夢はのーみそがビンビンするんだって!
異世界あるある。公用語が日本語
「もう夜更けだ。寝よう」
言葉足らずに、オジサンは広げたゴザに横になった。
「なんだよ、これからい話がはじまるトコじゃん?」
「有名すぎてみんな知ってる。商人といっしょに旅してたんなら話を聞くなり書物のひとつくらい紐解いとけ。じゃ、最初の見張り番は頼んだぞ」
「ちぇ」
しぶしぶといった感じで、スプリットくんは火の前にしゃがみこんだ。
涼しい風が髪の毛をとおり過ぎる。お昼どきのそれよりちょっと温度が低くて、やわらかく身体を撫でてくれるようで、それを意識した瞬間にほんのり眠気が押し寄せてきた。
スプリットくんがさいしょの見張り役をして、次はわたし、そしてビーちゃんが交代のため寝袋から這い出てくる。
「交代だ」
ビーちゃんはちょこんと、わたしのとなりに腰掛けた。
「キレイな星空だな」
夜空の瞬きを瞳に宿して、やさしいまなざしを虚空に飛ばして。すらっとした身体、火の光に当てられた彼女を見て、わたしはなんとなく「ああ、これがオトナの女性なんだなー」っておもった。
「わたしたちの故郷も、あんな星空をしてたのだろうか?」
「ビーちゃんも思い出せないの?」
家族、思い出、どんなところに住んでどんな毎日を過ごしていたのか。
「ああ。ただかすかに記憶に残っていることがある」
ちょっぴり恥ずかしそうな顔をした。
「やさしく頭を撫でられて、それをされるととても安心できた」
「好きな人がいたのかな?」
「っふふ、どうだろうな。思い出せないのだから何とも言えん。だけどこんな毎日を過ごしてるのにわりと平気なんだ。きっと田舎暮らしだったに違いない」
「あ、それおもう~」
都会っ子だったら野宿いちにち目でどーにかなっちゃいそうじゃない? 勝手な想像だけど。
「高知県かな?」
「なにがだ?」
「わたしたちの故郷。みんな日本生まれってことはわかってるじゃん?」
「いや、まあわからんが」
「いやだっとそうでしょ? じゃなきゃビーちゃん英語しゃべれないじゃん」
「そんなこと言い出したらこの世界の住人もみんな日本語だぞ?」
「あっ」
なるほど、これが異世界補正か。
「でもでも、みんな"にほん"を知ってるでしょ? じゃあ日本のひとでいいんじゃない?」
「それは、まあそうだが。だからって都道府県まで踏み込むことはないだろう」
「じゃあギフかなーあーでもグンマとか田舎くさそー」
「勝手な印象でものを決めるな」
「じゃあビーちゃんはどこが田舎っぽいと思うの?」
「わたし? いや、べつに、そうだなぁ……あおもり?」
「それはぽいじゃなくない? トーホクはぜんぶ田舎でしょ」
「そんなこと無いだろう! って、そんなくだらない話をしに来たんじゃない」
両手でぎゅぎゅっと押し出す。わたしは拒否権を発動した。
「さっさと寝袋に入れ、寝坊するぞ」
「わたし朝強いもん」
「いーから」
ビーちゃんが拒否権を拒否した。しかたない、わたしはまるくなった。
「――――――――――んにゃ? っと」
ここはだれ? わたしはどこ?
「ひとりぼっち……なんかイヤだなぁ」
道の上に立ってる。そのまわりは草。んでとーくに山と森。あとさらにとーくに村がある。さっきまでわたしたちがいた村だ。
(あ)
わかった。
これは夢だ。
「そうだね」
「わひゃあ!!」
夢じゃなかった!!
「ううん、これは夢だと思うよ……すくなくともその回路にキミは立っている」
どこからともなく声が聞こえる。声の主をさがして右へ左へ視線を動かす。
いないんだけど?
