残酷な描写あり
第十四話「風と時、そして禁忌(上)」
緊急任務:攫われたマリエルの捜索及び救出、『海の魔女』アースラの討伐
遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、カルマ、エイジ、トリトン、人魚4姉妹、武刀正義
犠牲者:0名
同時刻――
一方大蛇とは別の道へと向かった亜玲澄は、先程から感じるアースラのほんの僅かの凶悪な気配を頼りに進む。
だが、進む内にその気配が段々と薄くなっている。遠のいているのだろうか。
左右の木々がそよ風に揺られる。それと同時に優しい向かい風が亜玲澄の頬をそっと撫でる。かいた汗も風と共に飛んでいく感じがして気持ち良い。
それでも俺はひたすら城へと向かう。
ただ一人の歌姫をアースラから奪還するために。
しばらく歩いている途中だった。僅かながら凶悪な気配を感じた。
「っ――! アースラか!?」
一瞬で気付き、背中の剣を抜くがその気配は風と共に流されやがて消えていった。
「逃したか……」
気のせいだと仕方無く心に思わせ、剣を鞘に収めて先へ進もうと一歩踏み出した時だった。
「……!!」
刹那、俺の背後から切り裂くような強い風が吹いた。辺りを見回すと周囲の木々は全て真っ二つに切られ、薙ぎ倒されていた。
咄嗟に振り向き、再び背中の剣を抜く。そこには貴族のような服を身に纏った女性がいた。
「私のカルマにぃぃ……触るなあああ!!!」
「な、何だ……!?」
突然女性は腕を振り払うのと同時にさっきのと同じ強い風が吹いた。
「ぐっ……!」
ギリギリで風が来るタイミングを読み、俺は剣で風を受ける。だが、風を消したと同時に刀身が粉々に砕け散った。
「風で剣が……!?」
元々この剣自体大して強い剣ではないが、魔力だけで物質を破壊することはほぼ不可能に近い。恐らくあの女性はかなり腕前のある魔術師だ。
「中々手強いな……!」
反撃すべく俺は右手を地面につけ、術式を発動する。
「『倍速遅延』!」
「っ……!!」
唱えた途端、俺の右手を伝って周りの空間が止まり、女性の動きが遅くなった。右手を地面から離して握り締め、遅くしている隙に女性に一撃をお見舞いする。
「あまり手は出したくないが……!!」
一撃、また一撃と女性に喰らわせる。そして左拳でもう一撃を喰らわせようとした寸前、女性の両手から風の刃が出現した。
「なっ!?」
攻撃をキャンセルし、距離を置こうとしたが、即座に女性の両手から風の刃が飛んできた。風は止まっている空間を無視し、一定の速さで襲いかかる。
「くそっ……!」
必死に対応しようとしたが間に合わず、風の刃を喰らう。身体が切り裂かれ、無数の傷口から出血する。
「畜生っ……、時の動きを無視するとはな」
風の刃は俺だけでなく、倍速遅延による空間をも切り裂き、女性の動きも元に戻った。
「死ねえええ!!!」
今のでほぼ瀕死の俺に向かって更に風の刃が襲いかかる。
「ぐっ………」
思うように身体が動かず、俺は風の刃を更に喰らう。痛い。斬れるような痛みが全身を襲う。斬られた後の風が更に傷を大きく広げる。
「消えろ! 消えろ!! 消えろおおお!!!」
女性は全身を大きく捻り、回転して嵐を巻き起こし、それに俺は巻き込まれる。
「『旋風刃』!!」
女性の回転数が増すたび風による攻撃数も増す。更に嵐の範囲も広くなる。範囲内の物質を正に「切断」する技だ。
「ぐっ……ぁぁぁあああ!!!」
俺はただ切り裂かれるだけだった。この永久不滅の嵐を乗り越えることは出来ない。
「これで……、終わりだああ!!」
女性はとどめと言わんばかりに右手に風の刃を纏わせ、一本の剣を生成し、俺の心臓めがけて突き刺す。
それでも俺は抵抗する事など出来ず――
『……おい、死ぬのか白神亜玲澄。マリエルを、仲間を、唯一の相棒を置いて死ぬのかてめぇは』
誰だお前は。今から死ぬってのに生きる希望を見出してくるな。
『希望なんぞ与えてねぇぜ。ただこれから訪れる死を後悔しねぇのかって聞いてんだ』
後悔も何も、任務でこの身を燃やし尽くすのが今の俺の仕事だ。今更後悔などしない。
『随分と大蛇みてぇなこと言うじゃねぇか。……ま、お前が嘘言ってることなんぞバレバレの晴れ愉快だぜ!』
何が言いたいんだお前は。早く失せろ。
『失せろって言われても俺はお前だからなあ。お前の隠された存在とでも言っとくか。
とりあえず俺はこんな所で死にたくねぇんだ。その身体貸してもらうぜ!!』
おい、いきなり何をっ……
『あの女に見せつけてやるのさ……白神亜玲澄は二重人格って事をよおおお!!!』
待て、勝手に乗り移って来るな! おい離れろ! やめろおおおおお!!!!
