残酷な描写あり
第四幕 22 『聖剣』
「さて、これでお前の疑問は解消されたか?」
「はい!ありがとうございます!」
「うむ。では、ここからは私の…いや、私も含めた神々からお前に頼みたいことがある」
「頼み、ですか?」
「ディザール!…それは…」
「エメリールよ。お前とて分かっているだろう。…なに、強制するわけではない。あくまでも可能な範囲で協力してもらう。それなら良かろう?」
「…ええ」
「では。…頼みというのはだな、今回お前も接触した者たち…お前たちの言葉を借りるなら『邪神教団』を壊滅させて欲しいのだ」
「壊滅…ですか」
「そうだ。お前も見たであろう。人為的に『異界の魂』を人の身に降ろし、おそらくは再びこの時代に魔王を生み出そうとしている。…いや、それすら単なる手段に過ぎぬのかもしれん」
「…実は、300年前も同じように暗躍していた教団があったのです。その名は『黒神教』…その名の通り『黒き神』を祀っていました」
「それは確か…グラナが信奉していたと言う?」
「そうです。黒神教自体は元々、このカルヴァード大陸よりも東の地で信仰されていたものです。グラナ帝国のルーツはその東の地にありますから」
「そのグラナの皇帝に裏で協力していたのが黒神教だ。当時、各地で魔王とまではいかずとも相当な力を持った…異界の魂を降ろした人間たちが現れたのだが、それも奴等の仕業と考えられる」
「その異界の魂を降ろし強力な力を得た人間を、私達は他の魔物に降りた場合と区別して、特に『魔族』と呼んでいました。今回あなた達が戦った相手も魔族と呼ぶべき存在です。幸いにも直接戦闘能力はそれほどでもなかったようですが…」
魔族…?
魔族って確か…
【俺】がやっていたゲーム『カルヴァード戦記』のグランドクエストのラスボスが確か魔族という設定だったな…
で、魔王というのはその魔族よりももっと強い力を持つ、と。
ゲームのラスボスよりも強いってことかい…
まあ、そのうちインフレしていって魔王がラスボスのクエストがその後実装されたのかもしれないけど。
でも、そんなのを現実に生み出されたんじゃたまったもんじゃないよ。
「魔王が生み出されてしまえば、また300年前の大戦が繰り返されてしまう。それは阻止せねばならん」
「…そうですね。そんな事態になるのは御免です。でも…どうすれば…」
「お前が何でも直接動く必要はないだろう。今回の件でお前はイスパル王家に連なる者として認知されたのだ。言い換えれば、国を動かす側の人間になると言っても良いだろう。そうした立場であれば、人を動かし教団の動向を探ることも出来よう」
「もうすでに教団の話は伝わってるので、国としても直ぐに動く事になるとは思いますが…つまり、そういうところに積極的に関わって行けば良いのですね」
「そういうことだ。無論、困った事があれば我々に相談するが良い」
「…くれぐれも自分の安全を優先するのよ?」
「うん、分かってるよリル姉さん。これまで通り、私のできる範囲で頑張るよ」
「うむ。それで良い」
「そうだ、早速相談なんですけど…」
神殿に来る前にカイトと話していた神聖武器について相談してみる。
今後積極的に関わっていくのであれば、この問題は解決しておきたい。
普通の魔物に異界の魂が取り憑くケースは、これだって厄介な事には違いはないけど、退魔系魔法の人海戦術で対処は可能だ。
でも、『魔族』相手は多分私がいないと厳しいだろう。
私が抑えている間に肉体を滅ぼすだけの攻撃力が必要になるのだ。
「ふむ、神聖武器か…私の印の力ならば問題にならないのだが、それが使えるカティアは封印で精一杯…となると確かに必要かもしれんな」
「二つ発動できる事が逆にデメリットになってるって事ね…」
「ミーティアに抑えてもらう、と言うのも考えたんですけど…やはり、まだ小さい子に無理させるのは気が引けますし。今回も無理して力を使ったせいか、まだ目を覚ましませんし」
どんなに強くて能力があっても、大切な『我が子』だから危険なことはさせたくない。
「そうだな…一つ心当たりがある。イスパルナの私の神殿に奉納されている剣がある。私が地上にいた頃に使っていたものだ」
古都イスパルナ。
リュシアン様の…モーリス公爵領の領都だね。
かつてのイスパル王国の王都で、ディザール神殿はここが総本山だったはず。
確かにそこなら伝説の武器とか奉納されていてもおかしくは無いだろうけど…
でも、ディザール様が使っていたって…国宝クラスじゃん!
「…下さい、と言って貰えるようなものでは無いと思いますが…」
「私から神託を降ろせば大丈夫だろう。異界の魂の件は各神殿にも共有されているようであるし、貸出しと言う形を取れば問題にはなるまい」
「ありがとうございます!イスパルナに到着したら訪れてみます」
「うむ。神託でお前の名と特徴は伝えておく」
よし、これで悩み事の一つは解決しそうだね。
「使うのは…あの、カイトという者か?」
「あ、はい。そうなると思います」
「なるほど。では、あの者にも一緒に稽古をつけてやろう。我が剣を使うからには、相応の使い手になってもらわねばな」
そう言ってディザール様は少しの間瞑目し、何事かを呟く。
すると、私の横でパァっと光が現れて、それが収まると…
「カイト!」
「!?…ここは?…カティア?」
びっくりした様子であたりを見回すカイトがそこに居た。
「ここはね、神界だよ」
「神界……ここが…?」
…いきなり道場の中だもんね。
リル姉さんのとこだったらそれっぽいのだけど。
「お二人とも、こちら、カイトです。カイト、この方たちがディザール様とリルねぇ…エメリール様だよ」
一先ずお互いに紹介しとかないとね。
「お初にお目にかかります。…まさか、私も実際にお目にかかれるとは…身に余る光栄です」
「ああ、まあ楽にしてくれ。神などと言っても隠居の身だ。そう畏まらなくても良い」
「はっ、恐縮です」
…硬いなあ。
まあ、カイトは真面目だからね。
「ふふ…いつもカティアがお世話になってるわね。二人とも仲良くしてるみたいで、私も嬉しいわ」
…何か、付き合ってる人を家族に紹介するみたいな、何とも言えない気恥ずかしさがあるな。
「それで、その…私がここに呼ばれたのは…?」
「あのね、ディザール様が私達に稽古をつけて下さるんですって。あ、そうそう、神聖武器についても相談したんだよ」
と、これまで話したことを説明する。
最初から呼んでもらえば良かったね…
「ディザール様の剣…?それはまさか『聖剣グラルヴァル』?」
「そうだ」
「……」
あ、固まった。
そっか~、そう言う反応になるかぁ…
そうだよね。
国宝クラスだものね。
「そ、そんな大それたものを…」
「宝物庫で腐らせておくよりは有意義だろう」
「そうだよ。世界の危機かもしれないんだから。ありがたく使わせてもらおう?」
「…わ、分かりました。有り難く使わせて頂きます(だが…果たして神託が降りるからと言ってそんなにすんなりいくのだろうか…?)」
「よし、それでは聖剣を十全に振るうためにも、実力は上げておかねばな。話も済んだし、私が直々に稽古を付けてやろうではないか」
「「お願いします!」」
こうして、私とカイトさんは神界でディザール様に稽古を付けてもらうことになった。