残酷な描写あり
第四幕 エピローグ 『特別公演』
神界で思う存分に稽古をつけてもらって、私達は現実世界に帰ってきた。
肉体的な疲労はないが、流石に精神的な疲れを感じる。
だが、とても有意義な時間だった。
「いや~、まさかディザール様に稽古をつけてもらえるとは思わなかったね」
「そうだな、貴重な経験をさせてもらった」
「カイトはやっぱり攻撃面を意識してたんだよね?」
「ああ、今後のことを考えるとな。神聖武器の入手は目処が付きそうだし、あとは自分自身の攻撃力の強化が必要だ」
「聖剣か~。すんなり入手できると良いんだけど」
「そうだな…俺も、神託があるとはいえ伝説級の武器をそう簡単に渡して貰えるかは少し心配だ」
まあ、そこはイスパルナに行ってからだね。
さて…もう用事は終わったし領主邸に戻ろう、ということで帰路に就く。
その途中、街の中央広場で何やら人集りが見えた。
街全体がお祭り騒ぎで浮かれている中でも、とりわけそこは盛り上がっている様子。
時折歓声が上がって、随分と楽しそうな雰囲気だ。
「なんだろう?随分と盛り上がっているけど」
「そうだな。ここからだと何をやってるのかは分からないが…」
「行ってみよう!」
楽しそうな雰囲気だし、何だか面白そうだ!
カイトは苦笑してるけど、やっぱり気になるじゃない?
「カティア!」
「ママ~!パパ~!」
「へっ?あ、婆ちゃん!ミーティアも!」
人集りに向かっている途中、誰かに声をかけられたと思ったらミディット婆ちゃんとミーティアだった。
ここで何してるんだろ?
「おや、カイトも一緒かい」
「ええ、こんにちは、ミディットさん。ミーティアも起きたんだな」
「ミーティア、身体は大丈夫なの?」
「うにゅ?大丈夫だよ?」
うん、問題ないみたいだね。
十分寝て今日も元気一杯のようだ。
「いきなり大きくなってたから、私ゃ驚いて腰が抜けたさね」
そうだろうね…
昨夜と同じく、今のミーティアは5歳くらいの大きさに成長した姿のままだ。
「私を助けようとして、こうなったみたい。ミーティア、ありがとうね。助けに来てくれて嬉しかったよ」
と、頭をナデナデしながらお礼を言うと、嬉しそうに目を細める。
こうして見ると、少し大きくなっても変わらないね。
「えへへ~」
「そう言えば、婆ちゃん達はここで何してたの?」
「ああ、アレさ」
と言って婆ちゃんが指差したその先には…
「あ!そういう事かぁ…」
そこには即席の舞台が作られていて、ウチの一座の面々が劇を演じているところだった。
「ダードがね、町が解放された事を記念して特別公演だ!とか言ってね」
「へぇ…流石は父さん、粋だね」
「ふん、散々面倒を掛けておいて調子のいいこった」
やれやれ、といった感じで言ってるけど、婆ちゃんの顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいる。
「でもさ、何だか懐かしいね…」
「ん?…ああ、そうだねぇ。昔はこうして広場の一角でやったもんだね」
今でこそ一座の規模も大きくなって、ちゃんとした劇場やホールを使って、スケジュールもきっちり組んで公演するようになったけど、昔は街を転々としながらこうした街角で気軽にやっていたんだよね。
「今も凄くやりがいがあるけど、昔のこうした雰囲気も好きだったな…」
「そうかい…そう思ってくれてたのなら私も何だか嬉しいねぇ…」
今演じてるのも、その頃の演目だ。
ぶっつけ本番で皆よく覚えてるもんだね。
あの頃はまだまだ荒削りで洗練されてなかったけど、今みたいに盛り上がっていたし、何より観客が近くて一体感があったよね。
うん、たまにはこういうのも良いね。
私も混ざりたいなぁ…
そう思っていると、カイトが私の手を引く。
「カティア、俺達も行こう」
「え?」
「もうすぐ劇もクライマックスだ。次は俺たちがやらないか?あそこにリュートも置いてある」
「!…うん!もしかして、カイトはこれがデビューになるのかな?」
「ふふ、いきなり大舞台に出るよりは良いかもしれん」
「ミーティアも行く!」
やがて劇はクライマックスを迎え、観客からは惜しみない拍手が贈られる。
その中に私達は飛び込んでいく。
「おお、カティアか!」
「父さん、ずるいよ!こんな楽しそうなイベントに私達を呼ばないなんて!」
「あら~、デートの邪魔したら悪いでしょ~」
「もう!変な気を使って…次は私達の番だよ、カイト!」
「ああ、いつでもいいぞ、なんの曲だ?」
もうすでにリュートを構えてスタンバイしているカイトが問う。
観客たちは再び始まる何かに期待して、私達に注目する。
う~ん、何にしようかな?