―――。
俺の身体に秘められた俺が憑依する――
「『白時破象』」
右手を正面に翳した途端、空間に波紋が生じ、女性の風の剣が俺を穿つ一歩手前で止まった。
女性はぴたりと動きを止めた。正確には止められた。
「なっ……!?」
女性は必死に右手を解こうとしたが、身体が動こうとしない。
「俺様の禁忌魔法にかかればお前くらい簡単に止められるんだぜええ!」
更に俺は女性の右手首を片手握り潰し、真下に投げ飛ばした。それと同時に嵐が一瞬にして止んだ。
「くっ……!」
「くはははは! これでも手加減してんだぜええ!!?」
狂ったような言い方で更に女性の顔面に殴りつける。手加減とは言っていた割にはとても容赦が無い。
「このっ……!!」
女性が左手で風を生成させるがすぐに止められる。
「おっと、これ以上の抵抗はよし子ちゃんだぜ? あひゃひゃひゃひゃ!!!」
俺は風を生成する手を左手で掴み、無慈悲に女性を空高く蹴り飛ばした。更に右へ左へと殴り飛ばす。
「がっ……、カ、カルマあああ!!!」
女性は吹っ飛ばされながらも、空中で体制を整えて風の刃を両手に生成する。
「ほぉ……、まだ生きてるとは随分しぶてぇじゃねぇか。やっぱ神たる者はこうでなくてはつまんねぇよなぁっ!」
「お前なんかにぃ……、カルマは渡さない!!」
女性が再び風の剣を生成させるのに対し、俺は右手に一本の剣を召喚する。時計の短針と長針を、本体を隔てて連結されている剣。
「この身体では初披露だぜ……来やがれ、『時変剣』オオオ!!!」
「……!!」
その神器を恐れてか、女性は身体を震わせながらも再び回転し、嵐を巻き起こした。
「死ねえええ!!!!」
再び森を嵐が襲う。木々が嵐に巻き込まれ、空彼方へと嵐と共に回りながら飛ばされる。
それすら気にせず、女性は左手で膨大な魔力を誇る風の弾丸を生成して撃つ。
「『風斬烈破』!!!」
風の弾丸は俺に向かってビームと化し、一直線に空間を穿つ。
「無駄無駄ああ!!」
今、ここは白時破象の領域内。領域内に入っちまえばこのビームも当たる事は無い。つまり、俺に攻撃するだけ無駄って事よ。
しかし、それはとんだ大違いとなって俺に回ってきた。
「『斬風烈絶』!!」
「なっ……!!」
あの女、まさかここで使うとはな……『禁忌魔法』を。
瞬間、俺の禁忌魔法は女性が放った禁忌魔法によって塗り替えられる。視界が巨大な嵐の中に入っているように見える。いや、実際に入っているが。
「ここまで来れば……!!」
「っ……!!?」
ヒュッ……っと鋭い風が俺の身体を強く押し出した。振り返る途端、腹部に激痛が走った。顔を下に向けると、気づかぬ内に風の弾丸が腹部を貫通していた。
「ごぼっ……」
それが分かった瞬間、口から大量に吐血する。時変剣を杖代わりに突き立てようとするが、嵐で空中に浮いているので更に体制を崩して回転してしまう。
『立場逆転のようね、アレス。戦いの神と呼ばれながら、私が禁忌魔法を使えるって事すら忘れるとはね……、実に愚かね。』
「てめぇ……俺が先に使うと見計らってたのか!!」
『そうよ。でももう貴方に私は倒せない。だって……この巨大な嵐自体が、私だもの』
「はぁっ……!?」
俺を中心にして刃のように鋭い風が螺旋状に回りながら遥か上へと続く。この巨大嵐自体があの女性だと言うのだ。
『さあ、味わいなさいアレス。私の禁忌を。私だけのカルマと関わった事をこの刃を以て永久に後悔するが良い!!』
難攻不落。永久不滅。完全無欠なる禁忌魔法。その風を止められる者は誰もいない。
抗えば風に身を斬り刻まれ、時を待っても次第に風による傷が増え、深くなり、次第に死へと誘う。
「ちっ……、随分と王子様に一途なもんだ!!」
何故か本来の力を取り戻した俺でさえも、この風に勝る事は無い。まるで俺の死に場所はここだと言っているかのように。
大蛇の相棒の運命が、今閉ざされようとしていた――
遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、カルマ、エイジ、トリトン、人魚4姉妹、武刀正義
犠牲者:0名
同時刻――
一方大蛇とは別の道へと向かった亜玲澄は、先程から感じるアースラのほんの僅かの凶悪な気配を頼りに進む。
