残酷な描写あり
第十八話「『裁き』其の三 〜最後の審判〜」
『生きとし生けるもの全ては罪を犯す時、相応の裁きが下る』―――――
緊急任務：『海の魔女』アースラの討伐、マリエルの救出
遂行者：黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、カルマ、エイジ
犠牲者：0名
「くっ………」
目を覚ました。まだ視界がぼやけていて何も見えない。だけど、目の前に人がいる。
やがて視界が澄んでいく。人影がくっきりと見えた。目の前にいたのは一人の女性だった。
「あの、大丈夫ですか！？」
「………？」
誰だ、この人は。長い金髪に白い華奢なドレス。サファイアのような青い瞳……見た感じこの王国の姫といったところか。外見だけでも実にご令嬢オーラが全面に出ているのが分かる。
「君は……うぐっ……！！」
ふと思い出し、確か君は俺に殺されたはずしゃないかと言おうとした途端に激痛が走った。よく見たら全身に切り傷が出来ている。
もしかしたら、あの風の刃を直接受けていたというのか。それでこの傷が出来たことだけは分かった。
「あの、無理に動かないでください……！！今すぐ治しますから……」
女性は立ち上がり、俺に向かって何かを唱え始めた。
「神聖なる神の子よ。我を、そして彼をお許しください。我ら元に罪あり。その一を犯しただけのこと。憐れな我らに汝の恩寵を……」
唱えた途端、地面から錬成陣のようなものが出現し、色鮮やかな花畑となり俺を包む。
優しい風が吹いた。そよ風が肌をそっと撫でると同時に傷が癒えていく。次第に意識も戻ってきた。しばらくして視界の花畑はいつもの森に戻った。
これは一体どれほど高度な回復魔法なんだ……。
「……もう、大丈夫ですよ。動けますか？」
試しに立ち上がってみても、痛みが一切感じられない。驚いたことに使い切った魔力も元に戻っている。
「すごい……！ 君、一体どんな回復魔法を使って……」
どんな治癒魔法を使ってるかを聞き出す途中に女性は軽く微笑みながら口元に人差し指を立てた。恐らく秘密ということだろう。流石にそれ以上は聞けなかった。
「あ、自己紹介まだでしたね。私はディアンナ。将来……カルマ王子の妻となる人です」
カルマの……妻。間違いない、さっきまで戦神の力を借りてでも倒した女性はこの人だ。どうりでカルマに触るなと何度も俺に言ってきた訳だ。でもいつそれを知ったんだ……？
まだ疑問はあるが、それは追々カルマ本人に話を聞こうと思い、俺もディアンナに続いて名乗る。
「俺は白神亜玲澄。訳あってこの惑星に来た異界人だ」
「え……？ ど、どうやってこの惑星に来たの？」
「ま、まぁ色々あるんだが……」
ここで地球の事を言うべきなのか……。いやでも、命を助けて貰ったんだからこれくらいはするべきだ。
「俺が住んでる惑星……『地球』には、とっくに他の惑星を行き来する技術が発達している。今では街中でさえも自由に惑星を行き来出来るようになっている。
……とは言っても、関係者だけが利用出来るようになってるけどな。俺ともう一人ここに来てる人がいるんだけど、一応俺も関係者ってことだ」
「へぇ〜っ！ 地球ってほんとにすごいのね！ 私は本でしか読んだことないから地球が一体どんな場所なのか正確には分からないけど、そこまで発達してるんだ……！！
ねぇ、もっと聞かせて！ 私、地球に興味もっちゃった！！」
目をキラキラと輝かせながらディアンナという女性は俺の目をじっと見つめていた。
「お、おう……。とりあえず城に用があるから、歩きながら話すとしようか」
「え、ほんとに！？ ありがと〜っ！！」
亜玲澄はディアンナに迫られて困惑しながらも、地球に興味津々な彼女に地球の事を色々話しながらレイブン城へと進むのであった。
歩き始めてから約30分後――
亜玲澄とディアンナはレイブン城に向かって森の中を歩いている。
「いや〜っ！ やっぱり地球っていいとこよね〜！！ 行きたくなってきたな〜！！！」
