34話:道
ネフェルト少佐のいる部屋に戻ると、彼女は驚いた様子でラスティを見た。
ラスティは笑みを浮かべて手を振る。
「こちらの休息は完了した。ネフェルト少佐が良ければ会議を始めよう」
「随分と早いようだけど本当に大丈夫なのかしら? まだ部屋を出てから二十分くらいしか経ってないわ」
「エミーリアさんから元気を分けてもらったよ。デュナメスは?」
ラスティは部屋を見渡しながら言う。
部屋にはネフェルト少佐しかいなかった。デュナメスの姿は無かった。
「彼女は待っていられない、と一人で出撃したわ。恐らく死ぬでしょう」
「そうか。本人が望むならその通りにさせよう。ここで足並みを揃えられないならば味方にいても扱いに困るだろう」
「冷静ね。彼女との付き合いは長いと思っていたけど」
「十年前後の付き合いだ。慈善活動組織アーキバスの最初期のメンバーだから、後輩や同期への思い入れがあって、今回の行動に至ったんだろう。彼女は彼女のやりたいことを、私たちは私たちのやりたいことをやる」
「了解。そしてこれから行動に移る上で、全体に共有するべきか迷う事実があるわ」
ネフェルト少佐は言い辛そうにしている。
「取り敢えず私に。統括であるエクシアにも伝えておくべきだろうが、今はいないからな」
「わかったわ。ダークレイス、つまり慈善活動組織アーキバスのメンバーを狙い撃ちした呪いが発生していた。本来は殺害するための呪いみたいだけど、ダイモス細胞に適応され、肉体の変異を促していた。これは不可逆的なもので、変異したものは戻らない。謂わば第二進化形態といっても良い」
「メリットとデメリットは?」
ラスティはすぐに問いかけた。第二進化形態という事をすぐ受け入れ、それが何をもたらすのか必要なことを問いかけたのだ。
「メリットとしては、肉体性能の大幅な上昇。強い耐性と強靭な肉体。精神面では積極的で行動的になる」
「デメリットは?」
「精神面の幼児化。理性よりも生存本能が強くなり、暴力的で、衝動的。服従的で、依存的。自立性が消失していく」
「……なるほど。厄介だ。デメリットを抑制する方法は?」
「人道的な方法は存在しない。ロイヤルダークソサエティのデータによると、これらの性質を助長させて、無敵の兵士として運用する戦闘型、子どもを産ませるようの教育、調整した母体型みたいに、役割を与えて飼育しているようね」
「飼育ね」
「実験動物を外からではなく内で育てるのは、コストはかかるけど機密保持の観点からみれば優れている」
「人間亜人牧場……これをどう受け取るかはその人によるだろうが、後で構わないだろう。これらの情報も特別知らせる必要はない。結局は本人次第だ」
「貴方はこれからどうしたいと思っているの?」
ラスティは少し考える。
ミッドガル帝国の首都で起きた大混乱。
慈善活動組織アーキバスの意味。
エクシアの安否。
世界封鎖機構の戦力。
ラスティの目的。
「大丈夫?」
「……頭が回らない。正直に言えば、このままミッドガルを捨てて逃げても良いかもしれないと思っている。アーキバスやミッドガル帝国に固執するのは泥舟だろう。ロイヤルダークソサエティを殲滅するだけなら感染抹殺魔法でも作って、ロイヤルダークソサエティ所属を抹殺対象に指定すれば終わる」
「そんな事ができるの?」
「できる。理想夢物語は、そういう能力だ」
「なら、何故やらないの?」
「やっても良いが……そうすると共通の敵がいなくなってしまうだろう? アーキバスでの目的意識がバラバラになると空中分解してしまう可能性が高かった。だからエクシアに任せて彼女達自身でロイヤルダークソサエティを打倒しつつ、私は支援者と要請された時の戦力に徹していたんだが……ここまでやるとはね」
ラスティは笑う。
「ノブリス・オブリージュを果たすには貴族としての産まれは勿論、所属する国家、支配する市民、保有する国土が必要だ。しかし今は首都では思考が誘導され殺し合いをしている。この混乱に乗じて戦争を起こす国も……そういえば」
ラスティはネフェルト少佐に問いかける。
「他の地域や、国はどうなっているんだ? 同じ様に殺し合いをしているのか?」
