残酷な描写あり
第五幕 12 『ディザール神殿総本山』
カイトとミーティアの対決が終わり、丁度よい時間になったので鍛錬場を辞することにした。
私達の模擬戦を見た兵士さんたちの一部から手合わせの申し出があったけど、申し訳ないが時間を理由にお断りした。
鍛錬場をあとにした私達は本来の目的であるディザール神殿総本山を訪れるべく、この街の中央広場へと向かう。
私、カイト、ミーティアの他にレティがついてきて、ルシェーラとリュシアンさんは公爵邸に戻った。
昨日は公爵邸に直行だったので、少しでも観光しようと街の風景を目に焼き付けながら歩いていく。
さすが古都と言うだけあり、歴史を感じさせる建物がそこかしこに見られて凄く観光してる感じがする。
「あ〜、折角だからもっと観光したかったね〜」
「ね〜」
本来であればこの街には2〜3泊はする予定だったのだけど、ゴルナードで予定外の足止めをくらってしまったので1泊のみとなったのだ。
いくら急ぐ旅ではないとはいえ、それにも限度があるから。
「まあまあ、もう少ししたらここから王都まで鉄道で繋がるし、改めて観光に来ればいいじゃない。その時は私が案内するよ」
鉄道が開通したらイスパルナ〜アクサレナは半日ほどで行けるようになるんだっけ?
改めて考えても凄い話だねぇ…
「ありがとう、レティ。その時は頼むよ。ところで…乗せてもらう私が言うのも何だけど、今日の列車の準備は大丈夫なの?」
「うん、大丈夫。もう指示はしてるし、あとは優秀なスタッフが動いてくれてるよ」
「そうなんだ。昨日徹夜なんかしてるから、何でも自分でやらないと気がすまないのかと思ってたよ」
「そりゃあ計画の立案段階はね…やっぱり私がやらないといけないものは沢山あるけど、最近は概略を伝えるだけであとは皆で議論して詳細を詰めてくれることも多くなったよ」
「なるほど…それで、今度ついてきたのは何でなの?」
「え〜、せっかく親友ができたんだから、できるだけ一緒にいたいなって思ってるだけだよ〜」
「…本音は?」
「聖剣を早くこの目で見てみたい」
「あぁ…ミーハーか…」
「だって!存在は知られてるのに厳重に保管されているから殆どの人は目にする事が出来ないシロモノだよ!そりゃあ誰だって興味が湧くってものでしょ」
まぁ、それもそうか。
いや…無事借りることができればあとで見れるんだから、やっぱりミーハーには違いないな。
別にいいけど。
と言うことでやって来ましたディザール神殿総本山。
さすが総本山と言うだけあって、他の街の神殿と比べて規模が大きい。
敷地も建物も倍くらいはあろうか?
入り口は長い石段が続き本殿は広場を見下ろすような高い位置に建てられている。
建築の様式自体は他の神殿と大きく違いは無いが、その規模の大きさからより一層荘厳な雰囲気を醸し出している。
「ここがディザール神殿総本山…凄いね」
「ふわぁ〜、おっきい〜!」
「ああ。流石にスケールが違うな」
「各神殿の総本山は基本的にそれぞれ縁の国に一つだけだからね。なかなか見られるものじゃないでしょう」
基本的に、と言うのはエメリール神殿の総本山が例外的にイスパル王国…王都アクサレナにあるから。
もともとは他の神殿と同じように、縁のあるアルマ王国にあったが300年前の大戦で同国は滅亡したため遷ったのだ。
なぜイスパル王国に遷ったのか、その理由は詳しくは分かっていないが、もしかしたらリディア王女が関わっていたのでは?と私は思ってる。
滅んでしまった恋人の祖国に対してせめて出来ることをしたのではないか、と。
実際、当時のアルマ王国の難民の多くをイスパル王国に受け入れたのだが、それはリディア王女主導のもと行われたと言われている。
…そして、実は旧総本山もかつてのアルマ王国…現在のウィラー王国アルマ地方に再建されていたりする。
こちらは現在では『大神殿』と言われている。
この二つの神殿、仲が悪くなりそうなものだがそんな事はなく、それぞれが重要な役割を果たしている。
リル姉さんは豊穣神として信仰されていて信者はかなり多いので、2つの神殿で大陸北部、南部をそれぞれ統括してるのだ。
敬虔な信者はこの二つの神殿を巡礼したりするのだが、このためアクサレナとウィラー王国を結ぶ街道は『巡礼街道』と呼ばれている。
もちろん私も王都に着いたら真っ先にお参りするつもりだ。
まあそれはともかく、今はディザール様の神殿だ。
「ママ〜、兵隊さんがいるよ〜」
「ああ…神殿騎士団の人だね」
ミーティアが言う通り、本殿の入り口…今は開け放たれている大扉の両脇には、白い騎士装束に白銀の軽鎧を装備した騎士が立っている。
神殿が独自に組織した騎士団で、神殿内の警備や要人の護衛、時には巡礼者たちの護衛に付いたりするほか、アンデッド系統の魔物退治を要請されたりする。
特にディザール神殿騎士団は信奉するのが『武神』なだけあって精鋭揃いと言われている。
「かっこいいの!」
と言いながら彼らに手を振る。
すると、彼らもにこやかな表情で手を振り返してくれて、ミーティアも喜んでるようだ。
中に入ると、やはり他の神殿と作りは似ているが広さは比べ物にならない。
両側の壁には採光のための巨大なステンドグラスが嵌め込まれ、そこから差し込む光に照らされた神殿内は息を呑むほどの美しさだ。
神像の前では多くの信者が思い思いに祈りを捧げている。
さて。
…どうしようか?
