note.4 「ここはファンタジーな世界!?」
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キングとリッチーが並ぶと、身長差は軽く半分。キングが一八七センチメートルなので、リッチーは一メートル弱の身長といえる。
「……子供が入ってんのか?」
「だーかーら! 僕は着ぐるみなんかじゃないってば! モルット族なの!」
未だ要領を得ないキングにリッチーはそろそろご立腹だ。
「もるっと? なんかのテーマパークなのかここは? 中の人など居ません的な。それに……ここはどこだ? 俺は白い部屋から出られたのか……?」
しかし、周辺を気にするキングの様子にリッチーは異様さを感じ、振り上げた拳を下げる。
(人間族だと思うんだけど……見たことない民族服着てる。外国の人なのかな? それに後ろに背負ってる平たくて長い荷物……あれ何だろう? ほかにも大切そうに抱えてるなあ……旅の人なのかな? 商人とか?)
思いつく限り考えを巡らしてみるがしっくりこないし、どの問いも説明できない。
どうやって隙間の無い土や硬い岩の中へ潜り込んだのか?
何故出られなくなっていたのだろうか?
どこからやって来たのだろうか?
「ねえねえ、キングはこんなところで何してたの?」
「何って、宇宙人から逃げてきたんだよ! っていうか、マジでここどこ? リッチーは宇宙人の仲間じゃねえよな?」
「う、うちゅうじん……? それは誰のこと?」
「えーっと、なんか碧い髪をした白い格好の、ドラムがクソうまい人。顔はむっちゃ美形だった」
「僕、人間の美形とかはよくわかんないんだよなあ。他に特徴は? 名前とか」
「名前はエール・ヴィースって言ってた。特徴かー……んー、あ! 耳に赤いイヤリング? ピアス? してて……」
「うーん、そんな人はこの村で見かけたことないなあ。エール、か……」
「まあ、リッチーが宇宙人の仲間じゃなけりゃいいんだ」
キングがニッと笑うと八重歯が見えた。肉食の獣人より怖くない。
誰かに追われていることしかわからなかったが、キング自体から危険は臭わない。
「リッチーのそのモルット族っていうのは、何のゲームの設定なんだ? ロールプレイング? とかの途中なんだろ?」
「だからぁー……僕は本物のモルット族なの! もしかしてキング、獣人族初めて見る人?」
「いや、その獣人の設定でリッチーは……」
この期に及んで何か言葉を繋ごうとするキングの右手を、リッチーは徐に握った。
ふわふわの毛に覆われているが、手の内側には肉球がある。キングはざらっとしているのにやわらかいようなあったかいような、不思議な感触に少しびくっとしていた。
「なにをして――――――ぃいいいいいいいいッッッてェーーーーーー!!!!!!」
人間に耐えうる程度の、しかし静電気とは比べ物にならない強さの電流が数秒キングを襲う。思わずキングはリッチーの手を払って痛みに地面を転げた。
「モルット族特有能力の放電。これで信じてもらえた? モルット族っていうのは、マーキュリー王国のモルツカーン山脈はモルツワーバ山麓に暮らしてる少数民族なんだよ。こんなふうに放電したりとか、あとは小柄な見た目より力持ちなのが特徴かな。モルツワーバ鉱山から採掘した石炭を国中に出荷して生計立ててるんだ」
「そ、そうなのか……」
右手の痺れに気を取られて、半分も内容を理解できていなさそうだ。とはいえ、キングのリッチーに対する見る目が変わったようではある。
まだ痺れている右腕を左の手で摩り、立ち上がりながらブツブツ。
「ってーことは……リッチーはもしや……電気ねずみなのか?」
「ねずみじゃなーいっ!! モルット族!!」
「ねずみじゃなくて、ヒト……でもないし、宇宙人でもない。つまり……?」
そして、キングの脳内に突如としてビッグバンが訪れた。
「ここはファンタジーな世界!?」
それはリッチーが放った電撃よりも大きな衝撃だった。
(宇宙人に、なんかもふもふの喋る生き物……ここってもしかしなくても、渋谷とか以前に地球じゃない、ってことか……)
完全なる異邦人を今更ながら自覚したが、闇雲に行動することは悪手だ。キングは大人しく、案内されるままモルツワーバの山を下りることにした。
