残酷な描写あり
R-15
『Mr.ポケット』
あれ?」
列車に乗って改めて思う事がある。
「何で私、ここまで焦ってたんだろう?」
何がここまで私をこの列車に惹かれさせたのだ? まぁいいや。
列車内の空気はコーヒーのほろ苦い香りで支配されていて、私の他に、男性の乗客がいた。見た感じ二十代後半といったところか。だがその若い見た目とは裏腹に新聞を大きく広げ、コーヒーの入ったマグカップを片手で持ちながら広げた新聞を読んでいた。渋い。あまりにも渋すぎる。一通り列車内に目を通したが、私以外の乗客はコーヒーを飲んでいる彼以外いないようだ。
さて、どこに座ろう? 私自身あまり人と喋る方では無い。だから彼が座っている席に相席をするというのは論外である。赤の他人と一体一。それはあまりにも、あまりにも人見知りの私には刺激が強すぎる。
「なら私は......」
列車からの景色は見たい。特に初めて乗る列車からの景色は。ならば彼が座っている席のある所から少し離れた私から見て手前の席がいいだろう。そこにしよう。他者との関わりを断つ。それが私が今、一番求めているものである。
「ふぅ〜次の駅まではまだ時間はあるし、小説の推敲でもしよっと」
私は手前の席に腰を落とし、次の駅まで暇だからとポケットからおもむろにスマホを取り出した。そして、「夢の最中」のページを開こうと、スマホを開いた。が____
「あれ? あれれれれ?」
「スマホの電地が無い......!」
そう、スマホの電池バッテリーが無いのである。列車に乗る前にはほぼ百パーセントあった電池がもう無いのである。
どうしようかな....やる事が無くなってしまった。そう思っていたら____
「すみません、相席してもよろしいでしょうか?」
何と、先程まで別の席で新聞を広げながらコーヒーを飲んでいた男性がわざわざ私が相席は嫌だとこの席を選んだというのに、他にも席はあるのに相席をしてもいいか? と私の元まで尋ねてきたのだ。
だが私は赤の他人と同じ空間にいるという状況が大嫌いなのである。彼には悪いが、ここは断らせてもらおう。
「すいません、私、乗り物酔いが酷くて......相席するとアナタの気分まで害してしまうかも知れないです......だからすみません、相席は出来ません」
本当は乗り物酔いなど全く無いが、ここは嘘をついてでも相席を避けさせてもらう。だが____
「大丈夫です。それに僕、酔い止め持っているので酔ってきたら僕に言ってください。いつでも渡しますから」
私の遠慮の言葉に彼から帰ってきたのは、見た人の不安を和らがせるような笑顔と意地でも相席するという意思を遠回しに教えてくる言葉だった。
(まずい〜! この人、意地でも相席するつもりだ〜! スマホも使えないから必然的に! 私が一番苦手な一体一の会話に発展してしまう〜! それだけは嫌だ!)
「ちょ、ちょっと待って!」
だが私の拒絶の意は彼の耳に届く前に、彼は私の対面の席に腰をゆっくりと落とした。
(今すぐこの列車から降りたい〜!)