……まさかここまで地球に興味を持つ者がいたとは。
俺は少し驚いたが、同時に嬉しかった。
自分の住む惑星にここまで興味を湧いてくれる別の惑星の人がいることが何より嬉しかった。
この一つ一つが平和へと導くきっかけにもなるかもしれない。そう思ったからだ。
「ねぇ、亜玲澄！ もし地球の皆がここに自由に行き来出来るようになったら……私に、地球を案内してほしいな……」
「…………あぁ。絶対に案内してやる。まだまだ地球の魅力はあるからな」
「うん。それまで待ってるからね、亜玲澄」
ディアンナは暖かい笑みを俺に向けた。反射で亜玲澄もそっと微笑む。
そんな暖かい雰囲気の中、突然空が次第に赤く染まっていった。所々に赤い雷が落ちている。
「っ……！？」
「えっ！？ 何、これ……」
誰だ。まさかアースラか。だが、気配は未だに感じない。だとしたら……
「大蛇……！」
「えっ……！？」
森を突っ走ろうとした最中、ディアンナがうずくまる。よく見ると呼吸も荒くなっている。
「っ……！ はぁ、はぁ……っ！！」
「ディアンナ！ どうした！？」
「あいつ……『海の魔女』がいるわ……！！」
「なっ――！！！」
――って事はあの赤い空は間違いない、奴の神器だ！！
「場所は分かるか！？」
「東の方向にまっすぐ進んだら……はぁ……、見えるはずよ……」
「ありがとう、お前はゆっくり休んでいろ」
それだけ言い残して俺はディアンナを置いて森の中を突っ走った。
あれだけ緑に染まっていた森が赤く染まっていた。これから血の雨でも降るのだろうか。水星を焼き尽くすのだろうか。そしてこの時代の未来すらも焼き消してしまうのだろうか……
そんな邪念を振り払いながら俺は必死に走り続ける。
「くそっ、生き残っててくれよ……大蛇！ マリエル！！」
しかし、行く道を赤い雷が邪魔をする。瞬時にそれを避けようとするが、雷が速すぎて避けきれない。
「ぐっ……ぁぁああ！！！」
くそっ、これじゃ間に合わない…！！
雷を喰らい、動きが止まる。体が痺れて動けない。感覚が無い。それでも必死に身体を動かそうとする。
『俺が代わってやってもいいぜ、白神亜玲澄』
「お、お前は……」
『あの女の時みてぇにまた俺の力を使ってもいいんだぜ？』
この際迷ってる暇はない。ただでさえ緊急事態で時間がない。
「あぁ、貸してやるよ……。ディアンナの時のように、俺はお前の期待通りの器じゃないが……大蛇を助けてやってくれ」
「そうだ……そうこなくっちゃなぁぁ！！！」
こうして俺は乱れ狂った戦神に変貌した。二重人格持ちの俺とはいい、一時的ではあるが。
「んじゃ……行くかああぁぁ！！！」
俺は雷……いや、閃光より速い速度で赤い森の中を駆け抜けていった。
同時刻――
「あっ………ぁぁああああ！！！」
「はははははは！！！ あっははははははは！！！！！」
首を締め付けられている歌姫の悲鳴と、『裁き』を下す魔女の高笑いが共鳴する。赤い雷による轟音が鳴り響く。正に地獄とも言える状況であった。
逃げたい。だが、逃げられない。これは『裁き』なのだから。必然的にこの身に降り注ぐ罰なのだ。
だから仕方無い。首を折られるだけでもまだ軽いと思った方が良い。……って、もう死ぬんだけどね。
でも、アースラに殺されるのは嫌だな……
まだあの人に殺された時の方が納得いくな……
――そんな事、俺がさせるはずが無いだろ。
「えっ……！？」
「『白時破象』！！」
突如エレイナの後ろにある森の中から閃光の如く見覚えのある白いローブの青年が現れ、右手から青白い光を発生させる。そしてその右手を地面に付ける。
刹那、『裁き』の時が止まる。視界の赤色を白く染める。まるで赤紙に修正液を雑につけたように徐々に染めていく。
「何だっ……！！」
白く染められた空間からカチッ、カチッと時計の音が聞こえる。時計なんて無いのに。
「『禁忌再染』」
亜玲澄は距離をとったまま、アースラに対して右手を十字に動かし、十字の中心を二本の指で貫く動作をした。
