残酷な描写あり
第三幕 12 『涙』
一座の王都行きが正式に決まった。
ここ数週間はいろいろと条件面での詳細な確認や交渉などが行われていたらしく、先ごろ合意に至ったとのことだ。
先方の受け入れ体制は既に整っているらしく、もういつでも出発出来るみたい。
ただ、そうは言っても今すぐ出発というわけにはいかない。
各方面への挨拶周りや手続き、荷馬車の手配などもあるため、出発は一週間後に決まった。
少し準備期間が短い気もするが、これまで少しづつ準備は進めていたみたいで、あとは日程を決めるだけだったらしい。
私もギルドの転出手続きとか、お世話になった人達へ挨拶したりとか、いろいろとやる事はある。
そうそう、先の魔軍討伐を祝した夜会に招待されたのだが、いろいろ準備があって忙しいと、父さんが断ってしまった。
リファーナ様が、「もう!急に決めちゃうんだから!」って、ぷりぷり怒っていたよ。
まあ、その時にルシェーラ様にも出立の挨拶を済ましているが…なんか意味深な笑みを浮かべてたのは何だったんだろうか?
あと、私にとって重要なのは、カイトさんと話をする事なのだが…
どうも、今日は不在みたいで会えてないんだよね。
せっかく覚悟を決めたのに…(嘘)
「スーリャさん、今日は転出手続きに来ました」
先ずはギルドに転出手続きに来ました。
ちなみに、ミディット婆ちゃんとかロゼッタさんなどの冒険者登録してない人達は政庁舎の方で同じような手続きをしてる。
「はい、王都に転出ですね」
「あ、ご存知でしたか」
「それはもう、一座の他の皆さんも続々といらしてますから。ちょっとうちのギルドとしては複雑ですね」
あ~、うちのメンバーは高ランクのベテラン揃いだからねぇ…
ごっそり居なくなったら影響も大きいかもね…
「何かスミマセン」
「ああ、いえ。逆に出発する前に、って言って溜まってた厄介な依頼を優先して片付けてくれてるんですよ」
「へ~、そうなんですね。…いいとこあるじゃないの」
「そうだ、カイトさんも昨日転出の手続きにいらっしゃいましたよ」
「え!?」
「なんでも、お世話になった人達に挨拶を済ませてから出発するとか…」
そんな…
私に何も言わないで行っちゃうなんて…
同じ気持ちだと思っていたのは私の勘違いだったの?
もしかして、ずっと、迷惑してたのかな…
何だか頭の中がぐちゃぐちゃだ。
気がついたらいつの間にかギルドの外に出ていた。
その日はそれ以上何も出来ず宿に帰って休んでしまった。
ミーティアが心配してくれたけど、気分が晴れることはなかった。
悪いことしちゃったな…
次の日。
まだ気分は落ち込んだままだったけど、やるべき事を先送りにする訳にはいかない。
今日もミーティアを婆ちゃんに預けて、お世話になった人達へ挨拶するために街に出た。
まず向かったのは、ユリシアさんの服飾店だ。
私好みの洋服がたくさんあって、何度も通ったからユリシアさんとは随分仲良くなったと思う。
カランカラン~
「いらっしゃいませ。あ、カティアさん、こんにちは」
「こんにちは~、ユリシアさん」
「今日はどのようなものをお探しで?」
「あ、今日は買い物に来たんじゃないです。実は…」
と、ブレゼンタムの街を出ることを伝えて、これまでお世話になったお礼をする。
「まあ、王都に本拠を置くのですか!それはおめでとうございます!」
「ありがとうございます。でも、この街にも結構愛着が湧いてたので、ちょっと寂しいです。ユリシアさんとも仲良くなったし…」
「ふふ、そう思ってもらえるのは嬉しいですね。でも、また会えると思いますよ」
「え?」
「私もプルシアも、年に何度かは王都に行ってるんですよ」
「あ、そうなんですか?」
「ええ。実は父が王都で商会を営んでおりまして。この店もプルシアの店もその商会の傘下なんですよ」
「へぇ~、そうなんですね。じゃあ、王都に来られたら連絡くださいね!」
「ええ、またお会いしましょう」
その後も、とりとめもない話をしたり、結局店の中を見ていって何点か購入したり…商売上手なんだよねぇ。
ユリシアさんのお店を後にして、次はプルシアさんのお店に向かう。
ユリシアさんとお話したら、少し元気が出てきたよ。
「こんにちは~、プルシアさんいらっしゃいますか~?」
