残酷な描写あり
第二幕 15 『カミングアウト』
「…落ち着いたか?」
「…何とか」
私の黒歴史の1ページを記したあの発言からようやく私は立ち直って(?)、改めて父さんと話をする。
「おう、ルシェーラの嬢ちゃんもいるのか。邸に帰らないで大丈夫なのか?」
「ええ大丈夫ですわ、ダードおじさま。もともと野営も予定してたくらいですし、多少時間が遅いくらいは」
「そうか(行動がまるっきり親父と一緒だな)」
「…なにか?」
「いや、何でもない。…で、カティア?そっちのちびちゃんは何者なんだ?」
「うにゅ?おじちゃんだあれ?」
「ああ、この人は私のお父さんなんだよ」
「ママのおとうさん?じゃあおじいちゃん?」
「…おいおい。いきなり爺さんにされるとはな…説明頼む」
「実は…」
今回の依頼の顛末を父さんに説明する。
一通り聞き終わった父さんは、面白そうに…
「何だ。また随分と面白いことになってんな?」
「…面白く無いよ。おかげで私の変な噂が流れそうだよ」
さっきの黒歴史発言とともにね…
私の噂って凄い速さで伝わるんだから…尾ひれ付きで!
この間なんて、カイトさんと私が…いや、それはいい。
姉さんが「外堀から埋める作戦なのね~」なんて言ってたけど、そんな訳あるか。
「まあ、今度取材に来るだろうから、一座として明確に否定しときゃそのうち沈静化すんだろ」
「取材…?」
「あ?何だ、知らねえのか?ブレゼンタム日報。公演の告知やら宣伝やらでこれまでも何度か一座に取材が来てんだぞ。まあ、対応してんのはババアとかティダなんだが。個別取材はNGにしてるからお前んとこには行ってないとは思うけどな」
「知らなかった…」
そんなことしてたんだ…
いや、よく考えれば当たり前か。
告知も宣伝も無くあんなに人が集まるわけがないね。
「全く。少しは運営の方にも興味を持ってくれや。まあ、それはいい。それで?こいつはお前が面倒見んのか?お~、よしよし。ほれ、ジュースでも飲むか?」
「わ~!ありがとう、おじいちゃん!」
…いつの間にかミーティアは父さんの膝の上に乗っている。
この短時間ですっかり懐いたもので、やり取りが完全に孫とお爺ちゃんだ。
「…うん、私が面倒をみるよ。多分、この子とは何らかの繋がりがあるんだろうし…」
「そうさなぁ…多少髪色が違うだけで、本当にお前が子供の頃と瓜二つだ。遺跡に居たってのはよく分からんが、お前と無関係って事ぁないだろうな」
「やはり、エメリール様の印に関係があるのでしょうか?」
「そうかも知れないけど…とにかく、今度エメリール様に聞いてみる」
「「「…え?」」」
「…エメリール様と話が出来んのか?」
「うん、神殿で」
「…初耳だが?」
「言ってなかったからね」
まあ、オキュパロスさまともお会いしてるし、今更かと思いさらっとカミングアウトした。
あ、因みにリーゼさんに遮音結界を張ってもらってるので、関係ない人に会話を聞かれる心配はない。
「…いつから?」
「ああ、例の事件の後に神殿にいったらオキュパロス様の時みたいに神界にお呼ばれしたんだよ。因みにエメリナ様にもその時お会いしました」
転生前に会ったことは伏せておく。
そこはさすがに話せない。
「…ああ、俺の娘はいったいどこに向かうのやら…」
「あ、そうそう、私のこの髪の色ってエメリール様やエメリナ様と同じなんだよね」
「…珍しい色だとは思ってましたけど、女神様と同じだとは」
「すると、こっちのチビちゃんもやはり神サマの関係者なのか?少し色合いは違うみたいだが…」
「そうだね。やっぱりキーワードは『神の依代』かな。あの遺跡…と言うか街は神々と交流があったみたいだし、エメリール様が何か知っている可能性は高いと思うよ」
「では、何か分かりましたら私達にも教えてくださいまし」
「ええ、分かりました」
全部を教えられるかは分かりませんけどね…
それは心の中だけに留めておく。
「では、そろそろ私は帰ることにしますわ」
「ああ、それじゃあ送っていこう」
さすがにお嬢様を一人だけで歩かすわけには行かないものね。
「あら、良いんですの?」
「…何が?」
「カティアさんと噂になってるのに、私と二人きりのところを見られたらまた何を噂されるのやら…」
「…」
「あ、それじゃあ私も行きますよ。父さんに話ができましたし、候爵邸からそのまま宿に帰ります。…これ以上変な噂を流されてたまるものですか!」
という事で、お嬢様をお邸まで送っていくことにした。
ロウエンさんはここで父さんたちと飲んでいくことにしたようだ。
リーゼさんは宿に帰るとのこと。
ミーティアはまた私が抱っこする。
あ、リーゼさんはまだしばらくはこの街に滞在するらしい。
出発の日程を決めたら事前に教えてくれるって。
「じゃあ、父さん飲みすぎないでね。リーゼさん、今回は協力ありがとうございました」
「いえ、また何かありましたらお声掛けくださいね」
「それでは皆さん、ごきげんよう」
「ダードさん、お邪魔しました。リーゼもありがとうな」
みんなそれぞれに別れの挨拶をして食堂を後にした。
…そして、候爵邸前。
私達が到着したところで使用人が門前に現れた。
以前私達を夜会に案内してくれた人だ。
たしか、バトラーさんだっけ?
