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作者: Siranui
残酷な描写あり
第二十六話「シンデレラ宮殿」
 任務:『スタニッシュリング』を所持する怪盗パンサーの逮捕

 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰


 日が昇る間は街の人混みに混ざり、月が見えると宝を盗んでは夜の街に消える。そして、今日もまた夜が来る。

 星降る月夜に怪盗は舞い降りる―――





『lettre anticipée(予告状)

 Ce soir, nous nous rendrons au sommet des "cristaux de la sorcière", qui se trouvent dans le Trésor du Palais de Cendrillon.

(今宵、シンデレラ宮殿宝庫に眠る『魔女之結晶クリスタルウィッチ』を頂きに参上する。)

      voleur Panther(怪盗パンサー)』



 


 3月12日 フランス・パリ シンデレラ宮殿前――

「C'est reparti, Panthère !(また現れたな、パンサー!)」

「Cette fois, je vais vous arrêter !(今度こそ逮捕してやる!)」


 地上、建物内、上空。あらゆる場所が警官で囲まれている。そんなシンデレラ宮殿の入口の前にに立つは一人の怪盗パンサー

 黒と裏地の赤いマントを身に纏い、ピンクのタキシードとスカートを身に着けた長い金髪の少女。
 彼女は警官など気にもせずに宮殿の中に入る。

「Hé, attendez !(おい、待てええ!)」

 少女はまるでアルセーヌ・ルパンの如く華麗に警官の集団を避け、建物へ侵入する。

「Je vais m'ennuyer. Attrape-moi, tu veux ?(退屈しちゃうわ。捕まえてごらん?)」
「Espèce de petite poule mouillée !(この小娘、舐めやがって!)」

 怪盗は余裕の笑みを浮かばせながら、宮殿の壁を走り抜ける。角にぶつかる直前に右足で壁を強く蹴り、宮殿の2階へと移動する。

「La police ici est tombée en disgrâce. Ça ne vaut pas la peine de le voler.(ここの警官も落ちたものだね。盗み甲斐が無いわ)」


 警官が走る速度のほぼ倍のスピードで怪盗が長い豪華な廊下を走り抜ける。


 正面には、お宝が眠っているであろう赤い扉が道を塞ぐ。もちろんこの時に備えてか、20人近い警官が扉を守る。

「Ça suffit ! Contemplez !(そこまでだ! 観念しろ!)」

「Ne pensez pas que vous pouvez tout avoir à votre façon !(何でも思い通りになると思うな!)」

 怪盗は厳重に扉を守る警官にふふっと微笑んだ。

 そうこなくちゃ。そうじゃないとこっちも張り合いが無いわ。

「Bougez comme vous voulez et faites les choses comme vous voulez. C'est ce qu'est un voleur.(思い通りに動いて、思い通りに事を成す。それが怪盗よ)」

 怪盗は突如五枚のトランプを取り出し、扉を守る警官達に向けて放った。

 投げたトランプは全てクローバー。

 五枚のトランプがそれぞれ三枚ずつに分裂し、計十五枚のトランプが警官達に向かって飛んでくる。

「Bon sang !(ぐわあぁぁっ!)」

「Voleur, ne crois pas que tu peux t'en tirer gratuitement avec ça !(怪盗め、ただで済むと思うなよ!)」

 先程まで二十人近くいた警官が五人に減ったが、がむしゃらに怪盗を捕らえようと一斉に迫る。


 だが怪盗は華麗に避け、隙だらけの扉の前に立つ。警官達が後ろを向くが、その時怪盗は既に扉の奥へと消えていった。









 シンデレラ宮殿 宝庫――

 金色の壁。ありとあらゆる宝の山。有名な画家が書いた絵画や王の武器。更には指輪やアクセサリーといったものまで、どこを見ても宝で埋め尽くされている。


「さて、ここからどうやって『魔女之結晶クリスタルウィッチ』を見つけようかしら」

 今日の怪盗の狙いは、『魔女之結晶クリスタルウィッチ』。

 それはとある異界の王国の王妃として生まれた女性が、父の自分勝手な政策に納得がいかず、ある魔女と契約して王国を出る前に自室の机に置いていったとされる魔力で出来た宝石だ。