「は~い!あ、カティアちゃんいらっしゃい!いや~、かの英雄『星光の歌姫』にご来店いただけるとは嬉しいね~」
「うぐっ…その名前はちょっと…」
「なに?恥ずかしがってるの?いいじゃない!すごい活躍だったんでしょ?それくらいインパクトのある二つ名じゃないとハクがつかないわよ」
「別に箔なんて要らないですよ…というか、結構浸透しちゃってるんですか?」
「そりゃそうよ。私も広場の演説は見てたけど、あれだけ熱狂的に称えられてたんだから。もはやブレゼンタムの英雄としてその二つ名とともに未来永劫語り継がれるのは間違いないわ!」
…そうですか。
未来永劫ですか。
取り敢えずそれは忘れることにします。
「えっと…今日お伺いしたのは、これまでお世話になった挨拶をしようと思いまして」
「あ~、王都に行くんだっけ?」
「はい。ご存知でしたか」
「冒険者の間で噂になってるらしいからね。じゃあ、次に会うのは王都かな?」
「そうですね。ユリシアさんに聞きましたけど、お父さんが王都にいらっしゃるとか」
「そうそう。私も姉さんもいつかは王都に店を構えたいって言うのもあるし。もしそれが叶ったらまた贔屓にしてね」
「ええ、もちろんです。楽しみにしてます」
と言うことで、プルシアさんへの挨拶も終わって、少し話をしてから店を後にした。
その後も、よく行くお店や知り合った人に挨拶をして回った。
皆別れを惜しんでくれて嬉しかかったけど、やっぱり寂しいな…
この街も結構長く居たからね。
リーゼさんやレイラさん達、元『鳶』の皆にも挨拶したかったけど、依頼で不在だったのか会うことはできなかった。
一通り挨拶して回ったけど、もう少し街を歩いて回ることにした。
名残を惜しむように、あちこち見て回る。
そして、いつかカイトさんとミーティアと一緒に来た公園にやって来た。
「はぁ…あの時は楽しかったな…まるで本当の家族みたいにさ、手を繋いで…」
公園のベンチに座って、以前ここに来た時のことを思い出していた。
仲良く3人で散歩して。
ミーティアが遊具で遊びたいと言って…もう帰ろうって言っても聞いてくれなくて…二人して何とかなだめて…
またいつかこんな風に…って思ったんだ。
(何で何も言わずに出ていったの?私の事嫌いになったの?…ううん、私が勘違いしていただけで、別に何とも思ってなかったってこと?でも、せめて話がしたかったよ…)
ああ、自分が嫌になる。
もっと早く話ができたはずなのに、それをしなかったのは私だ。
それを棚に上げてカイトさんを責めるのは間違ってるだろう。
でも、理屈は理解していても感情はままならない。
「…うっ…うっ…」
いつしか、私は俯いて嗚咽を漏らしていた。
次から次へ涙が溢れ、地面に零れ落ちて染みを作る。
(ああ…やっぱり私は彼のことが好きなんだ…【私】の感情に引っ張られてるとか【俺】の前世とか関係なく、これはもう私自身の想い。…そんなこと、とっくに気付いていたはずなのに)
とめどなく流れる涙を拭うこともなく、しばらくそうしていると少しだけ気分が落ち着いてきた。
前向きで楽天的なのが私の取り柄。
そうだ、別に今生の別れというわけでもないんだ。
手紙でも何でも使って想いを伝えよう。
ギルド経由で届くはずだし。
そう、無理矢理にでも前向きに考えて、何とか気持ちも落ち着いた。
ああ、何だか落ち着いたらお腹が空いてきたな。
ミーティアは婆ちゃんが見てくれてるし、今日はギルドでご飯食べてこうかな…
私は涙を拭いて立ち上がり、公園を後にするのだった。
「それれ~、ひろいんれすよ~カイトさんは!…ちょっろ~、きいてる~?ロウエンしゃん」
「…勘弁してくれッス」
「なにをかんべんするっれ~のよ?あ!おね~さん、ビールにほんついかれおねがいしま~す!」
「カティアちゃん、もうやめたほうがいいッスよ…」
「なによ~、わらしの酒が飲めないっれいうの~?そんなんらから、ヨメのきてがないろよ~」
「ほっとくッス!?」
「…なんだ?このありさまは…」
あ、父さんだ~。
「あ、大将!助けてッス!」
「カティアに酒飲ましちゃ駄目だろ」
「オイラが来たときには既に出来上がってたッス」
なあにゴチャゴチャいってるの!