瞬間、何処からか赤い雷鳴がアースラに直撃する。
「がっ……ぁぁああああ！！！」
「俺の妹を裁こうとは良い度胸じゃねぇか！」
「お、お兄ちゃんっ……！」
少し口調は違うが、確かに亜玲澄の声と分かった途端、自然と笑みが溢れてくる。
「久しぶりだな、エレイナ。ちょいと口調違ぇが俺は亜玲澄だぜ。安心しとけ」
「……うんっ！」
エレイナが笑顔で頷くと、亜玲澄はエレイナにニヤリと笑いかけ、アースラの方に身体を向ける。
「んじゃあ、妹に手ぇ出した『裁き』の時間と行こうかああ！！！」
亜玲澄は右手に時変剣を召喚し、切っ先をアースラに向ける。
「てめぇ、『白時破象』の領域内で身体動かせるとはな」
「赤の他人であるお前の禁忌なんぞ、私には通じないよ！」
アースラはタコのような無数の足を出現させ、亜玲澄を襲う。だが亜玲澄の一振りで一気に六本の足が斬られる。
「ちっ、たこ焼きにしても酢だこにしても不味そうなタコ足だな！！」
「餓鬼が……舐めるんじゃないよ！！！」
再び黒いタコ足が襲いかかる。だが今度は真っ直ぐ一直線に襲いかかってくる。
少し危険を感じた亜玲澄は当たるギリギリで後ろに下がって避ける。タコ足は槍の如く白い床を穿つ。
「ちっ、俺の禁忌を破ろうってか！！」
「あははっ！ 私の時を止めようだなんて最初から無駄なんだよっ！！」
徐々にタコ足の槍が亜玲澄の禁忌魔法を破っていく。白い領域にヒビが広がり、赤い空の光が差し込んでくる。
「さぁ、兄妹揃って地獄に落ちなっ！！ 『最期之審判』！！！」
そして、空は再び赤に染まった。血に濡れたような赤。数多の受刑者で彩られた鮮血の空。そして二人の兄妹も裁かれて、あの空に鮮血を足していく。
だが、そう簡単に兄妹の絆は裁ききれなかった。
「お兄ちゃんっ……！！！」
「地獄に落ちるのはてめぇの方だぜ！ 『時夢天変』！！」
全てを『裁く』禁忌とそれを『夢無』化させる魔法が、互いにぶつかっては裁き、夢となって消えていく。
しかし、それでも空は赤く染まっていた――
緊急任務：『海の魔女』アースラの討伐、マリエルの救出
遂行者：黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、カルマ、エイジ
犠牲者：0名
「くっ………」
目を覚ました。まだ視界がぼやけていて何も見えない。だけど、目の前に人がいる。
やがて視界が澄んでいく。人影がくっきりと見えた。目の前にいたのは一人の女性だった。
「あの、大丈夫ですか！？」
「………？」
誰だ、この人は。長い金髪に白い華奢なドレス。サファイアのような青い瞳……見た感じこの王国の姫といったところか。外見だけでも実にご令嬢オーラが全面に出ているのが分かる。
「君は……うぐっ……！！」
ふと思い出し、確か君は俺に殺されたはずしゃないかと言おうとした途端に激痛が走った。よく見たら全身に切り傷が出来ている。
もしかしたら、あの風の刃を直接受けていたというのか。それでこの傷が出来たことだけは分かった。
「あの、無理に動かないでください……！！今すぐ治しますから……」
女性は立ち上がり、俺に向かって何かを唱え始めた。
「神聖なる神の子よ。我を、そして彼をお許しください。我ら元に罪あり。その一を犯しただけのこと。憐れな我らに汝の恩寵を……」
唱えた途端、地面から錬成陣のようなものが出現し、色鮮やかな花畑となり俺を包む。
優しい風が吹いた。そよ風が肌をそっと撫でると同時に傷が癒えていく。次第に意識も戻ってきた。しばらくして視界の花畑はいつもの森に戻った。
これは一体どれほど高度な回復魔法なんだ……。
「……もう、大丈夫ですよ。動けますか？」
試しに立ち上がってみても、痛みが一切感じられない。驚いたことに使い切った魔力も元に戻っている。
「すごい……！ 君、一体どんな回復魔法を使って……」
