残酷な描写あり
1：失業した男【２】
「妖魔…じゃなさそうだな…」
向かった先には、複数の生き物の気配がする。
わざわざ術を使って探るまでもなく、樹木の合間からうじゃうじゃとした獣の姿が見て取れた。
群れが意識を向けている方を伺うと、人影がある。
革鎧と剣身が長めのバスタードソードといった身なりから察するに、戦士だ。
「かなりデッカい群れだが……集団で動く四足の獣……なら、頭目をツブせば崩れる、な…」
声には出さずクロスは思考する。
統率の取れた集団らしく、嗅覚に優れているであろう獣達なのに、近づいたクロスに気を散らしもしない。
「こりゃあ、ヒョロガリもやしとナメられたか…？」
やはり声には出さずに思考し、クロスは自分が有利に術を使える場所に移動しようとした。
「……あっ！」
二匹の若い獣が、戦士に向かって飛び掛かっていく。
自分が足場を固める余裕ぐらいあるだろうと高を括っていたクロスは、急な展開に狼狽えたが。
身を翻した戦士は初手に踊りかかった一匹を薙ぎ払い、続いた二匹目も一閃のもとに切り捨てる。
的確で力強い見事な剣さばきにクロスは思わず足を止め、感嘆と安堵の吐息をもらした。
しかし群れなした獣たちは次々と、間を置かずに戦士に攻撃を掛けていく。
応戦している戦士の剣技は目覚ましいものだったが、なにしろ獣の数が多過ぎる。
このままでは、一人きりの戦士が窮するのは、考えるまでもないだろう。
クロスは素早く空に陣を描き出した。
魔導士が術を行使するには、呪文に魔力を込める必要がある。
方法は、声に魔力を乗せて唱える詠唱、指先に魔力を集めて空に描く陣、特殊な道具を用いて魔力を描写する印の三種だ。
一つの呪文を直接的に発動させる場合は、詠唱の方が圧倒的に早いが、複数の呪文を組み合わせる場合は、魔導士の技量や性格によって、詠唱か陣のどちらかを選択することになる。
そして魔導士としての技量は、誰にも引けを取らないと自負しているクロスは、誰よりも素早く陣を構築し、最速で発動させられる自信があった。
「火炎と追尾…、着弾した時の爆発は狭い範囲で、威力は最大に…と…」
顕現した炎は、即座に鳥の姿を模して樹木の間を縫い進む。
現れた炎の鳥に毛皮を焼かれた獣たちは、恐れおののいて悲鳴を上げた。
その群れの変化を見た頭目は、奥で座すのをやめると、即座に自身が走り出て、戦士に向って踊りかかって行く。
「え、うわ、しまった！」
群れを威嚇しつつ奥のボスを討ち取れば、簡単に事態を収集できる。
そう考えていたクロスは、ボスのこんな素早い動きはまるで想定していなかった。
怖じけていた群れはボスの咆哮に勢いを取り戻し、四方から戦士に襲い掛かっていく。
その数の多さに、戦士は動きを封じられている。
群れを突き抜け戦士に飛び掛かって行くボスの胴体に、ボスを狙って放ったクロスの火の鳥が直撃した。
「アレじゃ、ち、近すぎだ…」
着弾時の範囲は抑えたが、あんな至近距離では、戦士は完全に爆発の中心で巻き込まれてしまっただろう。
爆散の後に、ボスが炎の塊となって黒煙を上げながら、ドッと地面に倒れる姿が見えた。
最後の急襲に加担した獣たちも、爆発の余波でひどい火傷を負ったり、風圧で飛ばされて木の幹に叩きつけられたりしている。
それらの被害に巻き込まれなかった獣たちは、ボスが陥落した様子に悲鳴を上げて、てんでに逃げ散って行く。
獣の群れは撃退した。
だがクロスは、助けるつもりがとんでもない結末となったショックで、その場に立ち竦んでいた。
向かった先には、複数の生き物の気配がする。
わざわざ術を使って探るまでもなく、樹木の合間からうじゃうじゃとした獣の姿が見て取れた。
群れが意識を向けている方を伺うと、人影がある。
革鎧と剣身が長めのバスタードソードといった身なりから察するに、戦士だ。
「かなりデッカい群れだが……集団で動く四足の獣……なら、頭目をツブせば崩れる、な…」
声には出さずクロスは思考する。
統率の取れた集団らしく、嗅覚に優れているであろう獣達なのに、近づいたクロスに気を散らしもしない。
「こりゃあ、ヒョロガリもやしとナメられたか…？」
やはり声には出さずに思考し、クロスは自分が有利に術を使える場所に移動しようとした。
「……あっ！」
二匹の若い獣が、戦士に向かって飛び掛かっていく。
自分が足場を固める余裕ぐらいあるだろうと高を括っていたクロスは、急な展開に狼狽えたが。
身を翻した戦士は初手に踊りかかった一匹を薙ぎ払い、続いた二匹目も一閃のもとに切り捨てる。
的確で力強い見事な剣さばきにクロスは思わず足を止め、感嘆と安堵の吐息をもらした。
しかし群れなした獣たちは次々と、間を置かずに戦士に攻撃を掛けていく。
応戦している戦士の剣技は目覚ましいものだったが、なにしろ獣の数が多過ぎる。
このままでは、一人きりの戦士が窮するのは、考えるまでもないだろう。
クロスは素早く空に陣を描き出した。
魔導士が術を行使するには、呪文に魔力を込める必要がある。
方法は、声に魔力を乗せて唱える詠唱、指先に魔力を集めて空に描く陣、特殊な道具を用いて魔力を描写する印の三種だ。
一つの呪文を直接的に発動させる場合は、詠唱の方が圧倒的に早いが、複数の呪文を組み合わせる場合は、魔導士の技量や性格によって、詠唱か陣のどちらかを選択することになる。
そして魔導士としての技量は、誰にも引けを取らないと自負しているクロスは、誰よりも素早く陣を構築し、最速で発動させられる自信があった。
「火炎と追尾…、着弾した時の爆発は狭い範囲で、威力は最大に…と…」
顕現した炎は、即座に鳥の姿を模して樹木の間を縫い進む。
現れた炎の鳥に毛皮を焼かれた獣たちは、恐れおののいて悲鳴を上げた。
その群れの変化を見た頭目は、奥で座すのをやめると、即座に自身が走り出て、戦士に向って踊りかかって行く。
「え、うわ、しまった！」
群れを威嚇しつつ奥のボスを討ち取れば、簡単に事態を収集できる。
そう考えていたクロスは、ボスのこんな素早い動きはまるで想定していなかった。
怖じけていた群れはボスの咆哮に勢いを取り戻し、四方から戦士に襲い掛かっていく。
その数の多さに、戦士は動きを封じられている。
群れを突き抜け戦士に飛び掛かって行くボスの胴体に、ボスを狙って放ったクロスの火の鳥が直撃した。
「アレじゃ、ち、近すぎだ…」
着弾時の範囲は抑えたが、あんな至近距離では、戦士は完全に爆発の中心で巻き込まれてしまっただろう。
爆散の後に、ボスが炎の塊となって黒煙を上げながら、ドッと地面に倒れる姿が見えた。
最後の急襲に加担した獣たちも、爆発の余波でひどい火傷を負ったり、風圧で飛ばされて木の幹に叩きつけられたりしている。
それらの被害に巻き込まれなかった獣たちは、ボスが陥落した様子に悲鳴を上げて、てんでに逃げ散って行く。
獣の群れは撃退した。
だがクロスは、助けるつもりがとんでもない結末となったショックで、その場に立ち竦んでいた。