残酷な描写あり
〈第八章あらすじ&登場人物紹介〉
===第八章 あらすじ===
囚われのメイシアに携帯端末が届けられたことによって、彼女と無事に連絡が取れた。その報告の会議で、ルイフォンは「リュイセンを味方に戻し、〈蝿〉を討ち取らせるから、彼の追放を解いてほしい」と発言した。しかし、リュイセンが裏切った理由について言葉を濁したために、会議は荒れる。
『ミンウェイは『母親』のクローンであり、その事実を『ミンウェイ本人に教える』と、リュイセンは〈蝿〉に脅迫された』という憶測を、ルイフォンは証拠もなく言いたくなかったのだ。だが、シュアンに諭され白状する。
そして、言い方は悪いが『リュイセンを屈服させる』ための研究報告書探しが始まった。その報告をメイシアにする際、セレイエの記憶を受け取った彼女が、〈悪魔〉の〈蛇〉として『契約』にと囚われてしまったことに気づき、ルイフォンは愕然とする。
研究報告書を求め、ルイフォンはミンウェイの昔の家に行ったが空振りだった。〈蝿〉が資料を持ち出していたのだ。しかし、そこで見つけた古い刀の鍔飾りから、死んだオリジナルのヘイシャオに、『娘』のミンウェイを大切にしようと思っていた心があることを知る。
一方、菖蒲の館では、自分の思い通りに物ごとが進まないことに焦れた〈蝿〉が、予定よりも早くメイシアに自白剤を打つと言い出した。メイシアは、ルイフォンと連絡が取れていることを口にしてしまうと恐れ、実はセレイエの記憶は受け取っているのだと自ら告白する。
激昂する〈蝿〉に対し、メイシアはこの場から逃げるための方便として、「あなたの奥様の記憶を手に入れてみせます」と言う。『デヴァイン・シンフォニア計画』では、セレイエが死んだ息子の記憶を手に入れた。だから、同じことをしてみせる、と。
〈蝿〉は、メイシアの話は技術的には可能だと判断したが、取り引きする相手はあくまでもセレイエだと答える。メイシアは仕方なく、セレイエは既に亡くなっていると告げる。その瞬間、怒りに我を忘れた〈蝿〉に彼女は首を絞められた。
そのとき、リュイセンが駆けつけ、彼女を助けた。邪魔が入ったことで、〈蝿〉は「続きは明日」と言って、メイシアを解放した。
メイシアは無事であったが、リュイセンの殺意は極限まで膨れ上がっていた。もともとそのつもりであったが「今宵、〈蝿〉を殺す」と決意を新たにする。そんな彼との会話の中で、メイシアは、ミンウェイがかつて自殺未遂をしたことを知る。
妻のミンウェイの『生を享けた以上、生をまっとうする』という言葉によって生かされていたオリジナルのヘイシャオは、娘のミンウェイの自殺未遂を目の当たりにしたことで、『死』を望んだのではないか、とメイシアは悟る。そして、これは『〈蝿〉が知りたがっている情報』であり、強力な武器であると気づく。
ヘイシャオの研究報告書を求めての〈七つの大罪〉のデータベースへの侵入に難航していたルイフォンは、死んだ〈悪魔〉、〈蠍〉の研究所跡に期待を掛けた。廃墟があるだけだと言うエルファンに対し、〈ケル〉と〈ベロ〉が突然、現れ、行くようにと示唆する。
その場所には、母キリファの建てた〈スー〉の家があり、〈スー〉は、キリファが自分の命と引き換えにして完成するものだと気づいていたルイフォンとエルファンは衝撃を受ける。エルファンは〈スー〉のもとへ飛んでいったが、ルイフォンは自分の目的は研究報告書を手に入れることだと、侵入作業に入った。
そして、ミンウェイがクローンであるという明確な証拠を示すものは『存在しない』という結果を得る。ミンウェイを普通の娘として育てようとしたヘイシャオが、証拠となるようなものを一切残さなかったのだ。
呆然とするルイフォンに、ミンウェイが「ヘイシャオと〈七つの大罪〉とのやり取りの記録を見れば、私がクローンなのは明らか。でも、『私は大丈夫。傷つかない』とリュイセンに伝えれば、それでリュイセンは解放されるはず」と言う。自分は空回りしていたと自嘲するルイフォンに、ミンウェイは「こんなことが言えるようになったのは、あなたのおかげ」と叱りながら笑った。
その帰り、メイシアから菖蒲の館での事態急変を知らせを受ける。今晩、決着をつけると、鷹刀一族の屋敷に戻ってすぐに、作戦会議が開かれた。
『リュイセンを味方に戻し、〈蝿〉を討たせる』という作戦の段取りを確認するだけだと思われた会議だったが、シュアンが「ミンウェイと〈蝿〉が会わないままに、〈蝿〉に死を与えてよいのか」と問いかけ、作戦は『〈蝿〉捕獲』に変更された。また、〈蝿〉をおとなしく連行させるために、メイシアの気づいた『ミンウェイの自殺未遂がヘイシャオの自殺の理由』という情報を使うことに決まった。
