▼詳細検索を開く
作者: 葛葉幸一
残酷な描写あり
百鬼夜行─ヒャッキヤコウ─
 人気のないところで怪異に会うというのは特別なことではない。
 しかし。
 人がたくさん往来しているところで出会う怪異が一番厄介だ。
 人が多いと言うことはそれだけで怪異が存在しづらい場所になる。
 街灯。混雑。喧騒。機械音。不自然な音。歓喜。
 対して妖しが好むのは、暗闇。静寂。無音。
 なにより人の恐怖心や怨みの念をもっとも好む。
 だから視える性質の僕も安心していた。
 が。今日出会ってしまった。
 繁華街のスクランブル交差点。
 沢山の人が行き来する場所だ。
 信号待ちをしている僕の隣に並ぶ馬。
 本当に馬が走っていたら大騒ぎだ。
 だからそれが怪異だとすぐに気がついた。
 馬。たしかに馬だ。
 だが首から先に頭がない。そこには大きな1つの目。
 夜行……!
 僕は気づかないフリをしてコンビニの中に入る。
 灯り。そして恐怖心のない大勢の人。怨みつらみとはかけ離れた歓喜。

 祖父曰く。
 夜行ってのは先触れよ。
 百鬼夜行の、な。
 ぬらりひょんと夜行と、先頭に立ってやってくるんだ。
 百の鬼を連れて、現世に災いをもたらしに来るのさ。

 コンビニで立ち読みした振りをする。
 夜行は鏡越しに俺の目の前に立ち、じっとこちらをみてくる。
 雑誌に目を落とすも、何一つ頭に入って来ない。
 やがて1つ目の馬は、老人を乗せて去っていく。
 ホッとした俺は急いで家に帰る。
 何事もなく家にたどり着き、テレビを見ている時。
 耳元で声がした。

─見つけたぞ─

 驚いて外を見る。目玉だけの馬が数多の鬼を引き連れて僕の前に姿を現した。
 まるでこれから始まる百鬼夜行を見せつけるかのように。

─見ていたろう?─

 街に、人外の馬の嗎きが響き渡った。
Twitter