そう言えば神殿に来たあとの細かいこと考えてなかったよ。
「う〜ん…取り敢えず来てみたけど、どうしようか?ディザール様は私達のことを神託で伝えておくって仰ってたけど…」
「だれか神官に話してみるか?」
「そうだね…」
と、どうしようかと逡巡していた私達に後ろから声がかかる。
「あのぉ〜…もしかして、カティア様…でしょうか?」
その声に振り向くと、そこには神殿の聖職者らしき女性がいた。
歳は20代半ばから30代前半くらいだろうか。
腰まで届く淡い金髪に空色の瞳、おっとりした感じの美人さん。
ゆったりとした法衣を着ていても分かる豊かな胸は包み込むような母性を感じさせる。
遠慮がちな話し方とは裏腹に、どこか威厳すら漂わせている。
「あ、はい。ええと、あなたは…」
「あ!大司教猊下じゃないですか。こんにちは〜」
え!?
大司教?
この人が…?
随分若い人なんだな…お爺ちゃんをイメージしていたよ。
それにしてもレティ、挨拶が軽くない?
「あら、レティちゃん、こんにちは〜」
こっちも軽いな…
「ディザール様の神託でカティア様とカイト様の事は聞いてたのだけど、レティちゃんも一緒だったのねぇ」
「はい、うちに泊まってもらってたんです」
「あ、モーリス公爵様にお世話になりまして。…それで、神託を受けてらっしゃると言う事は、私達の用件の方も…」
「はい、承知しておりますよ。…あ、申し遅れました。私はこのディザール神殿総本山で大司教の地位にありますロアナと申します」
「あ、こちらこそ申し遅れました。私はカティアと申します」
「大司教猊下にはお初にお目にかかります。私はカイトと申します」
「ミーティアです!パパとママの娘です!」
「え〜と、この子は養子です」
「ふふ、可愛らしいお嬢さんですね。さて、自己紹介も済んだところで…ここでは何ですから、別室でお話しましょうか」
と言って、ロアナ様は神殿の奥へと私達を案内するのだった。
私達の模擬戦を見た兵士さんたちの一部から手合わせの申し出があったけど、申し訳ないが時間を理由にお断りした。
鍛錬場をあとにした私達は本来の目的であるディザール神殿総本山を訪れるべく、この街の中央広場へと向かう。
私、カイト、ミーティアの他にレティがついてきて、ルシェーラとリュシアンさんは公爵邸に戻った。
昨日は公爵邸に直行だったので、少しでも観光しようと街の風景を目に焼き付けながら歩いていく。
さすが古都と言うだけあり、歴史を感じさせる建物がそこかしこに見られて凄く観光してる感じがする。
「あ〜、折角だからもっと観光したかったね〜」
「ね〜」
本来であればこの街には2〜3泊はする予定だったのだけど、ゴルナードで予定外の足止めをくらってしまったので1泊のみとなったのだ。
いくら急ぐ旅ではないとはいえ、それにも限度があるから。
「まあまあ、もう少ししたらここから王都まで鉄道で繋がるし、改めて観光に来ればいいじゃない。その時は私が案内するよ」
鉄道が開通したらイスパルナ〜アクサレナは半日ほどで行けるようになるんだっけ?
改めて考えても凄い話だねぇ…
「ありがとう、レティ。その時は頼むよ。ところで…乗せてもらう私が言うのも何だけど、今日の列車の準備は大丈夫なの?」
「うん、大丈夫。もう指示はしてるし、あとは優秀なスタッフが動いてくれてるよ」
「そうなんだ。昨日徹夜なんかしてるから、何でも自分でやらないと気がすまないのかと思ってたよ」
「そりゃあ計画の立案段階はね…やっぱり私がやらないといけないものは沢山あるけど、最近は概略を伝えるだけであとは皆で議論して詳細を詰めてくれることも多くなったよ」
「なるほど…それで、今度ついてきたのは何でなの?」
「え〜、せっかく親友ができたんだから、できるだけ一緒にいたいなって思ってるだけだよ〜」
「…本音は?」
「聖剣を早くこの目で見てみたい」
「あぁ…ミーハーか…」
「だって!存在は知られてるのに厳重に保管されているから殆どの人は目にする事が出来ないシロモノだよ!そりゃあ誰だって興味が湧くってものでしょ」
まぁ、それもそうか。
いや…無事借りることができればあとで見れるんだから、やっぱりミーハーには違いないな。
別にいいけど。
と言うことでやって来ましたディザール神殿総本山。
さすが総本山と言うだけあって、他の街の神殿と比べて規模が大きい。
敷地も建物も倍くらいはあろうか?
