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作者: ちありや
第12話 風雲! 模擬戦トーナメント:後編
 準決勝第1試合、2機の輝甲兵が歩み出る。
 俺達の初戦の相手は赤い機体の武藤中尉。機体の左膝の辺りにペイント弾で撃たれた痕跡が見受けられるが、被弾がそれだけと言う事は、すなわち彼女の前の試合は大した苦戦をしていない、という事だ。

 せめて彼女の前の試合をこの目で見ていたならば、鈴代ちゃんも対策の1つも立てられていただろうが、無い物をねだっても仕方がない。

「鈴代、随分太ったんじゃない? それで飛べるの?」

 武藤機から個別ブライベート通信が入る。俺が装甲板を付けまくっている為に太って見えるのだろう、嫌味っぽいだけの安い挑発だ。

「甲-四種装備は機体差のハンデですのでお気になさらず。先程の長谷川大尉も問題無く戦えていました」

 相手の挑発と心得ているのか鈴代ちゃんも無感情に返す。試合開始前からピリピリした女の戦いが始まっている、ちょっと怖い。

「ねぇ鈴代、賭けをしない? 私が勝ったらその30サンマル式を私に頂戴。お前の30サンマル式は色々不具合が多いって聞いてるよ? 私がお前よりも上手く乗りこなしてやるからさ」

「……」
 鈴代ちゃんは暫くの沈黙の後に「それは命令ですか?」と問うた。

 相手も一瞬たじろいで、「め、命令じゃないわよ。提案よ提案」と答える。答え方が少々挙動不審だ。

「ならば拒否します。賭けには興味がありませんので。…それに自分以外の人間に3071サンマルナナヒトが使いこなせるとも思えません」

「言ってくれるね… なら実力で本気を見せるしかないわね!」

 語気荒く答えた赤い武藤機が上昇する。

 プレマッチの口喧嘩は鈴代ちゃんに軍配が上がった、と言ったところか。

《何か仲悪そうだね、武藤中尉あの人と》

「…私は別に彼女には、個人的に好悪の感情は抱いてないし、操者としても小隊長としても水準以上の力があるとは思っているわ。ただ…」

《ただ?》

「武藤中尉は私の事が嫌いなんだと思う…」

 それ以上を聞き出す前に試合開始のブザーが鳴った。

 武藤機の武器は突撃銃アサルトライフル、主に中距離用の銃だが遠距離でも近距離でも問題無く戦える万能兵器。
 対戦射撃ゲームでも初心者にオススメされるのは大抵この突撃銃アサルトライフルだ。

 対する鈴代ちゃんは短機関銃サブマシンガン。銃身が短くて軽い分、突撃銃アサルトライフルよりも取り回しは易しいが、射程が短くて命中率も全般的に低い。

 この試合、鈴代ちゃんが如何に相手の懐に潜り込むか? が焦点になるだろう。先程の円盤頭の様な銃撃をよける芸当は鈴代ちゃんには無理だろうし、何より単発のライフルならまだしも連発して弾が飛んで来る相手なら尚更だ。

 武藤機が銃を構えて距離を詰める。相手の射程内でかつ、こちらの射程外の位置をとろうとしているのだろう。

《なぁ、もっと距離を詰めないと…》

「…黙ってて」

 俺の言葉を鈴代ちゃんが遮る。何かに集中している様だ。

 武藤機が距離を見定めたのか、銃を目線まで持ち上げて射撃の構えを取る。相手からの斉射が来る、と身構えた瞬間に
 パン
 と一発だけ銃声が響いた。

 鈴代ちゃんが持っていた短機関銃サブマシンガンを横向きに持って撃ち、その一発で武藤機の顔面はペイント弾のピンクに染まっていた。

 射程外の相手に素早く一発だけ撃ち、それを相手の顔に当てる。俺は一歩も動いて無かった。

 何が起こったのか理解できずに、武藤機や俺も含め誰も反応出来ていなかった。鈴代ちゃん1人が「はい終了」とばかりに下降を始める。

 試合終了を告げるブザーが鳴る。観客席がドッと沸き上がる。
 試合時間わずか8秒。鈴代ちゃんの勝利だ。

 この坦々とした流れに付いて来れてないのか、武藤機はまだ上空で銃を構えたまま固まっていた。

「武藤~、早く帰ってこーい」

 長谷川隊長の言葉は武藤さんの機体の事か? 意識の事か?

