第28話 鈴代小隊奮戦す
新設された鈴代ちゃんの小隊と、天使氏とで模擬戦をやる事になった。
生き残った基地職員達への娯楽提供、鈴代ちゃんの部隊運用の練習、運動不足の天使の鬱憤ばらし、まぁ色々と理由はあるけど要は『お祭り』だ。
ルールは簡単、ペイント弾が当たった機体は即その場から退場。但し6対1という変則バトルなので、天使側は2発まで被弾が許され、3発目の命中で撃墜とする。
こちらは同士討ちありで、味方の弾が当たっても撃墜扱いで退場となる。
近接武装は威力を最弱にした電磁バトンのみ。まぁ前回の模擬戦と大体同じだ。
盾を含む副腕への武装は許可されなかった。従って、今回の俺は完全に解説役。俺様の華麗な盾捌きが披露できずに残念だ。
輝甲兵が手に持っている装備は鈴代ちゃんがお得意の短機関銃、他は天使も含めて全員が突撃銃だ。
鈴代ちゃんが物凄く緊張した顔をしている。普通に考えれば6対1なのだから一方的に勝てるはずだ。
しかし相手は東亜連邦のみならず地球連合全体のトップエース、一筋縄ではいかないだろう。
言うなれば『渡辺さん並みの射撃センスを持った香奈さん』といった所か。ふむ、言っててナンだが勝てる気がしないな。
横に居る俺がひしひしと感じているプレッシャーは鈴代ちゃん本人からすればどれだけの物だろう?
「αより各機へ。敵を天使だと思わず長谷川大尉のつもりで気負わず攻撃して下さい。相手は特機じゃありません、我々は… 勝てます!」
まるで自分に言い聞かせるように隊員達に檄を飛ばす鈴代ちゃん。当て馬にされた長谷川さんは気の毒だが、鈴代ちゃん本人の緊張も少し解れたようだ。
ちなみにαってのは鈴代小隊の隊内コードネームで、ギリシャ文字のアルファからゼータの6文字を個々人に割り振った物らしい。
誰がどのコードなのかは俺には紹介されてないから分からない。
「その調子だ隊長、β了解」 落ち着いた男の声。
「γ了解だ!」 豪快そうな太い男の声。
「∂了解です」 上品そうな女の声。
「ε了解!」 元気が余っている感じの若い男の声。
「ぜ、ζ了解です…」 気弱そうな女の声。
俺にはどれが誰だか分からんが、まぁそのうち慣れるだろ。
「各機へ。試合開始と同時に一斉射撃を敢行します。但し、各自私の指示する方向に照準を機体ひとつ分ずらして下さい」
鈴代ちゃんはそう言って、部下5人の各々に上下左右中央への散布射撃の指示を出した。
3発当てればこちらの勝ちなのだから、とにかく弾をバラ撒く戦術は正しい。
試合開始のブザーが鳴る。隊内トーナメントをやったのがエラく昔に思えるな……。
鈴代ちゃんの指示通り、天使の周囲に網を掛けるように弾幕が張られる。天使はバックしつつこちらと距離を取りながら、くるりと右回転をして位置をずらすが、まだそこは弾幕の範囲内だった。
天使の機体の右膝にペイントが弾ける、まずは一発。
しかし、こちらも天使の回転してからの素早い射撃で1機が倒されていた。
「ぜ、ζ桑原、離脱します。スミマセン…」
例の気弱な女の子が撃墜されたようだ。でもまぁこちらの残機は5、向こうは2だ。ζ子ちゃんには悪いが、幸先の良いスタートと言えるだろう。
初手は相手の機動を読み勝った鈴代ちゃんだが、相手も人類のトップエース。易々と勝たせてはもらえそうに無い。
天使はバレエダンサーの様に、くるくると回転しながら螺旋を描く形で上昇する。
「バカにして…」
鈴代ちゃんが呟く、あれはやっぱり挑発してるのか。そうだよな、上昇するなら普通に一直線にやればいいだけだもんな。
「各員、散布射撃を続行、但し機体2つ分ずらして」
先程落とされたζ子の散布担当区域は鈴代ちゃんが行うようだ。
鈴代ちゃん、余裕なさそうだな。よし、ここは俺が小粋なロボジョークでリラックスさせてやろう……。
「ε被弾しました! 離脱します!」
って、ありゃ、もう2機目が落ちちゃったよ。天使はロボジョークを言う暇すら与えてはくれないのか。
しかし相手もさすがの手練だ。こちらの弱そうな部分をあっと言う間に見抜いて、即座に撃ち落としてくる。
撃墜されればそれだけこちらの散布射撃の範囲が狭まる。どんどんジリ貧になっていくだけだが、打開策は有るのかな?
