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作者: 鈴奈
Ad Soror.Sena ~Littera e Azalea-~
 シスター・セナへ

 ルドベキアが起こしたことで、たくさんの花の修道女たちを傷つけてしまい、本当に申し訳なく思っています。すべては私の責任です。本当にごめんなさい。
 そして、黙ってこの修道院を出ていくことを許してください。

 シスター・セナ。あなたに、すべてを告白します。

 西の修道院時代、シスター・ルドベキアは、ひとりだった私によく話しかけてくれていた。私も彼女と過ごすことを、とても心地よく思っていた。
 けれど、シスター・ルドベキアが、私を「エス」の相手に向けるのと同じ想いをもっていることを知り、私は、彼女と距離を置くことにした。
 それから、数か月後。その間に、彼女に何があったのかはわからない。ある日彼女は、彼女をずっと慕っていたある花の修道女を故意に蟲と化させ、西の修道院を亡ぼした。
 今回と同じ方法で。そして、今回と同じ、花の修道女たちが、私を傷つける、心の醜いものになってしまったという理由で。

 ルドベキアが亡ぼしたのだということは確かめてはいなかった。けれど、彼女の変化で、私は察していた。
 それなのに私は、神の楽園をつくるために、東の修道院へ行くことを決めてしまった。それが私のできる償いだと思ったから。私には、それしかなかったから……。
 危ないとわかっていながら、ルドベキアを見捨てることもできなかった。きっと私から遠ざかれば、ルドベキアはもう、同じことは繰り返さない。きっと元に戻ってくれる。だから、私から離れさえすればいい。そう甘んじて……。

 この事態を引き起こしたのは、私。
 私が、この修道院に来る決断をしてしまったから。私が、ルドベキアの気持ちから逃げたから。規律を守らない花の修道女たちを、美しくないと決めつけたから。

 でも、それが間違いだと気付けたのは、あなたたち、東の花の修道女たちのおかげです。
 あなたたちが、ルドベキアの手紙を拾い、私に手渡してくれた時、私は、あなたたちを、美しいと思った。自分の幸せを求める心が……。
 自分が幸せであることで初めて、誰かを幸せにできるのね。
 そして、心の底から、いつくしんでくれていることを感じて、心の奥が温かくなりました。あんなに心からやさしくしてもらえたのは、私の人生で二度目でした。
 神の楽園は、ここにある。心から、そう思いました。
 その楽園の中心にいるのは、シスター・セナ。あなたです。
 どうかあなたと皆で、素晴らしい楽園をつくっていってください。

 私とルドベキアは、罪を償うため、「楽園の外」へいきます。
 北の修道院のさらに北、森の奥深くにある岩の洞窟の中に、そこにつながる道があると聞きます。
「楽園の外」にいったら、どうなるかはわからない。だけど、この門をくぐることが、犠牲にしてしまった子たちへのせめてもの償いです。

 私がそう提案したら、ルドベキアは涙を拭いながら、
「君と行けるなら、どこだって楽園だ」
 と笑いました。喜んでしまっては償いにならないのに……。
 西の修道院時代と変わらない調子で、少し、安心しました。

 それから、もうひとつ。私は、ルドベキアにも償いをしたいと思っています。
「楽園の外」に着くまでの間――短い旅路になるとは思うけれど、私は、私が幸せになれるよう、そして、ルドベキアが幸せになれるよう、残りの生を過ごしていきたいと思います。私が笑顔になることを、ルドベキアは、ずっと望んできてくれたから。

 私は、神の楽園をつくることはできなかった。
 けれどせめて最期は、最愛の人の楽園を、私の手でつくりたいと思っています。
  
 私は、私の生が終わる時まで、美しく在りたいと思います。
 この世界で最も美しい心を教えてくれてありがとう。
 さようなら。どうか皆で、幸せな生を過ごしてください。

 ――追伸。
 先ほどルドベキアが、西の修道院時代にラジアータに毒を注入され、負の感情が強くなっていたことを告白してくれました。そして、「他の修道院に行ったら自分を引き入れるように」「何かあったら力になるから呼ぶように」と、ラジアータから、懺悔室の鍵を渡されていたと教えてくれました。
 ですが、その鍵が、どこを探してもないのだそうです。部屋にも、廊下にも、礼拝堂の二階にも……。

 どうか、気を付けて。

 最後に。
 あなたのおかげで、久しぶりにルドベキアの花を見ることができました。
 ルドベキアの花をもう一度咲かせてくれて、本当にありがとう。
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