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作者: Siranui
残酷な描写あり
第三十六話「危機は巡る」
 緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依


「Hum, ...... oui, vous avez déjà récupéré de vos blessures et vous pouvez reprendre votre vie normale.(えっと……うん、もう怪我も治ってるし元通りの生活に戻して良いですよ)」

 次の日、フランス人の医師が俺と凪沙さんにそう言った。もちろんフランス語なので何と言っているかは二人共よく分からない。だが安堵しきった医師の表情を見る限り、俺達の様態は良くなっていると見ていいだろう。

「何て言ってるか分からないけど、とりあえず治ったって事だよね!? やったー!!」
「凪沙さん、医師の言い方的に様態は良くなってるかもしれませんが、まだ完治した訳では無いですからね……」
 
 俺が言えるような言葉ではないと言わんばかりに凪沙さんはこちらを向いて頬を膨らませる。確かに俺が言える事では無いが。

「もう! 何でそうつれない事言うのかなあっ!?」
「一応事実ですから……」
「それでも昨日より良くなってるんだから素直に喜びなよっ!」

 俺と凪沙さんのやり取りに、医師は苦笑いをしていた。




 
 お互い怪我があったものの、こうして無事退院する事が出来た。まだやるべき事は山ほどある。少しずつでも片付けていかなければ。

「……よし! じゃあまず蒼乃ちゃん達と合流しようか!」
「そうですね。合流でき次第、夜にシンデレラ宮殿に向かいましょう」

 最初はそうするべきだ。二人だけで夜のシンデレラ宮殿に乗り込むのはリスクが高すぎる。まだ時刻は午前十時なので日が昇っている内に亜玲澄達と合流し、今後の方針を決めなくてはならない。

 ……って、それと一つ忘れていた事がある。

「あの……凪沙さん」
「ん? どうしたの?」

 一瞬言うべきか迷ったが確認のため聞いておく。

「あの……芽依はどうするんですか?」

 しばらく凪沙さんは無言になった。しまった、まだ言うタイミングでは無かったか……はたまた言うべきでは無かったか。

 しかしその後、凪沙さんはふふっと笑みを浮かべて俺をからかうように言ってきた。

「もしかして、心配してるの〜?」
「いえ……念のため確認しただけです」
「ふふっ……もう、隠さなくてもいいんだよ?」
「隠してないです」

 心配した俺が馬鹿だった。凪沙さんも芽依も、似た性格の持ち主だったのを忘れていた。

「と、とりあえず亜玲澄達あいつらと合流しましょう」
「ふふっ、大蛇君ったら顔赤いよ〜?」

 背後で凪沙さんにからかわれた気がして再び顔を赤く染める。見られる前にフードを被って顔を隠す。その間に何とか気持ちを切り替えて街中を探し回る。

 可愛いとからかう声が背後から聞こえた。


 あれから探して約二時間。ひたすら二人で探し回ったが、亜玲澄達の姿は一切無かった。歩き疲れたので近くの公園のベンチで一休みをしている。

「はぁ〜、いないねぇ……皆どこにいるのよぉ〜っ!」
「まぁ、パリはフランスの首都ですから探すだけで一苦労ですよ」

 流石の俺も疲労でベンチの背もたれに身体を預ける。
 ……最初はパンサーを捕まえてスタニッシュリングを奪還するだけかと思ったが、まさかそれ以前の問題に頭を悩ます事になるとは思わなかった。
 更に俺達はろくにフランス語を学んでいないので、街の人とまともに会話が出来ない。そんな中でこの広い都市で仲間と合流し、夜にシンデレラ宮殿に侵入してパンサーを捕えるなんて至難の業だ。
 きっと亜玲澄達も俺と同じ気持ちでこの日々を過ごしているだろう。

「どうしよう……もう日が沈んじゃうよ〜!」
「まだ昼じゃないですか。はい、休憩はもう終わりです、早く探しましょう」
「ねぇ〜早いよ〜! もうちょっと休もうよ〜! 大蛇君ったら真面目すぎ〜っ!」
「はぁ……」

 駄々をこねる凪沙さんを説得するのも面倒になってきた。ここは仕方ない、もう少しだけ休むとしよう……

「ふふっ、大蛇君って優しいんだね。もっと冷たい人かと思ってたよ」
「……優しくなんて無いです」

 何とかそれだけ言い残して俺はベンチの端に座ってそのまま眠った。
 
 ……が、その時だった。

 ――大蛇君!!

「っ――!!」

 突然誰かの声が聞こえ、ふと目を覚ますと目の前にパァンッという銃弾が放たれる音と共に俺に向かって銃弾が飛んでくるのが見えた。とっさに反命剣リベリオンを召喚して銃弾を弾き返す。

「大蛇君……?」
「凪沙さん、正面に敵がいます。恐らくパンサーの部下かと」

 パンサーの部下……というのは正直こじつけでしか無いが、俺を殺しに来たのは確かだ。そいつらの標的が俺だと分かったので、俺はベンチから立ち上がり正面の木々の前まで歩く。

「……おい、獲物はここにいるぞ。食いたきゃ出てこい」

 その言葉通り、木々から数人の不良が俺の目の前に現れた。あの時俺と芽依を襲ったあの不良と同じ格好をしている。

「ちっ、芽依の次は凪沙さんかよ……」
「大蛇君、この人達知ってるの?」

 いつの間にか俺の隣に立つ凪沙さんが俺に言った。もちろん俺はこう答える――

「……前に俺と芽依を襲った奴らの残党です」

 言い放った途端、凪沙さんは息を呑んだ。不良達はそれを気にせず俺に向かって歩き出す。

「Hé, toi ? Qui est le Noir qui a couvert la Panthère avant ?(おい、てめぇか? 前にパンサーを庇った黒い男ってのは?)」

「……」
「Hé, hé, hé, ne m'ignore pas ! Si ça arrive, je vais te frapper jusqu'à ce que tu ouvres la bouche !(おいおい無視すんじゃねぇぞ! こうなったら口開くまでボコボコにしてやるぁ!!)」

 不良達の言っている意味を、その雰囲気を見て考えてる最中に再び銃弾の音がした。

「凪沙さんっ!」

 俺は銃弾を避けつつ隣の凪沙さんの前に立つ。しかしその直後、木に当たった銃弾が爆発を起こした。

「っ――!?」

 銃弾が……爆発!? 一体どういう事だ……。 ひとまず戦わないと公園どころか街が荒らされる。

「凪沙さん、戦いましょう」
「うん、そうするしか無さそうだね!」

 俺と凪沙さんは互いに神器を召喚し、不良達との間合いを詰める。

「私は右をやるから大蛇君は左ね!」
「……了解した」

 互いに二手に分かれ、互いに対峙する。不良の数は俺の方が五人、凪沙さんの方が四人だが、あの爆発する銃弾を持ってる限り油断は出来ない。

「Décès : !!!!(死ねえええ!!!!)」

 まるで雨の如く銃弾が襲いかかった。必死に剣で弾き、直後の爆発を受けながらも少しずつ不良達との間合いを詰めていく。

 これは復讐だ。あの時俺と芽依を襲った不良達の復讐なのだ。俺が己の宿命にやっているのと同じように――
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