《さすが鈴代様、あんなに遠いのに一発ワンショット殺しキラー凄いですね》

 一番近くで見ていた俺が最も興奮しているよ。鈴代ちゃんこの子マジ凄いよ! そんな興奮を隠す為に敢えておどけて声を掛ける。

「武藤さんの武器を見て『多分こう来るだろうなぁ』ってヤマを張ってただけよ。もし山勘が外れてたら今頃ピンク色になってたのはこっちだったわね。それに…」

 ふう、と息をつく彼女。あの8秒の間の集中力はさぞ凄かったのだろう。

「私も実力で本気を見せる必要があったから…」 

 そう言って鈴代ちゃんは力無く笑った。

《なぁ、あの人と何があったのか聞いてもいいか?》

 人の心にズケズケと踏み込んで花畑を荒らしていくのは、本当は褒められた行為では無い事は知っている。俺だってそんなデリカシーに欠ける様な真似は大好きだけどしたくはない。

 それでも決勝に進んだ鈴代ちゃんが気持ち良く戦える為にも、ここでモヤモヤした気持ちは吐き出してスッキリさせてしまいたい。
 愚痴とかあるなら言っちゃえよ、さぁさぁ!

「…特に何も無いわ。元々は本部がうちの大隊に半端な数の30サンマル式を送ってきたのが悪いのよ」

 何だよ、女同士のドロドロした関係とかじゃないのかよ。男絡みとかさぁ……。

「大隊には3つの中隊があって、更に中隊には3つの小隊があるの。つまり3✕3で9機の30サンマル式を配備してくれれば良かったのに、うちに納品されたのは8機」

 あー、何となく分かってきた。

「で、長谷川大尉が『第1中隊うちは2機でいいや』って言って他の中隊に30サンマル式を譲っちゃったのよ」

《なるほど、1機は隊長さんが乗る。で、残りの1機の処遇で揉めた、と?》

「そういう事。渡辺さんと武藤さんはお互いをライバル視してるから、どちらに与えてもギクシャクする。で、白羽の矢が立ったのが私、って訳」

《なるほど、第三者で尚かつ腕利きな鈴代ちゃんに与えれば文句は出なかろう、という采配か…》

「渡辺さんはそれで納得したみたいだけど、武藤さんは違ったみたいね… あと2ペナだからね」

 …ホントに細けぇ女だな。ペナルティ貯まるとどうなるんだろう?

《武藤さんって人も色々あるんだろうなぁ。軍人としても女としても追い詰められてそう…》

 俺の呟きに鈴代ちゃんは怪訝な顔をする。

「なぜ? 武藤中尉は問題なく着実に戦果を挙げているわ。追い詰められる要素なんてどこに…?」

 うーん、やっぱりこの辺は分かってなさは、年齢相応なのか天然なのか?

《だってすぐ目の前に自分より若くて腕の良いパイロットが居たら、誰でも過剰に意識するだろ? しかも自分に貰えたかも知れない御褒美を、横から掠めとられて…》

「ちょっと待って! 私は別に横取りした訳では…」

《分かってるよ、モノの例えだよ。実際それで目を付けられている訳だろ?》

「…そうなのよね… ねぇ、これって私が気にする事じゃないわよね…?」

 自信なさ気に鈴代ちゃんが呟く。今回の一方的な勝負の行方が今後に影響しなければ良いけどねぇ、とは思うけど…。

《まぁ気にしてても仕方無いよ。それより今は試合に集中しようぜ。ほら、次の試合が始まるよ》

「…そうね、モヤモヤしてたら勝てる試合も勝てないわ」

 気を取り直した鈴代ちゃんが頭を上げる。

 ☆

 俺達の前で上昇する黒い機体と円盤頭。

《さて、注目のカード。隊長さんと円盤頭、勝つのはどっち?》

「まぁ、順当に考えたら香奈さんでしょうけど、長谷川大尉も何か秘策を練って来てるでしょうからね…」

 試合開始のブザーが鳴る。
 今回の武器の組み合わせは前の試合と同様に突撃銃アサルトライフル短機関銃サブマシンガン
 相性が良いのは突撃銃アサルトライフルの方だけど、先程の鈴代ちゃんの試合の例もあるから即断は出来ない。

