残酷な描写あり
幕前 ある日、ある一座のある一幕
眩い光が舞台を照らし出す。
きらびやかな衣装を纏う男女が大仰な身振りで立ち回り、朗々とした声で台詞を口にする。
本日の演目は、かつてこの大陸を恐怖に陥れた魔王に挑む若き英雄の物語。
若者は故郷を旅立ち、仲間と出会い、悲しい別れがあり、苦難の旅路を経て成長していく。
物語が佳境に入ると実戦さながらに迫力のある戦闘シーンが繰り広げられ、観客は大いに盛り上がる。
旅芸人集団、ダードレイ一座の公演は本日も大盛況だ。
この街に彼らは既に数カ月滞在し、公演も何度か行っていたが未だ客足は衰えず。
数百人は入る観客席は、そのほとんどが埋まっていた。
(うんうん、今日も盛り上がってるね)
私の名前はカティア。
ダードレイ一座の歌姫だ。
今は舞台袖から観客席の様子を窺っているところだ。
舞台上の物語は既にクライマックスを迎えようとしている。
やがて、若者は魔王を討ち取ることに成功するが、若者もまた大きな傷を負い、恋人に看取られて息を引き取ってしまう。
残された恋人の悲しい慟哭が響き渡り、少しづつ幕が下り明かりが落とされて終幕となる。
悲劇の余韻を残して静寂に包まれた会場。
時おり、感極まったであろう観客から啜り上げる音がする。
そして少しづつ拍手の音がし始め、疎らだったそれはあっという間に会場中に広がって、大きな歓声とともに演者達を称えた。
再び幕が上がり、出演した全ての演者が舞台に勢揃いしてカーテンコールとなる。
拍手の音は一際大きなものとなり、演者たちが舞台袖に引き上げてもしばらく鳴り止まなかった。
さあ、次は私の出番だ。
観客席が落ち着いた頃合に司会から次の演目がアナウンスされると、再び拍手の音が鳴り響く。
私は拍手に迎えられながら舞台袖からゆっくりと歩き出す。
反対の袖からはもう一人、リュートを携えた若い男性が歩いてくる。
視線が合うと微かに微笑んでくれた。
私も彼に微笑みを返す。
それだけで想いが通じ合う気がした。
今日もいい舞台になりそうだ。
舞台の中央に立つ私。
その少し後ろにリュートを携えた彼。
ひと呼吸おくと、彼は指でトントントン、とリュートを軽く叩いてリズムをとってから伴奏を始める。
そしてタイミングを合わせて、私は歌声を紡ぎ始めた。
最初は囁くように静かに、徐々に感情を込めながら大きくなっていくその歌声は会場中に響き渡り、観客たちの心を掴んでいく。
豊穣の女神に感謝を捧げる歌
気まぐれな神と戯れる愉快な歌
悲しき魂の安寧を願う鎮魂歌
恋の女神に祈る悩める少女の歌
そして、愛しい人への想いを伝える歌
敬虔に、軽やかに、厳かに、悩ましげに、しっとりと、歌い上げる。
やがて、全ての歌を歌い終わっても、観客は静まりかえったままだった。
ふふ、彼らが余韻に浸っているだけだと言うことを私は知っている。
歌手冥利に尽きると言うものだ。
彼と視線を交わし、再び微笑み合う。
不思議な気分だ。
少し遅れて響き始めた拍手の音に包まれて、心地よい疲れと高揚感を抱きながら、私は今の私の始まりとなったあの出来事のことを思い浮かべるのだった。
きらびやかな衣装を纏う男女が大仰な身振りで立ち回り、朗々とした声で台詞を口にする。
本日の演目は、かつてこの大陸を恐怖に陥れた魔王に挑む若き英雄の物語。
若者は故郷を旅立ち、仲間と出会い、悲しい別れがあり、苦難の旅路を経て成長していく。
物語が佳境に入ると実戦さながらに迫力のある戦闘シーンが繰り広げられ、観客は大いに盛り上がる。
旅芸人集団、ダードレイ一座の公演は本日も大盛況だ。
この街に彼らは既に数カ月滞在し、公演も何度か行っていたが未だ客足は衰えず。
数百人は入る観客席は、そのほとんどが埋まっていた。
(うんうん、今日も盛り上がってるね)
私の名前はカティア。
ダードレイ一座の歌姫だ。
今は舞台袖から観客席の様子を窺っているところだ。
舞台上の物語は既にクライマックスを迎えようとしている。
やがて、若者は魔王を討ち取ることに成功するが、若者もまた大きな傷を負い、恋人に看取られて息を引き取ってしまう。
残された恋人の悲しい慟哭が響き渡り、少しづつ幕が下り明かりが落とされて終幕となる。
悲劇の余韻を残して静寂に包まれた会場。
時おり、感極まったであろう観客から啜り上げる音がする。
そして少しづつ拍手の音がし始め、疎らだったそれはあっという間に会場中に広がって、大きな歓声とともに演者達を称えた。
再び幕が上がり、出演した全ての演者が舞台に勢揃いしてカーテンコールとなる。
拍手の音は一際大きなものとなり、演者たちが舞台袖に引き上げてもしばらく鳴り止まなかった。
さあ、次は私の出番だ。
観客席が落ち着いた頃合に司会から次の演目がアナウンスされると、再び拍手の音が鳴り響く。
私は拍手に迎えられながら舞台袖からゆっくりと歩き出す。
反対の袖からはもう一人、リュートを携えた若い男性が歩いてくる。
視線が合うと微かに微笑んでくれた。
私も彼に微笑みを返す。
それだけで想いが通じ合う気がした。
今日もいい舞台になりそうだ。
舞台の中央に立つ私。
その少し後ろにリュートを携えた彼。
ひと呼吸おくと、彼は指でトントントン、とリュートを軽く叩いてリズムをとってから伴奏を始める。
そしてタイミングを合わせて、私は歌声を紡ぎ始めた。
最初は囁くように静かに、徐々に感情を込めながら大きくなっていくその歌声は会場中に響き渡り、観客たちの心を掴んでいく。
豊穣の女神に感謝を捧げる歌
気まぐれな神と戯れる愉快な歌
悲しき魂の安寧を願う鎮魂歌
恋の女神に祈る悩める少女の歌
そして、愛しい人への想いを伝える歌
敬虔に、軽やかに、厳かに、悩ましげに、しっとりと、歌い上げる。
やがて、全ての歌を歌い終わっても、観客は静まりかえったままだった。
ふふ、彼らが余韻に浸っているだけだと言うことを私は知っている。
歌手冥利に尽きると言うものだ。
彼と視線を交わし、再び微笑み合う。
不思議な気分だ。
少し遅れて響き始めた拍手の音に包まれて、心地よい疲れと高揚感を抱きながら、私は今の私の始まりとなったあの出来事のことを思い浮かべるのだった。