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作者: 金星タヌキ
R-15
part Kon 5/16 pm 10:32



 お風呂上がって ストレッチを一通りこなす。
 その後 台所で 牛乳飲んでたら 兄貴が お店から上がってきた。

 
「兄貴 お疲れ~」

「ん…」

 
 返事だか なんだか わからない呻き声を残して 兄貴は のっそりと脱衣所へと入っていった。

 今のが 何回か 話に出てきた大悟兄貴。
 22歳。
 真っ黒に日焼けした顔に くっきりはっきりした 濃い眉毛。
 そして つり目気味の一重瞼。
 
 あたしにも あのパーツがついているかと思うと あきちゃんの〈可愛い 〉〈美人〉発言が お世辞でしか無いことがよくわかる…。
 それとも あの鬼瓦みたいな顔 見てもあきちゃんは 可愛いってゆーんだろうか?
 いわゆる〈ブサかわ〉ってヤツか…。

 兄貴を知ってる友だちの中には 背も高いし 筋肉質だし 顔も男前でカッコいいし 羨ましい…って子も いるには いる。
 言いたいことも 分からなくは無いけど あたしは やっぱり〈王子様〉って感じのイケメンがいい。
 汗臭いマッチョは 嫌。

 まあ 殺人的な愛想の悪さと 汗臭いことを除けば なかなかいい兄貴ではある。
 あたしや啓吾には けっこう優しいし かなりの努力家。

 小・中・高と 野球漬けの生活を送ってて 毎晩 家の裏で ストイックに素振りを続けていた姿は 今でもあたしの目に焼き付いている。
 高校時代は 藤工で4番ライト。
 高校3年の夏は 県大会の準決勝で負けて 甲子園には 行けなかったけど スゴくいい顔で スタンドに最後の挨拶をしてたのを覚えている。
 
 推薦の話もあったらしいけど 大学には 行かず 藤工で取った 自動車整備の資格を生かして 今は おじいちゃんがやってる 板金工場で働いてる。

 プレイヤーとしては 引退した兄貴だけど 野球と縁を切ったわけじゃなく 今も 週に4日は 少年野球のコーチをしている。
 少年野球がある日は 3時ごろに工場あがらせてもらって 4時から6時まで 小学生に野球を教える。
 その後 帰ってきて 夜7時から10時ごろまで お店でお好み焼きを焼いている。

 あたしも たいがい忙しいけど 兄貴もけっこうな忙しさだ。
 しかも 彼女持ち。
 高校時代からつき合ってる彼女の名前は ユキちゃん。
 時々遊びに来てくれるから 何回も会ったことあるけど 名前に違わない 色白の美人さんで その上 兄貴に勝るとも劣らない 無口っぷり。
 2人のときって何 話してるんだろ…?


 あっ そういや あきちゃんのお兄さんの話 聞くの忘れてた…。
 まあ 兄貴が 風呂上がってくるのを 待ってまで 聞くような話でもないし また 次の機会にしよう…。


 ふぅ… 。
 もうひと踏ん張り 試験勉強 頑張るか…。
 あたしは コップに残っていた牛乳を飲み干すと 3階へと上がった。

 
「アネキ 上がってきたみたいだから 一旦切るね。後でメッセージ送るから…」

 
 踊場のところを 通りかかると 部屋の中から 啓吾の声が聞こえてくる。
 〈アネキ〉とか生意気な!顔合わせてるときは〈お姉ちゃん〉って呼んでる癖に!
 襖 開けて『って誰のことよ?』とか言って いびってやろうかと思ったけど 大人気ないので 止めておく。
 啓吾にとっても 兄貴が お店にいて あたしが風呂にいる 30分ほどしか 携帯で話せる時間は無いんだし。

 啓吾は 中3。
 桜橋二中で男子バスケ部に入っている。
 2歳年下だけど 中学入ったころから ぐんぐん背が伸びて 去年の冬 ついに抜かされた…。
 ちょっとイラッとするけど こればっかりは しょうがない。
 まぁ 男バスやるなら あと10㎝は 欲しいところだろうし。
 応援してやろう……姉として。

 ただ 抜かれたのは 身長だけじゃ無い。
 襖越しに聞こえてくる会話から 想像するに どうやら彼女ができたらしい…。
 しかも最近。
 ママに聞いてみると ママも 気になってたらしく 色々面白い話が聞けた。
 ママの話によると 朝 洗面所で10分くらいかけて 髪のセットしてるらしい…。

 あらあら 中坊のくせに 色気づいちゃって…。

 って思うけど あたしも 中学んとき 好きな人いたしな~
 
 あたしも もうちょっと 気ぃ つかった方がいいのかな…。
 顔 洗って 歯を磨いて 髪梳いて 洗面所の滞在時間 3分以下ってゆーのは 年頃の女子として あんまりな 気もする…。
 
 あきちゃんも 毎日 5分かけてお化粧してるって言ってたし…。
 ってゆーか5分しかかけて無いって言い方だった…。
 あたしみたいなボーイでも お化粧したら あきちゃんみたく… とはいかなくても 少しはカワイくなれるんだろうか…?

 
「あきちゃん…」

 
 小さな声で 呟いてみる。
 今日は いっぱい 話せて楽しかったけど なんだか 余計に 独りの時間が寂しい気がする…。
 
 作業机の前の柱に 2人のエプロンドレスのラフを 画鋲で留めて 眺めてみる。
 夕方の たった20分くらいの時間で あたしのラフが 魔法みたいに 生まれ変わった。
 
 あきちゃんって ホント スゴい。
 冬休みに 2人で このエプロンドレス着て 出かけてみたいなぁ…。

 
「あきちゃん 今 なにしてんのかな…?」

 
 また 独り言が ポツリとこぼれる。

 …ダメだ。
 全く 数学やる気に ならない……どーしよう?
 ………。
 ……。
 …。


                        to be continued in “part Aki 5/16 pm 10:32”






 
 
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