 開始早々いきなり隊長さんが銃を乱射しながら一直線に突撃する。普通に考えれば自殺行為だけど…?
 それを受けて円盤頭は弾丸を回避しつつ迎撃の射撃をする… のだが、放たれた弾道は隊長機の遥か上方を通り過ぎる。

《…え? これって…?》

「そう、これが香奈さんよ…」

 真面目ぶった顔で解説する鈴代ちゃんだが、笑いを堪えているのがバレバレだ。

「今までの試合形式だったら、ここで香奈さんの勝ちが決まっていたでしょうね。大尉もルールが変わっているのを理解した上で突撃したんでしょう」

《でもこの突撃には意味があるのか? ずっと避けられていつかまぐれ当たりを食らって負け、なんてありそうだけど…?》

 俺の疑問に鈴代ちゃんも頷いて同意する。

「『あの』長谷川大尉よ? きっと何か考えがあるのよ。…大尉が無策な人だったら中隊はこれまで生き残って来られなかったわ」

 俺達が話している間に、突撃する長谷川機を円盤頭が回避するシーンが2度繰り返される。
 その度に円盤頭は短機関銃サブマシンガンを撃つが、弾はいずれも明後日の方向に飛んで行った。そのあまりのノーコンぶりに、見ていてちょっと気の毒になってくる。

 転機は4度目の突撃の際に起きた。飛び込む長谷川機に避ける円盤頭、そのすれ違いの一瞬に長谷川機が何か紐の付いた棒状の物を投げつける。
 その紐が円盤頭の左腕に巻き付いて円盤頭の動きを止めた。

「あれはワイヤーに巻いた電磁バトン? あんな使い方反則じゃないの?」

《そうなのか?》

「…いや、厳密にはどうなのか分からないけど… そもそも『電磁バトンを使って良い』としか聞かされてなかったかも…」

《それなら隊長さんのアイデア勝利なんじゃないの? 現に円盤頭の動きを止めたぜ?》

「…そうなのかしら…? それで良いのかしら…?」

 石頭の鈴代ちゃんが1人で悩んでいる間に、長谷川機はワイヤーを己の左手首に巻き上げながら、両機の距離が縮まっていく。さながらチェーンデスマッチの様相を呈してきた。

 長谷川機は散発的に銃を撃つけど、この近距離でも円盤頭は避けていく。ホントに化け物だな… 思いっきり乱射できないのはワイヤーの巻き上げで片手を使えない、つまり弾倉交換が出来ないからだろう。『ここ一番』の撃ちどころを狙っている様だ。
 一方の円盤頭も弾倉交換が出来ないのはお互い様だ。そうこうしている間にもジリジリと距離は近付いている。

 やがて『これで終いだ!』とばかりに長谷川機が力を入れて思いっきり引いた。
 機動力勝負ならハンデの重しをつけた30サンマル式と24フタヨン式は互角なんだろう。
 しかし、パワー勝負となれば純粋に新型の方が強い。しかも30サンマル式は増加装甲を付けて重量を増している。

パワーとウェイト、共に劣る円盤頭は力比べで勝てる道理が無い。ルールの穴を突いた、長谷川さんらしい物凄くイヤらしい戦法だ。

 腕を引かれバランスを崩して、長谷川機に雪崩れ込む様に倒れかかる円盤頭……。

 …とはならなかった。

 長谷川機が腕を引くタイミングで、円盤頭は左腕の肘から下を切り離したのだ。バランスを崩したのは長谷川機の方だった。
 その一瞬の隙に加速し長谷川機に肉迫した円盤頭は、手を伸ばせば触れる距離で短機関銃サブマシンガンを連射した。
 どんなに下手くそでもこの距離で外す事は無い。複数のペイント弾を受け、腹の操縦席周りをピンク色に染める長谷川機。
 そして終了のブザーが鳴った。

 …らしい。

 …と言うのも実は俺は今の最後の光景を見ていない。
 円盤頭の左腕が切り離された時に、円盤頭から激しい思考ノイズが発せられ、一瞬ホワイトアウトしてしまったのだ。

 円盤頭から届いた思考ノイズ、それは『痛い!』と言う思念だった。声そのものは機械処理された感じで男か女かも分からなかったけど、その痛みの感覚は理解できる。何の心の準備も無く肘から切断、いやあの感じは脱臼か。されたら俺だって叫ぶ。

 これは言うまでもない、あの円盤頭の幽炉の感じた痛みだ。この声が聞こえたのは俺だけなのだろうか? あの円盤頭のパイロットには何も聞こえなかったのだろうか…?
 そして客観的に見る事が出来て初めて実感する。
『幽炉には人間の魂が閉じ込められている』と言う事を…。

「やっぱり香奈さんは強いわねぇ」

 悠長に感想を話す鈴代ちゃん、今の出来事を話した方が良いのだろうか?

