残酷な描写あり
第七話
ベテラン冒険者ルードの意見を汲み、一旦野営地に引き返したフィオナたち。
すると……
「これは……」
「私達の他にも戻ってきてるチームがこんなに…?」
「負傷者がいるのか?」
野営地には既に多くのチームが戻ってきており、中には負傷した者も少なからずいるようで、同行した教員たちが慌ただしくしていた。
その中の一人……フェルマンがフィオナたち一行に気がついてやって来た。
「おお!お前たち、無事だったか!!」
「フェルマン先生……これはどう言う状況ですか?」
代表してウィルソン王子がこの状況についての説明を求める。
どう見てもただ事ではない雰囲気だ。
「お前たちも今戻ってきたと言う事は……異常な数の魔物に遭遇したのだろう?」
「ええ……と言う事は、他のチームも?」
「そうだ。どうやらこの近辺には信じられん程に大量の魔物が集まっているらしい。数日前の調査ではこんなことは無かったはずなんだが……」
「やはり……暴走か?」
「ルード、お前もそう思うか?」
「ああ」
どうやらフェルマン教諭とルードは知り合いらしく、気安い間柄のようだ。
「やはりな……異常事態なのは明らかだから各チームに撤退指示を出そうとしてるのだが……」
とフェルマンが言いかけたとき。
ひゅ~~~………ドーーーンッッッ!!!
野営地の上空で大きな爆発音が鳴り響いた。
「おっと…ちょうど今、撤退指示が出たな」
「全員無事に戻ってくれりゃあ良いんだが……」
「しかし……この野営地も安全圏とは言い難いのでは無いですか?」
ジョシュアの言う通りだろう。
普段であれば……この地域に生息する魔物のレベルであれば、これだけ多くの人間が集まるところには警戒して近寄ってこないだろう。
しかし、この異常な状況ではそれを期待するのは危険だ。
また、学生たちは数の多さにばかり目がいってるが……ルードの見立てでは、魔物自体も凶暴性を増しているように感じていた。
「もちろん皆が戻ってきたら速やかに撤収だ。お前たちも準備しておけ」
「……はい、分かりました」
何れにせよ、実習は中止となるだろう。
もはや訓練の範疇を超え、学生達の手には余る。
仮にフェルマンやルードの懸念通り暴走が起きるのであれば、国軍総出で事に当たらなければならない。
ある程度距離は離れているが、もし魔物の大群が侵攻してくるのであれば……王都も危険に晒されるであろうから。
「まだ戻ってないチームがいるだと?」
撤退の合図が出てから暫く経ってから、殆どのチームが野営地まで引き上げてきた。
しかし、まだ戻ってきていないチームがあると言う。
教員たちは集まって、どうするべきか議論するが……意見がまとまらない。
『救助に向かうべき』と言う意見と、『これほど待っても戻って来ないのであれば、もはや絶望的だ』と言う意見で対立していた。
ただ、『既に戻って来た学生たちは早く引き上げさせよう』というのは一致しており、撤収準備が出来次第引き上げることになっている。
「私としては、同級生を見捨てるようなマネはしたくないのだがな……」
「兄上……それは私も同じ気持ちです。出来ることなら自ら救助に向かいたい」
「ウィル兄様……お気持ちは分かりますが、未熟な私達が加わっても足手まといになるだけですわ」
「……ああ、分かってるよ」
レフィーナに言われるまでもなく、二人は自身の未熟さも、軽率な行動を取れるような立場でもないことは自覚している。
だからこそ余計に歯痒い気持ちになるのだ。
(何だかんだで良い人なんだよね、王子って。そういうところは嫌いじゃないな。……仕方ない。私も、人が死ぬのを黙って見過ごせる訳じゃないし)
教員や学生たちが自らの力で切り抜けられるなら、その方が良いと思っていた。
しかし状況的にそれは期待できそうにない。
ならば……自身の小さな拘りで救える命を見過ごす事は耐え難い。
そう思った彼女は決断する。
フィオナは目を閉じて意識を集中し、普段は自らの内に抑え込んでいる魔力を解き放つ。
「探査波動」
その瞬間、彼女を中心に莫大な魔力が波動となって周辺一帯に広がっていく。
「!!?フィオナさん!?」
「これは……魔力の波動!?」
そこかしこで上がる驚きの声を無視して、更に意識を集中させるフィオナ。
そして暫くすると、カッと目を開き……
「見つけた!!フェルマン先生!まだ生存してます!!多分どこかに隠れてるんです!!」
「何だと!?今のは……魔力で生命反応を探索したのか……?」
フィオナが使った魔法はフェルマンが言った通りの効果である。
だがそれは現代では喪われたものの一つだ。
フェルマンも半信半疑であった。
「ですが、周囲を大量の魔物が囲んでます。このままでは危険なのは変わりません。……助けに向かいます!!」
そう言って今度は魔力を全身の筋肉の隅々まで行き渡らせ……身体強化を施す。
そして、本職の前衛戦闘職も真っ青な猛烈なスピードで駆け出して行く。
「ま、待て!!フィオナ!!」
「フィオナ!!!」
「フィオナさん!!」
フェルマンやウィルソン、レフィーナの声を振り切って、あっという間にフィオナは野営地を離れていくのだった。
「先生!!フィオナが!!助けに行かなければ!!」
「落ち着け。俺らが言っても足手まといだ。この場にいる誰も……な」
「フェルマン、ありゃあ一体……嬢ちゃんが只者じゃねぇのは何となくわかっていたがよ」
「最初の生命感知の魔法も、飛び出していった時に使っていたであろう身体強化の魔法も……失伝魔法だ。俺も、アイツが実力を隠していたのは分かっていたが……まさかこれ程とは」
「失伝魔法……フィオナ、君は一体……。いや、彼女が実力者なのは分かっていたことだ。何でもいい、無事に帰ってきてくれ!!わが婚約者よ!!」
「婚約者ではありませんわ」
取り敢えず、当人が居ないので代わりにツッコミを入れるレフィーナは……友人の鑑と言えるかも知れない。