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作者: 有島
残酷な描写あり
004 > モシの結果

 あのケンカを目撃して逃げ出して、コンビニで一息ついてから滝川っつーやつが変なこと言い出すから

(こいつ、もしかしてやべーやつなんじゃね~の?!)

 と思ったおれはその場から逃げるように走って家に帰ったんだ。
 正直、そいつは追いかけてきそうなイキオイだったけど、それはなかったからホッとしたね。

 おれんちはごくごく普通の一軒家で、予備校からは徒歩20分の場所にある。予備校が終わる時間が9時だから、腹に何か入れて帰ってくる頃には10時前。だから門限は10時だ。

 家には父ちゃん母ちゃんとばーちゃん、おれ、そして小学生の弟ってごくごく普通の家族だ。すでに嫁いだ姉貴はいない。
 予備校から帰ってくると朝早いばーちゃんはとっくの昔に寝てるから、1階は大体暗くなってるのがいつもの風景。

 だけど、今日は、なぜか知らないけど1階の全部の部屋の明かりがついていた。

(やばい……そういえば……)

 確か今朝、母ちゃんにこないだ受けたモシの話をしてたんだった。
 しずか~に玄関のドアを開けて、音が出ないように抜き足差し足忍び足で2階の自分の部屋まで上がってドアの前まで到着。

(セーーーフ……よかった。気づかれなかったみたいだな、うん)

 ホッと安心して部屋に入って服を脱ぐと、突然、バンッ!と、ドアが開いた。

「げっ?!」
「直次郎!! あんた、今日、模試の結果が返ってくるんじゃなかったの?!」
「え、あ、あ~……はは」
「出しなさいっ!」
「……ぁい……」

 おれはデイバッグの中に手を突っ込んで、つい1時間前くらいに予備校の担任からもらったモシの結果を母ちゃんに差し出した。

「……なに、この判定は」
「……はぁ……」
「『F』って……隼人くんはA判定って聞いたわよ。しかも医学部の」
「だ、だってさ、あいつはアルファだし……」

 しどろもどろに言うと、母ちゃんはギラリとした目でおれを見た。

「直次郎!! あんた、自分で言った言葉に責任を持ちな! あんたが言ったんでしょ! 隼人くんと同じ弦城げんじょう大学に行くんだって!」
「ひぇぇ……!」

 母ちゃんがマジでキレそうになってる。
 このモシの結果次第では、おれは売りに出されるって話になっていたから仕方ない。あ。売りに出されるってのは、高卒で働きに出すって意味な。
 母ちゃんの親戚に遠洋漁業をしてるおっさんがいて、人手不足で常に男手を必要としててさ。まぁ、こう、な。よく言われるじゃん、内臓売るかマグロ漁船で働くか? ってあれ……のライト版……でも本当に働かす。そのつもりで雇うって話。

 いやです。

 童貞のままそんなとこに行ったらぜってー帰って来れるわけないだろ!

「えっと、その……つ、次! 次のモシまで待って!」
「……それ、前回も聞いたけど?」

 こめかみに青筋立ててる母ちゃんの顔が怖くて正面から見れない。

 次のモシ。
 夏休み明け一発目に行われるモシのことだ。

(いまからだと……あと2週間……)

 ひとまず命拾いをして執行ユウヨをつけてもらったおれは、残り2週間でどうやってせまりくる危険を乗り越えるか考えないといけなくなった。



 その翌日。

 8月下旬っちゅう、かなり中途半端な時期に。

 誰かさんは俺が通う予備校に入校してきたんだ────





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