王に直接会えっていうかくさい
グウェン「ヒガシミョーでカクカクシカジカがあったんですよ」
「なるほど、そのようなことが……」
戦士然とした衣装に身を包んだ侍女が口を閉じる。なにかを深く考えているように見えて、一瞬室内に沈黙が広がった。
ストッケード城内部の一室。客人を一時待たせるために用意された部屋で、わたしたちは彼女と向かい合っている。
国の中心部。王が腰を据える住居でもあるこの城は今まで見たどの建物よりも高級感溢れて華やかだった。それでも無骨さが拭えないのは、この城がもともと砦として機能していたからだろうか。間取りのところどころに外側から侵入しにくいような工夫がなされていて、それを装飾や調度品でうまく隠している。
わたしたちが座ってるこのイスやソファーもまた、ストッケード城の無骨さをごまかすための調度品に見えてしまう。もしこの城を攻めることになったとしても、なんの準備もなしに数日は持つだろう。そのような雰囲気に包まれるなか、ふたたび彼女の口が開かれる。
「いずれにしてもヒガシミョーの教会は現在司教がいないことになりますね」
目の前にいる少女から伺った話をまだ噛み切れてないという口ぶりだった。
「はい。いまはアニスさま他教会の方々でなんとかやっていますが……」
「ヒガシミョーの一連の事件に関するウワサはここフラーにも届いています。司教不在とあっては行えない手続きもあるでしょうから、近いうちに教皇が新たな司教を派遣してくださるでしょう」
(はけん?)
正社員じゃないのかな?
「貴方の証言が正しければ相応の被害になっているはず。この件に関しては、こちらからも王にそれとなく伝えておきます」
「ありがとうございます」
「本当だぜ。オレたちは直にこの目で見たんだから」
お行儀よく胸に手を当て感謝を示すグウェンちゃんに対し、言葉のはしっこが気になった背の高い少年は抗議の姿勢を顕にする。今はそんなことどーでもよくない?
「ヒガシミョーに現れたという異世界人が気になりますね。この話が事実なら、彼らはマモノを使役する能力があることになりますが」
「だからマジだって言ってんだろ」
うるさい。
「スプリットくんちょっとだまって」
少年がビクッとなった。んでだまった。おーけー。
「異世界人の力は、彼自身異世界人だったという勇者の伝承から伺い知れるだろう。それだけでなくこいつらのポテンシャルはとんでもない。あと数年すれば私なぞかるくいなすレベルに達するだろうな」
「ッ!?」
異世界人組がみんなしてオジサンに目を向ける。めっずらし! オジサンが素直にみんな褒めた。とくにおおきな反応を見せたのはスプリットくんだ。これしっぽがあったらブンブン振り回してただろうな。
「もっとも警戒すべきは、そのナゾの異世界人とやらが他国のスパイである可能性です」
指摘され、オジサンは深く息をつき両手を組み口元を隠した。
「うむ……可能性は否定できん。異世界人はアイン・マラハを含めたクー・タオ全土で発見される。異世界人の能力は我々にとって計り知れない戦力をもたらしてくれることを考えれば、奴らもそれを利用しないことも限らない」
オジサンの言葉に、わたしの胸がチクリと痛んだ。
「その点はうすいんじゃねーかな」
「スプリット、どういうことだ」
「アイツら独自路線でやってるっつーか、意味不明なこと言ってるし。そもそもあの白髪ヤローに考える頭があるとは思えねぇ」
白髪ヤロー。スナップのことだ。
「それには同感だが、あの連中を動かしてる存在がいるのも確実だ」
オジサンは固くなった身体を動かすため立ち上がった。そのまま窓まで近づき陽の光を浴びる。
「いずれにしても、今は可能性を語ることしかできない。それならまずこちらでできる手を打っておいたほうが良いだろう」
「キミの言うとおりだねチャールズ。さてヴィクトリア、この話を王の耳に入れておいてくれないかい?」
