▼詳細検索を開く
作者: 金星タヌキ
R-15
part Aki 10/17 pm 4:16





 部屋に戻ってきた。
 こんのさんは さっきと一緒で ベッドに腰を下ろす。

 ベッドで隣に座るなんて 警戒されるかな?
 こたつテーブルの横に座りかけて やっぱり考え直す。ボク達は 恋人同士。さっきは キスだってした。ちょっとでも 傍にいて こんのさんに より添っていたい。それに ベッドに腰かけたのは こんのさん。もう こんのさんは ここが男の子の部屋ってわかってるんだ。その上で ベッドに腰を下ろした。要するに ボクに押し倒されたりしないって ボクを信頼してくれてるってこと。だから 隣に座っても大丈夫。
 ……そもそも 非力なボクには こんのさんを押し倒すなんて 実際問題 できは しないんだ。なんてったって こんのさんは 筋金入りのアスリート。身長 体重 筋力 どれをとっても こんのさんに敵いっこない。もしかしたら こんのさんが信頼してるのは ボクじゃなくて 自分の身体能力かも…。

 
 まぁ 押し倒す云々は 措いといても ボクの部屋で2人きり。
 キスしたりして イチャイチャしてみたい。……べ 別に いいだろ!? 恋人同士なんだから! 1階には ママが居るし そんなに大それたことは できない。でも オヤツの前は 胸 触ったけど怒んなかったし もしかしたら もっとスゴいこと させてもらえるかも…。そんな 期待とも妄想ともつかないドキドキ感を持って こんのさんの左手を握る。

 
 でも 彼女ができたって浮かれて 夢見がちなボクとは 違って こんのさんは やっぱり 地に足ついた堅実な人。
 

「あのさ あきちゃん。あきちゃんが〈男の子〉って知ってるの あたしだけなんだよね? あと あたし達が付き合ってるって知ってるのも 今のとこ あたし達だけじゃん。それって みんなに言う? それとも あたし達だけの秘密?」


 これから ボク達がどーしたらいいか?
  けっこう重要な問題だ。ボクがカミングアウトできた相手は こんのさんだけ。ボクが 普通の男の子なら わざわざママに報告するかどうかは分かんないけど ちょっとした機会に『彼女できた』って言えば済む。陽樹兄さんとか そんな感じ。瑞樹兄さんは…… 報告なんてしないだろうな。幸樹兄さんは 彼女できなくて 悩むだろうけど 少なくとも そんなところで悩む必要は 無いハズ。
 
 
「……そっか。考えてなかったけど 大事なことだな…。…えっと どーしたら いいんだろ……?」


 正直 こんのさんが分かってくれてるだけで ボクは スゴく幸せだし 十分って気もする。でも こんのさんは どうだろう? 『彼氏ができた』って 家族や友達に 胸を張って言えるんだろうか?

  ……たぶん違う。

 ボクがちゃんとした人間って みんなに認めてもらわなくちゃ こんのさんに肩身の狭い思いをさせる。それでは あまりにも申し訳ない。

 
「……こんのさん。今まで ボクのこと わかってくれる人ができるなんて 絶対無理って思ってたけど ボクのことみんなに知って欲しい 認めて欲しいって やっぱり思う。ボクは男だって AYANO. さんみたいに みんなに受け入れてもらえたら いいなって思う」


 ボクのこと知って欲しい 認めて欲しい……こんのさんに。それが今日までの ボクの切なる願い。世界中に誰一人 ボクって人間がいることを知らなかったけど 今日 それが0から1になった。それは 本物の奇跡。0が1に 不可能が可能だって わかったんだ。1を2にすることだって きっとできるハズ。こんのさんと一緒なら なんだってできると思う。

 
「……思うけど じゃあ 明日学校行って 朝 なっちゃんに『ボク 実は 男だったんだ』って言えるかって考えたら やっぱり それも無理…。」
 

 気持ちはあるけど 具体的にどうするって考えると 一番仲のいい なっちゃんにさえ どう切り出したらいいのか 見当もつかない。ましてや ボクが女の子に生まれてきて欲しいと 強く願ってきたママになんて言えばいい? たまにカチンときて酷いこと言っちゃったりもするけど やっぱり母親を傷つけるようなことは したくない。
 

「また 優柔不断って 怒られるかもだけど とりあえず 秘密にしといて わかってくれそうな人から 少しずつって感じかなぁ…」

「……うん。わかった。あたしも それでいいと思う。じゃあ しばらくは 学校でも 女の子で通すってこと?」

「うん。そーなると思う…」


 聖心は 女子校。心が男だって知られたっていきなり退学には ならないとは 思うけど…。友達は ともかく 先生に知られると かなり面倒なことになりそう。トイレとかも どーなるんだ? 聖心の中に男子トイレは 確か 職員室横と体育館にしかなかったような気がする。ってゆーか 男子トイレに入ること自体に かなり抵抗感がある。でも 他の女の子にしてみたら〈男の子〉のボクが女子トイレに入ってるってゆーのも抵抗あるよね…。今も状況は一緒なんだけど 少なくともバレてない。そのお陰で お互いハッピーってゆーか不幸なことには なってない。こと無かれ主義者のボクとしては 現状維持でいい気もする……。…でも それじゃ いつまで経っても 2人のこと みんなに認めてもらえない。
 

「もう1つ聞いていい? あきちゃんって お化粧上手だったり 服とか髪型とか可愛くしてたりするじゃん? あたしが 見てた感じだと あきちゃんって女の子のオシャレ楽しんでるって思ってたんだけど 実は 違和感あるって思ってたの?」
 
「あー それは……。なんて説明したらいいかな…。…簡単に言うと ボクは男の子なんだけど 〈あき〉ってゆー女の子の仮面か着ぐるみみたいなのをかぶって生活してるイメージなんだよ。自分の中でそう思い込むようにして暮らしてきたんだ。だから 前にも言ったかもだけど ボクは〈あき〉が笑ったらカワイイの知ってるし お化粧したり オシャレさせるのも楽しんでる感じ。ゲームのアバター 可愛くしたいって感覚に近いかも……」
 

 こんのさんは 分かったような 分かんないような顔。自分では 一応 納得してるんだけど それでも時々 混乱するもんな。やっぱり男の子ってゆー以上 男らしいカッコした方がいいのか?
 