「甲作戦中止。これより乙作戦に変更します」
鈴代ちゃんの声には緊張こそあるが、焦りは見受けられない。冷静に対処出来ているのだろう。
鈴代ちゃんの命令を受けて4機が縦一列に並び天使に突撃する。
お? これってまさかのジェットストリ◯ムアタックか?!
先頭の30式が突撃銃を乱射するも、天使は華麗に右に回避、反撃で先頭の30式をペイント塗れにする。
その刹那、列の2番目の30式が右に飛び出し、先頭機体に射撃する天使の脚に、ラグビーのタックルよろしくガッチリと組み付いた。
え? これって反則じゃないの? 鈴代ちゃんのアイデアだとしたら、さすがの反則女王だな。本人に言ったら殴られそう…。
先頭から3機目の24式が、拘束された天使に一斉射撃を浴びせる。
しかし、天使はイレギュラーな攻撃に怯む様子も見せずに、器用にも体を後方に仰け反らせ、己を拘束した30式を盾にした。
敵を盾にするとか、シャトル攻防戦の時の鈴代ちゃんの機動を意識した様な動きだ。
24式の銃弾は、天使の脚を掴んだままの2番目の30式に当たり、ルールにより2番目の30式も退場。
列の最後尾にいた鈴代ちゃんは下に回り込み天使の死角に入る。
下(天使からは後方)からの斉射に一瞬だけ反応が遅れた天使の背中に1発だが命中弾があった。これで相手の残機は1だ。
下から鈴代ちゃんに攻められた天使は上方向に逃げるしか無い。そして逃げた先に向かって24式が再び突撃銃を乱射する。
すると天使は先程盾にした、離脱する前の30式を踏みつけて、勢いを付けたジャンプで速度を増し、上方への逃走に成功する。マジで香奈さんみたいな反応しやがるわ。
「なにぃっ? 俺を踏み台にした?!」
そうそう、そのセリフが聞きたかったんだ。ナイスだぞ、2番目の人。
そして天使は上昇しながら銃を斉射、3番目の24式も撃墜された。
「β離脱する」
「γも離脱だ。あと少しだぞ。頑張れよ!」
「∂もやられましたぁ。後を頼みます、鈴代隊長…」
一気に3機を落とされて、これで名実ともに1対1。
お互いに距離を取り、仕切り直しの位置取りをする。
「…予想以上に頑張るねぇ」
天使から通信が入る。
「そちらこそ6機相手に、どうすればそこまで粘れるのかお聞きしたいですよ」
鈴代ちゃんの返答は挑発と賞賛が半々という感じか。ここまでの印象だと天使の技量は香奈さんと遜色ないものと言えるだろう。
この世界にはあと何人こんな化物がいるんだよ…?
「…先日のピンキーちゃんが5機相手に頑張ってたからね。俺も頑張りたくなったのよ」
なるほど、5機を相手した鈴代ちゃんへの対抗意識で6対1を提案したのか。なかなか可愛い所のある兄ちゃんじゃないか。
1対1で対面し緊張感が張り詰める。さながら西部劇の決闘シーンの様だ。
恐らくは次の機動で完全に勝負は決着するだろう。今からしばらくの間、瞬き禁止、息継ぎ禁止だぞ。
鈴代ちゃんが動こうとした瞬間に、突如上空から大音量で勇ましい音楽が鳴り響いた。
ジャーンジャーン ズッチャカラッチャ ズッチャッチャッチャッチャッ!!
