残酷な描写あり
第三幕 1 『懊悩』
モヤモヤとしたものを抱えながらも時間は過ぎ去っていく。
何度かカイトさんには話をしようとしたが、いざ彼を目の前にすると緊張で言葉が出て来ない。
そんな私の様子に彼は心配してくれたが、曖昧に誤魔化すことしかできなかった。
そんなふうに懊悩する日々を過ごしていたのだが、プルシアさんからミーティアの服が完成したとの連絡が宿の方に入り、少しだけ気分が上向きになった。
連絡を受けて早速お店に向かうことにした。
「ママ~?げんきないの?」
「えっ?う、ううん大丈夫だよ!お洋服楽しみだね~」
いけないいけない。
ミーティアにまで心配されるほどだとは。
取り敢えず今はその事は忘れよう。
気持ちを切り替えて歩くことしばし。
私達はプルシア魔道具店にやって来た。
カランカランとドアベルを鳴らして中に入る。
「あ、いらっしゃい!カティアちゃん、ミーティアちゃん。待ってたわ!」
「こんにちは~、プルシアさん」
「おねえちゃん、こんにちは!」
「さあ、早速だけど見てちょうだい!私の傑作を!」
挨拶もそこそこに、プルシアさんは興奮した様子でまくし立ててくる。
お、落ち着いて…
「これよ!」
そう言って取り出したのは、桐箱?のような物。
蓋を開けると丁寧に畳まれた服が入っていた。
「さあ、手にとって確認してみて」
「は、はい…」
箱から取り出して広げてみる。
濃紺色の半袖のワンピースだ。
ミーティアが着るとおそらく膝くらいまであるだろう。
裾や袖、襟元には純白のレースで縁取りされており、高級感が漂う。
手触りは絹のように滑らかで光沢があるが、絹のような繊細さと言うよりも丈夫でしなやかな感じがする。
襟や袖にはいくつかの宝石のようなものが散りばめられており、おそらく魔力貯蔵の役割を持たせているのだろう。
「どう?今回はサイズ自動調整を付けてるからね、デザイン的には大人になっても違和感がないように落ち着いたものにしているわ」
「はい…とても素敵です!色もミーティアの髪が映えそうな感じですし、凄く似合いそう」
「おねえちゃん、きてみてもいい?」
「もちろんよ!あっちに試着室があるわ」
といって案内された試着室でミーティアを着替えさせる。
「おお、予想通り…いや、それ以上だわ!」
「本当に…よく似合ってるよ、ミーティア」
「えへへ~」
ミーティアも私達に目一杯褒められてご満悦のようだ。
「ところで、これってどんな機能があるんですか?」
「え~と、サイズ自動調整の他は…身体能力向上、温度調整、物理魔法結界の発動、継続回復、自動補修…てところね。あ、防刃防汚防臭ももちろん完備よ!まさに私の最高傑作と呼ぶに相応しい仕上がりよ!」
うわあ…
やりすぎじゃない?
「そ、そんなに付けて大丈夫なんですか…?」
「まあ、一般販売するにはやり過ぎだと思うけど、一点物だからね。あの預かった服の術式って、サイズ調整以外にも効率的な魔力制御とかすごく参考になったからこれだけいろいろ付けられたのもあるかな」
「う~ん、こんな凄いものをただで頂くなんて…」
「何言ってるの!むしろ私がお金を払いたいくらいよ」
「そ、そうですか…では、有り難く使わせて貰いますね」
「おねえちゃん、ありがとう!」
「うんうん、どういたしまして。私も技術向上が出来たからね。こちらこそありがとうね」
まあ、お互いwin-winという事で、良かったかな?
そうして私達はプルシアさんに別れを告げて店を後にした。
ミーティアはもとの服に着替えたりせずに、新しい服を着たままだ。
相当気に入ってくれたみたいで良かったよ。
「ママ、もうおうちかえるの?」
「う~ん、そうね…ギルドにでも寄ってこうかな?」
「おそといくの?」
「ちょうどいい依頼があればね」
私も少し気分転換したいし。
いつまでも先送りしちゃいけないのは分かってるんだけどね…
という事でやって来たギルドの依頼掲示板。
もうピークは過ぎてるし、何度かミーティアも連れてきてるので殊更に注目を浴びるようなこともない。
一時期はそこかしこでヒソヒソと噂話が展開されていた物だがそれも大分落ち着いたようだ。
何か近場の採取とかあるかな?
