残酷な描写あり
第二幕 プロローグ 『公演』
『異界の魂』の事件解決から数日後。
私達一座は予定通りこの街での第5回公演を開催する運びとなった。
公演が行われているのは中央広場に面する一画に立つ、前世で言うところの市民ホールのような建物だ。
様々な催しや式典が行われるところで、本当であれば賃料はかなり高額なものになるらしいが、侯爵様のご厚意で割安で借りられたらしい。
何でも、領民に娯楽を提供するのも領主の務め、であるとか。
本日はそのブレゼンタム第5回公演の初日。
この街では既に何度も公演しているので知名度も高まり、客足も上々だ。
今はメインの出し物の一つの演劇が行われているところで、私はそれを舞台袖奥から眺めている。
これから数日間は私も連日舞台に立ち、忙しい毎日となる。
とは言っても、私の出番は歌だけなんだけど。
ええ、ええ、大根役者なもんで演劇には出してもらえないんです。
くっ…今に見てなさいよ、シクスティンめ!
「…カティアさん、劇に出たいなら少なくとも棒読みはやめましょうね。はぁ…せっかく舞台映えする容姿してるのに…勿体ないなぁ。なんで歌はあんなに表現力豊かなのに、それを演技に活かせないのでしょうかねぇ…」
と、残念な物を見るような目でこちらを見て、ため息付きながら話しかけてきたのは当のシクスティンさんだ。
私の心の声が聞こえたのだろうか?
「殺陣なら完璧だと思うんですけど」
「…あなたみたいに目立つ人が戦闘シーンにだけいきなり出てきたら違和感ありすぎでしょう…」
「じゃあ、セリフが無い役を考えてくださいよ」
「だから。あなたほど目立つ人が一言も喋らないなんて違和感しかないんですって…」
「セリフ覚えるのは得意なんですけどね」
「はぁ、つくづく勿体ない…」
そんな会話をしているうちに、舞台上では物語が進み、観客は盛り上がりを見せている。
派手な真紅の衣装に身を包んだロゼッタさんが高笑いを上げながら高らかにセリフを発する。
『お~~っほっほっほっ!あなたのような小娘が彼の婚約者になるだなんて、笑わせてくれますわね!彼には公爵家令嬢たるこのワタクシこそが相応しくてよ!』
今回の彼女の役は、ヒロインをいじめ倒す悪役令嬢。
…なんと言うハマり役。
と言うか、普段の言動とあまり変わらない気がする。
しかし、令嬢と言うにはちょっと年が…(ゾクっ)…おっと、何か悪寒がするのでこれくらいにしておこう。
『私は…彼を愛しています!例え身分違いの恋だとしても、諦めることなんて出来ません!』
そして、ヒロイン役はアネッサ姉さん…ではなく、期待の新人ハンナちゃん(13)。
薄い茶色の髪に茶色の瞳と、目立つ容姿ではないものの、庇護欲を掻き立てるような可愛らしい女の子だ。
なんと、今回は彼女の主演デビューとなる舞台なのだ。
今回のストーリーは、うちの出し物としては珍しく学園恋愛物なのだが、それも彼女の初々しい魅力を最大限アピールする狙いもあっての事だ。
とある街での公演の際に、孤児院の子供たちを招待した事があったのだが、その時その孤児院にいた彼女はうちの一座の劇にいたく感動したらしく、雑用でもいいから雇ってくれと押しかけてきたんだ。
根性があると一座の面々にも気に入られて下積みを経験して行き、ついに本日のデビューとなったのである。
私とも年が近いので仲良くしている。
…私の方が芸歴は長いのに、演劇デビューの先を越されたのは別に悔しくない。
ちなみにアネッサ姉さんは、ヒロインの親友役で出ている。
「ハンナちゃん、いい感じですね」
「ええ、そうですね。彼女は才能があると思いますよ。これからが楽しみですね」
そうだね。
世代交代も考えなくちゃならないしね。
姉さんもロゼッタさんも、いつまでもヒロインやるような年でも…ゲフンゲフン。
さて、劇の方はクライマックスを迎えていた。
恋愛ものとはいえ、うちのウリである戦闘シーンもしっかり盛り込んで(半ば無理やりストーリーにねじ込んでる)、観客の盛り上がりが最高潮のまま終了となった。
ちなみにロゼッタさんこと悪役令嬢は、しっかり『ざまぁ』されてました。
「さて、そろそろ私の出番だね」
「ええ、頑張ってください。演劇と並ぶ我が一座の売りですからね、お客さんの心をがっちり掴んできてください」
シクスティンさんに激励されて、歌姫モードに意識を切り替えていく。
そう言えば、【俺】が転生してからは初めての舞台だけど…
うん、特に問題はないかな。
【私】がこれまでやってきたことが、私の中に確かに息づいてるのが分かるから。
程よい緊張感で気が引き締まっていく。
さあ、張り切って行こう!
…ああ、でも。
この間の打ち上げで、カイトさんの演奏に合わせて歌うのはとても楽しかった。
こんな大舞台で、彼と一緒に出来たらな…
そう言えば、『鳶』の面々にはチケット渡してたんだっけ。
もしかしたら、今日見に来てくれてるかな?