 …いや、これからあの円盤頭との決勝だ。今は余計な情報を入れて惑わせない方が良いだろう。

《…なぁ、あの円盤頭のパイロット、『かなさん』って言ったっけ? トーナメントが終わったら紹介して貰えないかな…?》

 俺の感じた円盤頭の幽炉の痛みをあの人には知っていて貰いたい気がするんだよね…。

「何言ってんの? そんなのダメに決まってるでしょ。貴方の存在は隊の中でも極秘なんだから」

《あぁ、そうか… そう言えばそんな立場だったな、俺…》

「急にどうしたの? 香奈さんのファンになっちゃった? 気持ちはわかるけどねぇ…」

《そんなんじゃねぇよ… ただちょっと向こうのパイロットに聞きたい事が出来たからさ…》

「…良く分かんないけど、私で良ければ代わりに聞いておいて上げるけど?」

 その場合だと鈴代ちゃんにもさっきのノイズの話をしなくてはならなくなる。まぁ試合の後なら言っても良いか…。

《…そうだな。後でお願いするかも知れないわ》

「…何か歯切れが悪いわね。まぁ良いわ、決勝戦よ。用意は良い?」

《いつでもどうぞ》

 ☆

「鈴代は今回見学だと思ってたから、決勝戦ここで会えて嬉しいよ。さっきの武藤さんへの1発、凄かったな!」

 左腕の応急処置を済ませた円盤頭から通信が入った。こちらに向けて指拳銃をパンと撃つ仕草をする。ちょっと砕けたヤンチャな感じのお姉さんと言う趣だ。

「香奈さんこそ。渡辺中尉の猛攻を避け切るとか凄いです。…でも今日こそは勝たせてもらいますからね」

「よーし、じゃあ今日負けた方が機体をピンク色に塗るって事でどうよ?」

 おいおい、何か突拍子も無い事を言い出したぞ。

「え? ピンクですか? …戦場でピンクは嫌だなぁ」

 何言ってんだよ?! 赤(という名のピンク)に塗れば3倍の速度で動けるかも知れないぞ!

「それに情報収集が仕事の丙型が目立つ色をしてたらダメでしょう?」

「お? 勝利宣言か? よーし、お姉ちゃん本気出しちゃうもんね!」

「ふふっ、望むところです!」

 そして上昇する2機。今回の口喧嘩はギスギスせずにお互いの健闘を祈って、という形に出来た… のかな?

 さぁ決勝戦だ。試合開始のブザーが鳴った。あの化物相手に鈴代ちゃんはどう出る…?

 まだお互いに射程外の距離だ。鈴代ちゃんが距離を詰めると円盤頭が同じだけ退く、円盤頭が近寄ると鈴代ちゃんが退く。お互いに相手の真意を見極めるまでは迂闊に動かない戦法なのだろう。

 下の観客席から「ちゃんとやれー」とか「ビビってんのかー」等のヤジが飛ぶ。
 お前ら目の前に居ないから分からないだろうけど、この2人の読み合いの緊張感ときたら凄いんだからな。圧が目に見える感じがするんだぞ。

 付かず離れずの状態が1、2分続く。仕掛けてきたのは円盤頭の方からだ。ゆっくりと無造作に距離を縮めて来る。
 射程内に入ってきた円盤頭目掛けて鈴代ちゃんは引き金を一度だけ引く、3点射バーストモードで撃ち出された3発の弾丸を、空を蹴るように上昇して避ける円盤頭。