行先はリッチーの仲間達も住んでいるモルット族の集落だ。
集落は坑道入口よりは山裾になるが、傾斜がきつい。ごつめのブーツを履いていて良かった、と考える。ちなみに靴裏に付着していた渋谷の雪もいつの間にか溶けて、今は山道の土がこびりついている。
見たことのないかわいらしい花が咲いているのを見つけたり、夕日と相まって木漏れ日がキラキラしているのを行きがけに眺める。しかしそんなのどかな風景にも、陽気にハイキング、という気持ちにはなれない。ふよふよと長い耳の小さな頭を先導にとぼとぼと惰性で歩く。
(エール・ヴィースって人に言われた通りあの部屋で待ってたら、俺どうなっちゃってたんだろ)
夜半を過ぎた新宿繁華街を、商売道具背負ってうろついていた時と似たようなピリピリした感覚があの部屋にはあった。あそこを牛耳るナニカの手の中に、自分の生き死にが握られている感覚だ。あまり長く居るものではない。そう思ったから、逃げ出した自分の行動は間違ってないと今でも言える。
(でも、リッチーは見ず知らずの俺を事情も分からないままに助けてくれたんだ。しかも家に上げてくれるみたい。きっとイイヤツだ)
モルット族の住居は洞穴を利用して更に奥へ掘り進み、蟻の巣のように分かれ道がある。外敵対策かもしれない。キングは一目見て道順を覚えることは出来なかった。
モルツワーバの気候はカラっとしているが、少々肌寒い。なのに、洞穴の中は誰かが暮らしている温度を感じさせる。キングとしては既に他人の家にお邪魔している気分だ。
「そこを曲がったら、僕の家」
「おお、やっと着いた!」
行く壁には坑道と同じくランプがかかっていた。仄明るく照らされたドアの横に木札が取り付けられているのが気になる。
「これ、表札?」
リッチーの家の玄関は一枚板の簡素なドアで仕切られていて、リッチーはそれを開けようとしたところだったが、ビタッと動きが止まる。
「え? 字読めないの?」
キングは顔を横にしてみたり近くから、遠くから眺めてみるが、理解できない。
「これは文字なのか。俺は日本語と英語とヒンディー語がほんのちょっぴり分かるくらいだ」
「やっぱりキングはここいらの人じゃないんだね」
「ああ、生粋の日本人だぜ。出身は富山県。あ、富山弁もわかるってことになるか。ネイティブだし」
はたして富山弁は言語として別枠なのだろうか。
「そうなんだ。……僕はこの村から出たことないよ」
リッチーについてキングも中へ入ると、玄関を潜るのに頭をぶつけそうになった。ギターもぶつけないように、一旦肩から下ろす。
入ってすぐは家具の配置を見るに居間のようだ。そこはかとなく生活感がある。だがすべてがモルット族サイズ故に全体的に小さい。
「さっきの表札にはモルツワイドの家って書いてあったんだけど」
「リッチーの名字か」
「うーんと、名字……というより、肩書みたいなものかな。モルット族に姓は伝統的に無くて、村長から家を授かる時に、特徴を得た肩書ももらうんだ。それを表札にして掲げる」
「そうなのか! どんな意味なんだ、モルツワイドって」
リッチーのヒゲがヒクリ、と動いた。
「『モルットの賢き者』」
「へーっ、リッチー頭いいのか! 学校で表彰されたりテスト満点だったり?」
「僕は学校行ってないよ。それに……この表札はお父さんとお母さんのなんだ」
リッチーが椅子を勧めてくれたので素直に尻を落ち着けてみたが、脚が余る。卒業後に小学校へ遊びに行った時をキングは思い出した。
ついでに、ギターや小型スピーカーなどの大切な相棒達を安置した瞬間、くらっと頭が重たくなる。
(そういえば、渋谷でのサポートの仕事終わったのが夜の九時……それから宇宙人のエール・ヴィースってのとガチ弾きして、一、二時間? でもさっき、外歩いてたら夕方だった。時差みたいのが余計だとしても、早朝バイトもあったし……まあ疲れても来るか)
「キング、お腹減ってない? ごはん食べようよ。朝の残りのスープだけど」
「……ん? いいの?」
「だって今日はもうさ、キングおうちに帰るの無理じゃない? 泊っていくといいよ」
「あーっ、確かに……!!!!」
「声でか」
(全っ然、頭になかった……俺休むところねえじゃん!!!!)