やっぱり明るい曲だよね。
長い冬が終わり、暖かな春の到来を告げる歌。
少し遅い春の訪れを祝福しようじゃないか。
私のリクエストに応えて、カイトがリュートを弾き始める…
始めはゆっくりと、静かに…柔らかな日差しに少しづつ雪解けが始まるイメージ。
私もそれに合わせてゆっくりと歌声を紡いで行く。
やがて花が芽吹き、その香りを優しい風が運び、命あふれる季節が訪れる。
私の歌声に合わせて、ミーティアもら~ら~ら~、と歌い始めた。
小さな可愛い子が一緒に歌う姿に観客達は一層盛り上がる。
辛く苦しいときを耐え忍び、ようやくこの解放の日を迎えた。
もう、リッフェル領は大丈夫。
思えば、ここに来てから人の様々な側面を見た。
弱者に理不尽を強いる残酷さ。
理不尽に立ち向かう強さ。
自分が苦しくても他の人を思いやれる優しさ。
愛する人を失って、何もかもを失った弱さ。
そして、人の弱さに付け込み野望を成そうとする者たちがいる。
断じてそれを許すことは出来ない。
私は、この人々のささやかな幸せを守りたい。
私の歌で皆を笑顔にしたい。
そのためにも、歴史の裏で暗躍する者たちを阻止しなければならない。
例え神から授かった力があっても、私一人で成せることはそれほど多くはない。
でも、私は一人じゃない。
いかな強大な敵であろうとも、力を合わせればきっとなんとかなる。
先ずは自分のできる事をする。
成すべきことを成す。
そう、決意を新たにするのであった。
ーー 第四幕 転生歌姫の世直し道中 閉幕 ーー
肉体的な疲労はないが、流石に精神的な疲れを感じる。
だが、とても有意義な時間だった。
「いや~、まさかディザール様に稽古をつけてもらえるとは思わなかったね」
「そうだな、貴重な経験をさせてもらった」
「カイトはやっぱり攻撃面を意識してたんだよね?」
「ああ、今後のことを考えるとな。神聖武器の入手は目処が付きそうだし、あとは自分自身の攻撃力の強化が必要だ」
「聖剣か~。すんなり入手できると良いんだけど」
「そうだな…俺も、神託があるとはいえ伝説級の武器をそう簡単に渡して貰えるかは少し心配だ」
まあ、そこはイスパルナに行ってからだね。
さて…もう用事は終わったし領主邸に戻ろう、ということで帰路に就く。
その途中、街の中央広場で何やら人集りが見えた。
街全体がお祭り騒ぎで浮かれている中でも、とりわけそこは盛り上がっている様子。
時折歓声が上がって、随分と楽しそうな雰囲気だ。
「なんだろう?随分と盛り上がっているけど」
「そうだな。ここからだと何をやってるのかは分からないが…」
「行ってみよう!」
楽しそうな雰囲気だし、何だか面白そうだ!
カイトは苦笑してるけど、やっぱり気になるじゃない?
「カティア!」
「ママ~!パパ~!」
「へっ?あ、婆ちゃん!ミーティアも!」
人集りに向かっている途中、誰かに声をかけられたと思ったらミディット婆ちゃんとミーティアだった。
ここで何してるんだろ?