 上に視線を上げると円盤頭は太陽の光に隠れていた。一瞬相手を見失った俺達に円盤頭が強襲してくる。
 スピードを上げてこちらに向かって一直線に飛んで来る円盤頭、狙いを付けていないかの様に広範囲にバラ撒かれる弾丸。それを上方に回避して滞空したまま、下に通り過ぎるであろう円盤頭を待ち受けて下方に狙いを定める。

 しかし円盤頭は通り過ぎずに手前で停止した。あの突進からの急停止は機体や中の人体にかなり良くない重力が掛かるはずだが。
 そのせいで無理が掛かったのか、あるいは『かなさん』の素なのか、下を向いたまま隙を晒していたこちらを撃ってきたが、命中した弾は無かった。

 鈴代ちゃんはそこから体を左側にロール回転で回避しつつ反撃する。円盤頭も同様に体を左側に捻り、相対する俺達の右側に回避移動する。
 距離が一旦離れたのでまた仕切り直しだ。

《今のはヤバかったな》

 俺の言葉に「ええ、そうね」と答えながらも、目と耳は円盤頭を追いかける事でいっぱいいっぱいな鈴代ちゃん、しばらく話し掛けない方が良さそうだな……。

 第2ラウンドは鈴代ちゃんが仕掛けた。弾倉を交換し、左手で近接戦闘用の棍棒を持つ。一気に距離を詰め牽制用に数度の射撃を行う、もちろん避ける円盤頭。

 鈴代ちゃんはその避けた先に左手に持った棍棒を投げつける。さっきの隊長さんの戦法の亜流だが、手持ち武器を投げ付けてくるとは想定外だったのだろう、円盤頭の虚を突けた。
 こちらにスライディングをするように体を倒して回避する円盤頭、無理な回避をしたせいで体勢を崩している。これは勝機だ。

 目と鼻の先に居る円盤頭に対して、射撃を加えようと銃を突き出す鈴代ちゃん。
 しかし円盤頭はそれを回避せずにこちらに向けて左手を伸ばす。伸ばした手でこちらの銃身を外側に逸らして射線を外したのだ。

 そして円盤頭の銃を持つ右手がこちらを向いた。鈴代ちゃんも負けじと空いた左手で相手の右手を外側に逸らす。
 傍から見ると俺が円盤頭を小脇に抱えてダンスを踊っている様に見えるだろう。

 そこから映画のアクションシーンで見られる様な、殴り合いをする距離で銃をお互いに撃とうとして、その都度相手に逸らされる、と言った機動が続いた。

 この2人、本当に(模擬弾だが)殺し合いながら、それはとても楽しそうに踊っているよ……。

 そして終わりの時が来た。弾を撃ち尽くした銃を円盤頭がこちらの顔目掛けて投げ付けたのだ。それもボールをパスする様にポイと、無造作に。

 その意外過ぎる行動にこちらの反応も一瞬遅れた。
 眼前に投げられた事で、こちらの画面に円盤頭の持っていた短機関銃サブマシンガンが大写しになり、円盤頭が画面から消える。

「っ?!」
 上か? 下か? 右か? 左か? 鈴代ちゃんの焦りが伝わってくる。この距離で相手を見失ったら、それは即終了の合図だ。

 しかし俺には円盤頭の機動が見えていた。奴は上に飛び、そのままこちらの後ろに回りこんだ。そこから渡辺戦の様な背後からの一撃を狙っているのだろう、棍棒を手に取り振りかぶる。

《後ろだ!》

 俺の声に鈴代ちゃんが反射的に動く。腰を捻り、後方への鋭い回し蹴りを繰り出した。

 鈴代ちゃんの蹴りは、今まさに棍棒を振り下ろそうとしていた円盤頭の首に食い込んでいた。首が変な角度で曲がり火花を散らす。

 そのまま崩折れる様に力を失い落下する円盤頭、鈴代ちゃんがすかさず助け起こし態勢を取り戻す。

 そして試合終了のブザー。
 決まった! 遂に鈴代ちゃんの初勝利だ!
 悲願達成についつい感涙する鈴代ちゃん、左手で口元を押さえる。

 という一瞬の喜びも束の間、直後にアナウンスされた内容は、『鈴代少尉の反則行為により仲村渠少尉の優勝』という物だった……。

「あは、あはははは… 最後蹴っちゃったもんね… あれじゃダメだよね…」

 鈴代ちゃんの泣き笑いの声がコクピット内に寂しく響いた。
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