しかし、リュイセンが『メイシアを助けるために〈蝿〉に逆らった罰』で反省房に入れられてしまったことで、作戦は変更を余儀なくされた。
新たな作戦として、タオロンにリュイセンを救出してもらい、メイシアのところに連れてきてもらう。そして、娘のファンルゥは、安全のためにメイシアの展望塔に移動することになった。しかし、リュイセンは既に自力で脱走しており、ファンルゥは興奮のし過ぎで疲れて寝てしまう。
ルイフォンは焦ったが、自分が遠隔操作で鍵を自在に操れることに気づき、ファンルゥの部屋の守りを固め、タオロンには急いでリュイセンを探すように頼んだ。放っておけば、リュイセンは〈蝿〉を殺し、姿を消してしまうからである。
リュイセンは、タオロンにあとのことを頼むために、ファンルゥの部屋に現れた。物音で目を覚ましたファンルゥに「二度と会えない『さよなら』なの?」と詰め寄られた彼は、逃げるように去る。だが、展望塔を目指し始めたファンルゥのことが心配で、そっと見守っていた。そして、見張りに見つかってしまった彼女を守るために背中に刃を受けてしまう。
傷を負いながらもリュイセンは展望塔の見張りを倒し、逃げようとした者も、メイシアから連絡を受けたタオロンが倒した。見張りがいなくなった出口からメイシアが出てきて、リュイセンに携帯端末を渡す。聞こえてきたミンウェイの声に、リュイセンの張り詰めていた精神の均衡が崩れ、彼は意識を失った。
リュイセンは目覚めたあと、まずはルイフォンとメイシアに謝るのが礼儀だと、ルイフォンに連絡を取る。そして、ルイフォンから、ミンウェイはとっくに秘密を知っているのだと伝えられ、憤りを覚えつつも、自分が何をすべきかを見誤ることはなく、弟分の手を取った。リュイセンは『鷹刀の後継者』として、〈蝿〉の捕獲を引き受けたのだった。
===登場人物===
鷹刀ルイフォン
凶賊鷹刀一族総帥、鷹刀イーレオの末子。十六歳。
――ということになっているが、本当は次期総帥エルファンの息子なので、イーレオの孫にあたる。
母親のキリファから、〈猫〉というクラッカーの通称を継いでいる。
端正な顔立ちであるのだが、表情のせいでそうは見えない。
長髪を後ろで一本に編み、毛先を母の形見である金の鈴と、青い飾り紐で留めている。
凶賊の一員ではなく、何にも属さない「対等な協力者〈猫〉」であることを主張し、認められている。
※「ハッカー」という用語は、本来「コンピュータ技術に精通した人」の意味であり、悪い意味を持たない。むしろ、尊称として使われている。
対して、「クラッカー」は、悪意を持って他人のコンピュータを攻撃する者を指す。
よって、本作品では、〈猫〉を「クラッカー」と表記する。
メイシア
もと貴族で、藤咲家の娘。十八歳。
ルイフォンと共に居るために、表向き死亡したことになっている。
箱入り娘らしい無知さと明晰な頭脳を持つ。
すなわち、育ちの良さから人を疑うことはできないが、状況の矛盾から嘘を見抜く。
白磁の肌、黒絹の髪の美少女。
王族の血を色濃く引くため、『最強の〈天使〉の器』としてセレイエに選ばれ、ルイフォンとの出逢いを仕組まれた。
セレイエの〈影〉であったホンシュアを通して、セレイエの『記憶』を受け取った。
[鷹刀一族]
凶賊と呼ばれる、大華王国マフィアの一族。
秘密組織〈七つの大罪〉の介入により、近親婚によって作られた「強く美しい」一族。
――と、説明されていたが、実は〈七つの大罪〉が〈贄〉として作った一族であった。
鷹刀イーレオ
凶賊鷹刀一族の総帥。六十五歳。
若作りで洒落者。
かつては〈七つの大罪〉の研究者、〈悪魔〉の〈獅子〉であった。
鷹刀エルファン
イーレオの長子。次期総帥。
ルイフォンとは親子ほど歳の離れた異母兄弟ということになっているが、実は父親。
感情を表に出すことが少ない。冷静、冷酷。
鷹刀リュイセン
エルファンの次男。イーレオの孫。十九歳。本人は知らないが、ルイフォンの異母兄にあたる。
文句も多いが、やるときはやる男。
『神速の双刀使い』と呼ばれている。
長男の兄が一族を抜けたため、エルファンの次の総帥になる予定であり、最後の総帥となる決意をした。
鷹刀ミンウェイ
母親がイーレオの娘であり、イーレオの孫娘にあたる。
――ということになっていたが、実は『父親』と思っていたヘイシャオが、不治の病の妻を『蘇生』するために作った、妻から病気の因子を取り除いたクローン。
妻が『蘇生』を拒絶し、クローンを『娘』として育てるように遺言したため、心を病んだヘイシャオに、溺愛という名の虐待を受ける羽目になってしまった。