だが、進む内にその気配が段々と薄くなっている。遠のいているのだろうか。
左右の木々がそよ風に揺られる。それと同時に優しい向かい風が亜玲澄の頬をそっと撫でる。かいた汗も風と共に飛んでいく感じがして気持ち良い。
それでも俺はひたすら城へと向かう。
ただ一人の歌姫をアースラから奪還するために。
しばらく歩いている途中だった。僅かながら凶悪な気配を感じた。
「っ――! アースラか!?」
一瞬で気付き、背中の剣を抜くがその気配は風と共に流されやがて消えていった。
「逃したか……」
気のせいだと仕方無く心に思わせ、剣を鞘に収めて先へ進もうと一歩踏み出した時だった。
「……!!」
刹那、俺の背後から切り裂くような強い風が吹いた。辺りを見回すと周囲の木々は全て真っ二つに切られ、薙ぎ倒されていた。
咄嗟に振り向き、再び背中の剣を抜く。そこには貴族のような服を身に纏った女性がいた。
「私のカルマにぃぃ……触るなあああ!!!」
「な、何だ……!?」
突然女性は腕を振り払うのと同時にさっきのと同じ強い風が吹いた。
「ぐっ……!」
ギリギリで風が来るタイミングを読み、俺は剣で風を受ける。だが、風を消したと同時に刀身が粉々に砕け散った。
「風で剣が……!?」
元々この剣自体大して強い剣ではないが、魔力だけで物質を破壊することはほぼ不可能に近い。恐らくあの女性はかなり腕前のある魔術師だ。
「中々手強いな……!」
反撃すべく俺は右手を地面につけ、術式を発動する。
「『倍速遅延』!」
「っ……!!」
唱えた途端、俺の右手を伝って周りの空間が止まり、女性の動きが遅くなった。右手を地面から離して握り締め、遅くしている隙に女性に一撃をお見舞いする。
「あまり手は出したくないが……!!」
一撃、また一撃と女性に喰らわせる。そして左拳でもう一撃を喰らわせようとした寸前、女性の両手から風の刃が出現した。
「なっ!?」
攻撃をキャンセルし、距離を置こうとしたが、即座に女性の両手から風の刃が飛んできた。風は止まっている空間を無視し、一定の速さで襲いかかる。
「くそっ……!」
必死に対応しようとしたが間に合わず、風の刃を喰らう。身体が切り裂かれ、無数の傷口から出血する。
「畜生っ……、時の動きを無視するとはな」
風の刃は俺だけでなく、倍速遅延による空間をも切り裂き、女性の動きも元に戻った。
「死ねえええ!!!」
今のでほぼ瀕死の俺に向かって更に風の刃が襲いかかる。
「ぐっ………」
思うように身体が動かず、俺は風の刃を更に喰らう。痛い。斬れるような痛みが全身を襲う。斬られた後の風が更に傷を大きく広げる。
「消えろ! 消えろ!! 消えろおおお!!!」
女性は全身を大きく捻り、回転して嵐を巻き起こし、それに俺は巻き込まれる。
「『旋風刃』!!」
女性の回転数が増すたび風による攻撃数も増す。更に嵐の範囲も広くなる。範囲内の物質を正に「切断」する技だ。
「ぐっ……ぁぁぁあああ!!!」
俺はただ切り裂かれるだけだった。この永久不滅の嵐を乗り越えることは出来ない。
「これで……、終わりだああ!!」
女性はとどめと言わんばかりに右手に風の刃を纏わせ、一本の剣を生成し、俺の心臓めがけて突き刺す。
それでも俺は抵抗する事など出来ず――
『……おい、死ぬのか白神亜玲澄。マリエルを、仲間を、唯一の相棒を置いて死ぬのかてめぇは』
誰だお前は。今から死ぬってのに生きる希望を見出してくるな。
『希望なんぞ与えてねぇぜ。ただこれから訪れる死を後悔しねぇのかって聞いてんだ』
後悔も何も、任務でこの身を燃やし尽くすのが今の俺の仕事だ。今更後悔などしない。
『随分と大蛇みてぇなこと言うじゃねぇか。……ま、お前が嘘言ってることなんぞバレバレの晴れ愉快だぜ!』
何が言いたいんだお前は。早く失せろ。
『失せろって言われても俺はお前だからなあ。お前の隠された存在とでも言っとくか。
とりあえず俺はこんな所で死にたくねぇんだ。その身体貸してもらうぜ!!』
おい、いきなり何をっ……
『あの女に見せつけてやるのさ……白神亜玲澄は二重人格って事をよおおお!!!』
待て、勝手に乗り移って来るな! おい離れろ! やめろおおおおお!!!!
