37話:クローズプラン③
現在の状況をエクシアに説明する。
世界各地に至る場所で思考誘導による扇動で同士討ちの発生。
ノブリス・オブリージュ遂行のために、王、国、人全てを掌握する作戦のことだ。
現在は、人がほぼ磔刑に処される異常な状況であり、関西弁と京都弁が混じった男が作り出したと推測できる。
その目的は、髑髏マントと呼ばれる現実改変能力者の召喚、そして殺害だったことが読み取れる。
理由は全ての現実改変能力者を対象とした殺し合いゲームの可能性が高い。
「なら、最初の思考誘導による扇動もゲームのプレイヤーの可能性が高そうね。貴方のお父さんの処刑に関わったからはわからないけど、その後の混乱には間違いなく関わっている」
「理由は?」
「それしか有り得ないからよ。この世界でこれほど広範囲の魔法を使えるのは、現実改変能力者、過去の遺物くらいだもの」
「世界封鎖機構の可能性は?」
「あるといえばあるけど、封鎖機構は平和を望んでいる。今回の混乱を起こすのは、目的をぼやかすためのカモフラージュとしてもやり過ぎる。暴走する異物に付け入られる隙にもなる」
「なるほど。だから明確な作戦がある現実改変能力者と、無自覚に混乱をもたらす遺物の二択ということか」
「そう。だからこそ、ここからは他の現実改変能力者からの襲撃か、異物のさらなる行動を警戒するべきね」
「新体制の樹立はどうしたものか」
「まずは政府の樹立ね。旧体制を構成していた貴族や王族は磔刑になっている。やるなら、アーキバスの国家を作ることができるかもしれない」
「わかった。まずは首都の整理をしよう。シャルトルーズのお陰で魔力は漲っている。ここらへんを掃除するのは容易そうだ」
ラスティは指を鳴らす。すると磔刑に処されていた人間と、十字架が消える。首都の色が白くなる。そして高層ビルが生えてきて、連絡橋が繋がれる。
ビルの上には超超遠距離狙撃魔力砲、中距離掃射魔力砲、防衛型魔力レーザー砲、ミサイルコンテナが生成される。
首都の周りに巨大な壁が築かれ、首都をすっぽり覆う半透明のバリアフィールドが展開され、その外には世界封鎖機構が使用していた魔導ゴーレムが首都をぐるりと覆うように陳列されている。
「スキル:グラフィーブラッシュアップ。この首都を新国家に最適化した」
「……凄い力ね。正直恐ろしいわ。でも味方にいると安心感がある」
「安心してくれ。私は善悪・好嫌・聖邪・正過問わずノブリス・オブリージュの遂行に利する者の味方で、それ以外は放置だ」
「貴方って弱点あるの?」
「ある」
【反応や対応、認識外からの初手即死系統の攻撃には何もできず死ぬ。具体的には狙撃や背後からの攻撃だ】
【未来から過去への攻撃。あるいは過去から未来への攻撃】
因果関係を変化させる攻撃は、もともとそうなると知っていなければ発動した瞬間に死ぬ。
【純粋な世界改変エネルギーが、ラスティを上回った攻撃】
これはそのまま通りだ。これは相手の望む変化を許すことになるので、死亡であれ洗脳であれ敗北する。
「しかし、対策は取ってある。このゴーレムギアが証拠だ。まぁその上から攻撃を通されれば無意味なのだが」
「……貴方と戦っている敵が途轍もないレベルなのを感じているわ」
「気にするな、油断は愚かだが、過度な警戒も身を滅ぼす。ようはバランスの問題だ」
「わかったわ。これからどうするの?」
「国を創る。慈善活動組織アーキバスは、慈善活動国家アーキバスへ位を上げる。この首都の名前は……ヴェスパーだ」
ラスティはエクシアを救出した後、要塞都市へ帰還する。
要塞都市と首都ヴェスパーとの道を繋ぎ、舗装するところから始めた。その合間に法整備と国家に必要な施設を作り、魔導ゴーレムをネフェルト少佐とアーキバスのメンバー達が人々を導き、首都ヴェスパーを中心として慈善活動国家アーキバスは大きくなっていた。
王を『シャルトルーズ』
貴族に『ラスティ』『エミーリア』『特別な功績を上げた者』
軍人『戦闘型魔導ゴーレムや魔導師』
技術研究部門『メーテルリンク』
警察『汎用魔導ゴーレム』
市民を『各国の難民』、『亜人種(犬獣人、猫獣人、エルフ、ドワーフ)』
下級市民を『統治下で潜在犯や犯罪者』
同盟に『世界封鎖機構』
仮想敵に『現実改変能力者』『モンスター』『テロリスト』『古代の遺物』
魔力と引き換えに事実上の無限の資源と無限のエネルギーを生み出すことができるラスティは、危険な役目は全て魔導ゴーレムや志願した一部の軍人に任せ、技術の研究と開発を推し進めた。
シャルトルーズ、ひいてはラスティやエクシアなどの創設メンバーに権力が集中している慈善活動国家アーキバスの内部には逆らう者はいた。
平等の権力や、立場、対等な関係、資源やエネルギーの独占、搾取を非難する。
己の利益のために言う者もいれば、間違った知識から来る悪意なき者、そして本当に危険な可能性を知って警戒する者もいた。
魔法によって常に全ての国民の意見を把握しているシャルトルーズは、その意見の妥当性や発言者の信用の確認して、ラスティやアーキバスの掲げる『ノブリス・オブリージュ』に必要なものはエクシアに伝えて対策を練る。
適切な意見をした勇気ある発言者や研究者には報酬と、内密に国家からの信用度が上昇し、重要な仕事が割り振られる。
逆に無知や私利私欲に溺れた者は、警告と改善要求が国から送られ、内密の信用度が一つ下げられる。これで改められれば良し、改めなけれなければ、魔法で思考洗脳された上で下級市民となり、モンスター戦闘の前線へ送られる。
失敗やミスには寛容な制度が充実し、逆に意図して他者の足を引っ張る行為には厳罰が与えられる。
慈善活動国家アーキバスの黎明期である
◆
依頼者:世界封鎖機構
我が組織の保有する魔導ゴーレム製造のための施設の一つが、先ほど労働者達に不当に占拠されました。
この労働者達は恐らく、当該施設で先日行われた大規模な機械化で職を追われた者達なのでしょう。何処からか持ち出してきた武器で武装し、施設の開放と引き換えに、リストラした人間の再雇用を求めています。
我々としては平和な話し合いで解決をしたいのですが、あちらは聞く耳を持ちません。それどころか、要求が聞き入れられなければ施設を破壊するとさえ言い出したのです。
これは誰の目から見ても明らかなテロ行為です。このような無法が許される筈がありません。
我々が如何なる場合であってもテロリストとの交渉に応じず、また、テロ行為を絶対に許さないという姿勢を見せるためにも、徹底した排除をお願いします。
アーキバスを差し向ければ、彼らも我々の意思を理解するでしょう。遠慮はいりません、全て始末してください。
なお、占拠されている施設は労働者達の排除後も操業を続けるつもりです。設備への損害は出来る限り避けて下さい。
迅速な作戦の遂行を期待します。
◆
「さて、やろうか」
「ええ、迅速にやりましょう」
ネフェルト少佐を通じて、ラスティがシャルトルーズを手駒にしたことを知った世界封鎖機構は、ラスティが結んだ契約を利用して積極的に依頼するようになっていた。
大混乱から復興しつつある世界だが、初動が迅速だった慈善活動国家アーキバスは、国土、人民、資源、エネルギー、武力、国土、いろいろな面でバランスの良い国家になっていた。