「ほら!とうさんもすわっれ!あ!おね~さん、1名様ごあんな~い!ビール一本ついかれ~」
さあ!私の愚痴を聞きなさい!
「はあ…何がどうなってんだこりゃ?」
「よくわからないッスけど、何かカイトがいなくなったとかで荒れてるみたいッス」
「あ?カイトが…?いや、確かあいつは…あっ!」
「…何スか?今の『あっ!』は?」
「…いや、何でもねえ(やべぇ、伝言頼まれてたの忘れてたわ…ま、いっか。大体コイツもハッキリしねぇしな。少し反省した方がいいだろ)」
「ちょっろ!きいれるの!?とうさん!だいらいよ、わらしらっれさ、みもこころもささげるかくごをしれるっれ~のにさ!」
「…それは父親に話す事じゃねぇと思うぞ(だったらズバッと行けよ)」
(…おい、身も心もだとよ)
(なんてこった…俺たちの女神が…)
(…カイトめ。水虫になる呪いをかけてやる)
(…地味な割に嫌な呪いだな)
「カティアちゃん、周りが聞き耳立ててるッスよ…」
「まわりがきいれるからなによ!とにかく、つぎあっららしょ~ちしないんらから!」
「…大将、これどうするッスか?」
「あいにくとアネッサのやつはいねえしな…どうしたもんか」
「誰か!お客様の中に[解毒]の使い手はいないッスか!?」
「ええい!うるさいろ!ロウエン!わらしのはなしをきくのら!」
その日、ギルドで食事を取ったあとの記憶がなく、気がついたら私は宿のベッドで寝ていた…
ここ数週間はいろいろと条件面での詳細な確認や交渉などが行われていたらしく、先ごろ合意に至ったとのことだ。
先方の受け入れ体制は既に整っているらしく、もういつでも出発出来るみたい。
ただ、そうは言っても今すぐ出発というわけにはいかない。
各方面への挨拶周りや手続き、荷馬車の手配などもあるため、出発は一週間後に決まった。
少し準備期間が短い気もするが、これまで少しづつ準備は進めていたみたいで、あとは日程を決めるだけだったらしい。
私もギルドの転出手続きとか、お世話になった人達へ挨拶したりとか、いろいろとやる事はある。
そうそう、先の魔軍討伐を祝した夜会に招待されたのだが、いろいろ準備があって忙しいと、父さんが断ってしまった。
リファーナ様が、「もう!急に決めちゃうんだから!」って、ぷりぷり怒っていたよ。
まあ、その時にルシェーラ様にも出立の挨拶を済ましているが…なんか意味深な笑みを浮かべてたのは何だったんだろうか?
あと、私にとって重要なのは、カイトさんと話をする事なのだが…
どうも、今日は不在みたいで会えてないんだよね。
せっかく覚悟を決めたのに…(嘘)
「スーリャさん、今日は転出手続きに来ました」
先ずはギルドに転出手続きに来ました。
ちなみに、ミディット婆ちゃんとかロゼッタさんなどの冒険者登録してない人達は政庁舎の方で同じような手続きをしてる。
「はい、王都に転出ですね」
「あ、ご存知でしたか」
「それはもう、一座の他の皆さんも続々といらしてますから。ちょっとうちのギルドとしては複雑ですね」
あ~、うちのメンバーは高ランクのベテラン揃いだからねぇ…
ごっそり居なくなったら影響も大きいかもね…
「何かスミマセン」
「ああ、いえ。逆に出発する前に、って言って溜まってた厄介な依頼を優先して片付けてくれてるんですよ」
「へ~、そうなんですね。…いいとこあるじゃないの」
「そうだ、カイトさんも昨日転出の手続きにいらっしゃいましたよ」
「え!?」
「なんでも、お世話になった人達に挨拶を済ませてから出発するとか…」
そんな…
私に何も言わないで行っちゃうなんて…
同じ気持ちだと思っていたのは私の勘違いだったの?