というか、タイミングが良すぎる…
「お嬢様、おかえりなさいませ」
「ええ、ただいま戻りましたわ。お出迎えご苦労さまです」
「皆様も、お嬢様のお相手をして頂き誠にありがとうございました」
「あ、いえ。むしろ普通にパーティーメンバーとして助けていただきました」
「左様ですか。それは良うございました」
…お嬢様がこれだけアクティブだと、使用人は苦労してるんだろうなぁ…
「では、カイトさま、カティアさん。今回はお付き合い頂きありがとうございました。今度は私も冒険者登録しておきますわ」
「…また行く気か」
「ええ、お父さまも反対では無いとのことなので。お二人がご迷惑でなければ、またお願いしたいですわ」
「迷惑だなんて…お嬢様と一緒で凄く楽しかったです!」
それは紛れもなく私の本心だ。
実戦経験がないだなんて微塵も感じさせないくらいで、むしろ重要戦力ですらあったと思う。
「ふふ、ありがとうございます。私もカティアさんと一緒に冒険できて楽しかったですわ」
「まあ、許可があるならまた付き合っても良いか。それじゃあな」
「お嬢様、失礼しますね」
「ええ、ではまた。ごきげんよう。ミーティアちゃんもさようなら」
「お姉ちゃん、ばいば~い」
そうして、お嬢様と別れた。
「パパ…いっしょじゃないの…?ぐすっ…やだあ…」
…現在、ぐずるミーティアをなだめているところです。
カイトさんは私と別の宿なので、当然途中で分かれることになるのだが、ずっと一緒だと思ってたミーティアは別れるのを嫌がってぐずっているのだ。
ああ、困ったな、どうしようか…?
「…しょうがない。カティア、お前の泊まってる宿は空きはあるのか?」
「へ?あ、ああ…確かまだ何部屋かは空いていたと思いますけど…」
「じゃあ、今の宿を引き払って、そっちに行くか…」
「え?…良いんですか?と言うか、そんな簡単に移動できるんですか?」
「ああ。俺は長期契約してる訳じゃないからな。『鳶』も解散してるし、荷物もそんなに無いし割と身軽に動ける。まあ、泣く子には勝てんよ」
と、苦笑して答えてくれる。
何だか悪い気がするけど、そうしてくれるなら助かるのでお言葉に甘える事にする。
「それじゃあ、私は宿の女将さんに話を通しておきますね」
「ああ、頼む。俺は荷物を纏めたらすぐにそっちに行く」
「…パパ、いっしよ?」
「ああ。いったん荷物を取りに行くが、すぐにまた会えるぞ」
「わ~い!」
ふふ、さっきまでメソメソしてたのに…すぐにご機嫌になっちゃって。
ああ…本当に、この子の笑顔がこんなにも愛おしく感じるのが不思議だ…
我が子に対する愛情って、こんな感じなのかな…
「じゃあ、カティア、ミーティア、また後でな」
「あ、はい。お待ちしてます」
「パパ~、すぐきてね~」
こうして、カイトさんと一旦別れた私達は宿への帰路につくのだった。
「…何とか」
私の黒歴史の1ページを記したあの発言からようやく私は立ち直って(?)、改めて父さんと話をする。
「おう、ルシェーラの嬢ちゃんもいるのか。邸に帰らないで大丈夫なのか?」
「ええ大丈夫ですわ、ダードおじさま。もともと野営も予定してたくらいですし、多少時間が遅いくらいは」
「そうか(行動がまるっきり親父と一緒だな)」
「…なにか?」
「いや、何でもない。…で、カティア?そっちのちびちゃんは何者なんだ?」
「うにゅ?おじちゃんだあれ?」
「ああ、この人は私のお父さんなんだよ」
「ママのおとうさん?じゃあおじいちゃん?」
「…おいおい。いきなり爺さんにされるとはな…説明頼む」
「実は…」
今回の依頼の顛末を父さんに説明する。
一通り聞き終わった父さんは、面白そうに…
「何だ。また随分と面白いことになってんな?」
「…面白く無いよ。おかげで私の変な噂が流れそうだよ」
さっきの黒歴史発言とともにね…
私の噂って凄い速さで伝わるんだから…尾ひれ付きで!