「おい」
「…う~ん、これはちょっと場所が遠いかな…」
「おいこら」
「…こっちは?魔物の生息域かー。ミーティア連れてるからパス」
「おいっつってんだろ!!」
「へっ?…私?」
さっきからうるさいな~、と思ったら私に話しかけてたのか。
なんだろ?
知らない人だけど。
いかにも粗野な感じの冒険者と言った風体の男。
脳筋ぽい感じ。
「おう、おめえ!ガキがガキ連れてこんなとこ来てんじゃねぇよ。ここは遊び場じゃねぇんだぞ!」
…驚いたな。
ここに出入りするようになってから結構経つんだけど、こんなふうに絡まれたのは初めてだ。
これはあれだ、テンプレってやつだろうか。
と、内心ちょっとだけ感動していると、男はますますヒートアップする。
やだなあ…カルシウム足りないんじゃない?
私は寛大なのでそんな事くらいでは怒らないけど。
どうやって穏便に済ませようかな…
「てめえ!!無視するんじゃねえ!!」
「ひっ!!ま、ママ、こわいよぉ…」
!?
おのれ…
可愛い可愛いミーティアを怖がらせるとは…
万死に値する!!(即ギレ0.5秒)
「黙れクソザコが」
「あ?」
「キサマ、うちの可愛いミーティアを怖がらせておいてタダで済むと思うなよ」
「お?なんだ、やろうってのか?」
(おい、また馬鹿が一人現れたぞ)
(カティアちゃんにケンカふっかけるなんて、余所者だな)
(この間の馬鹿よりはやるみたいだが…)
(…賭けるか?)
(カティアちゃんに金貨一枚!)
(同じく)
(同じく)
(…やっぱり成立しねえじゃねぇか)
(…あ、流石に職員が止めに入るようだぞ)
「待ちなさい!ギルド内では喧嘩はご法度ですよ!」
「あ、スーリャさん、こんにちは(ちょっと落ち着いた)」
「うるせえ!こいつに身の程ってもんを教えてやんだよ!」
「やるなら訓練場でやりなさい!」
(((止めねえのかよ!?)))
「さて、依頼も受けたしお外に行きましょうか」
「うん!」
決闘?
終わったよ?
見た目通りの脳筋だったから大振り躱したところで、思い切りビンタしたら5メートルくらい吹っ飛んでった。
一応生きてるので問題ない。
全く時間の無駄だったよ。
いや、ミーティアから「ママ、つよ~い!」と喜んでもらえたので良しとする。
ちょっとスッキリもしたし。
子供の教育に悪い?
いや、前世ならそうかもしれないけど、この世界だとある程度の力は誇示しなければ理不尽な目にあうからね。
それよりも、スーリャさんが気になることを言っていた。
何でも、カイトさんが近々この街を離れてしばらく帰ってこないような事を言っていたと言うのだ。
…どういう事だろう?
私、勝手にカイトさんも同じ気持ちと思って、ちゃんと話をすれば王都にも来てくれると考えてたけど、そんなことないのかも知れない。
どうしよう…ますます話をするのが怖くなってきた…
前向きで楽天的が私の取り柄なんて言ってたけど、全然ダメだ。
こと恋愛に関しては臆病過ぎてどうしたらいいのか分からないよ…
「ママ?だいじょうぶ?」
はっ!?
いけない、またミーティアを心配させてしまった。
「あ、ご、ごめんね。ちょっと考え事してただけだよ。じゃあ、行こうか?」
「うん!」
取り敢えず今日は近場で対応可能な採取依頼を受けることにした。
気分転換のつもりだったけど、余計モヤモヤしてしまったよ。
でも、これ以上ミーティアに心配かけるのも母親として情けないし、悩むのはあとあと!
