残酷な描写あり
第二幕 12 『ダンジョン最深部』
さて、【俺】の記憶によればこの第5階層が最後のはずだ。
広さこそ違ったものの、構造自体は記憶と一致していたのでこのダンジョンもこの階層で最後である可能性は高いだろう。
そして、記憶と同じならば、この階にはおそらく…
「カティア、また『勘』で行けるか?」
「え?ええ、私の『勘』にお任せください!」
もう、勘でいいやって感じの空気。
いいね、ゴリ押しの勝利だ。
「それでは…あそこの分岐は左で!」
どんどん行くよっ!
「あ~、こりゃまた…どうするッスか?」
「…絵面だけ見ると間抜けなんだが…厄介なことには違いない」
ロウエンさんとカイトさんが困惑しているのは、目の前の魔物だ。
Bランクの大陸亀なのだが…
通路一杯を塞ぐ形で、でん!と鎮座している。
どう見てもオマエも身動き取れんだろ?って感じだ。
今は頭も手足も甲羅の中に引っ込めていて、こうなると物理も魔法も殆ど効果がない。
「う~ん?じゃあ迂回します?…って私の勘が言ってます!」
「…そうするか」
「絶対勘じゃないですわ…」
聞こえませ~ん!
という事で別の通路から行く事になった。
まだ迂回可能なところでよかったよ。
…しかし、あの亀さんは一生ああなんだろうか…
ダンジョン魔核を破壊すれば消えるのかな?
そうしてまた進むことしばし。
思わぬ妨害にあったが、迂回してからは魔物の対処も順調でサクサク進んでると思う。
そして今、目の前にはこれまでに見られなかった大きな両開きの扉が。
「いかにも、って感じッスねー」
「ボス部屋…か?」
「それで?カティアさんの『勘』だと、ここには何がいるんですの?」
「えと、多分ミノタウロスとか…?あはは…でも、あくまでも勘ですよ?」
【俺】の記憶通りなら、なので、現実との差異はあるかもしれない。
「Aランクっスね…カイト、どうするッス?」
「…物理攻撃のみのパワーファイターならAと言えどもこのパーティーなら十分対処可能とは思いますが…」
と、カイトさんは言葉を濁してチラッとお嬢様を見る。
「ふふ、腕がなりますわね!」
「はぁ…すっかりやる気だな。Aが出たら撤退とか言うのはどうしたんだ」
「あら、ボス戦なら多少のリスクはしょうが無いですわ。それにこのパーティーなら相性は良いのではないですか?」
「まあ、そうかも知れんが…分かった。ではやるとするか」
「あ、でもミノタウロスって言うのは勘ですからね!相手は見極めましょうね!」
いきなりSランクとかは勘弁だ。
「じゃあ、陣形だが…脳筋相手なら俺がターゲット取るとして、ルシェーラは物理アタッカー、ロウエンさんは弓で牽制しつつ後衛の護衛。ミノタウロスは魔法防御は薄いよな?リーゼは多少詠唱に時間がかかってもなるべく威力のある魔法攻撃を当ててくれ」
「あれ?私は?」
「カティアは遊撃で自由に動いてくれ。役割固定するより臨機応変に動くほうがやりやすいだろ?」
「分かりました!」
「じゃあ、そろそろ行くか?」
「あ、その前にできるだけバフかけてきません?ご丁寧にこちらが来るのを待ち構えてるんだし」
「それもそうだな。リーゼ頼めるか?」
「はい、分かりました」
という事で、前衛には筋力を増強する[豪腕]と、物理攻撃を軽減する[金剛盾]を。
パーティー全員に敏捷性を向上させる[瞬閃]をかけてくれた。
「あ、じゃあ私からも!」
と言って、私は歌を歌い始める。
今回歌うのは、勇ましい行進曲だ。
効果は対象全員の身体能力全般の底上げと精神強化。
歌い始めると同時に紅い光が皆を包み込み、歌い終わると光は身体に吸い込まれるように消えた。
「これは…力が漲る感じがしますわ…これも[絶唱]の効果ですの?」
「はい。効果は身体能力全般と精神力の向上です。普通の支援魔法とは違うので干渉せずに上乗せできるのが利点ですね」
「こうやって事前準備できる状況ならかなり有用だな。よし、効果があるうちに行こうか」
そう言ってカイトさんは扉に手をかけて…
ギィ…
重厚な見た目とは裏腹に、やや高い軋んだ音を立てて徐々に開いていく。
中にいるのは果たして。
身の丈3メートルはあろうかと言う巨大な人型のシルエット。
だが、その頭の両側からは湾曲した角が生えており、その相貌は牛そのもの。
そこには【俺】の記憶に違わずミノタウロスが待ち構えていた。
『ぶふぅ~っ!!』
侵入者を見咎め、激しい鼻息をたてながら手にした長柄戦斧を構える。
『ぐおおーっっ!!!』
そして、ひとたび猛烈な雄叫びを上げると、周囲の空気がビリビリと震えるほどの強烈なプレッシャーが放たれる!