…えーと、えーと、聞き覚えのある音楽で、軍歌で… そう! この曲は『軍艦マーチ』だ。
俺より上の世代なら、昔のパチンコ屋とかでよく流されていたらしいので、かなりポピュラーな軍歌だろう。
「これは『軍艦マーチ』? なぜそんな中世期の曲が…?」
鈴代ちゃんも『軍艦マーチ』知ってるのか。そうか、その辺までは俺らの世界と同じ歴史なんだもんな。
すっかり水を差されて気合の抜けた天使と鈴代ちゃんが、音源と見られる上空を仰ぎ見る。
雲の切れ間から巨大な塊が降下してきた。恐らくは宇宙船だ。ざっと600メートル近い大きさがある。
船は行進曲を鳴らしたまま、高度5000メートル程で動きを止め滞空する。ところどころキラキラと輝いているのは輝甲兵のメカニズムを宇宙船に流用しているのだろうか?
「…あれは『すざく』か…?」
天使が1人呟く。
「田中中尉、あれを御存知なのですか?」
「…ああ、噂程度にはな。あれは軍の最新鋭の、輝甲兵用の空母と揚陸艦を混ぜた様な代物で、幽炉とスペクトニウムで動く、あれ自体がデカい輝甲兵みたいなもんだ」
『すざく』と呼ばれた宇宙船、いや戦艦は音楽をフェードアウトさせ、その両舷が蓋を開けるように展開した。そこからワラワラと20機ほどの、若草色に塗られた輝甲兵が出てくる。見た限り全て30式だ。
そのうちの1機は両手に持った大きな旗を、上空の強い風に力強くはためいてかせていた。旗の中央にはこれまた大きな菊の御紋が描かれている。
彼らは綺麗に整列する。上空から差し込む太陽光が、さながら黙示録の天使の軍団の様相を演出する。
「…本土モグラの近衛隊の連中がなぜ地球に…?」
天使の呟きが今の状況の異常さを物語っていた。
やがて代表者なのか、1機の輝甲兵が1歩前に歩み(飛び?)出る。
「大連(ダーリェン)基地の諸君! 我々は本土防衛第3近衛連隊である。諸君らには現在『国家反逆罪』の疑いがかけられている。無駄な抵抗はやめ、全員大人しく縛につき、裁きを受けて頂く!」
Oh… こいつぁ幾ら何でもあんまりな展開じゃねーの…?
生き残った基地職員達への娯楽提供、鈴代ちゃんの部隊運用の練習、運動不足の天使の鬱憤ばらし、まぁ色々と理由はあるけど要は『お祭り』だ。
ルールは簡単、ペイント弾が当たった機体は即その場から退場。但し6対1という変則バトルなので、天使側は2発まで被弾が許され、3発目の命中で撃墜とする。
こちらは同士討ちありで、味方の弾が当たっても撃墜扱いで退場となる。
近接武装は威力を最弱にした電磁バトンのみ。まぁ前回の模擬戦と大体同じだ。
盾を含む副腕への武装は許可されなかった。従って、今回の俺は完全に解説役。俺様の華麗な盾捌きが披露できずに残念だ。
輝甲兵が手に持っている装備は鈴代ちゃんがお得意の短機関銃、他は天使も含めて全員が突撃銃だ。
鈴代ちゃんが物凄く緊張した顔をしている。普通に考えれば6対1なのだから一方的に勝てるはずだ。
しかし相手は東亜連邦のみならず地球連合全体のトップエース、一筋縄ではいかないだろう。
言うなれば『渡辺さん並みの射撃センスを持った香奈さん』といった所か。ふむ、言っててナンだが勝てる気がしないな。
横に居る俺がひしひしと感じているプレッシャーは鈴代ちゃん本人からすればどれだけの物だろう?
