第三七話 平和を脅かす人
日向分校を去る前に、夕暮れに照らされる校舎に別れを告げる弥勒と巳代。しかし弥勒は渋川に借りた麦わら帽子を返せずにいた。どうしようかと考えていると、そこに渋川が現れて。
数日後、弥勒と巳代は転校の日を迎えた。あっという間だった。日々の雑務に忙殺され、友人らとの別れを惜しむことも出来なかった。
お互いに教室での別れの挨拶を済ませ、最後の一日を終えた。夕日に照らされる校舎を見ながら、二人は日向分校での出来事を振り返っていた。
「この学校に来るのも最後だな、弥勒。収穫はあった。お互いに剣術を磨き、福岡にヒントがあるということを知れた」
「それに僕は、常夜へ行くことが出来た。緒方君という神通力に詳しい陰陽師の卵を友人に持てたのも大きい」
「だが……こんな風に、各地を点々としながら少しづつ情報を得ていくというのが、こんなにも面倒くさいことだとはな……。この二ヶ月間、ここでしたことを、幾度も幾度も繰り返していくんだ。遠回りな気さえしてくるな……」
「すぐに慣れるさ。面倒は旅の付き物だよ」
「お前、逞しくなったな。それから、その麦わら帽子なんだ? 誰かに貰ったのか?」
「あぁこれ、渋川さんに借りたんだ。返さなくちゃいけなかったんだけど、行く時間がなくって。秋月さんに返しておいて貰おうとも思ったんだけど、直接返したかったから、完全にタイミングを無くしちゃったんだ」
「マジかよ。早く行かないと、帰っちまうかも知れないだろ。早く返してこいよ」
「それが……いつもいる花壇にいなくてさ。それから秋月さんに渡そうと思ったんだけど、直接返せって跳ね返されちゃって」
「出来ねぇからいってんのに、頭の悪いガキだな」
困っていると、目の前に渋川が現れた。そして彼女は、なぜか大荷物であった。
「弥勒君、しっかりと預かっててくれてありがとう」
「えっと……渋川さんなんで……?」
「私も太宰府へ行くわ。両親を説得した。知見を広げる為、冒険をしてくるってね」
そういうと渋川は麦わら帽子を受け取り、被った。
「別府に来てた渋川……葉月だったか?」
「こんばんわ。有馬巳代君よね。稲葉と伊東から話は聞いてたけど、本当に恐い目付きをしてるのね」
そういいながら、渋川は巳代へ手を差し伸べた。巳代も手を伸ばし、二人は握手をした。
「あぁクールだろ」
「そうね、素敵だと思うわ。私の好みではないけれど。あっそうだ」
そういうと渋川は手を解き、弥勒の方を向き直した。
「緒方君から、事情は色々と聞いたわ。人探しをしているのよね。私にお手伝いできることがあるかは分からないけれど、精一杯お助けしたいと思っているわ。まず初めにだけれど……あの墓地で私は、とある人のことを思い起こしたわ」
「とある人って……?」
「九州北部で最も大きなカトリック教会の司祭よ。本拠地周辺の暴力団との関係があるともいわれてて、平和を脅かしている悪人。そして彼は、私達惟神学園の関係者と交流がある、珍しい存在よ。神秘外交と呼ばれる交わりは、互いの神様が争わない様に調整する為の外交なのだそう。神通力の存在を知っている部外者なんて少数だし、なにより、彼は感覚感応者だといわれているわ」
巳代は腕を組み、情報を整理していた。
「感覚感応は神秘の力だが、その概念自体は、西洋から齎(もたら)された。その力の本質は不明瞭であり、神通力と区別化されているものの、所詮は人が理解する為に名前を付けただけに過ぎない。通常時、能力に違いはあるが、極めた結果やそもそもの存在理由は同じであるともされている……んだったな。だとすれば、そのカトリック教会の男が八百万を信じていないにも関わらず感覚感応者であっても、なんら不思議ではないな」
「そうよ。つまり、彼が君達の探し人に与する非神通力使いの感覚感応者であると、私は考えているわ。緒方君の口ぶりから、探し人の情報を私みたいな部外者には伝えられないことは承知しているし、緒方君からも、神通力使いが犯罪組織に関与していること以外はなにも教えて貰っていないわ。もしもう既に探し人の目星がついていたのなら、私の今の話は蛇足だったでしょうけど……でもとにかく、一緒に探すことくらいは構わないわよね。私は……冒険がしたい。お友達の為に、そしてこの愛すべき惟神学園の為に……!」
弥勒は、不思議と心強さを感じていた。離れてしまう友だけではないのだと感じたからだ。
「勿論だよ渋川さん。ありがとう……!」
「渋川、聞かせてくれ。そのカトリック教会の男の名前はなんだ。そしてその教会はどこにあるんだ」
巳代の問に渋川は答えた。
「教会は長崎にあるわ。太宰府からだったら、一日以内に往復できる距離よ。そして男の名前は、ドン・フランシスコ」
「外国人……なのか?」
名前からして白人だろうとは思うけれど……実際に会ったことはないから、分からないわ。他の宗教にも詳しくないもの……」