「当たり前だ、と言いたいところだが」
「不都合でも?」
「いや、いっそそちらが直接伝えればいい」
疑問を表情で伝えるスパイク。ヴィクトリアさんはここにいる全員に目をやってから唇を開いた。
「後日、王の身内のみのパーティーがある。ささやかながら芸人も雇ってそれなりにやるらしい。こちらも王女の側仕えをする役割があるが、スパイクなら吟遊詩人でも曲芸人でもなんでも名乗って飛び入り参加するがいい」
「できるのかい?」
「こちらで口添えしておこう」
「助かるよ! やっぱ持つべきは親友だね」
その言葉にヴィクトリアさんはかるーくイヤそうな表情をした。本人には見えてなかったようだ。
「その前にひとつ条件がある」
なんだい? 浮かれ顔のスパイクは浮かれた声で彼女に問いかけた。そしてヴィクトリアはまたわたしたちに視線を一周させて――。
「貴様らのナリをどうにかしろ。風呂に入れ身体をキレイにしろ。客人の身分であればまだ目をつぶれるが王の前に立つなら浮浪者のような服装もとっかえろ」
(うわーお)
すっげー冷淡。
「しょーじき城内に通すことすら憚れるんだよ。ったく門番はよくこんなのが城門をくぐるのを許可したな」
「ゔぃ、ヴィクトリア、さん?」
スパイクが引きつった笑みをうかべる。っていうかみんなして? サっちゃんなんか「そんなに臭うか?」って自分の筋肉の匂いをひとつひとつ確かめてるし。とりあえず上腕二頭筋はいいニオイがしたっぽいです気持ちよさそうな顔してたので。
(旅の途中じゃあんまり気にしてなかったけどなー)
そもそも気にしてらんないし。雨風関係なく歩くようだからあちこち泥だらけになるし、エモノを追いかける時はガサガサしたとこにも入るし、水浴びも冷たいからサボりがちなんだよねー。
(でも、うん確かにちょっと臭うかも)
「……う、うむ。まずは王のお目汚しにならぬよういろいろ見繕わなければな」
そんなことを言うご立派な剣士の頬には冷や汗が垂れていた。
戦士然とした衣装に身を包んだ侍女が口を閉じる。なにかを深く考えているように見えて、一瞬室内に沈黙が広がった。
ストッケード城内部の一室。客人を一時待たせるために用意された部屋で、わたしたちは彼女と向かい合っている。
国の中心部。王が腰を据える住居でもあるこの城は今まで見たどの建物よりも高級感溢れて華やかだった。それでも無骨さが拭えないのは、この城がもともと砦として機能していたからだろうか。間取りのところどころに外側から侵入しにくいような工夫がなされていて、それを装飾や調度品でうまく隠している。
わたしたちが座ってるこのイスやソファーもまた、ストッケード城の無骨さをごまかすための調度品に見えてしまう。もしこの城を攻めることになったとしても、なんの準備もなしに数日は持つだろう。そのような雰囲気に包まれるなか、ふたたび彼女の口が開かれる。
「いずれにしてもヒガシミョーの教会は現在司教がいないことになりますね」
目の前にいる少女から伺った話をまだ噛み切れてないという口ぶりだった。
「はい。いまはアニスさま他教会の方々でなんとかやっていますが……」
「ヒガシミョーの一連の事件に関するウワサはここフラーにも届いています。司教不在とあっては行えない手続きもあるでしょうから、近いうちに教皇が新たな司教を派遣してくださるでしょう」
(はけん?)
正社員じゃないのかな?
「貴方の証言が正しければ相応の被害になっているはず。この件に関しては、こちらからも王にそれとなく伝えておきます」
「ありがとうございます」
「本当だぜ。オレたちは直にこの目で見たんだから」
お行儀よく胸に手を当て感謝を示すグウェンちゃんに対し、言葉のはしっこが気になった背の高い少年は抗議の姿勢を顕にする。今はそんなことどーでもよくない?
