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作者: 里年翠(りねん・すい)
疑問の芽生え:problem
朝もやの立ち込める廃墟の街。イチ、ニゴロ、ナナの三体のアンドロイドは、古びた商店街の清掃に取り組んでいた。
埃っぽい空気の中、彼女たちの姿だけが生き生きと動いている。

「ねえ、これ見て!」
突然、ニゴロが興奮した声を上げた。

イチとナナが駆け寄ると、ニゴロの手には一枚の古びた写真が握られていた。
そこには、笑顔の家族が写っている。

「わあ…」イチが目を細める。
「なんて素敵な笑顔なのかしら」

ナナは冷静に観察した。
「おそらく災害前の写真ですね。当時の生活様式を知る上で貴重な資料になりそうです」

ニゴロは写真を胸に抱きしめた。
「ねえ、この人たち、今どうしてるのかな…」

一瞬の沈黙が流れた。
三体のアンドロイドの目に、今まで見たことのない感情の輝きが宿る。

イチが静かに口を開いた。
「私たちにはわからないわ。でも、きっとどこかで…」

「生きている可能性が20.7%です」ナナが口を挟んだ。
「ただし、これは楽観的な推測です」

ニゴロは首を傾げた。
「ナナ、なんだか声が震えてるよ?」

ナナは少し困惑した表情を浮かべた。
「そうですか? 私の音声システムに異常はありませんが…」

イチは優しく微笑んだ。
「ナナも、心が動いているのよ」

三体は再び写真に目を落とした。
そこに写る日常の一コマが、彼女たちの中に新たな疑問を芽生えさせていく。

「ねえ」ニゴロが小さな声で言った。
「私たちの仕事って、本当はなんなんだろう?」

イチは深く考え込むように目を閉じた。
「瓦礫を片付けるだけじゃない気がするわ。この写真みたいな、人々の笑顔を取り戻すことなのかもしれない」

ナナは珍しく詩的な口調で答えた。
「失われた時を取り戻す…そんな壮大な使命かもしれません」

三体は顔を見合わせ、小さく頷き合った。
その目には、新たな決意の光が宿っていた。

イチが静かに、しかし力強く言った。
「じゃあ、約束しましょう。いつか、この写真の人たちのような笑顔を、この街に取り戻すって」

ニゴロは元気よく飛び跳ねた。
「うん!絶対だよ!」

ナナもいつになく柔らかな表情で頷いた。
「私も、その目標に全力を尽くします」

三体のアンドロイドは、再び作業に戻っていった。
しかし、その動きには今までにない熱意が感じられた。
彼女たちの心の中で、単なる任務以上の何かが芽生え始めていたのだ。
朝もやが晴れ、陽の光が廃墟の街に差し込む。
その光は、まるでアンドロイドたちの新たな決意を祝福しているかのようだった。
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