23.力尽くでも
「どうしたらいい。どうすれば」
考えるんだ。考えるしか無い。
時間は三十分しかない。その中で出来る事をするしかない。
どうして何度繰り返しても同じ結果になってしまうのか。その理由がわからなかった。
穂花が外に出てしまうからだろうか。穂花を家の中に閉じ込めたままにしておけば、穂花は事故に遭う事はないかもしれない。
あるいはもっと強く抱きしめ続ければよかったのだろうか。
手放すつもりはなかった。だけどそうできなかった。どうして力を緩めてしまったのだろうか。
思わず告白してそれに返事がもらえた。その事に驚いてしまった。だから力が緩まってしまった。
それはわかる。わかるのだけど、でもそれまでは何があっても離さないつもりでいた。絶対に離さないと思っていた。それなのにほんの少し緩んだ瞬間に、穂花は俺の手の中から抜け出していた。
どうしてそんなことが起きたのかわからなかったた。
もういちど繰り返して、強く抱きしめて離さなければ大丈夫なのだろうか。今度は告白した結果がどうなるかも理解している。だから驚いて力が抜けるなんて事もないはずだ。
だけど力を緩めないと思っていたはずなのに、なぜそうなってしまったのか。
わからない。だけど長い時間考えている時間もない。
とにかく動き始めなければ、その場に向かう事すら出来ない。惰性のように穂花の家へ向かう。
考えはまとまっていなかった。だけど何もしないわけにもいかなかった。
穂花はちょうど家を出ようとしているところだった。
「あれ、たかくん。どうしたの」
穂花はいつも通りのふんわりとした表情を浮かべて、俺へと微笑みかけてくる。
さきほどと変わらない微笑み。何度も繰り返してみた笑顔。
「オーディションにでるのをやめてくれ」
俺はまるで威圧するかのような表情で穂花を通させないようにする。
ほとんど無意識のうちに言葉を発していた。どこか怒りすら覚えていた。
誰に対する怒りなのかはわからない。穂花に対するものではない。
なら何に。何度繰り返しても事故にあう運命に? いや。俺は運命なんて信じない。
なら何に。ふがいのない自分自身に。
俺は心の中で深くため息をもらして、それでもこの怒りを未来を変える力にしようと振り絞る。
考えはまとまらない。だから今度はこの強い怒りを動力に、穂花を止めようと思った。
「どうしたの。怖いよ、たかくん」
穂花は俺が何をしようとしているのか、わからないようだった。
俺の様子に少しおびえたような表情すら見せる。こんな俺は確かに見せた事がなかったかもしれない。
いつもろくでもない事をいいながらも笑っている。それが俺のはずだった。
でも今はただ鬼のような表情で、穂花を睨むようにして道を防いでいた。
「悪いが穂花をオーディションに行かせる訳にはいかなくなったんだ」
俺は穂花の前に立ちふさがる。
この先にはいかせない。絶対に。
心の中で思う。
穂花はどこにも行かせる訳にはいかないんだ。遠い場所になんて行かせない。
だけど俺のそんな気持ちは穂花には届かない。届くはずもない。
「……なんで。たかくん応援してくれたじゃない。たかくんのおかげで、私、勇気を出せたんだよ。そのたかくんが、なんでそんなことを言うの」
穂花の言葉にはどこか怒りすら含んでいるようだった。
俺の怒りが伝わってしまっているのだろうか。いま向けられている穂花の怒りは、いつもの俺のおちゃらけに対する態度とは明らかに異なっていた。
穂花は本気で怒りを覚えている。あの時、あんな風に応援しておきながら、その瞬間になって邪魔をしようとしている俺に対して。
もしかしたらこれで嫌われてしまったかもしれない。今の穂花にしてみれば、いざ本番の前になって突然に豹変した男だ。怒りを覚えるのは当然の事だろう。嫌われない方がおかしいかもしれない。
でもそれでもいい。穂花がいなくなるのに比べたら、大した事じゃない。
俺がいましようとしている事は穂花にとっては許せない事だろう。ずっと願ってきた夢を応援しておきながら、その時になって急に反対する奴だなんて、きっと穂花に嫌われてしまうだろう。
それでもいい。穂花がいなくなる事にくらべたら、ずっと救われる。
力尽くでもオーディションに行かせない。もう俺に残された手段はそれしかない。
強制的に駅に行かせなかければ事故には遭わないはずだ。
「理由は言えない。言ってもわかってもらえないと思う。でもどうしても穂花をオーディションに行かせる訳にはいかないんだ」
俺は時間を戻す事が出来る。穂花はこのままだと事故にあって死ぬ。そんなことを言ったとしても信じてはもらえないだろう。頭がおかしくなったと思われるのがオチだ。
今は理解してもらう必要なんてなかった。
とにかく今はまず事故を防ぐ。駅にさえ近寄らせなければもう平気なはずだ。
俺は必死に穂花の行く手をさえぎる。駅にさえ近づかなければ駅前であの車にひかれることはないはずだ。
