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作者: 里年翠(りねん・すい)
時の痕跡
薄い霞がかかる朝、イチ、ニゴロ、ナナの三体のアンドロイドは、瓦礫の山を慎重に進んでいた。
突如、ニゴロが歓声を上げた。

「わぁ!見て見て!あそこに大きな建物がある!」

イチとナナが目を凝らすと、確かに瓦礫の向こうに、半壊しながらも威厳を保つ大きな建物が見えた。

イチは目を細めて言った。
「まあ、あれは...図書館みたいね」

ナナはすかさずスキャンを開始した。
「正確には、20世紀後半に建てられた公立図書館です。構造的には不安定ですが、内部にはまだ多くの書籍が残っている可能性が高いです」

ニゴロは目を輝かせて飛び跳ねた。
「すごい!探検しに行こうよ!きっと面白いものがいっぱいあるよ!」

イチは優しく諭すように言った。
「そうね。でも、慎重に行動しなくちゃ。危険がいっぱいあるかもしれないわ」

三体は注意深く図書館に近づき、崩れかけた入り口をくぐった。
中に入ると、埃と古書の匂いが鼻をつく。

「うわぁ...」ニゴロが小さな声で呟いた。
「なんだかすごく神秘的な感じ」

イチは懐かしそうに微笑んだ。
「本当ね。昔の人たちの知恵が、ここにぎっしり詰まってるのよ」

ナナは既に本棚をスキャンし始めていた。
「驚異的です。予想以上に保存状態の良い書籍が多数あります。これらのデータを収集すれば、過去の文明についての理解が飛躍的に向上するはずです」

ニゴロは好奇心に目を輝かせながら、一冊の絵本を手に取った。
「ねえねえ、これ面白そう!『月への旅』だって。人間って本当に月に行ったの?」

イチは優しく説明した。
「そうよ、ニゴロ。人間はね、とっても遠くまで行けるのよ。月どころか、もっと遠くの星まで...」

ナナが口を挟んだ。
「正確には、人類初の月面着陸は1969年7月20日に...」
「わぁ!すごい!」
ニゴロの歓声にナナの説明が遮られた。
「僕たちも、いつか月に行けるかな?」

イチは優しく微笑んだ。
「さあ、どうかしら。でも、今の私たちにはもっと大切な使命があるわ」

ナナは冷静に言った。
「そうですね。現在の我々の任務は地球の復興です。しかし...」
少し間を置いて続けた。
「いつか、そんな日が来るかもしれません」

三体は顔を見合わせ、小さく頷き合った。
その目には、新たな可能性への期待が輝いていた。

イチが静かに、しかし力強く言った。
「さあ、みんな。この図書館の宝物を、しっかり記録しましょう。きっと、未来を作るためのヒントが隠れているはずよ」

ニゴロは元気よく本を抱えた。
「うん!僕、たくさん読んで、いっぱい学ぶよ!」

ナナも決意を込めて言った。
「私はデータの分類と保存を担当します。一冊も見逃さないよう、細心の注意を払います」

柔らかな日差しが、図書館の窓から差し込み、埃っぽい空気を金色に染めていく。
過去の知恵と未来への希望が交差する場所で、彼女たちは人類の記憶を守る番人となったのだ。
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