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作者: 犬物語
ようじんぼう
人が集まりゃ欲も集まる
 まっとうなお客さんじゃないことだけは確かだ。

 まっくろスーツにまっくろサングラス。ぴっちりした服装はその下に鋼の身体がある証拠。つまるところフィジカルは申し分ない。

 ただーし! ここに侵入するまでの態度と歩き方と周囲への視線気配りモロモロを加味して見掛け倒しの可能性はめっちゃ高い。

(とはいえガタイはホンモノなのでぇ――たぶん、どっかのだれかに雇われてる"そこに立ってるだけの人"なのかも)

「お邪魔しますよ」

(あん?)

 黒尽くめのでっかい男たちのだれもが口を開けてない。なんでかと疑問に思ってたところ、彼らの間からスルーっと抜けてきたヒョロい体型の男性がひとり。

(もやしかな?)

 でも高級そうな、この集団のなかいかにも貴族ですよーってかんじのオンリーワンなスーツを着込んでる。

「スパイクどの。いい加減にこの土地の権利書をお譲りいただけませんかね?」

 やたら上品な口調で語りかける。本人はヒョロっとしてガリッとしてちっちゃいのに背後の壁によって存在感だけは誇張されてる。なるほど、これが虎の威を借る狐というヤツか。

 対して、こちらのスパイク選手は個人で堂々と振る舞っております。がんばれ!

「何度も申しますように、ここは我が友人にして先の対戦における英雄チャールズが所有する邸宅。それも、ちかごろミュージアムに改築したばかり……お譲りすることはできません」

「すでに周囲の土地は我々が所有しているところ。この土地をいただければ、ここフラーに最新設備を揃えたアミューズメントパークを建設することができるのです」

「それはいい! ミュージアムがパークの目玉になればより集客が見込めるでしょう」

「……勘違いされるのも困るのでこの際はっきり言わせていただきますが、このミュージアムに価値はありません」

(お、きな臭くなってきたぞ)

 主に血の匂い的な意味で。背後の壁どもがウォーミングアップをはじめました。でもいいのかなぁ? ウチの壁は一枚だけだけどそんじょそこらのチョモランマよか壮大で分厚いんだぜ?

「これまでなんども何度も丁寧におねがい・・・・してきたのに、アナタは一向に良い返事をしてくれませんでした。我々としてはとても悲しく思っています」

「私も悲しいよ。このミュージアムの魅力を理解いただけないとは」

「そこで、不本意ですが自ら土地の明け渡しを懇願したくなる方法を考えさせていただきました」

 その宣言とともに彼の姿が消え、いやうしろにいた肉の壁に埋もれた。

「どうでしょう? 突然の暴風が室内に吹き荒れる前にぜひとも土地の権利書をお渡し願えますかな? そうすれば、貴方にとってとても大切な財産の価値を損なわずに済むと思うのですが」

「とつぜんの暴風ねぇ……まあ、キミたちのヤリクチはよく聞いてるよ。ウワサに違わなず浅ましい」

「それは誤解というものです。懇切丁寧にお願いしてるのを無下にするほうが悪いのですよ」

「勘弁してくれ。よりによってなんでチャールズが帰ってきたこの日に来るんだ?」

「チャールズ? もしや所有者自身がこの場に?」

 肉壁に阻まれ見えなくてぴょんぴょん飛び跳ねてるのなんだこれカワイイとでも言ってほしいのか。そんな相手の姿に見かねたのか、オジサンは自ら前に出て名乗り出る。

「いかにも、私がこの屋敷の主だ。聞いたところ、スパイクが世話になってるらしいな」

(んー、いちおう準備したほうがいいのかな?)

 周囲を見渡してみる。いろいろヤバそうな気配に気付いたお客さん方が次々と退場していく。それらを見送るなか、入口付近の壁に腰掛けた少年はたいくつそうに事の次第を見守っているスタンス。

 こちらと相手、どちらも明確に見える位置に陣取るのは我がパーティーが誇るハンター。さすがに弓を構えてないものの鋭い目で獲物を捉えております。そのとなりにはニヤニヤしつつ状況を眺めるきんにくのおねえさん。ちっちゃい少女は伝説の英雄(スパイク談)が装備してた防具をまじまじと見てる。

(ってグウェンちゃんまだ気づいてないー)

「貴方がチャールズさまですか。おウワサはかねがね」

「悪いが近頃の事情には疎くてな、そっちのウワサは知らん。だがろくでもない集団であることは確かのようだ……やめておけ」

 ただでさえそこだけ人口密度たかいのに、さらにオジサンを囲うように大男たちがせまってるもんだからミチミチですよもう。気付いたんだけど相手のようじんぼう? の何人かが懐に武器持ってるぽい。ながい棒系、たぶん鉄パイプかな?

「ケガ人を出したくない」

「いえいえ出させていただきます。室内にちょっとした竜巻が発生して家具がメチャクチャになるのですから、全身打撲患者のひとりやふたりくらい出てもおかしくないでしょう?」

「あーもうめんどくさい。スプリットおまえがやれ」

「はぁー!? なんでオレがそんなことしなきゃいけねーんだよ」

 人が出ていくのを、そして新たに人が入ってくるのを阻止してた少年が不満の声をあげた。こういう緊張すべき場にないかるーい声にお相手さんはやや眉毛をピクつかせております。いやだって、ねえ?

(ド素人さん相手にガチのバトルはね?)

 たぶんみんな気づいてるだろうけど、あ、でもサっちゃんはまずいかな? 相手の用心棒さんガタイだけはいい感じだからついつい手加減忘れそうな気がする。

「はぁ、いい加減にしてくださいっつってんだろテメェら!」

「うわお」

 さっきまで紳士ぶってたスーツ姿のあんちゃんイキナリ口調変わった。

「さっきから大人しく話聞いてりゃよお! テメーら痛めつけるだけじゃなく殺しちまっていいのか? ああ!」

「あーったく、旧友とせっかくの再会に泥を塗らないでくれ」

「同感だ。まあでもチャールズよ、キミたちの手を煩わせることはないから安心したまえ。彼らの手口は知っていたからね、こちらとていろいろと対策を練っていたのだよ……さあカモン!」

 自分でカッコイイと思ってやってるのか、彼は目を閉じてやたら響く指パッチンを披露しつつ妙な決めポーズのまま固まった。んでなにが起きたかというと?

「出番か」

(お?)

 声は階段のほうから響いてきたようだ。んでコツコツとそこを降りてくる音。ご立派な足が見えてきて、わたしやスプリットくんよりちょっと年上っぽい感じのおにーさんがその全貌を明らかにする。

(えっ)

 ちょっとまって。

(めっちゃイケメンなんですけど?)
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