もしかして、ずっと、迷惑してたのかな…
何だか頭の中がぐちゃぐちゃだ。
気がついたらいつの間にかギルドの外に出ていた。
その日はそれ以上何も出来ず宿に帰って休んでしまった。
ミーティアが心配してくれたけど、気分が晴れることはなかった。
悪いことしちゃったな…
次の日。
まだ気分は落ち込んだままだったけど、やるべき事を先送りにする訳にはいかない。
今日もミーティアを婆ちゃんに預けて、お世話になった人達へ挨拶するために街に出た。
まず向かったのは、ユリシアさんの服飾店だ。
私好みの洋服がたくさんあって、何度も通ったからユリシアさんとは随分仲良くなったと思う。
カランカラン~
「いらっしゃいませ。あ、カティアさん、こんにちは」
「こんにちは~、ユリシアさん」
「今日はどのようなものをお探しで?」
「あ、今日は買い物に来たんじゃないです。実は…」
と、ブレゼンタムの街を出ることを伝えて、これまでお世話になったお礼をする。
「まあ、王都に本拠を置くのですか!それはおめでとうございます!」
「ありがとうございます。でも、この街にも結構愛着が湧いてたので、ちょっと寂しいです。ユリシアさんとも仲良くなったし…」
「ふふ、そう思ってもらえるのは嬉しいですね。でも、また会えると思いますよ」
「え?」
「私もプルシアも、年に何度かは王都に行ってるんですよ」
「あ、そうなんですか?」
「ええ。実は父が王都で商会を営んでおりまして。この店もプルシアの店もその商会の傘下なんですよ」
「へぇ~、そうなんですね。じゃあ、王都に来られたら連絡くださいね!」
「ええ、またお会いしましょう」
その後も、とりとめもない話をしたり、結局店の中を見ていって何点か購入したり…商売上手なんだよねぇ。
ユリシアさんのお店を後にして、次はプルシアさんのお店に向かう。
ユリシアさんとお話したら、少し元気が出てきたよ。
「こんにちは~、プルシアさんいらっしゃいますか~?」
「は~い!あ、カティアちゃんいらっしゃい!いや~、かの英雄『星光の歌姫』にご来店いただけるとは嬉しいね~」
「うぐっ…その名前はちょっと…」
「なに?恥ずかしがってるの?いいじゃない!すごい活躍だったんでしょ?それくらいインパクトのある二つ名じゃないとハクがつかないわよ」
「別に箔なんて要らないですよ…というか、結構浸透しちゃってるんですか?」
「そりゃそうよ。私も広場の演説は見てたけど、あれだけ熱狂的に称えられてたんだから。もはやブレゼンタムの英雄としてその二つ名とともに未来永劫語り継がれるのは間違いないわ!」
…そうですか。
未来永劫ですか。
取り敢えずそれは忘れることにします。
「えっと…今日お伺いしたのは、これまでお世話になった挨拶をしようと思いまして」
「あ~、王都に行くんだっけ?」
「はい。ご存知でしたか」
「冒険者の間で噂になってるらしいからね。じゃあ、次に会うのは王都かな?」
「そうですね。ユリシアさんに聞きましたけど、お父さんが王都にいらっしゃるとか」
「そうそう。私も姉さんもいつかは王都に店を構えたいって言うのもあるし。もしそれが叶ったらまた贔屓にしてね」
「ええ、もちろんです。楽しみにしてます」
と言うことで、プルシアさんへの挨拶も終わって、少し話をしてから店を後にした。
その後も、よく行くお店や知り合った人に挨拶をして回った。
皆別れを惜しんでくれて嬉しかかったけど、やっぱり寂しいな…
この街も結構長く居たからね。
リーゼさんやレイラさん達、元『鳶』の皆にも挨拶したかったけど、依頼で不在だったのか会うことはできなかった。
一通り挨拶して回ったけど、もう少し街を歩いて回ることにした。
名残を惜しむように、あちこち見て回る。
そして、いつかカイトさんとミーティアと一緒に来た公園にやって来た。