「情報は全てありがたい……ありがとう」
「巳代君、弥勒君。これから宜しくね」
そういって三人は車に乗り込んだ。目指す先は次なる目的地、太宰府である。
お互いに教室での別れの挨拶を済ませ、最後の一日を終えた。夕日に照らされる校舎を見ながら、二人は日向分校での出来事を振り返っていた。
「この学校に来るのも最後だな、弥勒。収穫はあった。お互いに剣術を磨き、福岡にヒントがあるということを知れた」
「それに僕は、常夜へ行くことが出来た。緒方君という神通力に詳しい陰陽師の卵を友人に持てたのも大きい」
「だが……こんな風に、各地を点々としながら少しづつ情報を得ていくというのが、こんなにも面倒くさいことだとはな……。この二ヶ月間、ここでしたことを、幾度も幾度も繰り返していくんだ。遠回りな気さえしてくるな……」
「すぐに慣れるさ。面倒は旅の付き物だよ」
「お前、逞しくなったな。それから、その麦わら帽子なんだ? 誰かに貰ったのか?」
「あぁこれ、渋川さんに借りたんだ。返さなくちゃいけなかったんだけど、行く時間がなくって。秋月さんに返しておいて貰おうとも思ったんだけど、直接返したかったから、完全にタイミングを無くしちゃったんだ」
「マジかよ。早く行かないと、帰っちまうかも知れないだろ。早く返してこいよ」
「それが……いつもいる花壇にいなくてさ。それから秋月さんに渡そうと思ったんだけど、直接返せって跳ね返されちゃって」
「出来ねぇからいってんのに、頭の悪いガキだな」
困っていると、目の前に渋川が現れた。そして彼女は、なぜか大荷物であった。
「弥勒君、しっかりと預かっててくれてありがとう」
「えっと……渋川さんなんで……?」
「私も太宰府へ行くわ。両親を説得した。知見を広げる為、冒険をしてくるってね」
そういうと渋川は麦わら帽子を受け取り、被った。
「別府に来てた渋川……葉月だったか?」
「こんばんわ。有馬巳代君よね。稲葉と伊東から話は聞いてたけど、本当に恐い目付きをしてるのね」
そういいながら、渋川は巳代へ手を差し伸べた。巳代も手を伸ばし、二人は握手をした。
「あぁクールだろ」
「そうね、素敵だと思うわ。私の好みではないけれど。あっそうだ」
そういうと渋川は手を解き、弥勒の方を向き直した。
「緒方君から、事情は色々と聞いたわ。人探しをしているのよね。私にお手伝いできることがあるかは分からないけれど、精一杯お助けしたいと思っているわ。まず初めにだけれど……あの墓地で私は、とある人のことを思い起こしたわ」
「とある人って……?」
「九州北部で最も大きなカトリック教会の司祭よ。本拠地周辺の暴力団との関係があるともいわれてて、平和を脅かしている悪人。そして彼は、私達惟神学園の関係者と交流がある、珍しい存在よ。神秘外交と呼ばれる交わりは、互いの神様が争わない様に調整する為の外交なのだそう。神通力の存在を知っている部外者なんて少数だし、なにより、彼は感覚感応者だといわれているわ」
巳代は腕を組み、情報を整理していた。
「感覚感応は神秘の力だが、その概念自体は、西洋から齎(もたら)された。その力の本質は不明瞭であり、神通力と区別化されているものの、所詮は人が理解する為に名前を付けただけに過ぎない。通常時、能力に違いはあるが、極めた結果やそもそもの存在理由は同じであるともされている……んだったな。だとすれば、そのカトリック教会の男が八百万を信じていないにも関わらず感覚感応者であっても、なんら不思議ではないな」
「そうよ。つまり、彼が君達の探し人に与する非神通力使いの感覚感応者であると、私は考えているわ。緒方君の口ぶりから、探し人の情報を私みたいな部外者には伝えられないことは承知しているし、緒方君からも、神通力使いが犯罪組織に関与していること以外はなにも教えて貰っていないわ。もしもう既に探し人の目星がついていたのなら、私の今の話は蛇足だったでしょうけど……でもとにかく、一緒に探すことくらいは構わないわよね。私は……冒険がしたい。お友達の為に、そしてこの愛すべき惟神学園の為に……!」
弥勒は、不思議と心強さを感じていた。離れてしまう友だけではないのだと感じたからだ。
「勿論だよ渋川さん。ありがとう……!」
「渋川、聞かせてくれ。そのカトリック教会の男の名前はなんだ。そしてその教会はどこにあるんだ」
巳代の問に渋川は答えた。
「教会は長崎にあるわ。太宰府からだったら、一日以内に往復できる距離よ。そして男の名前は、ドン・フランシスコ」
「外国人……なのか?」
名前からして白人だろうとは思うけれど……実際に会ったことはないから、分からないわ。他の宗教にも詳しくないもの……」
「情報は全てありがたい……ありがとう」
「巳代君、弥勒君。これから宜しくね」
そういって三人は車に乗り込んだ。目指す先は次なる目的地、太宰府である。