 その宝石は一度手に触れるとあらゆる幸福を生み出すとされている。

 このシンデレラ宮殿も元々はヴェルサイユ宮殿の失敗作と言われていたが、今では多くの貴族や令嬢で賑わっている。

 ちなみに、どういう経緯でこの宝石を宮殿に持ってきたかは不明である。

「あ、あった! これだ!!」

 ダイヤモンドのように透けるような色。涙のような形の宝石は単純に重いが、色々な思いが込められている意味でも重く感じる。


「Bon sang, ils m'ont devancé !(くそ、先を越された!)
 Les gars prenez-les vite !(お前ら早く捕まえろ!)」


「Eh bien, je vais prendre les "cristaux de la sorcière", comme annoncé !(では、予告通り『魔女之結晶クリスタルウィッチ』は頂いていきます!!)」

 警官が拳銃を取り出し、発砲してくる。

 怪盗は何とか宝を踏まぬように意識しながら拳銃の弾を避ける。

「Tu veux tellement jouer avec moi ? Bien sûr, je vais jouer avec toi un peu pendant que tu fais du trésor !(そんなにボクと遊びたいのかい? いいよ、お宝ついでに少しだけ遊んであげる!)」


 怪盗は両手からそれぞれ5枚のトランプを取り出し、警官に向けて投げた。

「tournage d'éléments !(彩属総射エレメントシュート!)」

 火、水、風、土、光、闇の6属性の魔法をランダムに宿した十枚のトランプが、金色の宝庫を彩りながら警官に襲いかかる。

「Hé, si cette chose te frappe, tu seras frappé ! Canard !(おい、あれに当たったら一撃だ! 避けろ!!)」

 しかし、時すでに遅し。警官達はあっけなくトランプに捕らえられ、バタバタと倒れていく。

 怪盗はにやりと笑いながら、さっきまで指示をしていた警官に告げる。

「La prochaine fois, vous ne vous en tirerez pas avec un tel niveau de pertes, officier.(次はこの程度の犠牲じゃ済まされないよ、警官さん)」

「……Qu'est-ce que tu veux dire ?(……どういう事だ?)」

「Demain ...... Non, je pense que cela aurait dû être fait depuis longtemps. Le Fatal Rebel est ici.(明日……いや、もうとっくに来てるかな。『宿命の叛逆者』が、ここに。)」

「Rebelle ...... ? Qu'est-ce que cela signifie ?



(反逆者……? どういう意味だ!)」

「Eh bien, nous vous verrons ce jour-là ! Passez une bonne journée !(では、その日にまた会いましょう! ごきげんよう!!)」

「Hé, attendez ...... !(おい、待て……!)」

 警官が追いかけようと動いた直後、怪盗はマントをひるがえし、その場から姿を消した。

「Merde, ils m'ont encore eu cette fois !(くそっ、今回もやられた!)」


 金色の部屋にただ一人残された警官は、怪盗に選ばれなかった宝の山をじっと見つめていた。

 後にこれらも盗まれるかもしれない。そう嫌な予感を噛み締めながら、山の中から青いペンダントがついているアクセサリーを手に取り、ぎゅっと右手で握る。

「Ce palais est en passe de devenir le destin entier de la panthère dans le pays. Vous n'avez d'autre choix que de parier sur les "rebelles". ......(この宮殿は、この国の運命は全てパンサーのものとなりかけている。賭けるしか無いのか、『叛逆者』に……)」


 それは、日本から来る英雄達に放った言葉。そして『知りもしない復讐者』に向けた言葉。

 この警官も、月夜に消えた怪盗もまだ知らない。この出来事は全て『創られたもの』であるということを。

 そして、それが世界の歴史……復讐者の運命を更に歪ませる事になるということを――
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