緩やかに波打つ長い髪と、豊満な肉体を持つ絶世の美女。ただし、本来は直毛。二十代半ばに見える。
薬草と毒草のエキスパート。医師免状も持っている。
かつて〈ベラドンナ〉という名の毒使いの暗殺者として暗躍していた。
現在は、鷹刀一族の屋敷を切り盛りしている。
草薙チャオラウ
イーレオの護衛にして、ルイフォンの武術師範。
無精髭を弄ぶ癖がある。
キリファ
ルイフォンの母。四年前に当時の国王シルフェンに首を落とされて死亡。
天才クラッカー〈猫〉。
〈七つの大罪〉の〈悪魔〉、〈蠍〉に〈天使〉にされた。
また〈蠍〉に右足首から下を斬られたため、歩行は困難だった。
もとエルファンの愛人で、セレイエとルイフォンを産んだ。
ただし、イーレオ、ユイランと結託して、ルイフォンがエルファンの息子であることを隠していた。
ルイフォンに『手紙』と称し、人工知能〈スー〉のプログラムを託した。
〈ケル〉〈ベロ〉〈スー〉
キリファが作った三台の兄弟コンピュータ。
表向きは普通のスーパーコンピュータだが、それは張りぼて。本体は〈七つの大罪〉の技術により、人間の記憶を利用して作られた光の珠である。
『〈天使〉の力の源である〈冥王〉を破壊するためのもの』であるらしい。
〈ベロ〉の人格は、シャオリエのオリジナル『パイシュエ』である。
〈ケル〉は、キリファの親友といってもよい間柄である。
〈スー〉は、ルイフォンがキリファの『手紙』を正確に打ち込まないと出てこないのだが、所在は、もと〈蠍〉の研究所にあることが分かっている。また、キリファの人格を持っていると推測されている。
セレイエ
エルファンとキリファの娘。
表向きは、ルイフォンの異父姉となっているが、同父母姉である。
リュイセンにとっては、異母姉になる。
生まれながらの〈天使〉。
王族のヤンイェンと恋仲になり、ライシェンという〈神の御子〉を産んだ。
先王シルフェンにライシェンを殺されたため、「ルイフォンの中に封じた、ライシェンの『記憶』」と「〈蝿〉に作らせた『肉体』」を使って、ライシェンを生き返らせる計画――『デヴァイン・シンフォニア計画』を企てた。
ただし、セレイエ本人は、ライシェンの記憶を手に入れるために〈天使〉の力を使い尽くし、あとのことは〈影〉のホンシュアに託した。
『最強の〈天使〉』となり得るメイシアを選び、ルイフォンと引き合わせた。
メイシアのペンダントの元の持ち主で、『目印』としてメイシアに渡した。
パイシュエ
イーレオ曰く、『俺を育ててくれた女』。
故人。鷹刀一族を〈七つの大罪〉の支配から解放するために〈悪魔〉となり、その身を犠牲にして未来永劫、一族を〈贄〉にせずに済む細工を施した。
自分の死後、一族を率いていくことになるイーレオを助けるために、シャオリエという〈影〉を遺した。
また、どこかに残されていた彼女の『記憶』を使い、キリファは〈ベロ〉を作った。
すなわち、パイシュエというひとりの人間から、『シャオリエ』と〈ベロ〉が作られている。
[〈七つの大罪〉・他]
〈七つの大罪〉
現代の『七つの大罪』=『新・七つの大罪』を犯す『闇の研究組織』。
実は、王の私設研究機関。
王家に、王になる資格を持つ〈神の御子〉が生まれないとき、『過去の王のクローンを作り、王家の断絶を防ぐ』という役割を担っている。
〈悪魔〉
知的好奇心に魂を売り渡した研究者を〈悪魔〉と呼ぶ。
〈悪魔〉は〈神〉から名前を貰い、潤沢な資金と絶対の加護、蓄積された門外不出の技術を元に、更なる高みを目指す。
代償は体に刻み込まれた『契約』。――王族の『秘密』を口にすると死ぬという、〈天使〉による脳内介入を受けている。
『契約』
〈悪魔〉が、王族の『秘密』を口外しないように施される脳内介入。
記憶の中に刻まれるため、〈七つの大罪〉とは縁を切ったイーレオも、『契約』に縛られている。
また、〈悪魔〉であったセレイエの記憶を受け継いだメイシアや、パイシュエの記憶を使って作られた〈ベロ〉も、『契約』に縛られている。
〈天使〉
『記憶の書き込み』ができる人体実験体。
脳内介入を行う際に、背中から光の羽を出し、まるで天使のような姿になる。
〈天使〉とは、脳という記憶装置に、記憶や命令を書き込むオペレーター。いわば、人間に侵入して相手を乗っ取るクラッカー。
羽は、〈天使〉と侵入対象の人間との接続装置であり、限度を超えて酷使すれば熱暴走を起こす。
〈影〉
〈天使〉によって、脳を他人の記憶に書き換えられた人間。
体は元の人物だが、精神が別人となる。