「こんのさんは ボクが お化粧したり スカート穿いたりしてるの嫌?」

「ん? なんで?」


 こんのさんは キョトンとした表情。

 
「だって 男なのにスカートとか 変とか思わない?」

「似合ってるから いいんじゃない? あたしはさ 身体デカくて 自分に自信なくて 可愛いカッコとか似合わないって思って 着れなかったけど あきちゃん 似合うって思ってるんでしょ? 自信持って着れるんだったら ぜんぜん 大丈夫だと思うよ。実際 似合ってるし」

 
 確かに〈あき〉には 似合うけど…。


「ホント あたしに気を使わなくていいよ。あきちゃんが 自分らしいって思えるカッコしてるのが一番だし」
 

 うん。そう言ってもらえるのは嬉しいけど ボクらしいって どんな感じなんだろう? 昔は お兄ちゃん達みたいなカッコがいいって思ってたけど……。幸樹兄さんは はっきり言ってセンス無いし 瑞樹兄さんは センスいいけど 明らかに方向性が違う。ってゆーか 鍛えられた身体あっての あの格好。陽樹兄さんは 比較的マシだけど…。そもそも 身長も体型も 全然違うしな……。

 
 なんか 昨日までは 男の子のボクの存在を 認めてもらえれば ありとあらゆることが 万事解決するような気がしてたけど そーゆーワケでもないみたい。考えてみたら 当たり前のことだけど。
 そんなこと考えて 浮かない顔してたら こんのさんが 優しく声をかけてくれる。
 
 
「あきちゃん。あきちゃんは あたしの王子様だから 何にも心配しなくていいよ。大丈夫 大丈夫。あたし ついてるから。あきちゃんが 勇敢な男の子だって あたし知ってるから…さ」


 そうだよな。今日からは こんのさんが 傍にいてくれる。
 どのみち 学校での生活とか考えたら 急にスタイルは 変えられない。スカートの制服着てツインテにして 登校するんだ。でも 焦ることはない。ゆっくり自分のスタイルを見つければいい。こんのさんと一緒に。

 
 ずっと一緒にいたいってゆー気持ちを込めて 右手に少し力を入れてこんのさんの左手を握る。こんのさんは 繋いだ手に 右手を重ねて 自分の胸の前に持っていく。まるで お祈りをするみたいに……。
 
 もう お化粧は 落としてるけど それでも 黒くて長い睫毛が ホントに綺麗。こんのさんの両手の温もりに右手が包まれている。その温もりに ボクの心全体が包まれる。ホントに この人のこと好きになってよかった。心の底からそう思う。
 
 こんのさんは 包んだ手に顔を寄せ ボクの人差し指に唇をつける。その姿は 神々しいまでに美しくて それでいて どことなく淫靡で ボクの心を捉えて放さない。心臓を細い鎖で がんじがらめに 縛られたような感覚。ホントに もう こんのさんには 絶対 逆らえない。『死んで』って言われたら 何の疑問も抱かずに 死んじゃうんだろうな……ボク。そんな感じ。

 
 こんのさんが 唇を離し ゆっくりと目を開け ボクと目が合う。こんのさんの瞳を見ると さっきと一緒で 世界中が薔薇色に輝いて見える。もう一回 キスしたい…。

 
 突然 こんのさんの目付きがジト目に変わり 優しく包まれてた右手はぎゅっと掴まれる。


「さっき キスしてるとき こっち手で あたしのオッパイ触ったでしょ? ……スケベ」


 心臓に繋がれた鎖の端を 思いっきり引っ張られた感じ。心臓止まって 即死するかと思う。
 
 ……い いや 確かに触ったけどっ。オッケーな雰囲気だった…。いや 別にこんのさん 何も言ってない…。ふっ 不可抗力で…。…違う。自分の意志で触った……。だ だって 怒んなかったから…。
 
 慌てふためいて 口をパクパクさせるけど どんな 言い訳も 出てこない。嫌われちゃったら どうしよう。付き合ったばっかなのに 調子乗って こんのさん 傷つけちゃったんだろうか?

 
 こんのさんの表情が ふっと和らぎ 許しの言葉がもらえる。


 「謝らなくていいよ。あたしはさ あきちゃんになら 何されたって大丈夫」


 『…何されたって大丈夫』って こんのさんは いつものことながら 平然とトンでもないことを口にする。妄想が 大暴走しそうになるけど自重する。調子乗って ホントに嫌われちゃったりしたら 生きては いられない。
 

 「……でも 浮気したら 一生 許さないから。言っとくけど あたし スッゴいヤキモチ妬きだからね。覚悟しててね」

「大丈夫だよ! 絶対 そんなことしないから!」


 ヘタレで 泣き虫で その上 スケベなボクだけど これだけは自信を持って言える。こんのさん一筋。迷う余地は1㎜も無い。
 ………。
 ……。
 …。

 

             to be continued in “part Aki 10/17 pm 5:12”





 
Twitter