だったら、嬉しいな。
そうして、私の舞台の幕があがった。
私達一座は予定通りこの街での第5回公演を開催する運びとなった。
公演が行われているのは中央広場に面する一画に立つ、前世で言うところの市民ホールのような建物だ。
様々な催しや式典が行われるところで、本当であれば賃料はかなり高額なものになるらしいが、侯爵様のご厚意で割安で借りられたらしい。
何でも、領民に娯楽を提供するのも領主の務め、であるとか。
本日はそのブレゼンタム第5回公演の初日。
この街では既に何度も公演しているので知名度も高まり、客足も上々だ。
今はメインの出し物の一つの演劇が行われているところで、私はそれを舞台袖奥から眺めている。
これから数日間は私も連日舞台に立ち、忙しい毎日となる。
とは言っても、私の出番は歌だけなんだけど。
ええ、ええ、大根役者なもんで演劇には出してもらえないんです。
くっ…今に見てなさいよ、シクスティンめ!
「…カティアさん、劇に出たいなら少なくとも棒読みはやめましょうね。はぁ…せっかく舞台映えする容姿してるのに…勿体ないなぁ。なんで歌はあんなに表現力豊かなのに、それを演技に活かせないのでしょうかねぇ…」
と、残念な物を見るような目でこちらを見て、ため息付きながら話しかけてきたのは当のシクスティンさんだ。
私の心の声が聞こえたのだろうか?
「殺陣なら完璧だと思うんですけど」
「…あなたみたいに目立つ人が戦闘シーンにだけいきなり出てきたら違和感ありすぎでしょう…」
「じゃあ、セリフが無い役を考えてくださいよ」
「だから。あなたほど目立つ人が一言も喋らないなんて違和感しかないんですって…」
「セリフ覚えるのは得意なんですけどね」
「はぁ、つくづく勿体ない…」
そんな会話をしているうちに、舞台上では物語が進み、観客は盛り上がりを見せている。
派手な真紅の衣装に身を包んだロゼッタさんが高笑いを上げながら高らかにセリフを発する。
『お~~っほっほっほっ!あなたのような小娘が彼の婚約者になるだなんて、笑わせてくれますわね!彼には公爵家令嬢たるこのワタクシこそが相応しくてよ!』
今回の彼女の役は、ヒロインをいじめ倒す悪役令嬢。
…なんと言うハマり役。
と言うか、普段の言動とあまり変わらない気がする。
しかし、令嬢と言うにはちょっと年が…(ゾクっ)…おっと、何か悪寒がするのでこれくらいにしておこう。
『私は…彼を愛しています!例え身分違いの恋だとしても、諦めることなんて出来ません!』
そして、ヒロイン役はアネッサ姉さん…ではなく、期待の新人ハンナちゃん(13)。
薄い茶色の髪に茶色の瞳と、目立つ容姿ではないものの、庇護欲を掻き立てるような可愛らしい女の子だ。
なんと、今回は彼女の主演デビューとなる舞台なのだ。
今回のストーリーは、うちの出し物としては珍しく学園恋愛物なのだが、それも彼女の初々しい魅力を最大限アピールする狙いもあっての事だ。
とある街での公演の際に、孤児院の子供たちを招待した事があったのだが、その時その孤児院にいた彼女はうちの一座の劇にいたく感動したらしく、雑用でもいいから雇ってくれと押しかけてきたんだ。
根性があると一座の面々にも気に入られて下積みを経験して行き、ついに本日のデビューとなったのである。
私とも年が近いので仲良くしている。
…私の方が芸歴は長いのに、演劇デビューの先を越されたのは別に悔しくない。
ちなみにアネッサ姉さんは、ヒロインの親友役で出ている。
「ハンナちゃん、いい感じですね」
「ええ、そうですね。彼女は才能があると思いますよ。これからが楽しみですね」
そうだね。
世代交代も考えなくちゃならないしね。
姉さんもロゼッタさんも、いつまでもヒロインやるような年でも…ゲフンゲフン。
さて、劇の方はクライマックスを迎えていた。
恋愛ものとはいえ、うちのウリである戦闘シーンもしっかり盛り込んで(半ば無理やりストーリーにねじ込んでる)、観客の盛り上がりが最高潮のまま終了となった。
ちなみにロゼッタさんこと悪役令嬢は、しっかり『ざまぁ』されてました。
「さて、そろそろ私の出番だね」
「ええ、頑張ってください。演劇と並ぶ我が一座の売りですからね、お客さんの心をがっちり掴んできてください」
シクスティンさんに激励されて、歌姫モードに意識を切り替えていく。
そう言えば、【俺】が転生してからは初めての舞台だけど…
うん、特に問題はないかな。
【私】がこれまでやってきたことが、私の中に確かに息づいてるのが分かるから。
程よい緊張感で気が引き締まっていく。
さあ、張り切って行こう!
…ああ、でも。
この間の打ち上げで、カイトさんの演奏に合わせて歌うのはとても楽しかった。
こんな大舞台で、彼と一緒に出来たらな…
そう言えば、『鳶』の面々にはチケット渡してたんだっけ。
もしかしたら、今日見に来てくれてるかな?
だったら、嬉しいな。
そうして、私の舞台の幕があがった。