『呪い』・便宜上、そう呼ばれているもの
〈天使〉の脳内介入によって受ける影響、被害といったもの。悪魔の『契約』も『呪い』の一種である。
服従が快楽と錯覚するような他人を支配する命令や、「パパがチョコを食べていいと言った」という他愛のない嘘の記憶まで、いろいろである。
『di;vine+sin;fonia デヴァイン・シンフォニア計画』
セレイエによる、殺された息子ライシェンを生き返らせるための計画。
『di』は、『ふたつ』を意味する接頭辞。『vine』は、『蔓』。
つまり、『ふたつの蔓』――転じて、『二重螺旋』『DNAの立体構造』――『命』の暗喩。
『sin』は『罪』。『fonia』は、ただの語呂合わせ。
これらの意味を繋ぎ合わせて『命に対する冒涜』と、ホンシュアは言った。
ヘイシャオ
〈七つの大罪〉の〈悪魔〉、〈蝿〉。ミンウェイの『父親』。故人。
医者で暗殺者。
病弱な妻のために〈悪魔〉となった。
妻の遺言により、妻の蘇生のために作ったクローン体を『娘』として育てていくうちに心を病んでいった。
十数年前に、娘のミンウェイを連れて現れ、自殺のようなかたちでエルファンに殺された。
現在の〈蝿〉
セレイエが『ライシェン』を作らせるために、蘇らせたヘイシャオ。
セレイエに吹き込まれた嘘のせいで、イーレオの命を狙ってきた。
妻の遺言により、『生を享けた以上、生をまっとうする』と言って、異常なまでに『生』に執着している。
ホンシュア
殺されたライシェンの侍女であり、自害するくらいならとセレイエの〈影〉となって『デヴァイン・シンフォニア計画』に協力した。体は〈天使〉化してあった。
〈影〉にされたメイシアの父親に、死ぬ前だけでも本人に戻れるような細工をしたため、体が限界を超え、熱暴走を起こして死亡。
メイシアにセレイエの記憶を潜ませ、鷹刀に行くように仕向けた、いわば発端を作った人物である。
〈蛇〉
セレイエの〈悪魔〉としての名前。
〈蝿〉が、セレイエの〈影〉であるホンシュアを〈蛇〉と呼んでいたため、ホンシュアを指すこともある。
ライシェン
殺されたセレイエの息子の名前。
〈神の御子〉だった。
斑目タオロン
よく陽に焼けた浅黒い肌に、意思の強そうな目をした斑目一族の若い衆。
堂々たる体躯に猪突猛進の性格。
二十四歳だが、童顔ゆえに、二十歳そこそこに見られる。
〈蝿〉の部下となっていたが、娘のファンルゥに着けられていた毒針の腕輪が嘘だと分かり、ルイフォンたちの味方になった。
斑目ファンルゥ
タオロンの娘。四、五歳くらい。
くりっとした丸い目に、ぴょんぴょんとはねた癖っ毛が愛らしい。
[藤咲家・他]
藤咲ハオリュウ
メイシアの異母弟。十二歳。
父親を亡くしたため、若年ながら藤咲家の当主を継いだ。
十人並みの容姿に、子供とは思えない言動。いずれは一角の人物になると目される。
異母姉メイシアを自由にするために、表向き死亡したことにしたのは彼である。
女王陛下の婚礼衣装制作に関して、草薙レイウェンと提携を決めた。
緋扇シュアン
『狂犬』と呼ばれるイカレ警察隊員。三十路手前程度。イーレオには『野犬』と呼ばれた。
ぼさぼさに乱れまくった頭髪、隈のできた血走った目、不健康そうな青白い肌をしている。
凶賊の抗争に巻き込まれて家族を失っており、凶賊を恨んでいる。
凶賊を殲滅すべく、情報を求めて鷹刀一族と手を結んだ。
敬愛する先輩が〈蝿〉の手に堕ちてしまい、自らの手で射殺した。
似た境遇に遭ったハオリュウに庇護欲を感じ、彼に協力することにした。
[王家・他]
シルフェン
先王。四年前、腹心だった甥のヤンイェンに殺害された。
〈神の御子〉に恵まれなかった先々王が〈七つの大罪〉に作らせた『過去の王のクローン』である。
ヤンイェン
先王の甥。女王の婚約者。
実は先王が〈神の御子〉を求めて姉に産ませた隠し子で、女王アイリーや摂政カイウォルの異母兄弟に当たる。
〈七つの大罪〉の〈悪魔〉だったセレイエと恋仲になり、ライシェンが生まれた。
しかし、〈神の御子〉であったライシェンは殺され、その復讐として先王を殺害した。
メイシアの再従兄妹にあたる。
[繁華街]
シャオリエ
高級娼館の女主人。年齢不詳。
外見は嫋やかな美女だが、中身は『姐さん』。
実は〈影〉であり、イーレオを育てた、パイシュエという人物の記憶を持つ。
===大華王国について===
黒髪黒目の国民の中で、白金の髪、青灰色の瞳を持つ王が治める王国である。
身分制度は、王族、貴族、平民、自由民に分かれている。
また、暴力的な手段によって団結している集団のことを凶賊と呼ぶ。彼らは平民や自由民であるが、貴族並みの勢力を誇っている。