この間なんて、カイトさんと私が…いや、それはいい。
姉さんが「外堀から埋める作戦なのね~」なんて言ってたけど、そんな訳あるか。
「まあ、今度取材に来るだろうから、一座として明確に否定しときゃそのうち沈静化すんだろ」
「取材…?」
「あ?何だ、知らねえのか?ブレゼンタム日報。公演の告知やら宣伝やらでこれまでも何度か一座に取材が来てんだぞ。まあ、対応してんのはババアとかティダなんだが。個別取材はNGにしてるからお前んとこには行ってないとは思うけどな」
「知らなかった…」
そんなことしてたんだ…
いや、よく考えれば当たり前か。
告知も宣伝も無くあんなに人が集まるわけがないね。
「全く。少しは運営の方にも興味を持ってくれや。まあ、それはいい。それで?こいつはお前が面倒見んのか?お~、よしよし。ほれ、ジュースでも飲むか?」
「わ~!ありがとう、おじいちゃん!」
…いつの間にかミーティアは父さんの膝の上に乗っている。
この短時間ですっかり懐いたもので、やり取りが完全に孫とお爺ちゃんだ。
「…うん、私が面倒をみるよ。多分、この子とは何らかの繋がりがあるんだろうし…」
「そうさなぁ…多少髪色が違うだけで、本当にお前が子供の頃と瓜二つだ。遺跡に居たってのはよく分からんが、お前と無関係って事ぁないだろうな」
「やはり、エメリール様の印に関係があるのでしょうか?」
「そうかも知れないけど…とにかく、今度エメリール様に聞いてみる」
「「「…え?」」」
「…エメリール様と話が出来んのか?」
「うん、神殿で」
「…初耳だが?」
「言ってなかったからね」
まあ、オキュパロスさまともお会いしてるし、今更かと思いさらっとカミングアウトした。
あ、因みにリーゼさんに遮音結界を張ってもらってるので、関係ない人に会話を聞かれる心配はない。
「…いつから?」
「ああ、例の事件の後に神殿にいったらオキュパロス様の時みたいに神界にお呼ばれしたんだよ。因みにエメリナ様にもその時お会いしました」
転生前に会ったことは伏せておく。
そこはさすがに話せない。
「…ああ、俺の娘はいったいどこに向かうのやら…」
「あ、そうそう、私のこの髪の色ってエメリール様やエメリナ様と同じなんだよね」
「…珍しい色だとは思ってましたけど、女神様と同じだとは」
「すると、こっちのチビちゃんもやはり神サマの関係者なのか?少し色合いは違うみたいだが…」
「そうだね。やっぱりキーワードは『神の依代』かな。あの遺跡…と言うか街は神々と交流があったみたいだし、エメリール様が何か知っている可能性は高いと思うよ」
「では、何か分かりましたら私達にも教えてくださいまし」
「ええ、分かりました」
全部を教えられるかは分かりませんけどね…
それは心の中だけに留めておく。
「では、そろそろ私は帰ることにしますわ」
「ああ、それじゃあ送っていこう」
さすがにお嬢様を一人だけで歩かすわけには行かないものね。
「あら、良いんですの?」
「…何が?」
「カティアさんと噂になってるのに、私と二人きりのところを見られたらまた何を噂されるのやら…」
「…」
「あ、それじゃあ私も行きますよ。父さんに話ができましたし、候爵邸からそのまま宿に帰ります。…これ以上変な噂を流されてたまるものですか!」
という事で、お嬢様をお邸まで送っていくことにした。
ロウエンさんはここで父さんたちと飲んでいくことにしたようだ。
リーゼさんは宿に帰るとのこと。
ミーティアはまた私が抱っこする。
あ、リーゼさんはまだしばらくはこの街に滞在するらしい。
出発の日程を決めたら事前に教えてくれるって。
「じゃあ、父さん飲みすぎないでね。リーゼさん、今回は協力ありがとうございました」
「いえ、また何かありましたらお声掛けくださいね」
「それでは皆さん、ごきげんよう」
「ダードさん、お邪魔しました。リーゼもありがとうな」
みんなそれぞれに別れの挨拶をして食堂を後にした。
…そして、候爵邸前。
私達が到着したところで使用人が門前に現れた。
以前私達を夜会に案内してくれた人だ。
たしか、バトラーさんだっけ?
