人材派遣会社
さいきんチョーシに乗ってる輩がおるんですわ
「で、さっきのヤツらはなんなんだ?」
グラスの中身をイッキに飲み干し、トンとテーブルに叩きつけてからオジサンが口を開いた。
「親切なお客さんだよ。我々の再会を祝してドッキリを仕掛けてくれたに違いない」
「ほう、じゃあこのレストランにもドッキリで襲撃してくれるかもしれないな」
「あぁ実はあり得るんだ。彼らはさいきんになって目立つようになった集団でね」
こちらははんぶんになったグラスを渋い顔で減らしてる。そうこうしてる間に新たなウェイターさんがやってきて、テーブルに透明な液体を次々と並べていった。
「アルコールじゃないから安心して飲むといい」
内側のテーブルをまわしそれぞれの眼前にまわしていく。こちらに届いたそれをひとつ取り、ほんとかな? と半信半疑に口にしてみた。
(ん)
水だ。ヒットポイントがちょっと回復した。
「キミが収めてくれたいざこざから二十年経つ。その間、フラーは少しずつ繁栄への道のりを歩んでいった。それはキミも知ってるだろう?」
「数年は滞在したからな」
「人々の暮らしは変わった。ガレキの山の前で泣き崩れる子どもは消え、教会で治療を受ける難民の姿も数を減らしていった。だがその中で戦争の闇が蠢いていたのは事実だ。あれから表に見えない場所で多くの組織が暗躍していた」
「ああ。それのうちいくつかは私が潰したな」
「キミの武勇伝はいつ聞いても驚かされるよ。王城に侵入したアサシンを成敗しただけでなく王城地下で密かにつくられていた秘密組織に単身乗り込んで――」
やっとの思いでグラスをカラにした饒舌家な紳士さん。もう顔が赤くなってるしお酒によわい? でもそのぶんおしゃべりがまわるまわる。
「そしてキミはこう言うんだ。私はしがない一般市民でしかありません。アナタの想いはありがたいが受けることはできない。身分の差はどうすることもできないんだと!」
「あの時はそれ以外言いようがなかったんだ」
「バァカ! それは逆効果だろ希望がありそうな言い方しやがって。おかげで彼女は貴族の位を放棄しようとしてしまったんだぞ?」
「こっちの知ったことか! 文句は頑固な貴族どもと規則に縛られてるクソどもに言え」
(ふたりとも口調がかわってる。それともこれが本来のオジサンなのかな?)
「おかげでこちとらこの年まで独身だぁ――まったくどこのドイツだ"勇者に金や女の匂いは似合わない"とか抜かしやがったヤツは」
「おいらに感謝しろよ。じゃなけりゃゲイ疑惑が浮上してたところだ」
「テメェのしわざか!」
「なにおぅ!」
おっとぉ、ガタッ! と音をたて両者イスから立ち上がりまっかな顔で向き合っております。レッツファイトな雰囲気ではありますが、まあうちのオジサンにひょろっとした御方が敵うはずもありませぬ。スパイク選手は挑む前に降参の態度を示しイスにケツを敷きなおしました。
「ふふん、腕っぷしだけのキミにはこちらの苦労なんてわからないだろうね」
「クチだけでのし上がってるような卑怯者じゃないんだよこっちは」
「なあおっさんども」
辟易した様子でもうひとりの男子が言葉を差し込む。ふたりが「なんだぁ?」的な態度でそっちに視線を移し、テーブルにヒジをついた少年はタイクツの極みな表情でぼけーっと言った。
「いいかげん本題に入ってくんね?」
ナイススプリットくん! みんなの意見を代弁したよ。
「……なんの話だっけ?」
「ふざけろジジイ」
「じょーだんだよ。まったくキミの連れは気が短いね」
「ウデは確かだ。そのうち私も越えられるだろうさ」
その言葉に驚きと喜びの表情を織り交ぜるスプリットくん。なかなか褒めないオジサンがそんなこと言うとは思わなかった。
「はぁ、おおかた私が潰しそこねたネズミの生き残りがフラーの地中深くに潜んでたんだろう」
「御名答。それがどういうワケかこの時代になって表に出てきてしまってねぇ……現状、フラーの土地を狙ってあちこちで交渉をしてるってことさ」
「アミューズメントパーク建設ってのも建前で、実際は巨大な資金源を得るためだろうよ。まったく国の事情を把握した上でやってくれるな」
「アイン・マラハなーんにもないもんね」
「グレース、それは王のお膝元で言わんでやってくれ。国にとっては死活問題なんだ」