囚われのメイシアに携帯端末が届けられたことによって、彼女と無事に連絡が取れた。その報告の会議で、ルイフォンは「リュイセンを味方に戻し、〈蝿〉を討ち取らせるから、彼の追放を解いてほしい」と発言した。しかし、リュイセンが裏切った理由について言葉を濁したために、会議は荒れる。
『ミンウェイは『母親』のクローンであり、その事実を『ミンウェイ本人に教える』と、リュイセンは〈蝿〉に脅迫された』という憶測を、ルイフォンは証拠もなく言いたくなかったのだ。だが、シュアンに諭され白状する。
そして、言い方は悪いが『リュイセンを屈服させる』ための研究報告書探しが始まった。その報告をメイシアにする際、セレイエの記憶を受け取った彼女が、〈悪魔〉の〈蛇〉として『契約』にと囚われてしまったことに気づき、ルイフォンは愕然とする。
研究報告書を求め、ルイフォンはミンウェイの昔の家に行ったが空振りだった。〈蝿〉が資料を持ち出していたのだ。しかし、そこで見つけた古い刀の鍔飾りから、死んだオリジナルのヘイシャオに、『娘』のミンウェイを大切にしようと思っていた心があることを知る。
一方、菖蒲の館では、自分の思い通りに物ごとが進まないことに焦れた〈蝿〉が、予定よりも早くメイシアに自白剤を打つと言い出した。メイシアは、ルイフォンと連絡が取れていることを口にしてしまうと恐れ、実はセレイエの記憶は受け取っているのだと自ら告白する。
激昂する〈蝿〉に対し、メイシアはこの場から逃げるための方便として、「あなたの奥様の記憶を手に入れてみせます」と言う。『デヴァイン・シンフォニア計画』では、セレイエが死んだ息子の記憶を手に入れた。だから、同じことをしてみせる、と。
〈蝿〉は、メイシアの話は技術的には可能だと判断したが、取り引きする相手はあくまでもセレイエだと答える。メイシアは仕方なく、セレイエは既に亡くなっていると告げる。その瞬間、怒りに我を忘れた〈蝿〉に彼女は首を絞められた。
そのとき、リュイセンが駆けつけ、彼女を助けた。邪魔が入ったことで、〈蝿〉は「続きは明日」と言って、メイシアを解放した。
メイシアは無事であったが、リュイセンの殺意は極限まで膨れ上がっていた。もともとそのつもりであったが「今宵、〈蝿〉を殺す」と決意を新たにする。そんな彼との会話の中で、メイシアは、ミンウェイがかつて自殺未遂をしたことを知る。
妻のミンウェイの『生を享けた以上、生をまっとうする』という言葉によって生かされていたオリジナルのヘイシャオは、娘のミンウェイの自殺未遂を目の当たりにしたことで、『死』を望んだのではないか、とメイシアは悟る。そして、これは『〈蝿〉が知りたがっている情報』であり、強力な武器であると気づく。
ヘイシャオの研究報告書を求めての〈七つの大罪〉のデータベースへの侵入に難航していたルイフォンは、死んだ〈悪魔〉、〈蠍〉の研究所跡に期待を掛けた。廃墟があるだけだと言うエルファンに対し、〈ケル〉と〈ベロ〉が突然、現れ、行くようにと示唆する。
その場所には、母キリファの建てた〈スー〉の家があり、〈スー〉は、キリファが自分の命と引き換えにして完成するものだと気づいていたルイフォンとエルファンは衝撃を受ける。エルファンは〈スー〉のもとへ飛んでいったが、ルイフォンは自分の目的は研究報告書を手に入れることだと、侵入作業に入った。
そして、ミンウェイがクローンであるという明確な証拠を示すものは『存在しない』という結果を得る。ミンウェイを普通の娘として育てようとしたヘイシャオが、証拠となるようなものを一切残さなかったのだ。
呆然とするルイフォンに、ミンウェイが「ヘイシャオと〈七つの大罪〉とのやり取りの記録を見れば、私がクローンなのは明らか。でも、『私は大丈夫。傷つかない』とリュイセンに伝えれば、それでリュイセンは解放されるはず」と言う。自分は空回りしていたと自嘲するルイフォンに、ミンウェイは「こんなことが言えるようになったのは、あなたのおかげ」と叱りながら笑った。
その帰り、メイシアから菖蒲の館での事態急変を知らせを受ける。今晩、決着をつけると、鷹刀一族の屋敷に戻ってすぐに、作戦会議が開かれた。
『リュイセンを味方に戻し、〈蝿〉を討たせる』という作戦の段取りを確認するだけだと思われた会議だったが、シュアンが「ミンウェイと〈蝿〉が会わないままに、〈蝿〉に死を与えてよいのか」と問いかけ、作戦は『〈蝿〉捕獲』に変更された。また、〈蝿〉をおとなしく連行させるために、メイシアの気づいた『ミンウェイの自殺未遂がヘイシャオの自殺の理由』という情報を使うことに決まった。
