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作者: 犬物語
テーブルの殉職危機
動いてないように見えて、そこには莫大なエネルギーが込められているって話
「はぁぁぁ――!」

 ウェイターさんによって眼の前に色とりどりの料理がならんでいく。おとこの人は革のベスト、おんなの人はチャイナ服? みたいなかっこで食器をそれぞれに割り当て、料理をテーブルに給仕していく。

 上段の丸テーブルにはローストされたおおきなにくや、光をよく反射する紙につつまれたナゾの料理もある。みんなで切り分けて食べるタイプの食卓。野宿生活でいつもそうしてたから慣れっこのはずなのに、この光景をみるとじゅるり濃紺なヨダレが分泌され、ぜんぶ独り占めしたくなる欲求にかられる。

「……よし」

 食べよう。さあ食べよう。なにはともあれ食べよう。おいしいごはんを食べよう。

「神に感謝を」

 その宣言と同時にみんなの手が動き出す。くっ、やはりキサマらも同じ心境だった!

「いただきます!」

「オレが先だ!」

「順番を守れよ!」

「トゥーサ! 力任せにテーブルをまわそうとするな!」

「神からのお恵みはみんなで分け合うのが筋だとおもうのですが!」

「つってぜんぶ食うつもりだろクソガキ!」

「だ、だれがクソガキですか!? アナタのほうがちんちくりんでしょ!」

「オレはオトナだ!」

 あちこちから伸ばされた五人ぶんの十本のおてて。それらが拮抗した力でテーブルを押さえてるので結果的にピクリとも動かない状況ができあがってる。そんな中、カールはただモクモクと眼前の料理を切り分け自分の小皿に乗せていく。

「あ、こら抜け駆けすんな!」

「寡黙なあんちゃんよぉ、アタイらぁ初対面なんだから譲り合いってのを理解してくれないかい?」

「……知らん」

「言ったなてめぇ!」

「あー……キミたちはいつもそうなのかい?」

 テーブルがミキミキ音をたてはじめたころ、状況をだまって見てたスパイク氏がコメントを表明しました。そのおとなりでは明らかに呆れ風味のオジサンが額に手をあてております。言いたいことはわかるけどね、こればっかりは譲れないのよ。

「おまえらよせ。そろそろテーブルが壊れる」

「じゃあわたしにおにくください」

「言ったろ。こっちが先だ」

「アタイには良質なタンパク質が必要なんだ」

「皆が譲らないというのなら、こちらも譲らぬほかないだろう」

「神の、ごかご、を」

 最年少あんど力仕事が苦手なグウェンちゃんは早々にこの争奪戦から脱落しそうです。言うてまあ、そのほかがみんなして押さえてるのでテーブルが動かないことに変わりはないのですが。

「あーわかった。オレがぜんぶ切り分けるからおまえらは大人しくしてろ。じゃないとキサマらでテーブル代を弁償することになるぞ」

 ミシミシからギチギチに変化してたテーブルの鳴き声をバックにそんな注意が飛びました。くそう、それなら仕方ない一時休戦にしようじゃないか。

「チャールズ殿の意見に賛成だ。みんな同じタイミングで手を離そう」

「そうだな……いち」

「にい」

「「「「さん!」」」」

 絶え間ない圧力から開放され、ひとつのテーブルが未来まで仕事をまっとうする権利を取り戻した。

「ったく、ほら貸せ」

 カールが使ってた大きなナイフを手にテーブルを回していく。くそう、目の前におにくがあるのに通り過ぎていく様を見つめなければならないなんて。

「ったく仕方ない」

 そうグチりつつ、刃物をあやつり肉や野菜を一刀のもとに伏していく。素人にはただひと太刀浴びせたように見えて、その実おにくはサイコロ状に、野菜はひと口サイズに切り分けている。

「おぉさすが!」

「弘法筆を選ばずというヤツだ。しかしまたつまらぬものを斬ってしまった――ほら、さっさと食え」

 それぞれの皿にまとめ、上段のテーブルでまわしそれぞれに分けていく。時計回りでオジサンのとなりに親友のオジサン、そのとなりにスプリットくん、ビーちゃん、サっちゃん、グウェンちゃん、わたし、そしてカールという順番だ。

「吟味しても意味ないぞ。すべて同じサイズに切り分けたからな」

「うーん……マジだ、いちミリの差もねぇ」

 それぞれにお皿を並べましてぇ、それではほんとうの意味で、いただきます!

「うまっ! このおにくマジうま!」

「へぇ、トリ胸はパサつきやすいのにすごく濃厚な味じゃないか」

「このお野菜、水々しくて採れたてみたいです」

 思いおもいの感想をつぶやいていく姿に気をよくした中年男性がひとり。

「んん、気に入ってくれたようで何よりだ。おいらも投資したかいがある」

「スパイクよ、王城前の土地を得られるほどの店によく投資の話が舞い込んできたな」

「ふふふ。実はね、この土地はもともとおいらが所有してたんだよ」

「なんだと?」

「キミのおかげさ」

 意味深なウインク。いやおまえそれかわいいと思ってやってんの?

「なぁに、ちょっと偉そうなお貴族さまにチャールズの大親友で、彼の邸宅の管理を任されていると平滑流暢金声玉振舌先三寸にまくしたてただけだよ」

「あまり他人ひとの名を借りて商売しないでほしいな」

「商売なんてとんでもない。おいらはただキミがうまいと絶賛してたレストランに躍進してほしかっただけだよ……ところで、ちょっといいかな」

「ん、なんだ?」

「異世界ってのはいつも食糧難で奪い合いが起きてるような場所なのか?」

「ん、なに?」

 こちらに視線が向いてるオッサンふたりに対し、こちとら食事中なんですけど? っと、口におにくをはさみつつ答えた。

「うちのカールもそうなんだが、異世界人はやたらと食うに急ぐというか、鋭い歯をもつにもかかわらずあまり噛まずに飲み込んでしまうんだよ」

「知らん。そいつらに聞け」

「ということで、キミにお伺いしてもいいかな? グレースとやら」

(そんなこと言われてもなぁ)

「んー……食べ物はたくさんあったよ。けど毎日おなじ時間にしか食べられないから、その時がとても楽しみだったの! おやつもおいしかった!」

「ほう。定期的な食事におやつもあるのか」

「でも毎日カリカリしたものばかりでつまんなかったようなぁ、たまにあるねっちょりの日がうれしかったようなぁ」

「かりかり、ねっちょり――? ま、まあ、なんにしても異世界の食生活にこちらとの差異はないようだね」

「オジサンおかわり!」

「あとは自分でよそえ」

 新たな料理が運ばれてくる中、オジサンは手前に置いといたナイフをテーブルに放り投げた。
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