「流石はAランクと言ったところか。凄まじいプレッシャーだな。いつかのオーガもどき程ではないが。よし!前衛出るぞ!」
「了解ですわ!」
カイトさんが先頭を切って飛び出し、ルシェーラ様がそれに続く。
「取り敢えず先制ッス!」
と、ロウエンさんが弓で先制の矢を放つ!
ぶおんっ!!
立て続けに3連射された矢はしかし、斧の一振りで打ち払われる。
しかしその大振りをかいくぐってカイトさんが懐に飛び込み、脇腹に長剣の一撃を見舞う!
ザシュッ!!
『ぶもぉーーっ!?』
ミノタウロスは悲鳴をあげ、傷口からは血飛沫が舞う!
だが致命傷には程遠いようだ。
「ちっ!浅いか!?」
「せいやあーーっっ!!」
ぶんっ!!
ガキィッ!!!
カイトさんに続いて、ルシェーラ様が遠心力をたっぷりと乗せてハルバードを叩き込むが、これはポールアクスによって防がれてしまう。
ルシェーラ様は防がれたと分かった瞬間にすぐ様跳び退り、カイトさんと位置を入れ替える。
「…[灼天]!!」
その間に詠唱が完了したリーゼさんの上級魔法攻撃が炸裂する!
燃え盛る灼熱の炎が渦を巻いて巨体を飲み込んだ。
『ぐおおおーーーっっ!!!』
ぶんっ!!ぶんっ!!ぶおんっ!!
猛烈な炎に焼かれながらも、何度も斧を振り回して炎を振り払う。
そしてその勢いのまま、大上段に構えた斧をカイトさんに向かって叩き下ろす!
ぶんっ!!ドゴォッッ!!!!
圧倒的なパワーで叩きこまれるそれを、カイトさんはもちろんまともに受けることはせずに左に跳んで躱す。
渾身の一撃は目標を取り逃したもののその破壊力は凄まじく、床を砕いて陥没させ辺りに勢いよく破片を撒き散らす!
「痛っ!!」
攻撃は回避したものの飛礫が当たったらしく、カイトさんは思わず声を漏らす。
「はあっ!!」
大振りの攻撃によって硬直した瞬間を狙い、ルシェーラ様がハルバードを突き出す!
ズブッ!!!
『ぐがああっ!!!』
カイトさんの初撃と反対側の脇腹に槍穂が突き刺さる!
しかし、これも致命傷には及ばず、敵はすぐさま反撃の斧を振るってくる。
ぶおんっ!!
「くっ!なかなかタフですわね!!」
紙一重で躱しながらルシェーラ様は再び後退する。
何度か良い攻撃が入るものの倒し切るには至らず、いつの間にか傷口も塞がってしまっている。
圧倒的なパワー、巨体に見合ったタフネスさのみならず、自然治癒能力も備えているらしく、まさにAランクに相応しい強さと言えるだろう。
こちらが一旦間合いを取ったのを見計らったミノタウロスは身体を大きく捻って腰だめに斧を構えた。
『ぶふぉーーっ!!』
そして、裂帛の気合を込めて力を溜め始める。
それに合わせて周囲の空気がビリビリと震える。
来たっ!!