しかし、リュイセンが『メイシアを助けるために〈蝿〉に逆らった罰』で反省房に入れられてしまったことで、作戦は変更を余儀なくされた。
新たな作戦として、タオロンにリュイセンを救出してもらい、メイシアのところに連れてきてもらう。そして、娘のファンルゥは、安全のためにメイシアの展望塔に移動することになった。しかし、リュイセンは既に自力で脱走しており、ファンルゥは興奮のし過ぎで疲れて寝てしまう。
ルイフォンは焦ったが、自分が遠隔操作で鍵を自在に操れることに気づき、ファンルゥの部屋の守りを固め、タオロンには急いでリュイセンを探すように頼んだ。放っておけば、リュイセンは〈蝿〉を殺し、姿を消してしまうからである。
リュイセンは、タオロンにあとのことを頼むために、ファンルゥの部屋に現れた。物音で目を覚ましたファンルゥに「二度と会えない『さよなら』なの?」と詰め寄られた彼は、逃げるように去る。だが、展望塔を目指し始めたファンルゥのことが心配で、そっと見守っていた。そして、見張りに見つかってしまった彼女を守るために背中に刃を受けてしまう。
傷を負いながらもリュイセンは展望塔の見張りを倒し、逃げようとした者も、メイシアから連絡を受けたタオロンが倒した。見張りがいなくなった出口からメイシアが出てきて、リュイセンに携帯端末を渡す。聞こえてきたミンウェイの声に、リュイセンの張り詰めていた精神の均衡が崩れ、彼は意識を失った。
リュイセンは目覚めたあと、まずはルイフォンとメイシアに謝るのが礼儀だと、ルイフォンに連絡を取る。そして、ルイフォンから、ミンウェイはとっくに秘密を知っているのだと伝えられ、憤りを覚えつつも、自分が何をすべきかを見誤ることはなく、弟分の手を取った。リュイセンは『鷹刀の後継者』として、〈蝿〉の捕獲を引き受けたのだった。
===登場人物===
鷹刀ルイフォン
凶賊鷹刀一族総帥、鷹刀イーレオの末子。十六歳。
――ということになっているが、本当は次期総帥エルファンの息子なので、イーレオの孫にあたる。
母親のキリファから、〈猫〉というクラッカーの通称を継いでいる。
端正な顔立ちであるのだが、表情のせいでそうは見えない。
長髪を後ろで一本に編み、毛先を母の形見である金の鈴と、青い飾り紐で留めている。
凶賊の一員ではなく、何にも属さない「対等な協力者〈猫〉」であることを主張し、認められている。
※「ハッカー」という用語は、本来「コンピュータ技術に精通した人」の意味であり、悪い意味を持たない。むしろ、尊称として使われている。
対して、「クラッカー」は、悪意を持って他人のコンピュータを攻撃する者を指す。
よって、本作品では、〈猫〉を「クラッカー」と表記する。
メイシア
もと貴族で、藤咲家の娘。十八歳。
ルイフォンと共に居るために、表向き死亡したことになっている。
箱入り娘らしい無知さと明晰な頭脳を持つ。
すなわち、育ちの良さから人を疑うことはできないが、状況の矛盾から嘘を見抜く。
白磁の肌、黒絹の髪の美少女。
王族の血を色濃く引くため、『最強の〈天使〉の器』としてセレイエに選ばれ、ルイフォンとの出逢いを仕組まれた。
セレイエの〈影〉であったホンシュアを通して、セレイエの『記憶』を受け取った。
[鷹刀一族]
凶賊と呼ばれる、大華王国マフィアの一族。
秘密組織〈七つの大罪〉の介入により、近親婚によって作られた「強く美しい」一族。
――と、説明されていたが、実は〈七つの大罪〉が〈贄〉として作った一族であった。
鷹刀イーレオ
凶賊鷹刀一族の総帥。六十五歳。
若作りで洒落者。
かつては〈七つの大罪〉の研究者、〈悪魔〉の〈獅子〉であった。
鷹刀エルファン
イーレオの長子。次期総帥。
ルイフォンとは親子ほど歳の離れた異母兄弟ということになっているが、実は父親。
感情を表に出すことが少ない。冷静、冷酷。
鷹刀リュイセン
エルファンの次男。イーレオの孫。十九歳。本人は知らないが、ルイフォンの異母兄にあたる。
文句も多いが、やるときはやる男。
『神速の双刀使い』と呼ばれている。
長男の兄が一族を抜けたため、エルファンの次の総帥になる予定であり、最後の総帥となる決意をした。
鷹刀ミンウェイ
母親がイーレオの娘であり、イーレオの孫娘にあたる。
――ということになっていたが、実は『父親』と思っていたヘイシャオが、不治の病の妻を『蘇生』するために作った、妻から病気の因子を取り除いたクローン。
妻が『蘇生』を拒絶し、クローンを『娘』として育てるように遺言したため、心を病んだヘイシャオに、溺愛という名の虐待を受ける羽目になってしまった。