「ふふ、キミが平和を開拓したのにその平和を維持するには観光資源が必要になってします。でもこの国には膨大な自然があるものの人がよりつくような魅力がなぁーい。ジレンマだねぇ」
「他人事のように言うな」
吐き捨てるようにオジサンは言った。
「しかし、ヤツらがはじめからのし上がれるような資金と行動力を持ち合わせていたとは思えん」
「問題はそこなんだ。もちろん、水面下で暗躍してただろうが、ある日とつぜん資金や行動力が身につくわけでもあるまい? ところがどっこいあいつらはここ数年で、ほんとうにとつぜん勢いをもちはじめたんだ。まるで財産も人材も潤沢であるかのように」
「……まさか、どこぞの貴族が援助を?」
「その線も捨てがたいが、実際のところ彼らは合同で出資してひとつのギルドを結成したんだ」
「ギルドだと? まさか」
「そんなギルドの結成を国が許すはずないだろうと言いたいんだろう? ところがどっこい、はじめはふつーのおとなしい冒険者ギルドだったんだ。管理者は戦闘能力こそ皆無だが良い人材を集めることに長けていてね。そういった人材に仕事を任せて、その仲介料として収入を得ていた」
「なるほど、さながら人材派遣ギルドといったところか」
(え、ちょっとまって話がややこしくなってきたんだけど)
えっとつまり、エラいひと、えーっとウチのギルドでいえばオジサンが依頼を受け取って、わたしやみんなにその仕事をやらせて自分はその収入を得るみたいなかんじ?
(――――――――え?)
それヒキョーじゃね? なんの苦労もなく金もらえるってズルくね?
(オジサンひきょうだ! ってこの場合オジサンがじゃなくてそのギルドのエラい人のこと?)
「依頼の内容、難易度、必要な人数など細かい規定があったらしくてね。おいらも依頼したことがあったけど派遣されてきた人材は確かに優秀でマッチしてたよ。彼もそのギルドに加入していたんだ」
「え?」
「……ああ」
周囲からの視線を感じ、彼はただただ声帯をひろげて空気を通しただけの声を出す。グラスの氷が砕けて割れて、沈黙した空間に風鈴のような音波を放った。
グラスの中身をイッキに飲み干し、トンとテーブルに叩きつけてからオジサンが口を開いた。
「親切なお客さんだよ。我々の再会を祝してドッキリを仕掛けてくれたに違いない」
「ほう、じゃあこのレストランにもドッキリで襲撃してくれるかもしれないな」
「あぁ実はあり得るんだ。彼らはさいきんになって目立つようになった集団でね」
こちらははんぶんになったグラスを渋い顔で減らしてる。そうこうしてる間に新たなウェイターさんがやってきて、テーブルに透明な液体を次々と並べていった。
「アルコールじゃないから安心して飲むといい」
内側のテーブルをまわしそれぞれの眼前にまわしていく。こちらに届いたそれをひとつ取り、ほんとかな? と半信半疑に口にしてみた。
(ん)
水だ。ヒットポイントがちょっと回復した。
「キミが収めてくれたいざこざから二十年経つ。その間、フラーは少しずつ繁栄への道のりを歩んでいった。それはキミも知ってるだろう?」
「数年は滞在したからな」
「人々の暮らしは変わった。ガレキの山の前で泣き崩れる子どもは消え、教会で治療を受ける難民の姿も数を減らしていった。だがその中で戦争の闇が蠢いていたのは事実だ。あれから表に見えない場所で多くの組織が暗躍していた」
「ああ。それのうちいくつかは私が潰したな」
「キミの武勇伝はいつ聞いても驚かされるよ。王城に侵入したアサシンを成敗しただけでなく王城地下で密かにつくられていた秘密組織に単身乗り込んで――」
やっとの思いでグラスをカラにした饒舌家な紳士さん。もう顔が赤くなってるしお酒によわい? でもそのぶんおしゃべりがまわるまわる。
「そしてキミはこう言うんだ。私はしがない一般市民でしかありません。アナタの想いはありがたいが受けることはできない。身分の差はどうすることもできないんだと!」
「あの時はそれ以外言いようがなかったんだ」
「バァカ! それは逆効果だろ希望がありそうな言い方しやがって。おかげで彼女は貴族の位を放棄しようとしてしまったんだぞ?」
「こっちの知ったことか! 文句は頑固な貴族どもと規則に縛られてるクソどもに言え」
(ふたりとも口調がかわってる。それともこれが本来のオジサンなのかな?)