ただでさえ圧倒的なパワーを誇るミノタウロスが、さらに渾身の力を限界まで蓄積して一気に解き放つ必殺の技。
それが今まさに解き放たれようとしている。
「まずいっ!みんな避けろ!!」
カイトさんが警告を発するが、私はこの瞬間を待っていたんだ!
どんっ!と言う衝撃音とともに、ミノタウロスが突進を開始した…その瞬間!
「[落地]!!」
勢いよく踏み出した先にある床が、私の魔法によってボコォッ!と陥没した!
突然予想外のところで足を取られたミノタウロスは、突進の勢いそのままに頭から地面にダイブする。
「今がチャンスです!さあ、一斉に攻撃してください!」
完全に無防備状態となったミノタウロスに対して、全員が一斉に自身の最大威力の攻撃を見舞う!
これには流石のタフネスを誇るミノタウロスであっても大ダメージは必至で、ようやく立ち上がる頃にはボロボロになっていた。
「さあ、トドメです![雷蛇]!!」
バチバチバチッ!!
『がぁーーっっ!?』
私が放った雷撃魔法によって全身に雷の蛇が這い回り、ミノタウロスは苦悶の悲鳴を上げる。
雷撃が収まる頃には、あれだけの猛威を奮った巨体もついに完全に沈黙する。
そして、ゆっくりとその巨体が傾いていき…
ズズンッ!と地響きを立てて地面に倒れ伏した。
いや~、ゲームの時の必勝パターンがハマって良かったよ。
「ふぅ…倒したか。流石はAランクなだけはあったな。カティアの機転がなかったらもっと苦労してるところだった」
「カティアさんはずっとあれを狙ってたんですのね」
「ええ、あれをまともに食らうのは流石にマズいですからね。出鼻を挫くのと、最大のチャンスを作り出すためです。あ、それよりもカイトさん。さっきミノタウロスの攻撃を避けたとき飛礫を浴びてましたが大丈夫ですか?見せてください」
「あ、ああ、大したことはない。掠っただけだ」
「…でも、額から血が出てますね。…[快癒]。はい、これでよし!…どうしました?」
「ああ、いや…ありがとう。…治癒も使えるんだな」
ああ、治癒の魔法の使い手って凄く少ないんだよね。
もともとは【私】も使えない。
ゲームでは回復魔法なんて基本的な魔法で当然使えてたからその辺の感覚を失念していたよ。
アネッサ姉さんも使えるし。
「ええ、まあ。…あ、見て下さい、ミノタウロスが消えていきます」
誤魔化すように話題をそらす。
私の視線の先には倒したミノタウロスの身体が徐々に薄くなって消え去ろうとしているところだった。
そして、消え去ったその後には…
虹色に輝く拳大の球体が残った。
「あ、あれダンジョン魔核じゃないですか?」
話に聞く特徴と一致する。
すると、これを砕けばダンジョン化は解けるという事だ。
う~ん、こんなにキレイなのに破壊するのは何だか勿体ない気がするなぁ。
「これを壊せばダンジョン化が解けるんですよね?」
「ええ、そのはずです」
「何だかもったいないですね…」
「あ、確か破壊しなくてもダンジョンの外に持ち出せばダンジョン化は解けるはずッスよ。お嬢様の収納倉庫に入れてしまえばいいんじゃないッスかね?」
「あ、そうなんですね。そう言えば稀に高値で取引される事があると聞いたことがありますわね。では、早速…」
そう言ってお嬢様は収納倉庫にダンジョン魔核を収納した。
「…特に変化はないけど、これで元に戻ったのかな?」
「まあ、帰り道に分かるんじゃないッスかね?」
「元々ここに住み着いていた魔物がいるかも知れませんから、5階層、4階層は帰り際に探索して行きますか?」
「そうだな。折角だし安全確保はしておくか」
「そうして頂けると助かりますわ」
こうして、私達はダンジョン攻略を果たしたのだった。
広さこそ違ったものの、構造自体は記憶と一致していたのでこのダンジョンもこの階層で最後である可能性は高いだろう。
そして、記憶と同じならば、この階にはおそらく…
「カティア、また『勘』で行けるか?」
「え?ええ、私の『勘』にお任せください!」
もう、勘でいいやって感じの空気。
いいね、ゴリ押しの勝利だ。
「それでは…あそこの分岐は左で!」
どんどん行くよっ!
