第四九話 食べることで頭いっぱい
五条らは弥勒が所望する福岡の海鮮料理を食べさせる為、中洲の海鮮料理店へと向かう。
五条と鷲頭(わしず)は、行きつけだという中洲にある海鮮料理店へと入った。そこはおよそ学生が数人で入っては行けない様な、高級料理店であった。水槽の中を魚が泳ぎ回り、モノトーン調のテーブルでは、紳士淑女がワイン片手に談笑していた。
こういう場所は弥勒にとって、両親とごく稀に出かける際に訪れる様な店であった。数少ない家族水入らずの時間を過ごしたこういうお店は、安心感を覚える居心地の良い空間であった。
そんな事を考えていると、鷲頭(わしず)は五条の手を強く握った。それに反応し五条が鷲頭(わしず)の顔を見上げると、鷲頭(わしず)は「こういう雰囲気のお店、苦手なんじゃなかったの」と、五条を問っちめる様にいった。
「皆が気疲れしてるから、馴染んでそうなお店にしたんよ。それにこんな時間、居酒屋くらいしかないけん、学生の私達だけやと入れんやん」
「そうやけど……」
バツが悪そうな鷲頭(わしず)の背中を五条は摩り、笑顔を見せながら「気遣ってくれてありがとね」といった。
五条は格式高いお店が苦手なようだ。
また普段の五条は、伝統芸能や歴史に対する座学の際、「退屈」とはまた違う「苦手だな」という意識を持っていることに、弥勒は気付いていた。そこから察するに、彼女は教養高いお嬢様としての自分よりも、一女子高生としての自分を好んでいるのだと、弥勒は悟った。
上辺だけを見れば、とことん秋月に似ている女性だと、弥勒は思った。容姿でさえも、髪色や顔面は異なれど髪型や背丈は似ている。
案内された席に座り、注文を済ませる。運ばれてきた料理は、イカとカニの海鮮ピザやエビとマッシュルームのアヒージョ、カツオのカルパッチョなどであった。
渋川は普段食べなれていない西洋料理に舌鼓を打った。
巳代は、よくも悪くもいつも通りだった。
弥勒にとって、巳代はなにを食べても大きく表情が変わらない様に見えていた。きっと、上質な食べ物もジャンクフードも平等に味わってきたのだろう。家での家族団欒や外食も、もしかすれば旅行先でのキャンプ料理でさえも味わい尽くして来たのだとすれば、彼がどこでも平常心を保っていられることにも合点が行くと、弥勒は思った。
「弥勒、お前が食べたいのはこんな外国の料理じゃないだろう。九州のいや、ここ福岡の味を堪能したいんじゃなかったのか」
「そうだね! 巳代は当然ここのご当地料理を知ってるんでしょ?」
「あぁ。だがあれは、こういう高級料理店にあるとは思えんが……」
眉間にシワを寄せる巳代に、五条はニヤリとした。
「それがあるんだなぁ。ちゃーんとそこまで込みで選んどーよ。まぁ私も初めて来たお店やけん、全部杏奈の入れ知恵なんやけどね」
そういって五条は恥ずかしそうに笑った。
弥勒は、運ばれてきたゴマサバとアジなめろうを前にし、喜んだ。
「家庭料理みたいで美味しそう! 五条さんこれっていくらなの!」
「家庭料理に喜ぶなんて良いセンスしとーやん! でもお値段は……一皿九五〇円……」
「とってもお安いんだね!」
健気に喜ぶ弥勒に、五条は頬を膨らませ、あからさまに不満気な顔をした。そして「高い方だよ、安くないけんねこれ」と吐き捨てた。
弥勒は、自分と世間とのギャップに驚いた。この世に三桁台の料理があることを、弥勒は知らなかった。
だがその金銭感覚の違いに五条が不満そうだったことさえも、もはやどうでもよかった。自分と普通のあいだにあるズレに気付けたことが、嬉しかった。
「弥勒君ってさ、美味しそうに食べるよね。なんか……渋川ちゃんは緊張してるし……有馬君は味わってるのか無表情だし、弥勒君がいなかったら私、おもてなしの自信なくして途中帰宅してたかも」
