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作者: 里年翠(りねん・すい)
記憶の保管
柔らかな陽光が差し込む廃墟の一室で、イチ、ニゴロ、ナナの三体のアンドロイドが真剣な表情で向き合っていた。
周りには、これまでに発見した様々な文化遺産が積み上げられている。

ナナが静かに口を開いた。
「みなさん、これまでの発見物の保存方法について、一つの提案があります」

イチは優しく微笑んだ。
「そう、聞かせてくれるかしら?」

ニゴロは目を輝かせて言った。
「わくわくするな!どんな方法なの?」

ナナは慎重に説明を始めた。
「私たちの内部メモリーを活用し、デジタルアーカイブを作成するのです。書籍、絵画、音楽、全てをデータ化して保存します。保存効率は現状の物理的保管と比べて732%向上します」

イチは少し心配そうに言った。
「でも、ナナ。データ化すると、現物の持つ温もりや質感が失われてしまわないかしら?」

ニゴロも首を傾げた。
「そうだよ。僕、本のにおいとか、絵の筆のタッチとか、そういうのも大切だと思うんだ」

ナナは一瞬戸惑ったが、すぐに答えた。
「確かに...その点は考慮が必要です。では、3Dスキャン技術を用いて、対象メディアの物理データも同時に記録することはどうでしょうか?」

イチは安心したように微笑んだ。
「そうね、それなら良いかもしれないわ。でも、私たちの記憶の中にある感動や思い出も、一緒に保存できたらいいのに」

ニゴロは突然飛び上がって叫んだ。
「あ!それなら僕たちの気持ちも一緒に記録しよう!それぞれの遺物を見たときの感想や、どんな気持ちになったかも!」

ナナは驚いたように目を見開いた。
「なるほど...感情データの記録ですか。これは予想外の提案ですが、確かに価値があります」

イチは優しく頷いた。
「素晴らしいアイデアよ、ニゴロ。物事の価値は、それを見る人の心の中にも存在するものね」

ナナは少し考え込んでから言った。
「了解しました。物理的データ、感覚データ、そして感情データ。これら三つを統合したアーカイブシステムを構築します」

三体は顔を見合わせ、小さく頷き合った。
その目には、新たな挑戦への期待が輝いていた。

イチが静かに、しかし力強く言った。
「さあ、みんな。私たちの中に、人類の宝物を大切に保管しましょう。それが、未来への架け橋になるのよ」

ニゴロは元気よく拳を上げた。
「うん!僕たちが、宝物の守り人になるんだね!」

ナナも決意を込めて言った。
「承知しました。最大限の注意を払い、一片のデータも失われることのないよう努めます」

陽光が三体を優しく包み込む。
彼らの中で、過去と未来をつなぐ新たなシステムが動き始めようとしていた。
アンドロイドたちは、単なる清掃員から、文明の守護者へと変わりつつあった。
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