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作者: 犬物語
番外編:ベリーちゃんとハインくん
児童書っぽくしてみた
 おんなの子とおとこの子がいました。

 おんなの子はあかいディアンドルに赤いスカーフ。おとこの子は炭鉱夫のような服に身を包んでいます。そのまわりには、たくさんのモンスターがいました。

 飛びかかってくる黒いマモノを打ちたおし、周りにしずけさがもどります。そんな中、おしごととして集めた木材と、仕留めたえものをひと目見て、ふたりはおおきなクリの木のしたでひと休みをはじめました。

「ずっとあの洞窟にいたの?」

 おおきなおんなの子は、おおきなおとこの子に尋ねました。
 おとこの子は、こくんとうなずきました。

「ああ」
「マモノからみんなをまもってたの?」
「ああ」
「たべものはどうしてたの?」
「あった」
「なかったよ」
「ぜんぶ食べた」
「どうするつもりだったの?」
「わからない――でも、あの場所から離れられなかった」

 おんなの子はおどろきました。おとこの子は、まるで自分と同じような境遇に立たされていたのです。しかも、おとこの子は、もうすこししていたら死んでしまっていたかもしれなかったのです。

「だめ」

 おんなの子は強く言いました。

「そんなのだめ」

 おとこの子は戸惑いました。なんでこのおんなの子は、こんなに自分を見つめてくるのだろう。

 おんなの子は思いました。この子はもう洞窟から出てるけど、おなじ事が起こった時、この子はまたおなじ事をするだろう。

 どうしよう。おんなの子は考えました。
 どうすればこの子を助けられるだろう?
 どうすればこの子にボクの思いが届くだろう?

 ふと、おんなの子は、自分の手をにぎりしめられた温かいかんしょくと、気持ちを思い出しました。そして、次のしゅんかんにはことばがあふれていたのです。

「オトモダチになろう」

 おんなの子は、おとこの子に言って、手をひっぱりました。じぶんがされたとき、あの子はボクをひっぱれなかったけど、ボクはこの子をひっぱることができる。

「あっ」

 ひっぱって、そのあとどうするんだろう?

「?」

 目の前にひっぱられたおとこの子は、迷うような、困ったような、そんなむずかしい表情をしていました。吐息が目のまえまでかかって、おんなの子はなんだかはずかしい気持ちになりました。

 おおきなクリの木のしたで、おんなの子とおとこの子がふたり、ならんで立っていました。

「おおきいな」

 おとこの子は言いました。
 おんなの子は、さらにはずかしい気持ちになりました。

「おおきな人とはじめて出会えた……それまでは、ひとりだけだった」
「どうしたの?」

 おとこの子が元気なくうなだれて、心配になったおんなの子は首をかしげました。どうしたらげんきになるの? そう考えてると、ふと、おとこの子は話をはじめました。

「目覚めたら、目の前に山があった。そしてすぐに気づいた」
「なにに?」
「この世界は、おれがいるべき世界じゃない」

 おとこの子はじぶんの手をにぎりしめました。

「にんげんが山を降りてきて、おれを魔族だと言った」
「どうして?」
「おれは大きくて、にんげんは小さい」

 おとこの子はじぶんの手を強くにぎりしめました。

「その時は魔族を知らなかった。はじめて魔族を見たとき、にんげんとぜんぜん違うと思った……にんげんにとって、おれはそう・・見えるようだ」

 そんなことないよ。
 おんなの子は言いました。
 おとこの子は首をふりました。

 といきが当たるほどのきょり。おんなの子は、クーン、クーンと鳴くおとこの子のかなしい声を聞きました。

「ボクもそうだった」

 おんなの子はしずかに口をひらきました。

「人を助けたくて、そのきもちのまま人を助けて、でも、ありがとうって言ってもらえなくて……ボクをバケモノって言うひともいた」
「おしえてくれ……おれは、おれたちは何者なんだ?」

 おとこの子の顔を見て、おんなの子はハッとしました。
 そして、気付いたときには、おとこの子を抱きしめたいたのです。

「キミはキミだよ」

 壊れるくらい強く抱きしめました。

 おとこの子はビクンとなって、すこし身体をかたくして、それから、ぜんしんの力を抜きました。

 おおきな身体をつつんでくれる身体、両腕、胸――おとこの子にとって、他人につつまれる暖かさははじめてだったのです。

「あたたかい」

 おとこの子は暖かさに身を委ね、むしろ自分からやわらかな感触にすり寄りました。そうするとおんなの子の身体もビクンとなって、それでもおんなの子は抱きしめるのをやめませんでした。

 しばらくして、ふたりは離れました。ふたりの間をすずしい風がすりぬけ、ちょっとさみしさを覚えながらも、ふたりは地面の薪や仕留めたえものに目を向けて言いました。

「もどる?」
「ああ」

 おんなの子とおとこの子は、ゆっくりとなだらかな坂をくだりはじめました。





「っていうことがあったんだよ」
「だから何?」

 超巨大魔法が犬の身体を突き抜けた。

「勝手に人の世界に土足で上がり込んできて、それでいて言うことは他人のプライバシー覗き見? この駄犬が」
「ひどいなぁ。ボクは天才だよ?」
「だまれ駄犬」
「それより、なんで辞書なんか買ったんだい?」

 静かな部屋のなか、ひとりの魔法少女といっぴきの黒い犬が対峙する。

 ぺたんと垂れた耳。カワウソのようなしっぽ。こんなのが人気なんてにんげん・・・・はどうかしてる。こいつに追い回され何度怖い思いをしたか――少女はそう思った。

「それはボクじゃないよ」
「同じよクソ犬」
「ほんと、小さい子ってなんでキャンキャン吠えるんだろうなぁ」

 犬はしっぽをパタパタ振った。

「なんで辞書を買ったの?」
「なんの話?」
「とぼけちゃって」

 犬はしっぽをパタパタ振った。

「魔族文字の解読だよ。キミのタレントを使えば、そんな手間も省けるのに」
「いらないもの」
「知識を求めてるんでしょ? なら使う一択じゃない?」
「バカにしないで」

 少女は吐き捨て、同時に複数の魔法を浴びせた。

「知識は自ら探求するからこそ価値があるの。他人にもらった力でどうこうなんてクソくらえよ」
「その時間がムダになっても?」
「主観的で愚かな考えね」

 さらに魔法を重ね、それでもビクともしない犬に辟易しつつ、少女は続けた。

「小石を積み重ねていくことを忘れた者に未来などないわ」
「日本だと、小石を積み上げた果ては鬼に瓦解させられる未来なんだけどね」
「ほざけ」
「これから先、そのタレントが必要になると思うけど?」
「話は済んだかしら? 悪いけど、そろそろ消えてもらうわよ」

 犬は笑った。

「たしかに、ここはキミの世界だけど、ボクは特別な――あれ」

 犬は自分を見た。
 身体が透けていた。
 見た目じゃない。
 存在が透けていた。

「じゃあね」
「こんなことまでできるようになったの? ……っはは、すごいなぁ。そのうち、あの問題児より何でもできるようになるかもね」

 最後にそう言い残し、黒い犬はこの世界から消滅した。
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