義賊
飼い主を奪われたらどんな犬だってキレるわ
「サンダーさん!」
怪しい緑のコート。お役所に用がありそうでもないこの中年男性は、けど誰からもマークされずにそこでくつろいでいた。
「待たせてしまいましたか?」
あんずちゃんが丁寧な態度で気遣う。それに対し、緑コートは気にするなとでも言うように手を振った。
「いんや、テキトーにほっつきあるってたら、たまたま近くにたどり着いてな。休むついでに待ってみるかと思った矢先、ちょうどお前達が戻ってきた」
「グッドタイミングだね!」
「積もる話はなんだ。メシ食うついでに互いの収穫を披露するとしようぜ」
「あ、はいはーいわたし気になってたお店がありまーす!」
あんずちゃんの「ちょっと静かに」眼差しを振り切りつつ、本能に従った主張を展開してみた。あのね、お役所のすぐ傍に山と海の幸よくばりセットなレストランがあるんだよ。行かない選択肢なくない?
「いや、まて」
(えっ)
あるの?
サンダーさんが訝しげにブッちゃんを見つめる。
「そうしたいが、その前に新しいホテルに行こう」
「新しいホテル?」
「テトヴォ主張が手配してくれた」
「ほう?」
サンダーさんが驚きあんど興味津々な感じ。
「以前泊まっていた宿場には、あちらで話をつけてくれるそうだ。ひとまず手続きだけ済ませて、食事はその後にしよう」
「そうだな……積もる話もあれば、ここで語れぬ話もある」
言って、サンダーさんはニヒルな笑みを浮かべた。
(ニヒルだなぁ)
ところでニヒルってなんだ?
じゃなくて。
「おにくは? ねえ、おにくは?」
「独りで食ってなさい」
「えーやだー!」
みんなで食べたほうがおいしーじゃん。
「ドロちんもいっしょに食べよーよー」
「グレース、ワガママ言わずに行きますわよ」
「むぅ……」
みんなの背中がつめたーい!
「ひゅう! テトヴォ首長め、粋なはからいしてくれるじゃねーか」
ふかふかのソファーに背中を預け、その中年は吐息と共に疲れを吐き出した。
「極楽だぁ。昨日までのボロ宿がウソみてぇだ」
天井に視線を投げる。
キラキラしたシャンデリア。
シックでレトロな壁紙。
木目のラインが美しい柱。
クリーム色のカーペット。
落ち着いた雰囲気。まさしくモダンな明治の香りがする! ――ん? めいじってなんだ?
(めいじ……メイジ……魔法使い?)
つまりドロちんの匂い?
「なに見てんのよ」
「ううん、なんでも」
あ、でもちょっと気になるからひとつ。
「くんくん」
「ッ!? な、何よいきなり!」
「んーいい匂い。香水つけてる?」
「わけわかんないこと言わないでよね! ……これは火薬よ。香水じゃないわ」
「ドロシーさん、アナタのほうがわけわからないことを言ってるような気がしますが」
あんずちゃんが、備え付けの化粧台のイスを占拠しつつ物申す。またレトロちっくな化粧台ですこと。
「テトヴォいちの宿らしい」
「どーりで。こんなトコ、なんも仕事しねーお偉いさんにだけ使わすのはもったいない。せいぜいくつろがせてもらうぜ」
「んーじゃ、わたしもだーいぶ!」
毎回恒例。ふかふかベッドのふかふか具合テストでござる。
「だぁから、埃になるからやめろって毎回言ってるじゃない。そのベッド、グレースが使ってよね」
「はいよー」
男女、人数考慮してふた部屋いただいております。もちろんわたし、あんずちゃん、ドロちんの三人部屋。もひとつはブッちゃんとサンダーさんね。
「およ?」
なんか見覚えのある穴発見。
なんだっけ、思い出せない。
(んーと、この世界じゃなくて、元の世界で確か……あっ!)
思い出した!
「コンセント!」
ビシッと指差し!
みなさまの視線独占!
