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作者: Siranui
残酷な描写あり
第七話「友と、再び」
 あらすじ

『殺し続けろ。過ちに呪われたくなければまた新たな人を殺すのだ。それしかお前に道は無いのだ……』

 錦野智優美にしきのちゆみを殺め、神の冒涜ぼうとくによって心身共に染められた結果、俺――八岐大蛇ヤマタノオロチは運命から逃げる選択をした。

 数珠じゅず繫ぎの『過ち』の連鎖を断ち切るため。これ以上罪無き人を殺める事が無いように。

 ――そして何より、神の冒涜通りにしたく無かった。



 ……暖かい光。無数の枝から広がる葉の隙間すきま一つ一つから差し込んでくる光。木漏れ日だ。俺はこの暖かい光が好きだ。

 何よりも暖かくて、木の幹に背もたれにして座ってはシャワーを浴びるように木漏れ日の光をめいいっぱい浴びる。そうすると心も身体も暖かくなる。そして包まれたまま眠りにつく。

 昔からこれが唯一の俺の癒しだった。彼女エレイナと出会う前から、ずっと。

『……ねぇ、ここで何してるの?』
「っ! お前は……」

 ――そう。俺は木漏れ日の中で彼女と出会った。淡い栗色の長い髪と白いワンピースのような服が風の流れに乗って揺れ、口元を緩めながら俺に話しかけてきた。

「……敵族と話す筋合いは無い」
『確かに敵同士かもしれないけど、武器無しでここに来たのは何か理由があるんでしょ? だってここ、神族の領域内だもん』
「……迷惑かけたな。もうここには来ない」

 竜族の領域内にはこんな木漏れ日なんてものは無い。竜王バハムートに支配されたあの地では、これほど癒せる場は一切無い。
 だからと言ってこのままここに居続ける訳にもいかない。万一の場合殺される事もあるからな。
 すぐさま立ち去ろうとしたその時、尻尾を握られた。後ろを向くと、彼女がうつむき両手で俺の尻尾を掴んでいた。

『待って……! 貴方、逃げてきたんでしょ!?』
「……お前に何が分かる」
『ひゃっ……!!』

 ……あの時は彼女が本当に鬱陶うっとうしくて、その勢いで振り飛ばした。その後にあいつが俺に魔法かけたな。あれが初めてのあいつとの戦いだ。

『おい、俺の妹に何しやがった!』
「何、こいつが鬱陶しかったから振り払っただけだ。死んでねぇから安心しろ」
『貴様……それだけの理由で妹に手を出すとは良い度胸だな!『狂変之陽クレイジー・ザ・サン』!!』
「――!」


 ふっ。あれを直接喰らって全身が灰になりかけたな。懐かしい。今もよく覚えてるさ。

 だが、そんなあいつも俺がこの手で……




「……おい」

 ダメだ。戻ってくるな。そっちに行けばまた呪いの連鎖が始まる。生き延びても、殺めるだけだ。

「……おいっ!」

 少しずつ真っ暗な視界から白い光の点が大きくなっていく。やめろ。俺はもう死ぬと決めたのだ。もう楽にさせてくれ。これ以上生きても不幸を呼ぶだけだ!

「……おいっ! しっかりしろ大蛇!!」

 やめろっ――









「んっ……」
「大蛇、大丈夫か!? 救急車で運ばれたって聞いたぞ!」

 あぁ、不愉快だ。あのまま放っておけば良かったのに。何故か目を覚ましてしまった。過ちを犯した俺は、神にまた生きる権利を与えられてしまった。また始まる。過ちを償うための虐殺が。

「アレス…………か」
「久しぶりだな、オロチ。どういう経緯かは分からないが、とりあえず無事で良かった」
「なんっ……で………」
「……オロチ?」
「何故俺を助けたっ……!」

 無意識に俺はアレスの首を右手で掴んだ。だが、全身の激痛が俺を襲い、自然とアレスの首から手が離れる。

「がっ……! ああっ……!!」
「オロチ……」

 痛みにうずくまった俺に、アレスは優しく俺の右手を優しく握った。

「お前も
「どういう、意味だっ……」
「今は言えない。というか何よりお前は患者なんだ。安静にしとけ。この続きは退院した後話してやる」

 そっと俺の手から両手を離し、アレスはその場から立ち去ってしまった。

 
「はぁ……、まさかあいつも現世ここにいるとはな」

 これがいわゆる転生か。そう考えたら俺もアレスも似たようなものなのかもしれない。

 同じ国の同じ街で出会った。いくら転生といえど、これは流石に冗談が過ぎると思うのは気のせいだろうか。

 もしこれが始祖……いや、暗黒神の思惑通りだとしたら、これもまた受け入れなければならない運命なのかもしれない。


 ――あるいは、次の俺が過ちを償うための獲物となるかもしれない。
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