残酷な描写あり
第五幕 17 『聖剣グラルヴァル』
「…なるほど。それで聖剣を手に入れようってんだな」
「はい。裏で暗躍し意図的に魔族…魔王をも生み出そうとしている存在に対抗するためにも、少しでも力が必要だと思いまして」
「ああ。お前たちは見事に試練を突破したからな。遠慮なく持っていけばいいさ」
「ありがとうございます!」
まあ、借りるだけなんだけど。
しかしこれで対『異界の魂』についてはかなり攻撃面が強化出来るだろう。
「さて…そうすると我がここを守る理由も無くなっちまうな」
「…ずっとここで聖剣を守っていたのですか?」
もしそうなら、どれだけ長い間ここで過ごしていたのだろうかと思ったのだが…
「ああ、いや。試練に挑む者が現れた時だけ目覚めるんだ。それに、我は本体から分離した思念体の一部に過ぎねえ。力も本来の半分も出せてねえしな」
…あれで本来の半分って。
でも伝説の古龍なんだからそのくらいの力はあるかぁ…
「よし!我もお前たちと一緒に行くことにしよう」
「「「え!?」」」
「そこのおちびちゃん」
「うにゅ?おちびちゃんじゃないの。ミーティアなの」
「おお、そうか。そりゃあすまねえな。お前さん、神の依代?って事だが…随分キャパが余ってるみてえだし、ちょいと間借りさせてくれや」
と言うと、彼は再び光に包まれて更に小さくなり…
その光はミーティアに吸い込まれてしまった!?
『うむ。思った通り。我の思念体が入ってもまだまだ余裕そうだぜ』
「あーーっ!?何ミーティアに勝手に入ってるんですかっ!?」
「にゃっ!?」
慌てて詰め寄り問いただす。
『なんだ?別に害はないぞ?』
「そういう問題じゃありません!!女の子の身体に勝手に入るなんて………入るなんて…」
…いや、【俺】も同じだったな。
「…いや、何でもないです」
「ミーティア、身体は何ともないのか?」
「んにゅ?…大丈夫なの!」
カイトの質問にミーティアは何ともないと答える。
『空いてるところに間借りさせてもらってるだけだ。何の影響もねえよ』
「そうですか…まあそれなら…」
『ミーティアよ。力が必要になった時には我を呼びな。一時的にだが竜として顕現して力を貸してやるぜ』
「うん!わかった!」
「おお…それって召喚魔法みたいな感じ?いいなぁ…」
レティは相変わらずマイペースだよ。
しかし…
「ああ…またミーティアがおかしな方向へ…」
本当に、唯でさえスーパー幼女なのに更に力を身に着けて…
一体彼女はどこまで行くのだろうか…?
さて、変なハプニングはあったが、第三の試練を突破した私達が先に進んでいくと…
ふっ…と、試練の間に入ったときの感覚があった。
「今…」
「試練の間を抜けたみたいだな。そこの扉がゴールか」
カイトの指差す先にはおそらく最後の扉が。
中に入ると、広大な部屋の中に階段状になった祭壇のようなものがあり、その頂上に一振りの剣が突き刺さっていた。
「あれが……」
仄かに青い光を発するその剣に導かれるように、私達は階段を登っていく。
そして頂上に辿り着き、その剣を改めて確認する。
鍔元は幅広で先端に向かって緩やかな弧を描きながら細くなっていき、その切っ先は祭壇に刺さって全てが見えるわけではないが非常に鋭利な形状であると思われる。
剣身には複雑で精緻な紋様が彫り込まれているが、装飾らしい装飾はそれくらいで、鍔や柄などは比較的シンプルだ。
しかし、剣全体が仄かな青い光を纏っており、その神々しい輝きは正に神が振るったと言うのに相応しい存在感を感じる。
ゴクッ…
この感じ、まるでディザール様に相対したときのような…ただ眺めているだけでピンと背筋が伸びるような張り詰めた空気を感じる。
剣から放たれる青い光は周りの空気すら清浄なものに変えているような気がする。
「凄い…これが聖剣…」
「グラルヴァルか…」
『そうだ。かつてディザールが地上にいた時に振るい、イスパルに受け継がれ…今はこうして再び相応しき者が手にするのを待っているんだ』
「うにゅ?」
…ミーティアの方からゼアルの声が聞こえてくるから何か違和感が。
後で何とかしないとだなぁ…
「初代国王陛下以降は誰も手にしてないのですか?」
『いや。一度だけこの神殿から持ち出されたことがあるぞ。やはりイスパルの裔で…リディアという娘だったな』
そうだ、確か伝承ではリディア姫は魔王との決戦に赴く際に聖剣を携えていたと言う。
私が夢に見たシーンの段階では、まだ入手していなかったのだろう。
『さあ、手に取ってみろ。カイトと言ったな?リヴェティアラの眷族たるお前も、その剣を振るう資格は十分にあるだろうよ』
「…はい!」
「あはは〜、選ばれし者しか抜けないとかだったりして〜」
…アー○ー王か。
確かにありがちなシチュエーションだけども!