「あ~、こりゃまた…どうするッスか?」
「…絵面だけ見ると間抜けなんだが…厄介なことには違いない」
ロウエンさんとカイトさんが困惑しているのは、目の前の魔物だ。
Bランクの大陸亀なのだが…
通路一杯を塞ぐ形で、でん!と鎮座している。
どう見てもオマエも身動き取れんだろ?って感じだ。
今は頭も手足も甲羅の中に引っ込めていて、こうなると物理も魔法も殆ど効果がない。
「う~ん?じゃあ迂回します?…って私の勘が言ってます!」
「…そうするか」
「絶対勘じゃないですわ…」
聞こえませ~ん!
という事で別の通路から行く事になった。
まだ迂回可能なところでよかったよ。
…しかし、あの亀さんは一生ああなんだろうか…
ダンジョン魔核を破壊すれば消えるのかな?
そうしてまた進むことしばし。
思わぬ妨害にあったが、迂回してからは魔物の対処も順調でサクサク進んでると思う。
そして今、目の前にはこれまでに見られなかった大きな両開きの扉が。
「いかにも、って感じッスねー」
「ボス部屋…か?」
「それで?カティアさんの『勘』だと、ここには何がいるんですの?」
「えと、多分ミノタウロスとか…?あはは…でも、あくまでも勘ですよ?」
【俺】の記憶通りなら、なので、現実との差異はあるかもしれない。
「Aランクっスね…カイト、どうするッス?」
「…物理攻撃のみのパワーファイターならAと言えどもこのパーティーなら十分対処可能とは思いますが…」
と、カイトさんは言葉を濁してチラッとお嬢様を見る。
「ふふ、腕がなりますわね!」
「はぁ…すっかりやる気だな。Aが出たら撤退とか言うのはどうしたんだ」
「あら、ボス戦なら多少のリスクはしょうが無いですわ。それにこのパーティーなら相性は良いのではないですか?」
「まあ、そうかも知れんが…分かった。ではやるとするか」
「あ、でもミノタウロスって言うのは勘ですからね!相手は見極めましょうね!」
いきなりSランクとかは勘弁だ。
「じゃあ、陣形だが…脳筋相手なら俺がターゲット取るとして、ルシェーラは物理アタッカー、ロウエンさんは弓で牽制しつつ後衛の護衛。ミノタウロスは魔法防御は薄いよな?リーゼは多少詠唱に時間がかかってもなるべく威力のある魔法攻撃を当ててくれ」
「あれ?私は?」
「カティアは遊撃で自由に動いてくれ。役割固定するより臨機応変に動くほうがやりやすいだろ?」
「分かりました!」
「じゃあ、そろそろ行くか?」
「あ、その前にできるだけバフかけてきません?ご丁寧にこちらが来るのを待ち構えてるんだし」
「それもそうだな。リーゼ頼めるか?」
「はい、分かりました」
という事で、前衛には筋力を増強する[豪腕]と、物理攻撃を軽減する[金剛盾]を。
パーティー全員に敏捷性を向上させる[瞬閃]をかけてくれた。
「あ、じゃあ私からも!」
と言って、私は歌を歌い始める。
今回歌うのは、勇ましい行進曲だ。
効果は対象全員の身体能力全般の底上げと精神強化。
歌い始めると同時に紅い光が皆を包み込み、歌い終わると光は身体に吸い込まれるように消えた。
「これは…力が漲る感じがしますわ…これも[絶唱]の効果ですの?」
「はい。効果は身体能力全般と精神力の向上です。普通の支援魔法とは違うので干渉せずに上乗せできるのが利点ですね」
「こうやって事前準備できる状況ならかなり有用だな。よし、効果があるうちに行こうか」
そう言ってカイトさんは扉に手をかけて…
ギィ…
重厚な見た目とは裏腹に、やや高い軋んだ音を立てて徐々に開いていく。
中にいるのは果たして。
身の丈3メートルはあろうかと言う巨大な人型のシルエット。
だが、その頭の両側からは湾曲した角が生えており、その相貌は牛そのもの。
そこには【俺】の記憶に違わずミノタウロスが待ち構えていた。
『ぶふぅ~っ!!』
侵入者を見咎め、激しい鼻息をたてながら手にした長柄戦斧を構える。
『ぐおおーっっ!!!』
そして、ひとたび猛烈な雄叫びを上げると、周囲の空気がビリビリと震えるほどの強烈なプレッシャーが放たれる!