「ああ、ごめん聴覚刺激だけだったか」
「あ」
犬がいた。
いっぴきのわんちゃん。わりとデカめのヤツ。えーと犬種はなんだっけ?
「ボクが何者なのかは気にしないでいいよ」
その声は、どこか懐かしい音だった。はじめての声なのにそんな気がしない。すべてを預けられるような安心感を与えてくれるような響きがそこにあった。
「龍脈の水を飲んじゃったんだね」
おっきな犬が口を開けずにしゃべった。
「本来はそんな用途じゃないんだけど……わかりやすく言うとそれはラスボスなんだ」
「へ?」
(いきなりなに言い出したこのわんわん。っていうか犬がしゃべってるし)
やっぱ夢だなぁ。
「本来ならゲームオーバーなんだけどね、それは難しいからちょっぴりキミのステータスを弄らせてもらったよ」
「ステータス?」
「かんたんに言うと、キミだけのチートスキルって感じ」
「マジで!?」
やったぜ異世界チートじゃん!
「まあチート過ぎるのはボクも困るから調節したけどね」
(えっ)
なにこのクソゲー。
「ねえねえそういうのいらないからスゴイのほしい! 野宿でもぐっすり眠れるスキルとかないの?」
「それってチートで欲しがる能力、なのかな?」
若干困惑気味のいぬ。いやいやメッチャ重要じゃんいっかい野宿してみなよ? あったかいオフトゥンサイキョーだってわかるよ?
「じゃあマモノが襲ってこなくなる魔法は?」
「……それはムリだね、ごめん」
犬はさみしそうに俯いた。
「さすがに予想外だったからね。まさかこの世界を利用して悪巧みを企む存在がいるとは思わなかった」
「わるだくみ?」
「こっちの話。さて、そろそろ時間だ」
「あ、わんちゃんドコ行くの?」
「アクセスし続けるのはキミへの負荷が大きすぎるからね……スキルとしてうまく落とし込めたと思うからぜひ試してみてよ。チュートリアル用のモンスターも用意しておいたから」
「へ?」
次の瞬間、あたりがまっしろになった。
言葉足らずに、オジサンは広げたゴザに横になった。
「なんだよ、これからい話がはじまるトコじゃん?」
「有名すぎてみんな知ってる。商人といっしょに旅してたんなら話を聞くなり書物のひとつくらい紐解いとけ。じゃ、最初の見張り番は頼んだぞ」
「ちぇ」
しぶしぶといった感じで、スプリットくんは火の前にしゃがみこんだ。
涼しい風が髪の毛をとおり過ぎる。お昼どきのそれよりちょっと温度が低くて、やわらかく身体を撫でてくれるようで、それを意識した瞬間にほんのり眠気が押し寄せてきた。
スプリットくんがさいしょの見張り役をして、次はわたし、そしてビーちゃんが交代のため寝袋から這い出てくる。
「交代だ」
ビーちゃんはちょこんと、わたしのとなりに腰掛けた。
「キレイな星空だな」
夜空の瞬きを瞳に宿して、やさしいまなざしを虚空に飛ばして。すらっとした身体、火の光に当てられた彼女を見て、わたしはなんとなく「ああ、これがオトナの女性なんだなー」っておもった。
「わたしたちの故郷も、あんな星空をしてたのだろうか?」
「ビーちゃんも思い出せないの?」
家族、思い出、どんなところに住んでどんな毎日を過ごしていたのか。
「ああ。ただかすかに記憶に残っていることがある」
ちょっぴり恥ずかしそうな顔をした。
「やさしく頭を撫でられて、それをされるととても安心できた」
「好きな人がいたのかな?」
「っふふ、どうだろうな。思い出せないのだから何とも言えん。だけどこんな毎日を過ごしてるのにわりと平気なんだ。きっと田舎暮らしだったに違いない」
「あ、それおもう~」
都会っ子だったら野宿いちにち目でどーにかなっちゃいそうじゃない? 勝手な想像だけど。
「高知県かな?」
