不穏な空気
1エピソードあたり2000文字以内がトレンドだと聞いて
修行のターンはいまどきウケないらしいからカットするんだって。ってことであれから五日たちました!
でもまだまだみんなとあそんでます。わたしもオジサンとの追いかけっこすっごく楽しくて、それだけじゃなく最近はちょっとずつさわれることが多くなってきたの。
「よーし今日はこのヘンでいいだろう。いやはや若いというのはいいもんだ。おとといより昨日、きのうより今日のほうがずっと強くなってやがる」
「涼しい顔してよく言うよ。いい加減イッパツくらい食らってみやがれ」
「ハッ、まだまだ若いモンには負けられん――とは言っても、これでもけっこう疲れてるんだぞ? まったくお前たちのスタミナは"若い"ってだけじゃ説明つかん。このバケモノめ」
「そうだろ! へへっ、よーやくオレの強さをわかってくれたか」
「ちがう、あっちのほうだ」
「え、わたし?」
なんかオジサンに指さされたのでこっちもじぶんで指さしてみる。
「なになに? もーいっかいあそぶ?」
「終わりだっつの。はじめはどうなるかと思ったらすぐ私の癖に気づくわ絶妙なフェイントを覚えるわ投擲したナイフを自分で取りに行くわで。さいごはともかく動きがトリッキーすぎてまったく読めん……時代が時代なら優れた暗殺者になってたかもしれんな」
「あんさつシャ!!」
なにそれこわい。
「才能だな。天然ものを養殖するのはホネが折れることだが、このブンならちょっと鍛えりゃすぐいっぱしの冒険者になれるだろう」
「すぐってどれくらい?」
「一年」
「それけっこー遠くねえか?」
「おまえは三年だ、小僧」
「なンだと!?」
「そのゲンキがあるなら最初から全力でかかってこい。ほら、グダグダ言ってないでメシでも食うぞ」
木剣を拾い上げ肩に背負う。そのまま背中を見せてスタスタと宿に戻っていく。
木剣は、オジサンがそのへんにあった角材を削ったものだ。ちょっと無骨でいびつな形。木でできてるからスプリットくんの武器でかるく両断できそうな気がしたんだけど、なんかふしぎな魔法がかけられてるっぽくて斬ることはできなかった。
ってかすっごくキンキン音したし。異世界の木は金属だった?
「気に入らねーな」
扉の向こうに消えていくうしろ姿を見送る。宿のおばあさんに用意してもらった桶から水をすくって、それを自分の得物に垂らしていた。
「いっつもよゆーこきやがって、クソッ」
「そんなことないよ。だって今日のスプリットくんいっかいも転ばなかったじゃん」
「張ってたからな。でもチャンスで反撃できなかった。いつかあの薄ら笑いを引きつらせてやる」
気に入らない、なんて言いつつ彼の顔には笑みが浮かんでいた。
「はじめのころは手も足も出ないって感じだったけど今日はがんばったじゃん。なんかこうビシッ! って感じで上からドーン! って」
「言ってる意味わかんねーよ。ほら行こうぜメシだ」
「あ、まってよ!」
「先日、隣国からの密偵が合流した。それが伝えるところには、やはりどの国にも異世界人が出現してるそうだ。それと同時に各地で自然災害が起こっている」
「精霊たちはなんだと?」
「なにも。ただ聞くところによると自然災害が頻発しはじめた時期から人里に現れなくなったらしい」
「なるほど……どうやらあの子らとの出会いは偶然ではなさそうだ」
「国でもけっこうな噂になってる。魔術師連中は今のところ協会に従ってはくれてるが、そこに属してない者たちから事実が広まるのは時間の問題だろうな」
「それは仕方ない、いずれわかることだ……それにしても妙な空だな。ユージーン。この時期に嵐なんて聞いたことないぞ」
「わたしもだ、だがここ数ヶ月の間頻発している。この間はあやうく村ひとつが崩壊するところだった」
「まさか!? そこまでの被害なら先んじて占星術師からの警告があるだろう?」
「わからんから謎だと言っている。ただ森の民が言うには厄災の前触れだと」
「厄災……エルフがその言葉を使うならそれが意味するところは」
「ありえん! 魔王の脅威はすでに取り除かれた。魔族関連の事件などここ数年起きていないではないか。長寿族は人間を見下し戯れるという。今回もそれであろう」
「……そうであれば良いのだがな」