「はぁ…あの時は楽しかったな…まるで本当の家族みたいにさ、手を繋いで…」
公園のベンチに座って、以前ここに来た時のことを思い出していた。
仲良く3人で散歩して。
ミーティアが遊具で遊びたいと言って…もう帰ろうって言っても聞いてくれなくて…二人して何とかなだめて…
またいつかこんな風に…って思ったんだ。
(何で何も言わずに出ていったの?私の事嫌いになったの?…ううん、私が勘違いしていただけで、別に何とも思ってなかったってこと?でも、せめて話がしたかったよ…)
ああ、自分が嫌になる。
もっと早く話ができたはずなのに、それをしなかったのは私だ。
それを棚に上げてカイトさんを責めるのは間違ってるだろう。
でも、理屈は理解していても感情はままならない。
「…うっ…うっ…」
いつしか、私は俯いて嗚咽を漏らしていた。
次から次へ涙が溢れ、地面に零れ落ちて染みを作る。
(ああ…やっぱり私は彼のことが好きなんだ…【私】の感情に引っ張られてるとか【俺】の前世とか関係なく、これはもう私自身の想い。…そんなこと、とっくに気付いていたはずなのに)
とめどなく流れる涙を拭うこともなく、しばらくそうしていると少しだけ気分が落ち着いてきた。
前向きで楽天的なのが私の取り柄。
そうだ、別に今生の別れというわけでもないんだ。
手紙でも何でも使って想いを伝えよう。
ギルド経由で届くはずだし。
そう、無理矢理にでも前向きに考えて、何とか気持ちも落ち着いた。
ああ、何だか落ち着いたらお腹が空いてきたな。
ミーティアは婆ちゃんが見てくれてるし、今日はギルドでご飯食べてこうかな…
私は涙を拭いて立ち上がり、公園を後にするのだった。
「それれ~、ひろいんれすよ~カイトさんは!…ちょっろ~、きいてる~?ロウエンしゃん」
「…勘弁してくれッス」
「なにをかんべんするっれ~のよ?あ!おね~さん、ビールにほんついかれおねがいしま~す!」
「カティアちゃん、もうやめたほうがいいッスよ…」
「なによ~、わらしの酒が飲めないっれいうの~?そんなんらから、ヨメのきてがないろよ~」
「ほっとくッス!?」
「…なんだ?このありさまは…」
あ、父さんだ~。
「あ、大将!助けてッス!」
「カティアに酒飲ましちゃ駄目だろ」
「オイラが来たときには既に出来上がってたッス」
なあにゴチャゴチャいってるの!
「ほら!とうさんもすわっれ!あ!おね~さん、1名様ごあんな~い!ビール一本ついかれ~」
さあ!私の愚痴を聞きなさい!
「はあ…何がどうなってんだこりゃ?」
「よくわからないッスけど、何かカイトがいなくなったとかで荒れてるみたいッス」
「あ?カイトが…?いや、確かあいつは…あっ!」
「…何スか?今の『あっ!』は?」
「…いや、何でもねえ(やべぇ、伝言頼まれてたの忘れてたわ…ま、いっか。大体コイツもハッキリしねぇしな。少し反省した方がいいだろ)」
「ちょっろ!きいれるの!?とうさん!だいらいよ、わらしらっれさ、みもこころもささげるかくごをしれるっれ~のにさ!」
「…それは父親に話す事じゃねぇと思うぞ(だったらズバッと行けよ)」
(…おい、身も心もだとよ)
(なんてこった…俺たちの女神が…)
(…カイトめ。水虫になる呪いをかけてやる)
(…地味な割に嫌な呪いだな)
「カティアちゃん、周りが聞き耳立ててるッスよ…」
「まわりがきいれるからなによ!とにかく、つぎあっららしょ~ちしないんらから!」
「…大将、これどうするッスか?」
「あいにくとアネッサのやつはいねえしな…どうしたもんか」
「誰か!お客様の中に[解毒]の使い手はいないッスか!?」
「ええい!うるさいろ!ロウエン!わらしのはなしをきくのら!」
その日、ギルドで食事を取ったあとの記憶がなく、気がついたら私は宿のベッドで寝ていた…