「なにがだ?」
「わたしたちの故郷。みんな日本生まれってことはわかってるじゃん?」
「いや、まあわからんが」
「いやだっとそうでしょ? じゃなきゃビーちゃん英語しゃべれないじゃん」
「そんなこと言い出したらこの世界の住人もみんな日本語だぞ?」
「あっ」
なるほど、これが異世界補正か。
「でもでも、みんな"にほん"を知ってるでしょ? じゃあ日本のひとでいいんじゃない?」
「それは、まあそうだが。だからって都道府県まで踏み込むことはないだろう」
「じゃあギフかなーあーでもグンマとか田舎くさそー」
「勝手な印象でものを決めるな」
「じゃあビーちゃんはどこが田舎っぽいと思うの?」
「わたし? いや、べつに、そうだなぁ……あおもり?」
「それはぽいじゃなくない? トーホクはぜんぶ田舎でしょ」
「そんなこと無いだろう! って、そんなくだらない話をしに来たんじゃない」
両手でぎゅぎゅっと押し出す。わたしは拒否権を発動した。
「さっさと寝袋に入れ、寝坊するぞ」
「わたし朝強いもん」
「いーから」
ビーちゃんが拒否権を拒否した。しかたない、わたしはまるくなった。
「――――――――――んにゃ? っと」
ここはだれ? わたしはどこ?
「ひとりぼっち……なんかイヤだなぁ」
道の上に立ってる。そのまわりは草。んでとーくに山と森。あとさらにとーくに村がある。さっきまでわたしたちがいた村だ。
(あ)
わかった。
これは夢だ。
「そうだね」
「わひゃあ!!」
夢じゃなかった!!
「ううん、これは夢だと思うよ……すくなくともその回路にキミは立っている」
どこからともなく声が聞こえる。声の主をさがして右へ左へ視線を動かす。
いないんだけど?
「ああ、ごめん聴覚刺激だけだったか」
「あ」
犬がいた。
いっぴきのわんちゃん。わりとデカめのヤツ。えーと犬種はなんだっけ?
「ボクが何者なのかは気にしないでいいよ」
その声は、どこか懐かしい音だった。はじめての声なのにそんな気がしない。すべてを預けられるような安心感を与えてくれるような響きがそこにあった。
「龍脈の水を飲んじゃったんだね」
おっきな犬が口を開けずにしゃべった。
「本来はそんな用途じゃないんだけど……わかりやすく言うとそれはラスボスなんだ」
「へ?」
(いきなりなに言い出したこのわんわん。っていうか犬がしゃべってるし)
やっぱ夢だなぁ。
「本来ならゲームオーバーなんだけどね、それは難しいからちょっぴりキミのステータスを弄らせてもらったよ」
「ステータス?」
「かんたんに言うと、キミだけのチートスキルって感じ」
「マジで!?」
やったぜ異世界チートじゃん!
「まあチート過ぎるのはボクも困るから調節したけどね」
(えっ)
なにこのクソゲー。
「ねえねえそういうのいらないからスゴイのほしい! 野宿でもぐっすり眠れるスキルとかないの?」
「それってチートで欲しがる能力、なのかな?」
若干困惑気味のいぬ。いやいやメッチャ重要じゃんいっかい野宿してみなよ? あったかいオフトゥンサイキョーだってわかるよ?
「じゃあマモノが襲ってこなくなる魔法は?」
「……それはムリだね、ごめん」
犬はさみしそうに俯いた。
「さすがに予想外だったからね。まさかこの世界を利用して悪巧みを企む存在がいるとは思わなかった」
「わるだくみ?」
「こっちの話。さて、そろそろ時間だ」
「あ、わんちゃんドコ行くの?」
「アクセスし続けるのはキミへの負荷が大きすぎるからね……スキルとしてうまく落とし込めたと思うからぜひ試してみてよ。チュートリアル用のモンスターも用意しておいたから」
「へ?」
次の瞬間、あたりがまっしろになった。