「ヒガシミョーに現れたという異世界人が気になりますね。この話が事実なら、彼らはマモノを使役する能力があることになりますが」
「だからマジだって言ってんだろ」
うるさい。
「スプリットくんちょっとだまって」
少年がビクッとなった。んでだまった。おーけー。
「異世界人の力は、彼自身異世界人だったという勇者の伝承から伺い知れるだろう。それだけでなくこいつらのポテンシャルはとんでもない。あと数年すれば私なぞかるくいなすレベルに達するだろうな」
「ッ!?」
異世界人組がみんなしてオジサンに目を向ける。めっずらし! オジサンが素直にみんな褒めた。とくにおおきな反応を見せたのはスプリットくんだ。これしっぽがあったらブンブン振り回してただろうな。
「もっとも警戒すべきは、そのナゾの異世界人とやらが他国のスパイである可能性です」
指摘され、オジサンは深く息をつき両手を組み口元を隠した。
「うむ……可能性は否定できん。異世界人はアイン・マラハを含めたクー・タオ全土で発見される。異世界人の能力は我々にとって計り知れない戦力をもたらしてくれることを考えれば、奴らもそれを利用しないことも限らない」
オジサンの言葉に、わたしの胸がチクリと痛んだ。
「その点はうすいんじゃねーかな」
「スプリット、どういうことだ」
「アイツら独自路線でやってるっつーか、意味不明なこと言ってるし。そもそもあの白髪ヤローに考える頭があるとは思えねぇ」
白髪ヤロー。スナップのことだ。
「それには同感だが、あの連中を動かしてる存在がいるのも確実だ」
オジサンは固くなった身体を動かすため立ち上がった。そのまま窓まで近づき陽の光を浴びる。
「いずれにしても、今は可能性を語ることしかできない。それならまずこちらでできる手を打っておいたほうが良いだろう」
「キミの言うとおりだねチャールズ。さてヴィクトリア、この話を王の耳に入れておいてくれないかい?」
「当たり前だ、と言いたいところだが」
「不都合でも?」
「いや、いっそそちらが直接伝えればいい」
疑問を表情で伝えるスパイク。ヴィクトリアさんはここにいる全員に目をやってから唇を開いた。
「後日、王の身内のみのパーティーがある。ささやかながら芸人も雇ってそれなりにやるらしい。こちらも王女の側仕えをする役割があるが、スパイクなら吟遊詩人でも曲芸人でもなんでも名乗って飛び入り参加するがいい」
「できるのかい?」
「こちらで口添えしておこう」
「助かるよ! やっぱ持つべきは親友だね」
その言葉にヴィクトリアさんはかるーくイヤそうな表情をした。本人には見えてなかったようだ。
「その前にひとつ条件がある」
なんだい? 浮かれ顔のスパイクは浮かれた声で彼女に問いかけた。そしてヴィクトリアはまたわたしたちに視線を一周させて――。
「貴様らのナリをどうにかしろ。風呂に入れ身体をキレイにしろ。客人の身分であればまだ目をつぶれるが王の前に立つなら浮浪者のような服装もとっかえろ」
(うわーお)
すっげー冷淡。
「しょーじき城内に通すことすら憚れるんだよ。ったく門番はよくこんなのが城門をくぐるのを許可したな」
「ゔぃ、ヴィクトリア、さん?」
スパイクが引きつった笑みをうかべる。っていうかみんなして? サっちゃんなんか「そんなに臭うか?」って自分の筋肉の匂いをひとつひとつ確かめてるし。とりあえず上腕二頭筋はいいニオイがしたっぽいです気持ちよさそうな顔してたので。
(旅の途中じゃあんまり気にしてなかったけどなー)
そもそも気にしてらんないし。雨風関係なく歩くようだからあちこち泥だらけになるし、エモノを追いかける時はガサガサしたとこにも入るし、水浴びも冷たいからサボりがちなんだよねー。
(でも、うん確かにちょっと臭うかも)
「……う、うむ。まずは王のお目汚しにならぬよういろいろ見繕わなければな」
そんなことを言うご立派な剣士の頬には冷や汗が垂れていた。