と、無理やり意識を切り替えて街の外に向かうのだった。
何度かカイトさんには話をしようとしたが、いざ彼を目の前にすると緊張で言葉が出て来ない。
そんな私の様子に彼は心配してくれたが、曖昧に誤魔化すことしかできなかった。
そんなふうに懊悩する日々を過ごしていたのだが、プルシアさんからミーティアの服が完成したとの連絡が宿の方に入り、少しだけ気分が上向きになった。
連絡を受けて早速お店に向かうことにした。
「ママ~?げんきないの?」
「えっ?う、ううん大丈夫だよ!お洋服楽しみだね~」
いけないいけない。
ミーティアにまで心配されるほどだとは。
取り敢えず今はその事は忘れよう。
気持ちを切り替えて歩くことしばし。
私達はプルシア魔道具店にやって来た。
カランカランとドアベルを鳴らして中に入る。
「あ、いらっしゃい!カティアちゃん、ミーティアちゃん。待ってたわ!」
「こんにちは~、プルシアさん」
「おねえちゃん、こんにちは!」
「さあ、早速だけど見てちょうだい!私の傑作を!」
挨拶もそこそこに、プルシアさんは興奮した様子でまくし立ててくる。
お、落ち着いて…
「これよ!」
そう言って取り出したのは、桐箱?のような物。
蓋を開けると丁寧に畳まれた服が入っていた。
「さあ、手にとって確認してみて」
「は、はい…」
箱から取り出して広げてみる。
濃紺色の半袖のワンピースだ。
ミーティアが着るとおそらく膝くらいまであるだろう。
裾や袖、襟元には純白のレースで縁取りされており、高級感が漂う。
手触りは絹のように滑らかで光沢があるが、絹のような繊細さと言うよりも丈夫でしなやかな感じがする。
襟や袖にはいくつかの宝石のようなものが散りばめられており、おそらく魔力貯蔵の役割を持たせているのだろう。
「どう?今回はサイズ自動調整を付けてるからね、デザイン的には大人になっても違和感がないように落ち着いたものにしているわ」
「はい…とても素敵です!色もミーティアの髪が映えそうな感じですし、凄く似合いそう」
「おねえちゃん、きてみてもいい?」
「もちろんよ!あっちに試着室があるわ」
といって案内された試着室でミーティアを着替えさせる。
「おお、予想通り…いや、それ以上だわ!」
「本当に…よく似合ってるよ、ミーティア」
「えへへ~」
ミーティアも私達に目一杯褒められてご満悦のようだ。
「ところで、これってどんな機能があるんですか?」
「え~と、サイズ自動調整の他は…身体能力向上、温度調整、物理魔法結界の発動、継続回復、自動補修…てところね。あ、防刃防汚防臭ももちろん完備よ!まさに私の最高傑作と呼ぶに相応しい仕上がりよ!」
うわあ…
やりすぎじゃない?
「そ、そんなに付けて大丈夫なんですか…?」
「まあ、一般販売するにはやり過ぎだと思うけど、一点物だからね。あの預かった服の術式って、サイズ調整以外にも効率的な魔力制御とかすごく参考になったからこれだけいろいろ付けられたのもあるかな」
「う~ん、こんな凄いものをただで頂くなんて…」
「何言ってるの!むしろ私がお金を払いたいくらいよ」
「そ、そうですか…では、有り難く使わせて貰いますね」
「おねえちゃん、ありがとう!」
「うんうん、どういたしまして。私も技術向上が出来たからね。こちらこそありがとうね」
まあ、お互いwin-winという事で、良かったかな?
そうして私達はプルシアさんに別れを告げて店を後にした。
ミーティアはもとの服に着替えたりせずに、新しい服を着たままだ。
相当気に入ってくれたみたいで良かったよ。
「ママ、もうおうちかえるの?」
「う~ん、そうね…ギルドにでも寄ってこうかな?」
「おそといくの?」
「ちょうどいい依頼があればね」
私も少し気分転換したいし。
いつまでも先送りしちゃいけないのは分かってるんだけどね…
という事でやって来たギルドの依頼掲示板。
もうピークは過ぎてるし、何度かミーティアも連れてきてるので殊更に注目を浴びるようなこともない。
一時期はそこかしこでヒソヒソと噂話が展開されていた物だがそれも大分落ち着いたようだ。
何か近場の採取とかあるかな?