「流石はAランクと言ったところか。凄まじいプレッシャーだな。いつかのオーガもどき程ではないが。よし!前衛出るぞ!」
「了解ですわ!」
カイトさんが先頭を切って飛び出し、ルシェーラ様がそれに続く。
「取り敢えず先制ッス!」
と、ロウエンさんが弓で先制の矢を放つ!
ぶおんっ!!
立て続けに3連射された矢はしかし、斧の一振りで打ち払われる。
しかしその大振りをかいくぐってカイトさんが懐に飛び込み、脇腹に長剣の一撃を見舞う!
ザシュッ!!
『ぶもぉーーっ!?』
ミノタウロスは悲鳴をあげ、傷口からは血飛沫が舞う!
だが致命傷には程遠いようだ。
「ちっ!浅いか!?」
「せいやあーーっっ!!」
ぶんっ!!
ガキィッ!!!
カイトさんに続いて、ルシェーラ様が遠心力をたっぷりと乗せてハルバードを叩き込むが、これはポールアクスによって防がれてしまう。
ルシェーラ様は防がれたと分かった瞬間にすぐ様跳び退り、カイトさんと位置を入れ替える。
「…[灼天]!!」
その間に詠唱が完了したリーゼさんの上級魔法攻撃が炸裂する!
燃え盛る灼熱の炎が渦を巻いて巨体を飲み込んだ。
『ぐおおおーーーっっ!!!』
ぶんっ!!ぶんっ!!ぶおんっ!!
猛烈な炎に焼かれながらも、何度も斧を振り回して炎を振り払う。
そしてその勢いのまま、大上段に構えた斧をカイトさんに向かって叩き下ろす!
ぶんっ!!ドゴォッッ!!!!
圧倒的なパワーで叩きこまれるそれを、カイトさんはもちろんまともに受けることはせずに左に跳んで躱す。
渾身の一撃は目標を取り逃したもののその破壊力は凄まじく、床を砕いて陥没させ辺りに勢いよく破片を撒き散らす!
「痛っ!!」
攻撃は回避したものの飛礫が当たったらしく、カイトさんは思わず声を漏らす。
「はあっ!!」
大振りの攻撃によって硬直した瞬間を狙い、ルシェーラ様がハルバードを突き出す!
ズブッ!!!
『ぐがああっ!!!』
カイトさんの初撃と反対側の脇腹に槍穂が突き刺さる!
しかし、これも致命傷には及ばず、敵はすぐさま反撃の斧を振るってくる。
ぶおんっ!!
「くっ!なかなかタフですわね!!」
紙一重で躱しながらルシェーラ様は再び後退する。
何度か良い攻撃が入るものの倒し切るには至らず、いつの間にか傷口も塞がってしまっている。
圧倒的なパワー、巨体に見合ったタフネスさのみならず、自然治癒能力も備えているらしく、まさにAランクに相応しい強さと言えるだろう。
こちらが一旦間合いを取ったのを見計らったミノタウロスは身体を大きく捻って腰だめに斧を構えた。
『ぶふぉーーっ!!』
そして、裂帛の気合を込めて力を溜め始める。
それに合わせて周囲の空気がビリビリと震える。
来たっ!!
