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 僕の住む時代にトリオがきた理由を説明したマチルダさんは、更に言葉を続けた。

「飛ばすとしても、そのままでは気付かれてしまう。だから、カモフラージュとして鳥にしたわけ。アリアに教えてもらった新しい勇者の属性の公式を貼り付けてね」
「なるほど。部屋でずっと調べちょったのがそれか」
「そうね。力づくでやったからか、今となっては戻っちゃってるみたいだけど、あんたの思考力と性格にも少し干渉してたみたいね。最初結構むかつく性格だったわー」

 ケラケラ笑い始めるマチルダさんを見て、トリオはばさばさと翼を振った。

「ええじゃろ別に。結構楽じゃったし」
「んー、じゃあ、結果オーライ? あんたも結構ストレス凄かったのねぇ」
「いつもいつも誰のせいじゃと思っちょるんじゃ!」

 トリオは飛び上がって抗議した。
 それにしても、本当に、最初めちゃくちゃ荒ぶっていたのに、どんどんトリオは落ち着いていった。慣れにしても極端だとは思っていたので、納得した。
 こっちが素なんだね。
 最初のあのままだったら付き合いづらそうだったので良かった。

「この術、結構複雑だし、不安定になりやすいから、タマとベンにも協力して貰っているの。わたしの記憶は開放したから、今のあんたの鳥の姿には、わたしとあんたの魔力と、タマとベンを全て封じ込められてるわけ」

 マチルダさんの言葉に、トリオははっと息を飲み込む。

「タマとベンを?」
「トリオさん、言ったでしょう。タマとベンについては、ここについたら話すって」

 彼の問いに、アリアとマチルダさんが頷いた。

「大切な家族だもの。タマとベンを置いていくなんてできないわ。それに、ベンにはあんたをこちらに連れてくる操作の補助をしてもらったし、あんたがここで使っていた魔力はタマのものよ。あんたのだと気付かれちゃうもの」
「ワシの魔力じゃないことは気付いておったが、タマが……」

 ぽつりと猫の名前を言う鳥に、アリアは軽く謝罪の言葉を言った。

「必要な時に間に合わなくて申し訳なかった。旅立つ直後までに出会って、制御装置を渡せると良かったんだけどね。あなた方が来るのが思ったよりもかなり早くて。フミの町を調整してたとき、来ていたことに気がついた」

 うんうんと、マチルダさんが首を縦にふる。

「設定もかなり崩れちゃっているみたいねぇ。トリオに関しては、本当は新しい勇者に紛れさせたかったんだけど、時期がズレたっぽいし」
「それは儂の影響もあるかもな。想定外のことについて、今の時代は儂が引き受けていたからな」

 口数も少なく、ただ僕以外の三人の話を見守っていることの多かったアルバートさんは静かに言う。

「それで時期が動いたのなら、何よりだ」 
「つまり、フミの町では大急ぎで話を進める準備をしたからアラがあったんだね。アリア」
「うん。ユウは全然納得できてなかったよね」

 にこにこと可愛い笑顔でアリアは肯定した。

「本当だよ」

 本当はまだフミの町に来る時期ではなかった。
 アリアの名前が途中で切り替わったのはそのためで、テービットさんの家に忍び込んだ理由がよく分からないのもそのせいか。
 あれは新しい勇者とマチルダさん含めたその仲間が、いつか何か正当な理由をつけて行うためのものだったのかな。
 本当はちゃんとした理由があるんだろう。

「あと、トリオさんをここに連れてきたもう一つの理由を話そうか。それはここであなたにしか使えない力を使ってもらいたいから」

 アリアは説明を続けた。

「コヨミ神殿は普通の冒険者は近づきにくい場所だ。神職やハヅの関係者でない限りは、勇者の道をある程度たどらせないと、ここにくるまでの条件は満たせない。ここはそういう設定がされている」
「だから、せっかく整備して、グスタフとパンフレットまで作っていても、観光客も冒険者も来ないんだがな。新たな補強のためには国からの支援以外に、自分たちでもう少し外貨を稼ぎたいのだが」

 合間に挟んだアルバートさんの切実な声に、アリアは少し微笑みんだ。

「フミの町で悪行を行うようになるテービットを成敗するのは勇者の役目だった。トリオさんにはコヨミ神殿へ来るために、その道を辿らせるべく、無理やりだけどテービットを倒させた」
「本当に無理やりだったよね」

 僕はため息ををつく。
 ハヅで倒れるハメになった違和感のかなり大部分を占めているのは彼だった。何で忍び込んでいるんだろうとか、めちゃくちゃ訳分からなかったよ。
 僕らが言い合っている間に考えてたらしいトリオは、呟くように確認した。

「……ワシにしか使えないとなると、雷か?」

 アリアは同意した。

「ご名答。ナセル族の勇者は強力な魔王を倒すという役目の関係上、他とは違う特別な権限を持たせている。その力は、唯一内部から外部に働きかけることができる存在なんだ」

 話しながら、アリアは右手で軽くボールを投げる仕草をした。内側から外の方向へ。
 内部から外部へ。

「創造神のいる外部と、いわゆるこの世界という内部は、コヨミ神殿を通して繋がっている。この経路を遮断すれば、外の影響は受けずに済むんだ」

 アリアは右手で作った手刀を振り下ろした。何かを軽く断ち切る真似をのようだ。

「今は私が点検名目で一時的に遮断させている状態だから、こうして自由に話せるんだけど、長期間は無理なんだ」

 でも、とアリアは言い、トリオを見る。

「負荷をかけまくった状態の今であればやり方次第では恒久的に遮断できる。トリオさんの力で」
「……雷にそんな力があるのか?」

 相変わらず気弱に確認するトリオに、アリアは微笑んで頷く。

「不本意だろうけど、あなたはこの世界に、この舞台に選ばれた特別な存在だ。他の人とは違う、特殊で強力な力を持っている」

 トリオが不服そうにくちばしを鳴らすのを確認してから、アリアは続ける。

「そこに、魔王と魔法使いの力も合わせれば、規格外の威力になるだろう。想定したことがない威力の雷で内部から経路を破損させ、その間に私が切断すれば、内外の繋がりを完全に遮断できる」

 アリアはそう言い切った。



 その言葉で僕は、彼女の目的を、望んでいることを理解した。
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