というか、タイミングが良すぎる…
「お嬢様、おかえりなさいませ」
「ええ、ただいま戻りましたわ。お出迎えご苦労さまです」
「皆様も、お嬢様のお相手をして頂き誠にありがとうございました」
「あ、いえ。むしろ普通にパーティーメンバーとして助けていただきました」
「左様ですか。それは良うございました」
…お嬢様がこれだけアクティブだと、使用人は苦労してるんだろうなぁ…
「では、カイトさま、カティアさん。今回はお付き合い頂きありがとうございました。今度は私も冒険者登録しておきますわ」
「…また行く気か」
「ええ、お父さまも反対では無いとのことなので。お二人がご迷惑でなければ、またお願いしたいですわ」
「迷惑だなんて…お嬢様と一緒で凄く楽しかったです!」
それは紛れもなく私の本心だ。
実戦経験がないだなんて微塵も感じさせないくらいで、むしろ重要戦力ですらあったと思う。
「ふふ、ありがとうございます。私もカティアさんと一緒に冒険できて楽しかったですわ」
「まあ、許可があるならまた付き合っても良いか。それじゃあな」
「お嬢様、失礼しますね」
「ええ、ではまた。ごきげんよう。ミーティアちゃんもさようなら」
「お姉ちゃん、ばいば~い」
そうして、お嬢様と別れた。
「パパ…いっしょじゃないの…?ぐすっ…やだあ…」
…現在、ぐずるミーティアをなだめているところです。
カイトさんは私と別の宿なので、当然途中で分かれることになるのだが、ずっと一緒だと思ってたミーティアは別れるのを嫌がってぐずっているのだ。
ああ、困ったな、どうしようか…?
「…しょうがない。カティア、お前の泊まってる宿は空きはあるのか?」
「へ?あ、ああ…確かまだ何部屋かは空いていたと思いますけど…」
「じゃあ、今の宿を引き払って、そっちに行くか…」
「え?…良いんですか?と言うか、そんな簡単に移動できるんですか?」
「ああ。俺は長期契約してる訳じゃないからな。『鳶』も解散してるし、荷物もそんなに無いし割と身軽に動ける。まあ、泣く子には勝てんよ」
と、苦笑して答えてくれる。
何だか悪い気がするけど、そうしてくれるなら助かるのでお言葉に甘える事にする。
「それじゃあ、私は宿の女将さんに話を通しておきますね」
「ああ、頼む。俺は荷物を纏めたらすぐにそっちに行く」
「…パパ、いっしよ?」
「ああ。いったん荷物を取りに行くが、すぐにまた会えるぞ」
「わ~い!」
ふふ、さっきまでメソメソしてたのに…すぐにご機嫌になっちゃって。
ああ…本当に、この子の笑顔がこんなにも愛おしく感じるのが不思議だ…
我が子に対する愛情って、こんな感じなのかな…
「じゃあ、カティア、ミーティア、また後でな」
「あ、はい。お待ちしてます」
「パパ~、すぐきてね~」
こうして、カイトさんと一旦別れた私達は宿への帰路につくのだった。