考えるんだ。考えるしか無い。
時間は三十分しかない。その中で出来る事をするしかない。
どうして何度繰り返しても同じ結果になってしまうのか。その理由がわからなかった。
穂花が外に出てしまうからだろうか。穂花を家の中に閉じ込めたままにしておけば、穂花は事故に遭う事はないかもしれない。
あるいはもっと強く抱きしめ続ければよかったのだろうか。
手放すつもりはなかった。だけどそうできなかった。どうして力を緩めてしまったのだろうか。
思わず告白してそれに返事がもらえた。その事に驚いてしまった。だから力が緩まってしまった。
それはわかる。わかるのだけど、でもそれまでは何があっても離さないつもりでいた。絶対に離さないと思っていた。それなのにほんの少し緩んだ瞬間に、穂花は俺の手の中から抜け出していた。
どうしてそんなことが起きたのかわからなかったた。
もういちど繰り返して、強く抱きしめて離さなければ大丈夫なのだろうか。今度は告白した結果がどうなるかも理解している。だから驚いて力が抜けるなんて事もないはずだ。
だけど力を緩めないと思っていたはずなのに、なぜそうなってしまったのか。
わからない。だけど長い時間考えている時間もない。
とにかく動き始めなければ、その場に向かう事すら出来ない。惰性のように穂花の家へ向かう。
考えはまとまっていなかった。だけど何もしないわけにもいかなかった。
穂花はちょうど家を出ようとしているところだった。
「あれ、たかくん。どうしたの」
穂花はいつも通りのふんわりとした表情を浮かべて、俺へと微笑みかけてくる。
さきほどと変わらない微笑み。何度も繰り返してみた笑顔。
「オーディションにでるのをやめてくれ」
俺はまるで威圧するかのような表情で穂花を通させないようにする。
ほとんど無意識のうちに言葉を発していた。どこか怒りすら覚えていた。
誰に対する怒りなのかはわからない。穂花に対するものではない。
なら何に。何度繰り返しても事故にあう運命に? いや。俺は運命なんて信じない。
なら何に。ふがいのない自分自身に。
俺は心の中で深くため息をもらして、それでもこの怒りを未来を変える力にしようと振り絞る。
考えはまとまらない。だから今度はこの強い怒りを動力に、穂花を止めようと思った。
「どうしたの。怖いよ、たかくん」
穂花は俺が何をしようとしているのか、わからないようだった。
俺の様子に少しおびえたような表情すら見せる。こんな俺は確かに見せた事がなかったかもしれない。
いつもろくでもない事をいいながらも笑っている。それが俺のはずだった。
でも今はただ鬼のような表情で、穂花を睨むようにして道を防いでいた。
「悪いが穂花をオーディションに行かせる訳にはいかなくなったんだ」
俺は穂花の前に立ちふさがる。
この先にはいかせない。絶対に。
心の中で思う。
穂花はどこにも行かせる訳にはいかないんだ。遠い場所になんて行かせない。
だけど俺のそんな気持ちは穂花には届かない。届くはずもない。
「……なんで。たかくん応援してくれたじゃない。たかくんのおかげで、私、勇気を出せたんだよ。そのたかくんが、なんでそんなことを言うの」
穂花の言葉にはどこか怒りすら含んでいるようだった。
俺の怒りが伝わってしまっているのだろうか。いま向けられている穂花の怒りは、いつもの俺のおちゃらけに対する態度とは明らかに異なっていた。
穂花は本気で怒りを覚えている。あの時、あんな風に応援しておきながら、その瞬間になって邪魔をしようとしている俺に対して。
もしかしたらこれで嫌われてしまったかもしれない。今の穂花にしてみれば、いざ本番の前になって突然に豹変した男だ。怒りを覚えるのは当然の事だろう。嫌われない方がおかしいかもしれない。
でもそれでもいい。穂花がいなくなるのに比べたら、大した事じゃない。
俺がいましようとしている事は穂花にとっては許せない事だろう。ずっと願ってきた夢を応援しておきながら、その時になって急に反対する奴だなんて、きっと穂花に嫌われてしまうだろう。
それでもいい。穂花がいなくなる事にくらべたら、ずっと救われる。
力尽くでもオーディションに行かせない。もう俺に残された手段はそれしかない。
強制的に駅に行かせなかければ事故には遭わないはずだ。
「理由は言えない。言ってもわかってもらえないと思う。でもどうしても穂花をオーディションに行かせる訳にはいかないんだ」
俺は時間を戻す事が出来る。穂花はこのままだと事故にあって死ぬ。そんなことを言ったとしても信じてはもらえないだろう。頭がおかしくなったと思われるのがオチだ。
今は理解してもらう必要なんてなかった。
とにかく今はまず事故を防ぐ。駅にさえ近寄らせなければもう平気なはずだ。
俺は必死に穂花の行く手をさえぎる。駅にさえ近づかなければ駅前であの車にひかれることはないはずだ。