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作者: 犬物語
わたしにとってのすうねんはおおきい
数年の時を経れば多くのものが変化していくでしょう

そこにいる家族も
 そこには見たことのないような景色が広がっていた。

「――――――――ぅわ」

 行き交う人が道路に満ち、市場のにぎわいや人々の笑い声があって、そこからおいしいそうな香りが漂う。建物がところ狭しと並び、そこには人々の暮らしがあり、広場では清らかな水と子どもたちの駆け回る音が鳴り響く。

 ヒガシミョーと同じ城郭都市にしても、こっちはその規模そのものがちがった。人の数、おいしそうな数、たかーい建物の数。あっちこっちに視線が向いてあたまがくらくらしそうになる。

「――――だ」

 なにもかもが規格外だ。いままでわたしたちが歩いてきた旅路で当たり前のように見てきた木々や大自然や野生動物たちの姿は鳴りを潜め、壁の内側には人間だけのパラダイスが広がっている。楽器を手に舗装された噴水に腰掛けうたう人。それをうっとりとした視線で見つめる人。おもわず手前のうつわに小銭を投げこむ人。多くの要素が、この街がいかに豊かな環境にあるかを物語っていて、つまりこの街の規模をひとことで表せば――。

「だいとかあああああああああああああああああああああああああああああい!!!」

「うるせえ!」

 ぺしっ。ナマイキな少年にあたまをたたかれた。

「とかい!」

「イタイ、みたいなノリで言うな」

 続けて聞き取り調査されてたみんなが扉の向こうかやこちらにやってくる。実際には検問所がわの扉とこの扉までちょっとした通路がつづいてるんだけど割愛。だって無機質でつまんない一本道だったし。

「へぇ~ここがフラーか。なんかヒガシミョーと似てるな」

「似てないよ! ぜんぶおっきーじゃん!」

「それだけだろ」

「いてて……アタイにはフラーのほうが整ってるように見えるけどね」

 天井に頭をぶつけたらしいサっちゃんが頭頂部をさすりながら小さい扉をかがんで出てきた。そのうしろにビーちゃん、グウェンちゃん、そして最後尾にオジサンがいた。

「緑の気配がまったくないな」

「ここがアイン・マラハの首都フラー」

「……まさかこのような形で帰って来ることになるとは」

「え、オジサンフラーで生まれたの?」

 自称保護者を名乗るヒゲ面のことばが気になった。

「いや、いっとき足繁く通ってただけだ」

「オジサン?」

 そういうオジサンの目はどこか懐かしむような、それでどこか悲しげな眼差しに満ちていた。

「さぁて、あたらしい街についてまずやることと言えば?」

「はいはーい! おいしいもの食べ歩きツアー!」

「寝泊まりする場所だろ」

「うー、ビーちゃんそんなジト目しなくてもぉ」

「その問題はすでに解決済みだ。実はフラーに家をもっててな、知り合いに管理を任せているが、この程度の人数なら余裕で抱え込めるのだよ」

 と、得意げに語り胸を張る。そんな威張ることじゃなくない?

「そうなのですか!?」

 そう思いきや仰天したように驚く少女がひとり。いや少年もひとりいた。

「フラーでそのような大きな屋敷を所有しているなんて」

「マジかおっさん」

「え、なにそれってスゴイことなの?」

 わたしをはじめ頭にクエッションマークはっつけた三人組に少女の解説はいりまーす。

「フラーはアイン・マラハいちの商業都市でもあります。王の手厚い政治により生活必需品などは比較的安価で手に入りますがそれ以外の、たとえば土地や建物などはヒガシミョーと比較にならないほど高価だと聞いています」