「その先には冷蔵庫!」
「だから何?」
悲報。ドロちん、冷蔵庫より冷ややか。
「今までもあったでしょ。いまさらはしゃがないでよね」
「はーい」
中世ヨーロッパ風味の世界にコンセントあり。
異世界とは?
(んー、でもまあ、エンジン搭載の漁船もあったし多少はね?)
むしろ剣と魔法いらなくね?
「それより、互いの収穫を語り合おうじゃないか」
そんなオッサンの申し出からシリアスな会話が始まった。
テトヴォ首長からの依頼。
異世界人を救出すること。
明後日に処刑が行われること。
そのとき、彼を助けること。
「……なるほどな」
ひとしきり話を聞いたサンダーさん。難しそうな表情で考え込みつつ、確かめるように次のひと言を紡いだ。
「異世界人。ティトのことだな」
「いかにも」
「義賊、亡霊、他にもいろいろ異名があるらしい」
「サンダーさん。その異世界人について知ってますの?」
肯定のかわりに、彼は語り始める。
「半年ほど前、テトヴォ近くの川で行き倒れていたらしい」
異世界あるあるだね。
「テトヴォの老夫婦が拾ったらしいが、その家は貧乏で、とても異世界人を養う余力なんてなかった。だが、それでも食糧を分けてくれた恩義を感じ、その異世界人は必死に働いたらしい……貧乏ながら、慎ましく幸せだったそうだ」
おお、すげーいい話じゃん。
まるで昔話の導入みたい。
つまり、この後波乱の展開が待ち受けてるわけで。
「ある日、その老夫婦のもとにテトヴォの役人がやってきた。家賃の支払いが滞ってるってな」
語気を低めてサンダーさんが続ける。
「家賃? 借家だったんですの?」
「いーや。その老夫婦が昔っから住んでる家さ」
「では、なぜそのような」
「出てけってことでしょ」
ドロちんが吐き捨てて、サンダーさんがうなずいた。
「メイスの仕業だ。ヤツらはある土地に新しい居住地をつくる計画を立てたんだが、その敷地内に老夫婦の家があった」
退去交渉もしたらしい。
けど、土地と家の代わりに、メイスは水滴ほどの金を提示した。
その要求を飲めば、老夫婦は完全に露頭に迷っていただろう。
断るのは当たり前。
つまり、邪魔だったんだ。
「最終的に、ヤツらは力に物を言わせた。それは異世界人が仕事に出てる間にやってたことらしくてな。そりゃあもう町中に響くほどの怒号だったそうだ」
そして、たいせつな存在を奪われた異世界人は言った。
「クソが、上が腐っても、苦労するのはいつだって弱い立場の人なんだよ! ――そして、その異世界人ティトは、メイスに仇成す亡霊となった」
「亡霊?」
窓際にて外の様子を眺めていた僧侶が振り向く。その向こうには大海原が映っていた。
「数ある異名のひとつだ。突如現れ財産を奪い、手を尽くしても捕まえるどころか姿さえ滅多に現さない。敵からすれば、まさに亡霊だ。そして、盗んだそれらを貧しい人々に分け与える。ここまでが、ちょうどひと月ほど前の話だそうだ」
「あの、その老夫婦は今どちらに?」
「知らん。行方不明らしいが、生きてるならその異世界人が保護してるだろうさ。そんな話も聞かねぇってことは考えられる可能性はひとつだな」
「そんな言い方やめてください」
暗に示した末路に、あんずちゃんは不快感を示す。
言い放った本人は、バツが悪そうに肩を竦めた。
「しかたねーだろ事実なんだから。そっからは、哀れな異世界人ではなく、テトヴォに暗躍する義賊ティトの話になる。神出鬼没で、あのメイスの私邸にも直接殴り込みをかけたことがあるらしい。肝が座ってるようだが、この間とうとう捕まっちまった」
(それは知ってる)
あの、噂好きの冒険者が話してたやつだ。
「子どもを庇ったんだよね」