壮年の騎士の眼には、薄暗く、しかし鈍色に怪しく光る曇天が立ち込めていた。
でもまだまだみんなとあそんでます。わたしもオジサンとの追いかけっこすっごく楽しくて、それだけじゃなく最近はちょっとずつさわれることが多くなってきたの。
「よーし今日はこのヘンでいいだろう。いやはや若いというのはいいもんだ。おとといより昨日、きのうより今日のほうがずっと強くなってやがる」
「涼しい顔してよく言うよ。いい加減イッパツくらい食らってみやがれ」
「ハッ、まだまだ若いモンには負けられん――とは言っても、これでもけっこう疲れてるんだぞ? まったくお前たちのスタミナは"若い"ってだけじゃ説明つかん。このバケモノめ」
「そうだろ! へへっ、よーやくオレの強さをわかってくれたか」
「ちがう、あっちのほうだ」
「え、わたし?」
なんかオジサンに指さされたのでこっちもじぶんで指さしてみる。
「なになに? もーいっかいあそぶ?」
「終わりだっつの。はじめはどうなるかと思ったらすぐ私の癖に気づくわ絶妙なフェイントを覚えるわ投擲したナイフを自分で取りに行くわで。さいごはともかく動きがトリッキーすぎてまったく読めん……時代が時代なら優れた暗殺者になってたかもしれんな」
「あんさつシャ!!」
なにそれこわい。
「才能だな。天然ものを養殖するのはホネが折れることだが、このブンならちょっと鍛えりゃすぐいっぱしの冒険者になれるだろう」
「すぐってどれくらい?」
「一年」
「それけっこー遠くねえか?」
「おまえは三年だ、小僧」
「なンだと!?」
「そのゲンキがあるなら最初から全力でかかってこい。ほら、グダグダ言ってないでメシでも食うぞ」
木剣を拾い上げ肩に背負う。そのまま背中を見せてスタスタと宿に戻っていく。
木剣は、オジサンがそのへんにあった角材を削ったものだ。ちょっと無骨でいびつな形。木でできてるからスプリットくんの武器でかるく両断できそうな気がしたんだけど、なんかふしぎな魔法がかけられてるっぽくて斬ることはできなかった。
ってかすっごくキンキン音したし。異世界の木は金属だった?
「気に入らねーな」
扉の向こうに消えていくうしろ姿を見送る。宿のおばあさんに用意してもらった桶から水をすくって、それを自分の得物に垂らしていた。
「いっつもよゆーこきやがって、クソッ」
「そんなことないよ。だって今日のスプリットくんいっかいも転ばなかったじゃん」
「張ってたからな。でもチャンスで反撃できなかった。いつかあの薄ら笑いを引きつらせてやる」
気に入らない、なんて言いつつ彼の顔には笑みが浮かんでいた。
「はじめのころは手も足も出ないって感じだったけど今日はがんばったじゃん。なんかこうビシッ! って感じで上からドーン! って」
「言ってる意味わかんねーよ。ほら行こうぜメシだ」
「あ、まってよ!」
「先日、隣国からの密偵が合流した。それが伝えるところには、やはりどの国にも異世界人が出現してるそうだ。それと同時に各地で自然災害が起こっている」
「精霊たちはなんだと?」
「なにも。ただ聞くところによると自然災害が頻発しはじめた時期から人里に現れなくなったらしい」
「なるほど……どうやらあの子らとの出会いは偶然ではなさそうだ」
「国でもけっこうな噂になってる。魔術師連中は今のところ協会に従ってはくれてるが、そこに属してない者たちから事実が広まるのは時間の問題だろうな」
「それは仕方ない、いずれわかることだ……それにしても妙な空だな。ユージーン。この時期に嵐なんて聞いたことないぞ」
「わたしもだ、だがここ数ヶ月の間頻発している。この間はあやうく村ひとつが崩壊するところだった」
「まさか!? そこまでの被害なら先んじて占星術師からの警告があるだろう?」
「わからんから謎だと言っている。ただ森の民が言うには厄災の前触れだと」
「厄災……エルフがその言葉を使うならそれが意味するところは」
「ありえん! 魔王の脅威はすでに取り除かれた。魔族関連の事件などここ数年起きていないではないか。長寿族は人間を見下し戯れるという。今回もそれであろう」
「……そうであれば良いのだがな」
壮年の騎士の眼には、薄暗く、しかし鈍色に怪しく光る曇天が立ち込めていた。