緩やかに波打つ長い髪と、豊満な肉体を持つ絶世の美女。ただし、本来は直毛。二十代半ばに見える。
薬草と毒草のエキスパート。医師免状も持っている。
かつて〈ベラドンナ〉という名の毒使いの暗殺者として暗躍していた。
現在は、鷹刀一族の屋敷を切り盛りしている。
草薙チャオラウ
イーレオの護衛にして、ルイフォンの武術師範。
無精髭を弄ぶ癖がある。
キリファ
ルイフォンの母。四年前に当時の国王シルフェンに首を落とされて死亡。
天才クラッカー〈猫〉。
〈七つの大罪〉の〈悪魔〉、〈蠍〉に〈天使〉にされた。
また〈蠍〉に右足首から下を斬られたため、歩行は困難だった。
もとエルファンの愛人で、セレイエとルイフォンを産んだ。
ただし、イーレオ、ユイランと結託して、ルイフォンがエルファンの息子であることを隠していた。
ルイフォンに『手紙』と称し、人工知能〈スー〉のプログラムを託した。
〈ケル〉〈ベロ〉〈スー〉
キリファが作った三台の兄弟コンピュータ。
表向きは普通のスーパーコンピュータだが、それは張りぼて。本体は〈七つの大罪〉の技術により、人間の記憶を利用して作られた光の珠である。
『〈天使〉の力の源である〈冥王〉を破壊するためのもの』であるらしい。
〈ベロ〉の人格は、シャオリエのオリジナル『パイシュエ』である。
〈ケル〉は、キリファの親友といってもよい間柄である。
〈スー〉は、ルイフォンがキリファの『手紙』を正確に打ち込まないと出てこないのだが、所在は、もと〈蠍〉の研究所にあることが分かっている。また、キリファの人格を持っていると推測されている。
セレイエ
エルファンとキリファの娘。
表向きは、ルイフォンの異父姉となっているが、同父母姉である。
リュイセンにとっては、異母姉になる。
生まれながらの〈天使〉。
王族のヤンイェンと恋仲になり、ライシェンという〈神の御子〉を産んだ。
先王シルフェンにライシェンを殺されたため、「ルイフォンの中に封じた、ライシェンの『記憶』」と「〈蝿〉に作らせた『肉体』」を使って、ライシェンを生き返らせる計画――『デヴァイン・シンフォニア計画』を企てた。
ただし、セレイエ本人は、ライシェンの記憶を手に入れるために〈天使〉の力を使い尽くし、あとのことは〈影〉のホンシュアに託した。
『最強の〈天使〉』となり得るメイシアを選び、ルイフォンと引き合わせた。
メイシアのペンダントの元の持ち主で、『目印』としてメイシアに渡した。
パイシュエ
イーレオ曰く、『俺を育ててくれた女』。
故人。鷹刀一族を〈七つの大罪〉の支配から解放するために〈悪魔〉となり、その身を犠牲にして未来永劫、一族を〈贄〉にせずに済む細工を施した。
自分の死後、一族を率いていくことになるイーレオを助けるために、シャオリエという〈影〉を遺した。
また、どこかに残されていた彼女の『記憶』を使い、キリファは〈ベロ〉を作った。
すなわち、パイシュエというひとりの人間から、『シャオリエ』と〈ベロ〉が作られている。
[〈七つの大罪〉・他]
〈七つの大罪〉
現代の『七つの大罪』=『新・七つの大罪』を犯す『闇の研究組織』。
実は、王の私設研究機関。
王家に、王になる資格を持つ〈神の御子〉が生まれないとき、『過去の王のクローンを作り、王家の断絶を防ぐ』という役割を担っている。
〈悪魔〉
知的好奇心に魂を売り渡した研究者を〈悪魔〉と呼ぶ。
〈悪魔〉は〈神〉から名前を貰い、潤沢な資金と絶対の加護、蓄積された門外不出の技術を元に、更なる高みを目指す。
代償は体に刻み込まれた『契約』。――王族の『秘密』を口にすると死ぬという、〈天使〉による脳内介入を受けている。
『契約』
〈悪魔〉が、王族の『秘密』を口外しないように施される脳内介入。
記憶の中に刻まれるため、〈七つの大罪〉とは縁を切ったイーレオも、『契約』に縛られている。
また、〈悪魔〉であったセレイエの記憶を受け継いだメイシアや、パイシュエの記憶を使って作られた〈ベロ〉も、『契約』に縛られている。
〈天使〉
『記憶の書き込み』ができる人体実験体。
脳内介入を行う際に、背中から光の羽を出し、まるで天使のような姿になる。
〈天使〉とは、脳という記憶装置に、記憶や命令を書き込むオペレーター。いわば、人間に侵入して相手を乗っ取るクラッカー。
羽は、〈天使〉と侵入対象の人間との接続装置であり、限度を超えて酷使すれば熱暴走を起こす。
〈影〉
〈天使〉によって、脳を他人の記憶に書き換えられた人間。
体は元の人物だが、精神が別人となる。
『呪い』・便宜上、そう呼ばれているもの