「知ってるのか」
「うん。メイスが乗った馬車に石を投げた子どもがいて、その子を庇って捕まっちゃったって」
肯定のかわりに、サンダーさんは勢いをつけ寝転がっていたソファーから起き上がる。
「よっと。メイスは女子どもでも容赦しねえ。処刑はされんだろうが、最悪強制労働ルートだっただろうさ」
「まさに悪役って感じね」
魔法使いは自分の荷物から必要なものを取り出していた。ガラス瓶に入れられた薬品が怪しく光り、解説書らしき本に目を通している。
「それにしても、よくそこまで情報収集できたわね」
「フッ」
言われたサンダーさん、なぜか偉そうな雰囲気。
「酒呑んで語り合ってりゃ口も軽くなる。ついでに悪いトコ治してやりゃあ軍事機密のひとつやふたつ」
「それは、相手がバカなのでは?」
珍しく辛辣なベストフレンドである。
「酒の力は偉大だぜ? なんだってお前らは揃いも揃って下戸なんだよもったいねぇ」
「アルコールを嗜む医者に言われたくはないわ」
本をペラペラめくりながら言う。間が生まれたことで、わたしは深夜の出会いを思い出していた。
(ティっくん、そんなことがあったんだ)
誰の手も借りねぇ。
彼はそんなことを言ってた。
協力の拒絶? ううん。
それは彼のやさしさだと思う。
自分でやることに、他者を巻き込みたくない。
意志を貫き通したい。
そんな、決意に満ちた瞳だった。
(態度はともかく、いい人なのは確かだよね?)
ゼッタイ助けたほうがいいよね?
オトモダチになれるよね?
いや、なる。
(同じ釜のおにくを食う仲になりたい!)
「ねぇ、みんな――」
聞いてほしいんだけど。
決意新たに演説待ったナシの状況だったのに、おしゃべり好きなよれよれダサ白シャツのおじちゃんが、また例のニヒルな笑みを浮かべた。
「で、ここからが本題なんだが」
(いままで本題じゃなかったんかーい)
そもそもニヒルってなんやねん。
怪しい緑のコート。お役所に用がありそうでもないこの中年男性は、けど誰からもマークされずにそこでくつろいでいた。
「待たせてしまいましたか?」
あんずちゃんが丁寧な態度で気遣う。それに対し、緑コートは気にするなとでも言うように手を振った。
「いんや、テキトーにほっつきあるってたら、たまたま近くにたどり着いてな。休むついでに待ってみるかと思った矢先、ちょうどお前達が戻ってきた」
「グッドタイミングだね!」
「積もる話はなんだ。メシ食うついでに互いの収穫を披露するとしようぜ」
「あ、はいはーいわたし気になってたお店がありまーす!」
あんずちゃんの「ちょっと静かに」眼差しを振り切りつつ、本能に従った主張を展開してみた。あのね、お役所のすぐ傍に山と海の幸よくばりセットなレストランがあるんだよ。行かない選択肢なくない?
「いや、まて」
(えっ)
あるの?
サンダーさんが訝しげにブッちゃんを見つめる。
「そうしたいが、その前に新しいホテルに行こう」
「新しいホテル?」
「テトヴォ主張が手配してくれた」
「ほう?」
サンダーさんが驚きあんど興味津々な感じ。
「以前泊まっていた宿場には、あちらで話をつけてくれるそうだ。ひとまず手続きだけ済ませて、食事はその後にしよう」
「そうだな……積もる話もあれば、ここで語れぬ話もある」
言って、サンダーさんはニヒルな笑みを浮かべた。
(ニヒルだなぁ)
ところでニヒルってなんだ?
じゃなくて。
「おにくは? ねえ、おにくは?」
「独りで食ってなさい」
「えーやだー!」
みんなで食べたほうがおいしーじゃん。
「ドロちんもいっしょに食べよーよー」
「グレース、ワガママ言わずに行きますわよ」
「むぅ……」
みんなの背中がつめたーい!