どんな治癒魔法を使ってるかを聞き出す途中に女性は軽く微笑みながら口元に人差し指を立てた。恐らく秘密ということだろう。流石にそれ以上は聞けなかった。
「あ、自己紹介まだでしたね。私はディアンナ。将来……カルマ王子の妻となる人です」
カルマの……妻。間違いない、さっきまで戦神の力を借りてでも倒した女性はこの人だ。どうりでカルマに触るなと何度も俺に言ってきた訳だ。でもいつそれを知ったんだ……？
まだ疑問はあるが、それは追々カルマ本人に話を聞こうと思い、俺もディアンナに続いて名乗る。
「俺は白神亜玲澄。訳あってこの惑星に来た異界人だ」
「え……？ ど、どうやってこの惑星に来たの？」
「ま、まぁ色々あるんだが……」
ここで地球の事を言うべきなのか……。いやでも、命を助けて貰ったんだからこれくらいはするべきだ。
「俺が住んでる惑星……『地球』には、とっくに他の惑星を行き来する技術が発達している。今では街中でさえも自由に惑星を行き来出来るようになっている。
……とは言っても、関係者だけが利用出来るようになってるけどな。俺ともう一人ここに来てる人がいるんだけど、一応俺も関係者ってことだ」
「へぇ〜っ！ 地球ってほんとにすごいのね！ 私は本でしか読んだことないから地球が一体どんな場所なのか正確には分からないけど、そこまで発達してるんだ……！！
ねぇ、もっと聞かせて！ 私、地球に興味もっちゃった！！」
目をキラキラと輝かせながらディアンナという女性は俺の目をじっと見つめていた。
「お、おう……。とりあえず城に用があるから、歩きながら話すとしようか」
「え、ほんとに！？ ありがと〜っ！！」
亜玲澄はディアンナに迫られて困惑しながらも、地球に興味津々な彼女に地球の事を色々話しながらレイブン城へと進むのであった。
歩き始めてから約30分後――
亜玲澄とディアンナはレイブン城に向かって森の中を歩いている。
「いや〜っ！ やっぱり地球っていいとこよね〜！！ 行きたくなってきたな〜！！！」
……まさかここまで地球に興味を持つ者がいたとは。
俺は少し驚いたが、同時に嬉しかった。
自分の住む惑星にここまで興味を湧いてくれる別の惑星の人がいることが何より嬉しかった。
この一つ一つが平和へと導くきっかけにもなるかもしれない。そう思ったからだ。
「ねぇ、亜玲澄！ もし地球の皆がここに自由に行き来出来るようになったら……私に、地球を案内してほしいな……」
「…………あぁ。絶対に案内してやる。まだまだ地球の魅力はあるからな」
「うん。それまで待ってるからね、亜玲澄」
ディアンナは暖かい笑みを俺に向けた。反射で亜玲澄もそっと微笑む。
そんな暖かい雰囲気の中、突然空が次第に赤く染まっていった。所々に赤い雷が落ちている。
「っ……！？」
「えっ！？ 何、これ……」
誰だ。まさかアースラか。だが、気配は未だに感じない。だとしたら……
「大蛇……！」
「えっ……！？」
森を突っ走ろうとした最中、ディアンナがうずくまる。よく見ると呼吸も荒くなっている。
「っ……！ はぁ、はぁ……っ！！」
「ディアンナ！ どうした！？」
「あいつ……『海の魔女』がいるわ……！！」
「なっ――！！！」
――って事はあの赤い空は間違いない、奴の神器だ！！
「場所は分かるか！？」
「東の方向にまっすぐ進んだら……はぁ……、見えるはずよ……」
「ありがとう、お前はゆっくり休んでいろ」
それだけ言い残して俺はディアンナを置いて森の中を突っ走った。
あれだけ緑に染まっていた森が赤く染まっていた。これから血の雨でも降るのだろうか。水星を焼き尽くすのだろうか。そしてこの時代の未来すらも焼き消してしまうのだろうか……
そんな邪念を振り払いながら俺は必死に走り続ける。
「くそっ、生き残っててくれよ……大蛇！ マリエル！！」
しかし、行く道を赤い雷が邪魔をする。瞬時にそれを避けようとするが、雷が速すぎて避けきれない。
「ぐっ……ぁぁああ！！！」
くそっ、これじゃ間に合わない…！！
