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作者: 葛葉幸一
残酷な描写あり
怪哉─カイサイ─
 その音怪しきに候。しかしながら姿形何処にも見えず。
 ただただ、暗闇にのみその音現れ、人皆姿探せども何処にも在らじ。
 尊き僧、これに出くわしてわ、クワイサイと名付けたり。いま怪哉といふなり。

─みしり─と音で目を覚ます。
 そんなものただの家鳴りのはずなのに、なぜか気になってしまう。
 
 祖父曰く。
 家鳴りしか聞こえない中に奴らはいる。
 哉は感嘆の意味もあるが、始まるという意味もあるんだ。
 怪哉とは怪しい何かが始まるっつーことかもしれんな。

 であるならば今まさに、この家のこの暗闇の中でなにかが始まろうとしているのだろうか。
 もし始まるとすれば、一体何が始まるのだろう?
 そんなもの、きまっているではないか。
 怪しきことがはじまっているのだ。
 いや。もしかしたらもうすでに始まっていたのかもしれない。
 幼き日のあの夜に。

 ならば、ソレは今、どうなっているのだろうか。
 後ろになにかいるような気がして、体が動かない。
 動かないのではない。動かせないのだ。
 肌を指すような気配は、在る本能を刺激する。
 恐怖という原始的なものだ。
 動いてはいけないという強迫観念にも似た思いに駆られ、体が硬直する。
 そうこうしている間にも、恐怖は足下から這い上がってくる。脚から胸へと少しずつ上へと上がってきたそいつは耳元で呟く。
─ミツケタゾ─
 生家から出た俺を探してここまできたのだろうか?
 いくつもの夜を越えて、成長しながら?
─みしり─
 一際大きな音がする。
 その音を聞いて、意識が途切れる。
百話まで続きます。
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