入り口は長い石段が続き本殿は広場を見下ろすような高い位置に建てられている。
建築の様式自体は他の神殿と大きく違いは無いが、その規模の大きさからより一層荘厳な雰囲気を醸し出している。
「ここがディザール神殿総本山…凄いね」
「ふわぁ〜、おっきい〜!」
「ああ。流石にスケールが違うな」
「各神殿の総本山は基本的にそれぞれ縁の国に一つだけだからね。なかなか見られるものじゃないでしょう」
基本的に、と言うのはエメリール神殿の総本山が例外的にイスパル王国…王都アクサレナにあるから。
もともとは他の神殿と同じように、縁のあるアルマ王国にあったが300年前の大戦で同国は滅亡したため遷ったのだ。
なぜイスパル王国に遷ったのか、その理由は詳しくは分かっていないが、もしかしたらリディア王女が関わっていたのでは?と私は思ってる。
滅んでしまった恋人の祖国に対してせめて出来ることをしたのではないか、と。
実際、当時のアルマ王国の難民の多くをイスパル王国に受け入れたのだが、それはリディア王女主導のもと行われたと言われている。
…そして、実は旧総本山もかつてのアルマ王国…現在のウィラー王国アルマ地方に再建されていたりする。
こちらは現在では『大神殿』と言われている。
この二つの神殿、仲が悪くなりそうなものだがそんな事はなく、それぞれが重要な役割を果たしている。
リル姉さんは豊穣神として信仰されていて信者はかなり多いので、2つの神殿で大陸北部、南部をそれぞれ統括してるのだ。
敬虔な信者はこの二つの神殿を巡礼したりするのだが、このためアクサレナとウィラー王国を結ぶ街道は『巡礼街道』と呼ばれている。
もちろん私も王都に着いたら真っ先にお参りするつもりだ。
まあそれはともかく、今はディザール様の神殿だ。
「ママ〜、兵隊さんがいるよ〜」
「ああ…神殿騎士団の人だね」
ミーティアが言う通り、本殿の入り口…今は開け放たれている大扉の両脇には、白い騎士装束に白銀の軽鎧を装備した騎士が立っている。
神殿が独自に組織した騎士団で、神殿内の警備や要人の護衛、時には巡礼者たちの護衛に付いたりするほか、アンデッド系統の魔物退治を要請されたりする。
特にディザール神殿騎士団は信奉するのが『武神』なだけあって精鋭揃いと言われている。
「かっこいいの!」
と言いながら彼らに手を振る。
すると、彼らもにこやかな表情で手を振り返してくれて、ミーティアも喜んでるようだ。
中に入ると、やはり他の神殿と作りは似ているが広さは比べ物にならない。
両側の壁には採光のための巨大なステンドグラスが嵌め込まれ、そこから差し込む光に照らされた神殿内は息を呑むほどの美しさだ。
神像の前では多くの信者が思い思いに祈りを捧げている。
さて。
…どうしようか?
そう言えば神殿に来たあとの細かいこと考えてなかったよ。
「う〜ん…取り敢えず来てみたけど、どうしようか?ディザール様は私達のことを神託で伝えておくって仰ってたけど…」
「だれか神官に話してみるか?」
「そうだね…」
と、どうしようかと逡巡していた私達に後ろから声がかかる。
「あのぉ〜…もしかして、カティア様…でしょうか?」
その声に振り向くと、そこには神殿の聖職者らしき女性がいた。
歳は20代半ばから30代前半くらいだろうか。
腰まで届く淡い金髪に空色の瞳、おっとりした感じの美人さん。
ゆったりとした法衣を着ていても分かる豊かな胸は包み込むような母性を感じさせる。
遠慮がちな話し方とは裏腹に、どこか威厳すら漂わせている。
「あ、はい。ええと、あなたは…」
「あ!大司教猊下じゃないですか。こんにちは〜」
え!?
大司教?
この人が…?
随分若い人なんだな…お爺ちゃんをイメージしていたよ。
それにしてもレティ、挨拶が軽くない?
「あら、レティちゃん、こんにちは〜」
こっちも軽いな…
「ディザール様の神託でカティア様とカイト様の事は聞いてたのだけど、レティちゃんも一緒だったのねぇ」
「はい、うちに泊まってもらってたんです」
「あ、モーリス公爵様にお世話になりまして。…それで、神託を受けてらっしゃると言う事は、私達の用件の方も…」
「はい、承知しておりますよ。…あ、申し遅れました。私はこのディザール神殿総本山で大司教の地位にありますロアナと申します」
「あ、こちらこそ申し遅れました。私はカティアと申します」
「大司教猊下にはお初にお目にかかります。私はカイトと申します」
「ミーティアです!パパとママの娘です!」
「え〜と、この子は養子です」
「ふふ、可愛らしいお嬢さんですね。さて、自己紹介も済んだところで…ここでは何ですから、別室でお話しましょうか」
と言って、ロアナ様は神殿の奥へと私達を案内するのだった。