「おかげでこちとらこの年まで独身だぁ――まったくどこのドイツだ"勇者に金や女の匂いは似合わない"とか抜かしやがったヤツは」
「おいらに感謝しろよ。じゃなけりゃゲイ疑惑が浮上してたところだ」
「テメェのしわざか!」
「なにおぅ!」
おっとぉ、ガタッ! と音をたて両者イスから立ち上がりまっかな顔で向き合っております。レッツファイトな雰囲気ではありますが、まあうちのオジサンにひょろっとした御方が敵うはずもありませぬ。スパイク選手は挑む前に降参の態度を示しイスにケツを敷きなおしました。
「ふふん、腕っぷしだけのキミにはこちらの苦労なんてわからないだろうね」
「クチだけでのし上がってるような卑怯者じゃないんだよこっちは」
「なあおっさんども」
辟易した様子でもうひとりの男子が言葉を差し込む。ふたりが「なんだぁ?」的な態度でそっちに視線を移し、テーブルにヒジをついた少年はタイクツの極みな表情でぼけーっと言った。
「いいかげん本題に入ってくんね?」
ナイススプリットくん! みんなの意見を代弁したよ。
「……なんの話だっけ?」
「ふざけろジジイ」
「じょーだんだよ。まったくキミの連れは気が短いね」
「ウデは確かだ。そのうち私も越えられるだろうさ」
その言葉に驚きと喜びの表情を織り交ぜるスプリットくん。なかなか褒めないオジサンがそんなこと言うとは思わなかった。
「はぁ、おおかた私が潰しそこねたネズミの生き残りがフラーの地中深くに潜んでたんだろう」
「御名答。それがどういうワケかこの時代になって表に出てきてしまってねぇ……現状、フラーの土地を狙ってあちこちで交渉をしてるってことさ」
「アミューズメントパーク建設ってのも建前で、実際は巨大な資金源を得るためだろうよ。まったく国の事情を把握した上でやってくれるな」
「アイン・マラハなーんにもないもんね」
「グレース、それは王のお膝元で言わんでやってくれ。国にとっては死活問題なんだ」
「ふふ、キミが平和を開拓したのにその平和を維持するには観光資源が必要になってします。でもこの国には膨大な自然があるものの人がよりつくような魅力がなぁーい。ジレンマだねぇ」
「他人事のように言うな」
吐き捨てるようにオジサンは言った。
「しかし、ヤツらがはじめからのし上がれるような資金と行動力を持ち合わせていたとは思えん」
「問題はそこなんだ。もちろん、水面下で暗躍してただろうが、ある日とつぜん資金や行動力が身につくわけでもあるまい? ところがどっこいあいつらはここ数年で、ほんとうにとつぜん勢いをもちはじめたんだ。まるで財産も人材も潤沢であるかのように」
「……まさか、どこぞの貴族が援助を?」
「その線も捨てがたいが、実際のところ彼らは合同で出資してひとつのギルドを結成したんだ」
「ギルドだと? まさか」
「そんなギルドの結成を国が許すはずないだろうと言いたいんだろう? ところがどっこい、はじめはふつーのおとなしい冒険者ギルドだったんだ。管理者は戦闘能力こそ皆無だが良い人材を集めることに長けていてね。そういった人材に仕事を任せて、その仲介料として収入を得ていた」
「なるほど、さながら人材派遣ギルドといったところか」
(え、ちょっとまって話がややこしくなってきたんだけど)
えっとつまり、エラいひと、えーっとウチのギルドでいえばオジサンが依頼を受け取って、わたしやみんなにその仕事をやらせて自分はその収入を得るみたいなかんじ?
(――――――――え?)
それヒキョーじゃね? なんの苦労もなく金もらえるってズルくね?
(オジサンひきょうだ! ってこの場合オジサンがじゃなくてそのギルドのエラい人のこと?)
「依頼の内容、難易度、必要な人数など細かい規定があったらしくてね。おいらも依頼したことがあったけど派遣されてきた人材は確かに優秀でマッチしてたよ。彼もそのギルドに加入していたんだ」
「え?」
「……ああ」
周囲からの視線を感じ、彼はただただ声帯をひろげて空気を通しただけの声を出す。グラスの氷が砕けて割れて、沈黙した空間に風鈴のような音波を放った。