「αより各機へ。敵を天使だと思わず長谷川大尉のつもりで気負わず攻撃して下さい。相手は特機じゃありません、我々は… 勝てます!」
まるで自分に言い聞かせるように隊員達に檄を飛ばす鈴代ちゃん。当て馬にされた長谷川さんは気の毒だが、鈴代ちゃん本人の緊張も少し解れたようだ。
ちなみにαってのは鈴代小隊の隊内コードネームで、ギリシャ文字のアルファからゼータの6文字を個々人に割り振った物らしい。
誰がどのコードなのかは俺には紹介されてないから分からない。
「その調子だ隊長、β了解」 落ち着いた男の声。
「γ了解だ!」 豪快そうな太い男の声。
「∂了解です」 上品そうな女の声。
「ε了解!」 元気が余っている感じの若い男の声。
「ぜ、ζ了解です…」 気弱そうな女の声。
俺にはどれが誰だか分からんが、まぁそのうち慣れるだろ。
「各機へ。試合開始と同時に一斉射撃を敢行します。但し、各自私の指示する方向に照準を機体ひとつ分ずらして下さい」
鈴代ちゃんはそう言って、部下5人の各々に上下左右中央への散布射撃の指示を出した。
3発当てればこちらの勝ちなのだから、とにかく弾をバラ撒く戦術は正しい。
試合開始のブザーが鳴る。隊内トーナメントをやったのがエラく昔に思えるな……。
鈴代ちゃんの指示通り、天使の周囲に網を掛けるように弾幕が張られる。天使はバックしつつこちらと距離を取りながら、くるりと右回転をして位置をずらすが、まだそこは弾幕の範囲内だった。
天使の機体の右膝にペイントが弾ける、まずは一発。
しかし、こちらも天使の回転してからの素早い射撃で1機が倒されていた。
「ぜ、ζ桑原、離脱します。スミマセン…」
例の気弱な女の子が撃墜されたようだ。でもまぁこちらの残機は5、向こうは2だ。ζ子ちゃんには悪いが、幸先の良いスタートと言えるだろう。
初手は相手の機動を読み勝った鈴代ちゃんだが、相手も人類のトップエース。易々と勝たせてはもらえそうに無い。
天使はバレエダンサーの様に、くるくると回転しながら螺旋を描く形で上昇する。
「バカにして…」
鈴代ちゃんが呟く、あれはやっぱり挑発してるのか。そうだよな、上昇するなら普通に一直線にやればいいだけだもんな。
「各員、散布射撃を続行、但し機体2つ分ずらして」
先程落とされたζ子の散布担当区域は鈴代ちゃんが行うようだ。
鈴代ちゃん、余裕なさそうだな。よし、ここは俺が小粋なロボジョークでリラックスさせてやろう……。
「ε被弾しました! 離脱します!」
って、ありゃ、もう2機目が落ちちゃったよ。天使はロボジョークを言う暇すら与えてはくれないのか。
しかし相手もさすがの手練だ。こちらの弱そうな部分をあっと言う間に見抜いて、即座に撃ち落としてくる。
撃墜されればそれだけこちらの散布射撃の範囲が狭まる。どんどんジリ貧になっていくだけだが、打開策は有るのかな?
「甲作戦中止。これより乙作戦に変更します」
鈴代ちゃんの声には緊張こそあるが、焦りは見受けられない。冷静に対処出来ているのだろう。
鈴代ちゃんの命令を受けて4機が縦一列に並び天使に突撃する。
お? これってまさかのジェットストリ◯ムアタックか?!
先頭の30式が突撃銃を乱射するも、天使は華麗に右に回避、反撃で先頭の30式をペイント塗れにする。
その刹那、列の2番目の30式が右に飛び出し、先頭機体に射撃する天使の脚に、ラグビーのタックルよろしくガッチリと組み付いた。
え? これって反則じゃないの? 鈴代ちゃんのアイデアだとしたら、さすがの反則女王だな。本人に言ったら殴られそう…。
先頭から3機目の24式が、拘束された天使に一斉射撃を浴びせる。
しかし、天使はイレギュラーな攻撃に怯む様子も見せずに、器用にも体を後方に仰け反らせ、己を拘束した30式を盾にした。
敵を盾にするとか、シャトル攻防戦の時の鈴代ちゃんの機動を意識した様な動きだ。
24式の銃弾は、天使の脚を掴んだままの2番目の30式に当たり、ルールにより2番目の30式も退場。
列の最後尾にいた鈴代ちゃんは下に回り込み天使の死角に入る。
下(天使からは後方)からの斉射に一瞬だけ反応が遅れた天使の背中に1発だが命中弾があった。これで相手の残機は1だ。
下から鈴代ちゃんに攻められた天使は上方向に逃げるしか無い。そして逃げた先に向かって24式が再び突撃銃を乱射する。
すると天使は先程盾にした、離脱する前の30式を踏みつけて、勢いを付けたジャンプで速度を増し、上方への逃走に成功する。マジで香奈さんみたいな反応しやがるわ。
「なにぃっ? 俺を踏み台にした?!」
そうそう、そのセリフが聞きたかったんだ。ナイスだぞ、2番目の人。
そして天使は上昇しながら銃を斉射、3番目の24式も撃墜された。
「β離脱する」
「γも離脱だ。あと少しだぞ。頑張れよ!」
「∂もやられましたぁ。後を頼みます、鈴代隊長…」
一気に3機を落とされて、これで名実ともに1対1。
お互いに距離を取り、仕切り直しの位置取りをする。
「…予想以上に頑張るねぇ」
天使から通信が入る。
「そちらこそ6機相手に、どうすればそこまで粘れるのかお聞きしたいですよ」
鈴代ちゃんの返答は挑発と賞賛が半々という感じか。ここまでの印象だと天使の技量は香奈さんと遜色ないものと言えるだろう。
この世界にはあと何人こんな化物がいるんだよ…?