「ここまで来てそれはないでしょ。レティ、変な茶々は入れないの」
「は〜い、ごめんなさ〜い」
「まったく…さあ、カイト…」
「ああ…!」
そう促されてカイトは祭壇に刺さった剣を、大した力を込めるふうでもなくあっさりと抜く。
すると、一際光が強く放たれたかと思うと、その光は徐々に収束して剣に吸い込まれていった。
「あ、あれ?光が消えちゃったよ…?」
『問題ねえ。その剣は振るう者の意思でその力を発揮するんだ。今は戦いのときじゃねえからな。力を開放しておく必要もねえだろ』
「ふむ…エコモードってことね」
いや…家電じゃないんだから。
そのボケ?は私にしかわからないでしょーが。
「どう?カイト?」
ヒュンッ!ヒュンッ!
「…ああ、不思議なほどよく手に馴染むな。長さも重さも丁度良いし…何の問題もなさそうだ」
軽く剣を振りながら手応えを確かめたカイトは、満足そうな様子で答える。
「そうなると、今まで使っていたこのミスリルの剣は…カティアに使ってもらうのが良いか?」
「え?…う〜ん、確かに私の剣もそろそろ年季が入ってるけど…あ!そうだ!ミーティアに使ってもらおうか?」
「ミーティアに?」
「この子、模擬戦で双剣使ってたじゃない。でも今使ってるのは父さんから貰った一本だけでしょう?」
「うん!」
そう言ってミーティアは剣を取り出す。
…どこから?
そういえば前回はスルーしたけど、この子もしかして収納倉庫の魔法使ってない?
「あ!ミーティアちゃんも[虚空倉]使えるの?」
『も』ってことは、レティも使えるんだ…
「うにゅ?よくわかんないけど、たくさんモノが入れられるやつなら使えるよ?」
「そう、それそれ!」
「…ちょいとそこなチートのお二人さん?」
「「?」」
「え?あなた達、収納倉庫の魔法が使えるの?」
神代魔法だよ?
あ、いや、私も一つ使えるけど。
「ああ、ウチの蔵書に古い魔導書があってね…いろいろ調べてたら使えるようになった。て言うか神代魔法の中じゃ割とメジャーなものらしいから、結構使える人はいるらしいよ?」
「え?そうなの?」
「うん。とは言え、レアであることに違いはないから…まあ、これもヒミツって事で」
「そんなに秘密をほいほいバラして良いのかね…」
「ほら、私だってあなた達の秘密を色々知ってるんだから…これでフェアになるでしょ?」
「そんなの気にしなくて良いのに…」
律儀だね〜。
とにかく、話が逸れたが…カイトが使っていた私特製のミスリル合金の剣はミーティアが使うことに。
そのままだとミーティアの体格に合わないので、[変転流転]で調整してから渡したら、レティに「やっぱりカティアの方がチートじゃない」って言われた。
もう、お互い様だと思うよ。
こうして、ついに私達は無事に聖剣を入手する事ができたのだった。