ただでさえ圧倒的なパワーを誇るミノタウロスが、さらに渾身の力を限界まで蓄積して一気に解き放つ必殺の技。
それが今まさに解き放たれようとしている。
「まずいっ!みんな避けろ!!」
カイトさんが警告を発するが、私はこの瞬間を待っていたんだ!
どんっ!と言う衝撃音とともに、ミノタウロスが突進を開始した…その瞬間!
「[落地]!!」
勢いよく踏み出した先にある床が、私の魔法によってボコォッ!と陥没した!
突然予想外のところで足を取られたミノタウロスは、突進の勢いそのままに頭から地面にダイブする。
「今がチャンスです!さあ、一斉に攻撃してください!」
完全に無防備状態となったミノタウロスに対して、全員が一斉に自身の最大威力の攻撃を見舞う!
これには流石のタフネスを誇るミノタウロスであっても大ダメージは必至で、ようやく立ち上がる頃にはボロボロになっていた。
「さあ、トドメです![雷蛇]!!」
バチバチバチッ!!
『がぁーーっっ!?』
私が放った雷撃魔法によって全身に雷の蛇が這い回り、ミノタウロスは苦悶の悲鳴を上げる。
雷撃が収まる頃には、あれだけの猛威を奮った巨体もついに完全に沈黙する。
そして、ゆっくりとその巨体が傾いていき…
ズズンッ!と地響きを立てて地面に倒れ伏した。
いや~、ゲームの時の必勝パターンがハマって良かったよ。
「ふぅ…倒したか。流石はAランクなだけはあったな。カティアの機転がなかったらもっと苦労してるところだった」
「カティアさんはずっとあれを狙ってたんですのね」
「ええ、あれをまともに食らうのは流石にマズいですからね。出鼻を挫くのと、最大のチャンスを作り出すためです。あ、それよりもカイトさん。さっきミノタウロスの攻撃を避けたとき飛礫を浴びてましたが大丈夫ですか?見せてください」
「あ、ああ、大したことはない。掠っただけだ」
「…でも、額から血が出てますね。…[快癒]。はい、これでよし!…どうしました?」
「ああ、いや…ありがとう。…治癒も使えるんだな」
ああ、治癒の魔法の使い手って凄く少ないんだよね。
もともとは【私】も使えない。
ゲームでは回復魔法なんて基本的な魔法で当然使えてたからその辺の感覚を失念していたよ。
アネッサ姉さんも使えるし。
「ええ、まあ。…あ、見て下さい、ミノタウロスが消えていきます」
誤魔化すように話題をそらす。
私の視線の先には倒したミノタウロスの身体が徐々に薄くなって消え去ろうとしているところだった。
そして、消え去ったその後には…
虹色に輝く拳大の球体が残った。
「あ、あれダンジョン魔核じゃないですか?」
話に聞く特徴と一致する。
すると、これを砕けばダンジョン化は解けるという事だ。
う~ん、こんなにキレイなのに破壊するのは何だか勿体ない気がするなぁ。
「これを壊せばダンジョン化が解けるんですよね?」
「ええ、そのはずです」
「何だかもったいないですね…」
「あ、確か破壊しなくてもダンジョンの外に持ち出せばダンジョン化は解けるはずッスよ。お嬢様の収納倉庫に入れてしまえばいいんじゃないッスかね?」
「あ、そうなんですね。そう言えば稀に高値で取引される事があると聞いたことがありますわね。では、早速…」
そう言ってお嬢様は収納倉庫にダンジョン魔核を収納した。
「…特に変化はないけど、これで元に戻ったのかな?」
「まあ、帰り道に分かるんじゃないッスかね?」
「元々ここに住み着いていた魔物がいるかも知れませんから、5階層、4階層は帰り際に探索して行きますか?」
「そうだな。折角だし安全確保はしておくか」
「そうして頂けると助かりますわ」
こうして、私達はダンジョン攻略を果たしたのだった。