「おい」
「…う~ん、これはちょっと場所が遠いかな…」
「おいこら」
「…こっちは?魔物の生息域かー。ミーティア連れてるからパス」
「おいっつってんだろ!!」
「へっ?…私?」
さっきからうるさいな~、と思ったら私に話しかけてたのか。
なんだろ?
知らない人だけど。
いかにも粗野な感じの冒険者と言った風体の男。
脳筋ぽい感じ。
「おう、おめえ!ガキがガキ連れてこんなとこ来てんじゃねぇよ。ここは遊び場じゃねぇんだぞ!」
…驚いたな。
ここに出入りするようになってから結構経つんだけど、こんなふうに絡まれたのは初めてだ。
これはあれだ、テンプレってやつだろうか。
と、内心ちょっとだけ感動していると、男はますますヒートアップする。
やだなあ…カルシウム足りないんじゃない?
私は寛大なのでそんな事くらいでは怒らないけど。
どうやって穏便に済ませようかな…
「てめえ!!無視するんじゃねえ!!」
「ひっ!!ま、ママ、こわいよぉ…」
!?
おのれ…
可愛い可愛いミーティアを怖がらせるとは…
万死に値する!!(即ギレ0.5秒)
「黙れクソザコが」
「あ?」
「キサマ、うちの可愛いミーティアを怖がらせておいてタダで済むと思うなよ」
「お?なんだ、やろうってのか?」
(おい、また馬鹿が一人現れたぞ)
(カティアちゃんにケンカふっかけるなんて、余所者だな)
(この間の馬鹿よりはやるみたいだが…)
(…賭けるか?)
(カティアちゃんに金貨一枚!)
(同じく)
(同じく)
(…やっぱり成立しねえじゃねぇか)
(…あ、流石に職員が止めに入るようだぞ)
「待ちなさい!ギルド内では喧嘩はご法度ですよ!」
「あ、スーリャさん、こんにちは(ちょっと落ち着いた)」
「うるせえ!こいつに身の程ってもんを教えてやんだよ!」
「やるなら訓練場でやりなさい!」
(((止めねえのかよ!?)))
「さて、依頼も受けたしお外に行きましょうか」
「うん!」
決闘?
終わったよ?
見た目通りの脳筋だったから大振り躱したところで、思い切りビンタしたら5メートルくらい吹っ飛んでった。
一応生きてるので問題ない。
全く時間の無駄だったよ。
いや、ミーティアから「ママ、つよ~い!」と喜んでもらえたので良しとする。
ちょっとスッキリもしたし。
子供の教育に悪い?
いや、前世ならそうかもしれないけど、この世界だとある程度の力は誇示しなければ理不尽な目にあうからね。
それよりも、スーリャさんが気になることを言っていた。
何でも、カイトさんが近々この街を離れてしばらく帰ってこないような事を言っていたと言うのだ。
…どういう事だろう?
私、勝手にカイトさんも同じ気持ちと思って、ちゃんと話をすれば王都にも来てくれると考えてたけど、そんなことないのかも知れない。
どうしよう…ますます話をするのが怖くなってきた…
前向きで楽天的が私の取り柄なんて言ってたけど、全然ダメだ。
こと恋愛に関しては臆病過ぎてどうしたらいいのか分からないよ…
「ママ?だいじょうぶ?」
はっ!?
いけない、またミーティアを心配させてしまった。
「あ、ご、ごめんね。ちょっと考え事してただけだよ。じゃあ、行こうか?」
「うん!」
取り敢えず今日は近場で対応可能な採取依頼を受けることにした。
気分転換のつもりだったけど、余計モヤモヤしてしまったよ。
でも、これ以上ミーティアに心配かけるのも母親として情けないし、悩むのはあとあと!
と、無理やり意識を切り替えて街の外に向かうのだった。