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作者: RU
残酷な描写あり
11.魔導士の事情【2】
「お久しぶりですね、クロスさん」
「うん、久しぶり」

 セオロは、クロスが口を利いたことがある、数少ないアルバーラ一門の弟子の一人だった。

 魔導士セイドラー…特に己の研究に熱を入れているものにとって、弟子を取るのは面倒事以外のなにものでもない。
 だが、独立した魔導士セイドラーは、弟子を取ることを魔導組合セイドラーズギルドによって義務化されていた。
 当時のクロスは、他の魔導士セイドラーがそうしているのと同様に、指導上手なものにそちらを任せて、自分はもっぱら研究にばかり没頭していた。
 クロスの研究の対象は、古文書フォニルスキャルとそこに記載されているヒトならざる者ヴァリアントだった。
 同じ研究をしていたアルバーラは、しかし資料集めのような雑用は、基本的に弟子に任せてしまうタイプで、研究に関しては全てをおのれで見極める主義のクロスと顔を合わせることはなかった。
 その代わり、古代文字フォニルフサに造詣の深かったセオロとは、度々会う機会があった。

「でも、ココでキミに会うとは思わなかったな」
「なぜですか?」
「そりゃ…、キミは地位や後継者争いに参加するより、自分の研究が大事だいじなタイプだと思ってたから、失踪した師匠の元にわざわざ残るとは思わなかったからさ」
「僕はご覧のとおり、地味な男ですから。一門を立ち上げられるほどの資金は集められませんし、冒険者アドベンチャーになって世間にもまれるほどの気概もありませんから」

 ちょっと卑屈に、セオロは笑う。
 だがそれは、魔導士セイドラーとなったものが抱える、割とありがちな悩みでもあった。

 魔導組合セイドラーズギルドが徒弟制度を義務化したのは、魔力持ちセイズ魔力ガルドルをコントロール出来ずに起こす魔力暴走フィムブルヴェトによって、被害が出るのを防ぐためだ。
 魔力暴走フィムブルヴェトは、魔力持ちセイズが大きく動揺しただけで起こる。
 よって、魔力持ちセイズであることが判明した時点で、そのものの身柄は魔導組合セイドラーズギルド預かりとなる。
 適当な魔導士セイドラーの元で修行をし、魔力ガルドルを完全にコントロール出来るようになると、一人前として認められ、自身も魔導士セイドラーを名乗れるようになるのだが。
 魔導組合セイドラーズギルドから発行される身分証を受け取る際に、必ず「自分は人間リオン社会に貢献出来る魔力持ちセイズである」と宣誓しなければならない。
 故に、魔導士セイドラーと成ったからには、その才能…つまり魔力ガルドルを使って社会に貢献することを "強制" されるのだ。

 だが、人間リオンの社会で魔導士セイドラーの肩身は狭い。
 それは魔力持ちセイズ魔力暴走フィムブルヴェトを起こす危険や、理解の出来ない魔法ガルズに対する忌避感から、避けられてるためだ。
 そうなると、一端の魔導士セイドラーと成ったからといって、付ける職は限られる。
 最も理想とされるのは、自身の一門を持って、自他ともに認める "一人前" となることだろう。
 だがこれには、多額の資金が必要となる。
 徒弟制度の義務を負うのもこの選択肢で、弟子の指導はもちろん、彼らの衣食住も保証しなければならない。
 スポンサーを見つけるために自身を売り込みたいものや、研究などにさほどの興味も無く、他人の面倒など見たくないと考えるものは、冒険者アドベンチャーとなる。
 ただし冒険者アドベンチャーは、非常に危険度の高い仕事なども請け負わねばならないために、自身の命を危険に晒す可能性がある。
 命の危険を冒さず、更に徒弟制度を免除されるには、師匠の元に残るしかない。
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