雷を喰らい、動きが止まる。体が痺れて動けない。感覚が無い。それでも必死に身体を動かそうとする。
『俺が代わってやってもいいぜ、白神亜玲澄』
「お、お前は……」
『あの女の時みてぇにまた俺の力を使ってもいいんだぜ？』
この際迷ってる暇はない。ただでさえ緊急事態で時間がない。
「あぁ、貸してやるよ……。ディアンナの時のように、俺はお前の期待通りの器じゃないが……大蛇を助けてやってくれ」
「そうだ……そうこなくっちゃなぁぁ！！！」
こうして俺は乱れ狂った戦神に変貌した。二重人格持ちの俺とはいい、一時的ではあるが。
「んじゃ……行くかああぁぁ！！！」
俺は雷……いや、閃光より速い速度で赤い森の中を駆け抜けていった。
同時刻――
「あっ………ぁぁああああ！！！」
「はははははは！！！ あっははははははは！！！！！」
首を締め付けられている歌姫の悲鳴と、『裁き』を下す魔女の高笑いが共鳴する。赤い雷による轟音が鳴り響く。正に地獄とも言える状況であった。
逃げたい。だが、逃げられない。これは『裁き』なのだから。必然的にこの身に降り注ぐ罰なのだ。
だから仕方無い。首を折られるだけでもまだ軽いと思った方が良い。……って、もう死ぬんだけどね。
でも、アースラに殺されるのは嫌だな……
まだあの人に殺された時の方が納得いくな……
――そんな事、俺がさせるはずが無いだろ。
「えっ……！？」
「『白時破象』！！」
突如エレイナの後ろにある森の中から閃光の如く見覚えのある白いローブの青年が現れ、右手から青白い光を発生させる。そしてその右手を地面に付ける。
刹那、『裁き』の時が止まる。視界の赤色を白く染める。まるで赤紙に修正液を雑につけたように徐々に染めていく。
「何だっ……！！」
白く染められた空間からカチッ、カチッと時計の音が聞こえる。時計なんて無いのに。
「『禁忌再染』」
亜玲澄は距離をとったまま、アースラに対して右手を十字に動かし、十字の中心を二本の指で貫く動作をした。
瞬間、何処からか赤い雷鳴がアースラに直撃する。
「がっ……ぁぁああああ！！！」
「俺の妹を裁こうとは良い度胸じゃねぇか！」
「お、お兄ちゃんっ……！」
少し口調は違うが、確かに亜玲澄の声と分かった途端、自然と笑みが溢れてくる。
「久しぶりだな、エレイナ。ちょいと口調違ぇが俺は亜玲澄だぜ。安心しとけ」
「……うんっ！」
エレイナが笑顔で頷くと、亜玲澄はエレイナにニヤリと笑いかけ、アースラの方に身体を向ける。
「んじゃあ、妹に手ぇ出した『裁き』の時間と行こうかああ！！！」
亜玲澄は右手に時変剣を召喚し、切っ先をアースラに向ける。
「てめぇ、『白時破象』の領域内で身体動かせるとはな」
「赤の他人であるお前の禁忌なんぞ、私には通じないよ！」
アースラはタコのような無数の足を出現させ、亜玲澄を襲う。だが亜玲澄の一振りで一気に六本の足が斬られる。
「ちっ、たこ焼きにしても酢だこにしても不味そうなタコ足だな！！」
「餓鬼が……舐めるんじゃないよ！！！」
再び黒いタコ足が襲いかかる。だが今度は真っ直ぐ一直線に襲いかかってくる。
少し危険を感じた亜玲澄は当たるギリギリで後ろに下がって避ける。タコ足は槍の如く白い床を穿つ。
「ちっ、俺の禁忌を破ろうってか！！」
「あははっ！ 私の時を止めようだなんて最初から無駄なんだよっ！！」
徐々にタコ足の槍が亜玲澄の禁忌魔法を破っていく。白い領域にヒビが広がり、赤い空の光が差し込んでくる。
「さぁ、兄妹揃って地獄に落ちなっ！！ 『最期之審判』！！！」
そして、空は再び赤に染まった。血に濡れたような赤。数多の受刑者で彩られた鮮血の空。そして二人の兄妹も裁かれて、あの空に鮮血を足していく。
だが、そう簡単に兄妹の絆は裁ききれなかった。
「お兄ちゃんっ……！！！」
「地獄に落ちるのはてめぇの方だぜ！ 『時夢天変』！！」
全てを『裁く』禁忌とそれを『夢無』化させる魔法が、互いにぶつかっては裁き、夢となって消えていく。
しかし、それでも空は赤く染まっていた――