「…先日のピンキーちゃんが5機相手に頑張ってたからね。俺も頑張りたくなったのよ」
なるほど、5機を相手した鈴代ちゃんへの対抗意識で6対1を提案したのか。なかなか可愛い所のある兄ちゃんじゃないか。
1対1で対面し緊張感が張り詰める。さながら西部劇の決闘シーンの様だ。
恐らくは次の機動で完全に勝負は決着するだろう。今からしばらくの間、瞬き禁止、息継ぎ禁止だぞ。
鈴代ちゃんが動こうとした瞬間に、突如上空から大音量で勇ましい音楽が鳴り響いた。
ジャーンジャーン ズッチャカラッチャ ズッチャッチャッチャッチャッ!!
…えーと、えーと、聞き覚えのある音楽で、軍歌で… そう! この曲は『軍艦マーチ』だ。
俺より上の世代なら、昔のパチンコ屋とかでよく流されていたらしいので、かなりポピュラーな軍歌だろう。
「これは『軍艦マーチ』? なぜそんな中世期の曲が…?」
鈴代ちゃんも『軍艦マーチ』知ってるのか。そうか、その辺までは俺らの世界と同じ歴史なんだもんな。
すっかり水を差されて気合の抜けた天使と鈴代ちゃんが、音源と見られる上空を仰ぎ見る。
雲の切れ間から巨大な塊が降下してきた。恐らくは宇宙船だ。ざっと600メートル近い大きさがある。
船は行進曲を鳴らしたまま、高度5000メートル程で動きを止め滞空する。ところどころキラキラと輝いているのは輝甲兵のメカニズムを宇宙船に流用しているのだろうか?
「…あれは『すざく』か…?」
天使が1人呟く。
「田中中尉、あれを御存知なのですか?」
「…ああ、噂程度にはな。あれは軍の最新鋭の、輝甲兵用の空母と揚陸艦を混ぜた様な代物で、幽炉とスペクトニウムで動く、あれ自体がデカい輝甲兵みたいなもんだ」
『すざく』と呼ばれた宇宙船、いや戦艦は音楽をフェードアウトさせ、その両舷が蓋を開けるように展開した。そこからワラワラと20機ほどの、若草色に塗られた輝甲兵が出てくる。見た限り全て30式だ。
そのうちの1機は両手に持った大きな旗を、上空の強い風に力強くはためいてかせていた。旗の中央にはこれまた大きな菊の御紋が描かれている。
彼らは綺麗に整列する。上空から差し込む太陽光が、さながら黙示録の天使の軍団の様相を演出する。
「…本土モグラの近衛隊の連中がなぜ地球に…?」
天使の呟きが今の状況の異常さを物語っていた。
やがて代表者なのか、1機の輝甲兵が1歩前に歩み(飛び?)出る。
「大連(ダーリェン)基地の諸君! 我々は本土防衛第3近衛連隊である。諸君らには現在『国家反逆罪』の疑いがかけられている。無駄な抵抗はやめ、全員大人しく縛につき、裁きを受けて頂く!」
Oh… こいつぁ幾ら何でもあんまりな展開じゃねーの…?