―――。
俺の身体に秘められた俺が憑依する――
「『白時破象』」
右手を正面に翳した途端、空間に波紋が生じ、女性の風の剣が俺を穿つ一歩手前で止まった。
女性はぴたりと動きを止めた。正確には止められた。
「なっ……!?」
女性は必死に右手を解こうとしたが、身体が動こうとしない。
「俺様の禁忌魔法にかかればお前くらい簡単に止められるんだぜええ!」
更に俺は女性の右手首を片手握り潰し、真下に投げ飛ばした。それと同時に嵐が一瞬にして止んだ。
「くっ……!」
「くはははは! これでも手加減してんだぜええ!!?」
狂ったような言い方で更に女性の顔面に殴りつける。手加減とは言っていた割にはとても容赦が無い。
「このっ……!!」
女性が左手で風を生成させるがすぐに止められる。
「おっと、これ以上の抵抗はよし子ちゃんだぜ? あひゃひゃひゃひゃ!!!」
俺は風を生成する手を左手で掴み、無慈悲に女性を空高く蹴り飛ばした。更に右へ左へと殴り飛ばす。
「がっ……、カ、カルマあああ!!!」
女性は吹っ飛ばされながらも、空中で体制を整えて風の刃を両手に生成する。
「ほぉ……、まだ生きてるとは随分しぶてぇじゃねぇか。やっぱ神たる者はこうでなくてはつまんねぇよなぁっ!」
「お前なんかにぃ……、カルマは渡さない!!」
女性が再び風の剣を生成させるのに対し、俺は右手に一本の剣を召喚する。時計の短針と長針を、本体を隔てて連結されている剣。
「この身体では初披露だぜ……来やがれ、『時変剣』オオオ!!!」
「……!!」
その神器を恐れてか、女性は身体を震わせながらも再び回転し、嵐を巻き起こした。
「死ねえええ!!!!」
再び森を嵐が襲う。木々が嵐に巻き込まれ、空彼方へと嵐と共に回りながら飛ばされる。
それすら気にせず、女性は左手で膨大な魔力を誇る風の弾丸を生成して撃つ。
「『風斬烈破』!!!」
風の弾丸は俺に向かってビームと化し、一直線に空間を穿つ。
「無駄無駄ああ!!」
今、ここは白時破象の領域内。領域内に入っちまえばこのビームも当たる事は無い。つまり、俺に攻撃するだけ無駄って事よ。
しかし、それはとんだ大違いとなって俺に回ってきた。
「『斬風烈絶』!!」
「なっ……!!」
あの女、まさかここで使うとはな……『禁忌魔法』を。
瞬間、俺の禁忌魔法は女性が放った禁忌魔法によって塗り替えられる。視界が巨大な嵐の中に入っているように見える。いや、実際に入っているが。
「ここまで来れば……!!」
「っ……!!?」
ヒュッ……っと鋭い風が俺の身体を強く押し出した。振り返る途端、腹部に激痛が走った。顔を下に向けると、気づかぬ内に風の弾丸が腹部を貫通していた。
「ごぼっ……」
それが分かった瞬間、口から大量に吐血する。時変剣を杖代わりに突き立てようとするが、嵐で空中に浮いているので更に体制を崩して回転してしまう。
『立場逆転のようね、アレス。戦いの神と呼ばれながら、私が禁忌魔法を使えるって事すら忘れるとはね……、実に愚かね。』
「てめぇ……俺が先に使うと見計らってたのか!!」
『そうよ。でももう貴方に私は倒せない。だって……この巨大な嵐自体が、私だもの』
「はぁっ……!?」
俺を中心にして刃のように鋭い風が螺旋状に回りながら遥か上へと続く。この巨大嵐自体があの女性だと言うのだ。
『さあ、味わいなさいアレス。私の禁忌を。私だけのカルマと関わった事をこの刃を以て永久に後悔するが良い!!』
難攻不落。永久不滅。完全無欠なる禁忌魔法。その風を止められる者は誰もいない。
抗えば風に身を斬り刻まれ、時を待っても次第に風による傷が増え、深くなり、次第に死へと誘う。
「ちっ……、随分と王子様に一途なもんだ!!」
何故か本来の力を取り戻した俺でさえも、この風に勝る事は無い。まるで俺の死に場所はここだと言っているかのように。
大蛇の相棒の運命が、今閉ざされようとしていた――