「ひゅう! テトヴォ首長め、粋なはからいしてくれるじゃねーか」
ふかふかのソファーに背中を預け、その中年は吐息と共に疲れを吐き出した。
「極楽だぁ。昨日までのボロ宿がウソみてぇだ」
天井に視線を投げる。
キラキラしたシャンデリア。
シックでレトロな壁紙。
木目のラインが美しい柱。
クリーム色のカーペット。
落ち着いた雰囲気。まさしくモダンな明治の香りがする! ――ん? めいじってなんだ?
(めいじ……メイジ……魔法使い?)
つまりドロちんの匂い?
「なに見てんのよ」
「ううん、なんでも」
あ、でもちょっと気になるからひとつ。
「くんくん」
「ッ!? な、何よいきなり!」
「んーいい匂い。香水つけてる?」
「わけわかんないこと言わないでよね! ……これは火薬よ。香水じゃないわ」
「ドロシーさん、アナタのほうがわけわからないことを言ってるような気がしますが」
あんずちゃんが、備え付けの化粧台のイスを占拠しつつ物申す。またレトロちっくな化粧台ですこと。
「テトヴォいちの宿らしい」
「どーりで。こんなトコ、なんも仕事しねーお偉いさんにだけ使わすのはもったいない。せいぜいくつろがせてもらうぜ」
「んーじゃ、わたしもだーいぶ!」
毎回恒例。ふかふかベッドのふかふか具合テストでござる。
「だぁから、埃になるからやめろって毎回言ってるじゃない。そのベッド、グレースが使ってよね」
「はいよー」
男女、人数考慮してふた部屋いただいております。もちろんわたし、あんずちゃん、ドロちんの三人部屋。もひとつはブッちゃんとサンダーさんね。
「およ?」
なんか見覚えのある穴発見。
なんだっけ、思い出せない。
(んーと、この世界じゃなくて、元の世界で確か……あっ!)
思い出した!
「コンセント!」
ビシッと指差し!
みなさまの視線独占!
「その先には冷蔵庫!」
「だから何?」
悲報。ドロちん、冷蔵庫より冷ややか。
「今までもあったでしょ。いまさらはしゃがないでよね」
「はーい」
中世ヨーロッパ風味の世界にコンセントあり。
異世界とは?
(んー、でもまあ、エンジン搭載の漁船もあったし多少はね?)
むしろ剣と魔法いらなくね?
「それより、互いの収穫を語り合おうじゃないか」
そんなオッサンの申し出からシリアスな会話が始まった。
テトヴォ首長からの依頼。
異世界人を救出すること。
明後日に処刑が行われること。
そのとき、彼を助けること。
「……なるほどな」
ひとしきり話を聞いたサンダーさん。難しそうな表情で考え込みつつ、確かめるように次のひと言を紡いだ。
「異世界人。ティトのことだな」
「いかにも」
「義賊、亡霊、他にもいろいろ異名があるらしい」
「サンダーさん。その異世界人について知ってますの?」
肯定のかわりに、彼は語り始める。
「半年ほど前、テトヴォ近くの川で行き倒れていたらしい」
異世界あるあるだね。
「テトヴォの老夫婦が拾ったらしいが、その家は貧乏で、とても異世界人を養う余力なんてなかった。だが、それでも食糧を分けてくれた恩義を感じ、その異世界人は必死に働いたらしい……貧乏ながら、慎ましく幸せだったそうだ」
おお、すげーいい話じゃん。
まるで昔話の導入みたい。
つまり、この後波乱の展開が待ち受けてるわけで。
「ある日、その老夫婦のもとにテトヴォの役人がやってきた。家賃の支払いが滞ってるってな」
語気を低めてサンダーさんが続ける。
「家賃? 借家だったんですの?」
「いーや。その老夫婦が昔っから住んでる家さ」
「では、なぜそのような」
「出てけってことでしょ」
ドロちんが吐き捨てて、サンダーさんがうなずいた。
「メイスの仕業だ。ヤツらはある土地に新しい居住地をつくる計画を立てたんだが、その敷地内に老夫婦の家があった」