ここが自分の知ってる地球ではなさそうだ、というのは段々実感が湧いてきたものの、ではこれからどうするかということまでは考えていなかった。キングは手元にギターがあれば大体オールオッケー男なのだ。
「なあ、リッチー。地球に戻る方法ってわかる?」
「チキュウ……? それはキングの家がある国?」
リッチーは自分の体毛を少量引き抜き、指先から微量な電流を発生させて種火にし、スープを温め始めた。もちろんガスコンロやIH式ではない。歴史の資料集で見たような竈で火を入れている。
キングはそれを見て、遠くへ来たのだ、と改めて思う。突拍子のないものを見させられるよりも、身近な生活様式の違いを見せつけられる方が重たいのが不思議だ。
「国じゃなくて星な。碧い髪の宇宙人に拉致されたんだよ」
「それさっきも言ってたけど、どういうことなの?」
キングは改めて事の顛末をリッチーに説明した。
話終わる頃にはスープは湯気をたて、テーブルに並べられていた。サラダと白湯も添えて。
「……つまり、キングは地球っていう惑星の日本っていう国の富山の生まれで、渋谷にいる時に宇宙人に攫われ、宇宙人の名前がエール・ヴィース。気付いたら真っ白な部屋にいて、ギターをヒいて、宇宙人はドラムをタタいて……一人にされた隙に外に出られるボタンを押したら、モルツワーバ鉱山の中だったってこと?」
「理解が早くて助かる!」
「うーん……俄かには信じがたいんだけど……」
「いや、俺にもよくわかってないからいいよいいよ!」
何がいいよなのか、キングにもよく理解っていない。
「キングは碧い髪の宇宙人っていうけどさ、それって本当に宇宙人なの?」
地球人からしたら、地球外の人は皆宇宙人である。
「アイツ、宇宙人じゃないのか? 宇宙人って言ってたぞ、自分で」
首を傾げるキングに、リッチーは真剣みを帯びた視線を投げかけた。
「碧い髪、特徴的な民族服、エールっていう名前……その人、きっと神話時代に存在した天使族だよ!」
キングとリッチーが並ぶと、身長差は軽く半分。キングが一八七センチメートルなので、リッチーは一メートル弱の身長といえる。
「……子供が入ってんのか?」
「だーかーら! 僕は着ぐるみなんかじゃないってば! モルット族なの!」
未だ要領を得ないキングにリッチーはそろそろご立腹だ。
「もるっと? なんかのテーマパークなのかここは? 中の人など居ません的な。それに……ここはどこだ? 俺は白い部屋から出られたのか……?」
しかし、周辺を気にするキングの様子にリッチーは異様さを感じ、振り上げた拳を下げる。
(人間族だと思うんだけど……見たことない民族服着てる。外国の人なのかな? それに後ろに背負ってる平たくて長い荷物……あれ何だろう? ほかにも大切そうに抱えてるなあ……旅の人なのかな? 商人とか?)
思いつく限り考えを巡らしてみるがしっくりこないし、どの問いも説明できない。
どうやって隙間の無い土や硬い岩の中へ潜り込んだのか?
何故出られなくなっていたのだろうか?
どこからやって来たのだろうか?