「局所的に起こっているわ。国家、人種、種族、範囲、人数全てがランダム」
「難しいな。これが重要施設や場所が狙い撃ちなら物流は滞り、情報は寸断され、エネルギーは不足していくのが予想できるが、ランダムか」
「一番被害が大きいのは、異民族。数時間にして数百万人が同士討ちしている。逆に最小単位は自殺ね」
「自殺……死に囚われているということか。かの現象は一体何なんだ? いや、それよりどうしていくべきかが大切だ。私は何がしたいかな」
ラスティは考えてみる。
・エクシアを助ける? 必要に応じて。
・ミッドガル帝国を立て直す? 必要に応じて。
・ノブリス・オブリージュを果たす? 目標として掲げているから、反れるのは良くない。
・慈善活動組織アーキバスを立て直す? 負傷者が多く足手纏いだが、第二進化形態があることを考えると重要な駒になるかもしれない。
・世界封鎖機構との約束 これは守らないと気分が悪くなる。
ラスティは自分の頭の中を整理する。
最優先目標はノブリス・オブリージュ。つまり市民の安全の代わりに税金を徴収して、国家に納めることをしなくてはならない。
そう考えると、市民をできる限り多く回収して安全な生活圏を提供する必要がある。その次に国家に税金を納める必要があるから、上層部を作る必要がある。
そしてそのためには、市民を多く救うためには慈善活動組織アーキバスを使えば良いので、行方不明のメンバーを回収、治療、運用していく。
最後にエクシアを助けられれば嬉しい。
「答えは出た。シャルトルーズ。まずは君を皇帝に据える。そしてそれに歯向かうものは殺害し、従う者達で慈善活動組織アーキバスのメンバーを救い出す。その後アーキバスのメンバーに帝国での役職に任命して国家を平定し、私は上級貴族として領地をもらう。領地の市民の安全を確保して、徴税し、国家に納める。最後に慈善活動組織アーキバスのメンバーを世界封鎖機構に貸し出す」
ラスティから生命力が満ちる。
「完璧だ。これが私の考える最高のノブリス・オブリージュ・プラン。楽しくなってきた」
ラスティは笑みを浮かべて手を振る。
「こちらの休息は完了した。ネフェルト少佐が良ければ会議を始めよう」
「随分と早いようだけど本当に大丈夫なのかしら? まだ部屋を出てから二十分くらいしか経ってないわ」
「エミーリアさんから元気を分けてもらったよ。デュナメスは?」
ラスティは部屋を見渡しながら言う。
部屋にはネフェルト少佐しかいなかった。デュナメスの姿は無かった。
「彼女は待っていられない、と一人で出撃したわ。恐らく死ぬでしょう」
「そうか。本人が望むならその通りにさせよう。ここで足並みを揃えられないならば味方にいても扱いに困るだろう」
「冷静ね。彼女との付き合いは長いと思っていたけど」
「十年前後の付き合いだ。慈善活動組織アーキバスの最初期のメンバーだから、後輩や同期への思い入れがあって、今回の行動に至ったんだろう。彼女は彼女のやりたいことを、私たちは私たちのやりたいことをやる」
「了解。そしてこれから行動に移る上で、全体に共有するべきか迷う事実があるわ」
ネフェルト少佐は言い辛そうにしている。
「取り敢えず私に。統括であるエクシアにも伝えておくべきだろうが、今はいないからな」
「わかったわ。ダークレイス、つまり慈善活動組織アーキバスのメンバーを狙い撃ちした呪いが発生していた。本来は殺害するための呪いみたいだけど、ダイモス細胞に適応され、肉体の変異を促していた。これは不可逆的なもので、変異したものは戻らない。謂わば第二進化形態といっても良い」
「メリットとデメリットは?」
ラスティはすぐに問いかけた。第二進化形態という事をすぐ受け入れ、それが何をもたらすのか必要なことを問いかけたのだ。
「メリットとしては、肉体性能の大幅な上昇。強い耐性と強靭な肉体。精神面では積極的で行動的になる」
「デメリットは?」
「精神面の幼児化。理性よりも生存本能が強くなり、暴力的で、衝動的。服従的で、依存的。自立性が消失していく」
「……なるほど。厄介だ。デメリットを抑制する方法は?」