「おっちゃんもフラーに店を構えるのはそれだけで金持ちの証だって言ってたな」

「なるほど……フラーでの生活はどうなんだ? 一年滞在すれば市民権を得られるのだからそれまで働いてお金を稼ぐこともできるだろう?」

「うーん、ビシェルの言うことももっともだが市民権を得られるだけで住む場所を与えられるわけではないのだ」

 つまりこういうことである。

 街で生きてくのは可能だけど、おうちはないのでだれかのうちに泊めてもらって、その持ち主におかねや労働力を支払って暮らしていく。フラーは首都なだけあって国内外から多くの人が流れ込むんだけど、そのぶん仕事の種類やお給料のバランスもあっちこっち違うんだって。

「グウェンの言うとおりだ。詳しいな」

「教会で一般常識はひととおり習いましたから」

「へぇーそうなんだ」

「まったく理解してないって顔だな」

 オジサンそれ余計なひとことだからね? わたしだっていろいろ考えることはあるんだよ?

(とにかくいろんな決まりがあるってことでしょ)

 で、その決まりをまもって生きていかなきゃいけない。ときにジャマになる決まり事だけど、それが人間が決めた生き方だから。

(われながら他人事みたいなコメントだなぁ)

「なんにしても、まずはオッサンの家に行ったほうがいーんじゃねぇか?」

 スプリットくんの一言により、まずはさいしょの目的地に向けて歩き出しました。石造りの舗装された地面。護衛つきの馬車が通り過ぎ、チラッとのぞいた中にはキラキラした衣装に身を包んだ女性が乗り込んでいた。

 ちょっと太ってた。きっとおいしいものたくさん食べてるんだろうなぁ。

 道路の両サイドは人を威圧するような大きな建物が並ぶ。同じようなつくり。同じ位置に窓があり、そこでは多くの人が暮らしているそうだ。ある程度すすみ住宅街を抜けると、こんどは憩いの場であろう噴水のある広場があり、それを正面に見据えるような形で教会が佇んでいた。

 そういえばヒガシミョーもおなじような広場があった。それと同じく白くて見上げるような大きさの建物。中央に大きな扉をかまえ、フラーの教会はちょっとトゲトゲしくて何本も柱があって、てっぺんにまるい天井? みたいなのがあった。中身はどんなかんじなんだろう?

 広場、というには人口密度が高くてひろくなくなってる。たいこ、ふえ、弦で糸を弾くようないろんな楽器がそこに溢れていて、それに合わせて踊ったり曲芸を披露したりとても楽しそうな雰囲気だった。後ろ髪を引かれながらも別の通りにさしあたり、市場を抜け、喧騒から落ち着いた雰囲気の通りに出たところでオジサンの足が止まった。

「ついたぞ。ここが私の――うち、だったはずだが」

「え」

 ある建物の前にいる。その入口から高齢の夫婦らしきふたりが出てきて、笑顔でなにかの袋を握りしめている。それと行き違うようにまたひとりのおばあさんがその建物に入っていく。こころなしか、みんなとても嬉しそうな顔してる。

「うちっていうかどうみてもこれ」

 みぎからひだり、うえからしたと視線を流していった結果、これはどーみても人んちではないという結論にたどり着かざるを得ないのですが。

 見てくれは和風な感じがするけどどことなく違和感。どっちかってと中華? な雰囲気。だっていろいろ赤いし、よくわかんないけどそんな気がするんだもん。

 で、本題はこっちよ。

「なんかのおみせ?」

「いや、そんなはずは……」

「チャールズ!」

 呆然としてるオジサンにみんなが呆然としてるころ、そんなオジサンの名前を呼ぶ声がそのお店から響き、同時に扉が勢いよく開かれた。

「長らく見なかったが変わらないな! こっちはすこし老けてしまったよ年齢にはかなわんね!」

「お、おう……ひさしぶりだな」

 引きつった笑みのお手本を見た。見たところオジサンと同年代かすこし年上っぽい男の人だけど、彼がオジサンの言ってた管理を任せてる人なのかな?

「これは、いったいどういうことだ?」

「ああ、これか……その」

 振り返って、建物の一階部分を見て、そしてまたこちらに向き直って、さいごにウインクした。

「ごめん☆」

(うえっ)

 こいつ自分がかわいいとでも思ってんのか?
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