「おや、カイトも一緒かい」
「ええ、こんにちは、ミディットさん。ミーティアも起きたんだな」
「ミーティア、身体は大丈夫なの?」
「うにゅ?大丈夫だよ?」
うん、問題ないみたいだね。
十分寝て今日も元気一杯のようだ。
「いきなり大きくなってたから、私ゃ驚いて腰が抜けたさね」
そうだろうね…
昨夜と同じく、今のミーティアは5歳くらいの大きさに成長した姿のままだ。
「私を助けようとして、こうなったみたい。ミーティア、ありがとうね。助けに来てくれて嬉しかったよ」
と、頭をナデナデしながらお礼を言うと、嬉しそうに目を細める。
こうして見ると、少し大きくなっても変わらないね。
「えへへ~」
「そう言えば、婆ちゃん達はここで何してたの?」
「ああ、アレさ」
と言って婆ちゃんが指差したその先には…
「あ!そういう事かぁ…」
そこには即席の舞台が作られていて、ウチの一座の面々が劇を演じているところだった。
「ダードがね、町が解放された事を記念して特別公演だ!とか言ってね」
「へぇ…流石は父さん、粋だね」
「ふん、散々面倒を掛けておいて調子のいいこった」
やれやれ、といった感じで言ってるけど、婆ちゃんの顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいる。
「でもさ、何だか懐かしいね…」
「ん?…ああ、そうだねぇ。昔はこうして広場の一角でやったもんだね」
今でこそ一座の規模も大きくなって、ちゃんとした劇場やホールを使って、スケジュールもきっちり組んで公演するようになったけど、昔は街を転々としながらこうした街角で気軽にやっていたんだよね。
「今も凄くやりがいがあるけど、昔のこうした雰囲気も好きだったな…」
「そうかい…そう思ってくれてたのなら私も何だか嬉しいねぇ…」
今演じてるのも、その頃の演目だ。
ぶっつけ本番で皆よく覚えてるもんだね。
あの頃はまだまだ荒削りで洗練されてなかったけど、今みたいに盛り上がっていたし、何より観客が近くて一体感があったよね。
うん、たまにはこういうのも良いね。
私も混ざりたいなぁ…
そう思っていると、カイトが私の手を引く。
「カティア、俺達も行こう」
「え?」
「もうすぐ劇もクライマックスだ。次は俺たちがやらないか?あそこにリュートも置いてある」
「!…うん!もしかして、カイトはこれがデビューになるのかな?」
「ふふ、いきなり大舞台に出るよりは良いかもしれん」
「ミーティアも行く!」
やがて劇はクライマックスを迎え、観客からは惜しみない拍手が贈られる。
その中に私達は飛び込んでいく。
「おお、カティアか!」
「父さん、ずるいよ!こんな楽しそうなイベントに私達を呼ばないなんて!」
「あら~、デートの邪魔したら悪いでしょ~」
「もう!変な気を使って…次は私達の番だよ、カイト!」
「ああ、いつでもいいぞ、なんの曲だ?」
もうすでにリュートを構えてスタンバイしているカイトが問う。
観客たちは再び始まる何かに期待して、私達に注目する。
う~ん、何にしようかな?
やっぱり明るい曲だよね。
長い冬が終わり、暖かな春の到来を告げる歌。
少し遅い春の訪れを祝福しようじゃないか。
私のリクエストに応えて、カイトがリュートを弾き始める…
始めはゆっくりと、静かに…柔らかな日差しに少しづつ雪解けが始まるイメージ。
私もそれに合わせてゆっくりと歌声を紡いで行く。
やがて花が芽吹き、その香りを優しい風が運び、命あふれる季節が訪れる。
私の歌声に合わせて、ミーティアもら~ら~ら~、と歌い始めた。
小さな可愛い子が一緒に歌う姿に観客達は一層盛り上がる。
辛く苦しいときを耐え忍び、ようやくこの解放の日を迎えた。
もう、リッフェル領は大丈夫。
思えば、ここに来てから人の様々な側面を見た。
弱者に理不尽を強いる残酷さ。
理不尽に立ち向かう強さ。
自分が苦しくても他の人を思いやれる優しさ。
愛する人を失って、何もかもを失った弱さ。
そして、人の弱さに付け込み野望を成そうとする者たちがいる。
断じてそれを許すことは出来ない。
私は、この人々のささやかな幸せを守りたい。
私の歌で皆を笑顔にしたい。
そのためにも、歴史の裏で暗躍する者たちを阻止しなければならない。
例え神から授かった力があっても、私一人で成せることはそれほど多くはない。
でも、私は一人じゃない。
いかな強大な敵であろうとも、力を合わせればきっとなんとかなる。
先ずは自分のできる事をする。
成すべきことを成す。
そう、決意を新たにするのであった。
ーー 第四幕 転生歌姫の世直し道中 閉幕 ーー