「人道的な方法は存在しない。ロイヤルダークソサエティのデータによると、これらの性質を助長させて、無敵の兵士として運用する戦闘型、子どもを産ませるようの教育、調整した母体型みたいに、役割を与えて飼育しているようね」
「飼育ね」
「実験動物を外からではなく内で育てるのは、コストはかかるけど機密保持の観点からみれば優れている」
「人間亜人牧場……これをどう受け取るかはその人によるだろうが、後で構わないだろう。これらの情報も特別知らせる必要はない。結局は本人次第だ」
「貴方はこれからどうしたいと思っているの?」
ラスティは少し考える。
ミッドガル帝国の首都で起きた大混乱。
慈善活動組織アーキバスの意味。
エクシアの安否。
世界封鎖機構の戦力。
ラスティの目的。
「大丈夫?」
「……頭が回らない。正直に言えば、このままミッドガルを捨てて逃げても良いかもしれないと思っている。アーキバスやミッドガル帝国に固執するのは泥舟だろう。ロイヤルダークソサエティを殲滅するだけなら感染抹殺魔法でも作って、ロイヤルダークソサエティ所属を抹殺対象に指定すれば終わる」
「そんな事ができるの?」
「できる。理想夢物語は、そういう能力だ」
「なら、何故やらないの?」
「やっても良いが……そうすると共通の敵がいなくなってしまうだろう? アーキバスでの目的意識がバラバラになると空中分解してしまう可能性が高かった。だからエクシアに任せて彼女達自身でロイヤルダークソサエティを打倒しつつ、私は支援者と要請された時の戦力に徹していたんだが……ここまでやるとはね」
ラスティは笑う。
「ノブリス・オブリージュを果たすには貴族としての産まれは勿論、所属する国家、支配する市民、保有する国土が必要だ。しかし今は首都では思考が誘導され殺し合いをしている。この混乱に乗じて戦争を起こす国も……そういえば」
ラスティはネフェルト少佐に問いかける。
「他の地域や、国はどうなっているんだ? 同じ様に殺し合いをしているのか?」
「局所的に起こっているわ。国家、人種、種族、範囲、人数全てがランダム」
「難しいな。これが重要施設や場所が狙い撃ちなら物流は滞り、情報は寸断され、エネルギーは不足していくのが予想できるが、ランダムか」
「一番被害が大きいのは、異民族。数時間にして数百万人が同士討ちしている。逆に最小単位は自殺ね」
「自殺……死に囚われているということか。かの現象は一体何なんだ? いや、それよりどうしていくべきかが大切だ。私は何がしたいかな」
ラスティは考えてみる。
・エクシアを助ける? 必要に応じて。
・ミッドガル帝国を立て直す? 必要に応じて。
・ノブリス・オブリージュを果たす? 目標として掲げているから、反れるのは良くない。
・慈善活動組織アーキバスを立て直す? 負傷者が多く足手纏いだが、第二進化形態があることを考えると重要な駒になるかもしれない。
・世界封鎖機構との約束 これは守らないと気分が悪くなる。
ラスティは自分の頭の中を整理する。
最優先目標はノブリス・オブリージュ。つまり市民の安全の代わりに税金を徴収して、国家に納めることをしなくてはならない。
そう考えると、市民をできる限り多く回収して安全な生活圏を提供する必要がある。その次に国家に税金を納める必要があるから、上層部を作る必要がある。
そしてそのためには、市民を多く救うためには慈善活動組織アーキバスを使えば良いので、行方不明のメンバーを回収、治療、運用していく。
最後にエクシアを助けられれば嬉しい。
「答えは出た。シャルトルーズ。まずは君を皇帝に据える。そしてそれに歯向かうものは殺害し、従う者達で慈善活動組織アーキバスのメンバーを救い出す。その後アーキバスのメンバーに帝国での役職に任命して国家を平定し、私は上級貴族として領地をもらう。領地の市民の安全を確保して、徴税し、国家に納める。最後に慈善活動組織アーキバスのメンバーを世界封鎖機構に貸し出す」
ラスティから生命力が満ちる。
「完璧だ。これが私の考える最高のノブリス・オブリージュ・プラン。楽しくなってきた」