退去交渉もしたらしい。
けど、土地と家の代わりに、メイスは水滴ほどの金を提示した。
その要求を飲めば、老夫婦は完全に露頭に迷っていただろう。
断るのは当たり前。
つまり、邪魔だったんだ。
「最終的に、ヤツらは力に物を言わせた。それは異世界人が仕事に出てる間にやってたことらしくてな。そりゃあもう町中に響くほどの怒号だったそうだ」
そして、たいせつな存在を奪われた異世界人は言った。
「クソが、上が腐っても、苦労するのはいつだって弱い立場の人なんだよ! ――そして、その異世界人ティトは、メイスに仇成す亡霊となった」
「亡霊?」
窓際にて外の様子を眺めていた僧侶が振り向く。その向こうには大海原が映っていた。
「数ある異名のひとつだ。突如現れ財産を奪い、手を尽くしても捕まえるどころか姿さえ滅多に現さない。敵からすれば、まさに亡霊だ。そして、盗んだそれらを貧しい人々に分け与える。ここまでが、ちょうどひと月ほど前の話だそうだ」
「あの、その老夫婦は今どちらに?」
「知らん。行方不明らしいが、生きてるならその異世界人が保護してるだろうさ。そんな話も聞かねぇってことは考えられる可能性はひとつだな」
「そんな言い方やめてください」
暗に示した末路に、あんずちゃんは不快感を示す。
言い放った本人は、バツが悪そうに肩を竦めた。
「しかたねーだろ事実なんだから。そっからは、哀れな異世界人ではなく、テトヴォに暗躍する義賊ティトの話になる。神出鬼没で、あのメイスの私邸にも直接殴り込みをかけたことがあるらしい。肝が座ってるようだが、この間とうとう捕まっちまった」
(それは知ってる)
あの、噂好きの冒険者が話してたやつだ。
「子どもを庇ったんだよね」
「知ってるのか」
「うん。メイスが乗った馬車に石を投げた子どもがいて、その子を庇って捕まっちゃったって」
肯定のかわりに、サンダーさんは勢いをつけ寝転がっていたソファーから起き上がる。
「よっと。メイスは女子どもでも容赦しねえ。処刑はされんだろうが、最悪強制労働ルートだっただろうさ」
「まさに悪役って感じね」
魔法使いは自分の荷物から必要なものを取り出していた。ガラス瓶に入れられた薬品が怪しく光り、解説書らしき本に目を通している。
「それにしても、よくそこまで情報収集できたわね」
「フッ」
言われたサンダーさん、なぜか偉そうな雰囲気。
「酒呑んで語り合ってりゃ口も軽くなる。ついでに悪いトコ治してやりゃあ軍事機密のひとつやふたつ」
「それは、相手がバカなのでは?」
珍しく辛辣なベストフレンドである。
「酒の力は偉大だぜ? なんだってお前らは揃いも揃って下戸なんだよもったいねぇ」
「アルコールを嗜む医者に言われたくはないわ」
本をペラペラめくりながら言う。間が生まれたことで、わたしは深夜の出会いを思い出していた。
(ティっくん、そんなことがあったんだ)
誰の手も借りねぇ。
彼はそんなことを言ってた。
協力の拒絶? ううん。
それは彼のやさしさだと思う。
自分でやることに、他者を巻き込みたくない。
意志を貫き通したい。
そんな、決意に満ちた瞳だった。
(態度はともかく、いい人なのは確かだよね?)
ゼッタイ助けたほうがいいよね?
オトモダチになれるよね?
いや、なる。
(同じ釜のおにくを食う仲になりたい!)
「ねぇ、みんな――」
聞いてほしいんだけど。
決意新たに演説待ったナシの状況だったのに、おしゃべり好きなよれよれダサ白シャツのおじちゃんが、また例のニヒルな笑みを浮かべた。
「で、ここからが本題なんだが」
(いままで本題じゃなかったんかーい)
そもそもニヒルってなんやねん。