〈天使〉の脳内介入によって受ける影響、被害といったもの。悪魔の『契約』も『呪い』の一種である。
服従が快楽と錯覚するような他人を支配する命令や、「パパがチョコを食べていいと言った」という他愛のない嘘の記憶まで、いろいろである。
『di;vine+sin;fonia デヴァイン・シンフォニア計画』
セレイエによる、殺された息子ライシェンを生き返らせるための計画。
『di』は、『ふたつ』を意味する接頭辞。『vine』は、『蔓』。
つまり、『ふたつの蔓』――転じて、『二重螺旋』『DNAの立体構造』――『命』の暗喩。
『sin』は『罪』。『fonia』は、ただの語呂合わせ。
これらの意味を繋ぎ合わせて『命に対する冒涜』と、ホンシュアは言った。
ヘイシャオ
〈七つの大罪〉の〈悪魔〉、〈蝿〉。ミンウェイの『父親』。故人。
医者で暗殺者。
病弱な妻のために〈悪魔〉となった。
妻の遺言により、妻の蘇生のために作ったクローン体を『娘』として育てていくうちに心を病んでいった。
十数年前に、娘のミンウェイを連れて現れ、自殺のようなかたちでエルファンに殺された。
現在の〈蝿〉
セレイエが『ライシェン』を作らせるために、蘇らせたヘイシャオ。
セレイエに吹き込まれた嘘のせいで、イーレオの命を狙ってきた。
妻の遺言により、『生を享けた以上、生をまっとうする』と言って、異常なまでに『生』に執着している。
ホンシュア
殺されたライシェンの侍女であり、自害するくらいならとセレイエの〈影〉となって『デヴァイン・シンフォニア計画』に協力した。体は〈天使〉化してあった。
〈影〉にされたメイシアの父親に、死ぬ前だけでも本人に戻れるような細工をしたため、体が限界を超え、熱暴走を起こして死亡。
メイシアにセレイエの記憶を潜ませ、鷹刀に行くように仕向けた、いわば発端を作った人物である。
〈蛇〉
セレイエの〈悪魔〉としての名前。
〈蝿〉が、セレイエの〈影〉であるホンシュアを〈蛇〉と呼んでいたため、ホンシュアを指すこともある。
ライシェン
殺されたセレイエの息子の名前。
〈神の御子〉だった。
斑目タオロン
よく陽に焼けた浅黒い肌に、意思の強そうな目をした斑目一族の若い衆。
堂々たる体躯に猪突猛進の性格。
二十四歳だが、童顔ゆえに、二十歳そこそこに見られる。
〈蝿〉の部下となっていたが、娘のファンルゥに着けられていた毒針の腕輪が嘘だと分かり、ルイフォンたちの味方になった。
斑目ファンルゥ
タオロンの娘。四、五歳くらい。
くりっとした丸い目に、ぴょんぴょんとはねた癖っ毛が愛らしい。
[藤咲家・他]
藤咲ハオリュウ
メイシアの異母弟。十二歳。
父親を亡くしたため、若年ながら藤咲家の当主を継いだ。
十人並みの容姿に、子供とは思えない言動。いずれは一角の人物になると目される。
異母姉メイシアを自由にするために、表向き死亡したことにしたのは彼である。
女王陛下の婚礼衣装制作に関して、草薙レイウェンと提携を決めた。
緋扇シュアン
『狂犬』と呼ばれるイカレ警察隊員。三十路手前程度。イーレオには『野犬』と呼ばれた。
ぼさぼさに乱れまくった頭髪、隈のできた血走った目、不健康そうな青白い肌をしている。
凶賊の抗争に巻き込まれて家族を失っており、凶賊を恨んでいる。
凶賊を殲滅すべく、情報を求めて鷹刀一族と手を結んだ。
敬愛する先輩が〈蝿〉の手に堕ちてしまい、自らの手で射殺した。
似た境遇に遭ったハオリュウに庇護欲を感じ、彼に協力することにした。
[王家・他]
シルフェン
先王。四年前、腹心だった甥のヤンイェンに殺害された。
〈神の御子〉に恵まれなかった先々王が〈七つの大罪〉に作らせた『過去の王のクローン』である。
ヤンイェン
先王の甥。女王の婚約者。
実は先王が〈神の御子〉を求めて姉に産ませた隠し子で、女王アイリーや摂政カイウォルの異母兄弟に当たる。
〈七つの大罪〉の〈悪魔〉だったセレイエと恋仲になり、ライシェンが生まれた。
しかし、〈神の御子〉であったライシェンは殺され、その復讐として先王を殺害した。
メイシアの再従兄妹にあたる。
[繁華街]
シャオリエ
高級娼館の女主人。年齢不詳。
外見は嫋やかな美女だが、中身は『姐さん』。
実は〈影〉であり、イーレオを育てた、パイシュエという人物の記憶を持つ。
===大華王国について===
黒髪黒目の国民の中で、白金の髪、青灰色の瞳を持つ王が治める王国である。
身分制度は、王族、貴族、平民、自由民に分かれている。
また、暴力的な手段によって団結している集団のことを凶賊と呼ぶ。彼らは平民や自由民であるが、貴族並みの勢力を誇っている。