そういって五条は微笑んでいた。そしておなかいっぱいの皆に対し、笑顔で「よし、シメはラーメンだ! 食べることで頭がいっぱい!」といって、また皆をドン引かせながら、笑った。
こういう場所は弥勒にとって、両親とごく稀に出かける際に訪れる様な店であった。数少ない家族水入らずの時間を過ごしたこういうお店は、安心感を覚える居心地の良い空間であった。
そんな事を考えていると、鷲頭(わしず)は五条の手を強く握った。それに反応し五条が鷲頭(わしず)の顔を見上げると、鷲頭(わしず)は「こういう雰囲気のお店、苦手なんじゃなかったの」と、五条を問っちめる様にいった。
「皆が気疲れしてるから、馴染んでそうなお店にしたんよ。それにこんな時間、居酒屋くらいしかないけん、学生の私達だけやと入れんやん」
「そうやけど……」
バツが悪そうな鷲頭(わしず)の背中を五条は摩り、笑顔を見せながら「気遣ってくれてありがとね」といった。
五条は格式高いお店が苦手なようだ。
また普段の五条は、伝統芸能や歴史に対する座学の際、「退屈」とはまた違う「苦手だな」という意識を持っていることに、弥勒は気付いていた。そこから察するに、彼女は教養高いお嬢様としての自分よりも、一女子高生としての自分を好んでいるのだと、弥勒は悟った。
上辺だけを見れば、とことん秋月に似ている女性だと、弥勒は思った。容姿でさえも、髪色や顔面は異なれど髪型や背丈は似ている。
案内された席に座り、注文を済ませる。運ばれてきた料理は、イカとカニの海鮮ピザやエビとマッシュルームのアヒージョ、カツオのカルパッチョなどであった。
渋川は普段食べなれていない西洋料理に舌鼓を打った。
巳代は、よくも悪くもいつも通りだった。
弥勒にとって、巳代はなにを食べても大きく表情が変わらない様に見えていた。きっと、上質な食べ物もジャンクフードも平等に味わってきたのだろう。家での家族団欒や外食も、もしかすれば旅行先でのキャンプ料理でさえも味わい尽くして来たのだとすれば、彼がどこでも平常心を保っていられることにも合点が行くと、弥勒は思った。
「弥勒、お前が食べたいのはこんな外国の料理じゃないだろう。九州のいや、ここ福岡の味を堪能したいんじゃなかったのか」
「そうだね! 巳代は当然ここのご当地料理を知ってるんでしょ?」
「あぁ。だがあれは、こういう高級料理店にあるとは思えんが……」
眉間にシワを寄せる巳代に、五条はニヤリとした。
「それがあるんだなぁ。ちゃーんとそこまで込みで選んどーよ。まぁ私も初めて来たお店やけん、全部杏奈の入れ知恵なんやけどね」
そういって五条は恥ずかしそうに笑った。
弥勒は、運ばれてきたゴマサバとアジなめろうを前にし、喜んだ。
「家庭料理みたいで美味しそう! 五条さんこれっていくらなの!」
「家庭料理に喜ぶなんて良いセンスしとーやん! でもお値段は……一皿九五〇円……」
「とってもお安いんだね!」
健気に喜ぶ弥勒に、五条は頬を膨らませ、あからさまに不満気な顔をした。そして「高い方だよ、安くないけんねこれ」と吐き捨てた。
弥勒は、自分と世間とのギャップに驚いた。この世に三桁台の料理があることを、弥勒は知らなかった。
だがその金銭感覚の違いに五条が不満そうだったことさえも、もはやどうでもよかった。自分と普通のあいだにあるズレに気付けたことが、嬉しかった。
「弥勒君ってさ、美味しそうに食べるよね。なんか……渋川ちゃんは緊張してるし……有馬君は味わってるのか無表情だし、弥勒君がいなかったら私、おもてなしの自信なくして途中帰宅してたかも」
そういって五条は微笑んでいた。そしておなかいっぱいの皆に対し、笑顔で「よし、シメはラーメンだ! 食べることで頭がいっぱい!」といって、また皆をドン引かせながら、笑った。