遇したのは『冥王を僭称する魔族』である。『冥王ハデス』は冥府にあるのだから……。
 
 ーー魔王よりも他の真なる王たちよりも上だと? どういうことだ? だが……!
 
 戦わねばならぬ相手を見定めたゼニスの目に力が宿る。それを見てサクヌッセンムの頬が緩む。
 
「数値の差がそのまま戦いの結果となる訳ではない。お前には仲間がいる。これから出会うであろう仲間たち……。そして、勇者もな」
 
「勇者ですか……」
 
 勇者は魔族との大戦に備えて大賢者と共に顕れる。勇者とは『真なる王』たちによって魂に力を刻まれた存在。その勇者と同等とされるのが大賢者である。自分が大賢者になれるかどうか疑わしく思える。そしてーー
 
黒土シュパッツェボードゥン族は今、どうなっているのですか?」
 
 ゼニスは心に重くのしかかっている事をサクヌッセンムに尋ねる。
 
「それは……」
 
 サクヌッセンムは重々しく口を開くーー。
 
 ◇◆◇
 何れの大陸にあるとも知れぬある小さな建物の一室に冥王はたっていた。窓からは月明かりが差し込んでこんいる。椅子が二つあり、そこには中年に差しかかったドワーフの男女の遺骸が座らされている。身につけている装身具から高い身分にあることが窺われる。
 
 冥王はその遺骸と言葉を交わす。それが終わると同時に二つの遺骸は紫に鈍く輝き、輝きが止んだ後、二体の骸骨となっていた。
 
「………。妖精王サンの所に伺う前にすることが出来ましたねえ」
 
 そう呟き、冥王はその建物を後にしたのだった。
 その後……、黒土国をシュパッツェブルグ滅ぼしたドワーフ六支族、周辺四ヶ国の国々に奴隷として連れ去られた黒土族のドワーフたちに瘴気に蝕まれ、そして何処ともなく消えるという奇病が流行り、彼らの存在は消え去ってしまったのだった……。
 
ゼニスたちの世界にはMPなどのステータスを数値化する概念はありません。
しかし、それをサクヌッセンムがするということは……

また、冥王さまが何をしたのかについては、カクヨム版に一部ネタバレがあります。もしよろしければ、そちらもお読みください!
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