「ねえねえ、キングはこんなところで何してたの?」
「何って、宇宙人から逃げてきたんだよ! っていうか、マジでここどこ? リッチーは宇宙人の仲間じゃねえよな?」
「う、うちゅうじん……? それは誰のこと?」
「えーっと、なんか碧い髪をした白い格好の、ドラムがクソうまい人。顔はむっちゃ美形だった」
「僕、人間の美形とかはよくわかんないんだよなあ。他に特徴は? 名前とか」
「名前はエール・ヴィースって言ってた。特徴かー……んー、あ! 耳に赤いイヤリング? ピアス? してて……」
「うーん、そんな人はこの村で見かけたことないなあ。エール、か……」
「まあ、リッチーが宇宙人の仲間じゃなけりゃいいんだ」
キングがニッと笑うと八重歯が見えた。肉食の獣人より怖くない。
誰かに追われていることしかわからなかったが、キング自体から危険は臭わない。
「リッチーのそのモルット族っていうのは、何のゲームの設定なんだ? ロールプレイング? とかの途中なんだろ?」
「だからぁー……僕は本物のモルット族なの! もしかしてキング、獣人族初めて見る人?」
「いや、その獣人の設定でリッチーは……」
この期に及んで何か言葉を繋ごうとするキングの右手を、リッチーは徐に握った。
ふわふわの毛に覆われているが、手の内側には肉球がある。キングはざらっとしているのにやわらかいようなあったかいような、不思議な感触に少しびくっとしていた。
「なにをして――――――ぃいいいいいいいいッッッてェーーーーーー!!!!!!」
人間に耐えうる程度の、しかし静電気とは比べ物にならない強さの電流が数秒キングを襲う。思わずキングはリッチーの手を払って痛みに地面を転げた。
「モルット族特有能力の放電。これで信じてもらえた? モルット族っていうのは、マーキュリー王国のモルツカーン山脈はモルツワーバ山麓に暮らしてる少数民族なんだよ。こんなふうに放電したりとか、あとは小柄な見た目より力持ちなのが特徴かな。モルツワーバ鉱山から採掘した石炭を国中に出荷して生計立ててるんだ」
「そ、そうなのか……」
右手の痺れに気を取られて、半分も内容を理解できていなさそうだ。とはいえ、キングのリッチーに対する見る目が変わったようではある。
まだ痺れている右腕を左の手で摩り、立ち上がりながらブツブツ。
「ってーことは……リッチーはもしや……電気ねずみなのか?」
「ねずみじゃなーいっ!! モルット族!!」
「ねずみじゃなくて、ヒト……でもないし、宇宙人でもない。つまり……?」
そして、キングの脳内に突如としてビッグバンが訪れた。
「ここはファンタジーな世界!?」
それはリッチーが放った電撃よりも大きな衝撃だった。
(宇宙人に、なんかもふもふの喋る生き物……ここってもしかしなくても、渋谷とか以前に地球じゃない、ってことか……)
完全なる異邦人を今更ながら自覚したが、闇雲に行動することは悪手だ。キングは大人しく、案内されるままモルツワーバの山を下りることにした。
行先はリッチーの仲間達も住んでいるモルット族の集落だ。
集落は坑道入口よりは山裾になるが、傾斜がきつい。ごつめのブーツを履いていて良かった、と考える。ちなみに靴裏に付着していた渋谷の雪もいつの間にか溶けて、今は山道の土がこびりついている。
見たことのないかわいらしい花が咲いているのを見つけたり、夕日と相まって木漏れ日がキラキラしているのを行きがけに眺める。しかしそんなのどかな風景にも、陽気にハイキング、という気持ちにはなれない。ふよふよと長い耳の小さな頭を先導にとぼとぼと惰性で歩く。
(エール・ヴィースって人に言われた通りあの部屋で待ってたら、俺どうなっちゃってたんだろ)
夜半を過ぎた新宿繁華街を、商売道具背負ってうろついていた時と似たようなピリピリした感覚があの部屋にはあった。あそこを牛耳るナニカの手の中に、自分の生き死にが握られている感覚だ。あまり長く居るものではない。そう思ったから、逃げ出した自分の行動は間違ってないと今でも言える。
(でも、リッチーは見ず知らずの俺を事情も分からないままに助けてくれたんだ。しかも家に上げてくれるみたい。きっとイイヤツだ)
モルット族の住居は洞穴を利用して更に奥へ掘り進み、蟻の巣のように分かれ道がある。外敵対策かもしれない。キングは一目見て道順を覚えることは出来なかった。
モルツワーバの気候はカラっとしているが、少々肌寒い。なのに、洞穴の中は誰かが暮らしている温度を感じさせる。キングとしては既に他人の家にお邪魔している気分だ。
「そこを曲がったら、僕の家」
「おお、やっと着いた!」
