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作者: 唯響-Ion
第十一話 陰陽部
 陰陽部の緒方吉臣の好意で弥勒は、黄昏時を迎えるまで、怪異や常夜についての座学をする。
 翌日の昼休み、弥勒は緒方(おがた)が待つ陰陽部で茶を飲みながら談笑していた
「全く、ウキウキが顔に出てるよ弥勒君」
「東京じゃ体験できなかったからね。楽しみなんだ!」
 二人は数十分の談話で、既に打ち解けていた。
「怪異が多くなる黄昏時(マジックアワー)は放課後だ。それまで、道に迷わなくて済む様に、怪異について学んでもらうよ」
「道に迷うって……どこか別の場所へ行かなくちゃいけないの? 怪異には転校初日にも会ったし、この辺にいるんじゃないの?」
「ここにいるよ。でも、ここじゃない」
 そういって緒方(おがた)は、ニヤリと笑った。その分かりやすすぎる含み笑いに、弥勒も思わずニヤリと笑い返してしまった。そして、面白いことになりそうだ、と思った。
「弥勒くんがどれだけ怪異について知っているのか、教えてくれるかい」
「怪異は、魂ある者が、肉体を失って尚も成仏できなかった者が成る姿。それは心霊研究家には霊と呼ばれ、古くは妖怪や魔物などともよばれた。広義には、陰陽道(おんみょうどう)に於ける式神(しきがみ)や、神道(しんとう)に於ける八百万(やおよろず)の神々も同類とされる」
「座学は得意な様だね。安心したよ。たまに、全く無学でひょんなことから怪異と出会ってしまって、失禁する生徒がいるからね。でも、陵王と謳われる人が失禁なんかする筈がないか」
「それはあくまで舞楽のことだから……。僕は歴史に名を残す様な、偉大な人でも、英雄でもないよ」
「歴史に名を残さなくても、君ならきっと偉大な人になれるよ。英雄にもね。僕には分かるんだ」
「神通力に未来予知はないよ?」
「神通力そのものにはね。でも、怪異は違う。彼らのそばに居ると、人や動物、微生物に至るまで、その命の中身が見えてくるんだ。怪異には役目があるから、本来ならば死後に消えてしまう魂を、死んでもなお残し続けている。彼らの役目を知っている?」
「死を迎える命の側に現れ、黄泉(よみ)の国へと導く……」
「そう。そんな彼らを研究していると、その命が辿った道や、これから辿る道がうっすらと見えてくるんだ。流れ込んで来るといってもいい。それは神通力を媒体として、怪異の中にある情報を受け取ってしまうという感じだ。神を通す力。怪異もまた生者と死者のあいだに在る神なのだと思い知らされる」
 なにやら不思議なことをいう人だと思った。一般人から見れば、惟神学園の関係者は全員、不思議な人達であろう。しかしそんな中でも、惟神の真髄たる八百万の神に関わる彼は、自分よりも不思議な人であると、そう思わざるを得なかった。
「座学を続けたいところだけど、昼休憩が終わっちゃうね。弥勒くんが平気そうな人だってのはよく分かった。放課後、黄昏時(マジックアワー)の時に、またここで待ってるよ」
黄昏時(マジックアワー)……人が住む現世(うつしよ)とあちら側の世界である常夜(とこよ)や黄泉の国を繋げる時間帯。
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