行く壁には坑道と同じくランプがかかっていた。仄明るく照らされたドアの横に木札が取り付けられているのが気になる。
「これ、表札?」
リッチーの家の玄関は一枚板の簡素なドアで仕切られていて、リッチーはそれを開けようとしたところだったが、ビタッと動きが止まる。
「え? 字読めないの?」
キングは顔を横にしてみたり近くから、遠くから眺めてみるが、理解できない。
「これは文字なのか。俺は日本語と英語とヒンディー語がほんのちょっぴり分かるくらいだ」
「やっぱりキングはここいらの人じゃないんだね」
「ああ、生粋の日本人だぜ。出身は富山県。あ、富山弁もわかるってことになるか。ネイティブだし」
はたして富山弁は言語として別枠なのだろうか。
「そうなんだ。……僕はこの村から出たことないよ」
リッチーについてキングも中へ入ると、玄関を潜るのに頭をぶつけそうになった。ギターもぶつけないように、一旦肩から下ろす。
入ってすぐは家具の配置を見るに居間のようだ。そこはかとなく生活感がある。だがすべてがモルット族サイズ故に全体的に小さい。
「さっきの表札にはモルツワイドの家って書いてあったんだけど」
「リッチーの名字か」
「うーんと、名字……というより、肩書みたいなものかな。モルット族に姓は伝統的に無くて、村長から家を授かる時に、特徴を得た肩書ももらうんだ。それを表札にして掲げる」
「そうなのか! どんな意味なんだ、モルツワイドって」
リッチーのヒゲがヒクリ、と動いた。
「『モルットの賢き者』」
「へーっ、リッチー頭いいのか! 学校で表彰されたりテスト満点だったり?」
「僕は学校行ってないよ。それに……この表札はお父さんとお母さんのなんだ」
リッチーが椅子を勧めてくれたので素直に尻を落ち着けてみたが、脚が余る。卒業後に小学校へ遊びに行った時をキングは思い出した。
ついでに、ギターや小型スピーカーなどの大切な相棒達を安置した瞬間、くらっと頭が重たくなる。
(そういえば、渋谷でのサポートの仕事終わったのが夜の九時……それから宇宙人のエール・ヴィースってのとガチ弾きして、一、二時間? でもさっき、外歩いてたら夕方だった。時差みたいのが余計だとしても、早朝バイトもあったし……まあ疲れても来るか)
「キング、お腹減ってない? ごはん食べようよ。朝の残りのスープだけど」
「……ん? いいの?」
「だって今日はもうさ、キングおうちに帰るの無理じゃない? 泊っていくといいよ」
「あーっ、確かに……!!!!」
「声でか」
(全っ然、頭になかった……俺休むところねえじゃん!!!!)
ここが自分の知ってる地球ではなさそうだ、というのは段々実感が湧いてきたものの、ではこれからどうするかということまでは考えていなかった。キングは手元にギターがあれば大体オールオッケー男なのだ。
「なあ、リッチー。地球に戻る方法ってわかる?」
「チキュウ……? それはキングの家がある国?」
リッチーは自分の体毛を少量引き抜き、指先から微量な電流を発生させて種火にし、スープを温め始めた。もちろんガスコンロやIH式ではない。歴史の資料集で見たような竈で火を入れている。
キングはそれを見て、遠くへ来たのだ、と改めて思う。突拍子のないものを見させられるよりも、身近な生活様式の違いを見せつけられる方が重たいのが不思議だ。
「国じゃなくて星な。碧い髪の宇宙人に拉致されたんだよ」
「それさっきも言ってたけど、どういうことなの?」
キングは改めて事の顛末をリッチーに説明した。
話終わる頃にはスープは湯気をたて、テーブルに並べられていた。サラダと白湯も添えて。
「……つまり、キングは地球っていう惑星の日本っていう国の富山の生まれで、渋谷にいる時に宇宙人に攫われ、宇宙人の名前がエール・ヴィース。気付いたら真っ白な部屋にいて、ギターをヒいて、宇宙人はドラムをタタいて……一人にされた隙に外に出られるボタンを押したら、モルツワーバ鉱山の中だったってこと?」
「理解が早くて助かる!」
「うーん……俄かには信じがたいんだけど……」
「いや、俺にもよくわかってないからいいよいいよ!」
何がいいよなのか、キングにもよく理解っていない。
「キングは碧い髪の宇宙人っていうけどさ、それって本当に宇宙人なの?」
地球人からしたら、地球外の人は皆宇宙人である。
「アイツ、宇宙人じゃないのか? 宇宙人って言ってたぞ、自分で」
首を傾げるキングに、リッチーは真剣みを帯びた視線を投げかけた。
「碧い髪、特徴的な民族服、エールっていう名前……その人、きっと神話時代に存在した天使族だよ!」