32話:死刑執行者
「地球出身のプレイヤー? 何の話か分からないな」
「なんや、ゲームマスターからルール説明されてへんの? ざっくり言えば地球出身から転生なり転移なりしてきた人達で殺し合いしましょうって話なんよ」
おかっぱ頭の青年は軽薄そうな笑みを浮かべて喋る。
「地球から異世界へ自我を保ったまま移動できる人間は高い素養を持っているから、その人間を殺し合わせたらオモロイこと起きるんちゃう? って思想らしいで」
「……なるほど。厄介な者に目をつけられたものだ。殺し合い……殺し合いか。不愉快だな」
「俺もそういう暑苦しいの嫌いやねん。殺し合いとか頭おかしいでホンマ。君とは友達になれそうで良かったわ」
「そうか、私はラスティ・ヴェスパー。君の名前は?」
「俺はオーディンや。よろしゅうな、ラスティ」
「ああ、よろしく。そしてすまないが、エミーリアさんを解放して上げてくれないか? ここは一つ、お願いだ」
「……まぁええよ。せっかくできた友達の頼みやしな。別の子捕まえることにするわ。ここも物騒だし、もう行くわ。バイバイ、ラスティ」
そう言うとオーディンはその場から跳躍して、消えていった。
ラスティは息を吐くと、自分の着ていた上着をエミーリアにかけた。
エミーリアは怯えた様子で、ラスティを見る。
「貴方はあの人と知り合いなんですか?」
「彼とは初対面だ。しかし同じ出身地ではあるようだ。エミーリアさん、簡潔に説明するから聞いて欲しい」
「は、はい」
「今、この地域では思考操作が行なわれ、同士討ちが起きている。この原因はわからない。先程まで私は妹と戦っていて、仲間に後を任せてしまう形になっている。すぐに救援に行く必要がある」
その言葉の途中で、ラスティに魔法通信が届く。
『否定。救援の必要はありません』
「シャルトルーズ?」
『マスターの妹であるメーテルリンク・ヴェスパーは撃墜しました。拘束を完了し、思考操作の解除も完了しています』
「流石だ。ありがとう、シャルトルーズ」
『感謝を受け取ります。マスターはマスターの好きなようにやってください。メーテルリンク嬢の安全は、このシャルトルーズが保証します』
「了解した。まずは体勢を立て直し、情報を集め、現存する味方戦力を救出する必要がある」
『了承。マスターの方針に賛成します。撤退地点はいかがしますか?』
「……そうだな、ネフェルト少佐に頼み、世界封鎖機構の施設を借りる。要塞都市に避難してくれ。ネフェルト少佐への話はこちらから通しておく」
『了解』
シャルトルーズとの通信を終えると、今度はネフェルト少佐へ魔法通信を繋ぐ。
『こちら、世界封鎖機構のネフェルト少佐です。ラスティ・ヴェスパーね?』
「その通りだ。ネフェルト少佐、事情はどこまで知っている?」
『全て。広域思考操作がミッドガル帝国の首都で作動して、同士討ちをしているのは中継されているわ』
「中継……? 何故そんな事を」
『元々、貴方が自分の父親を殺す瞬間を広く認知させるのが目的だったみたいだけど、乗っ取られたわね。いまやミッドガル帝国の政治戦力的な空白として、支援をするか攻撃をするかで各国の意見は割れている』
「……世界封鎖機構としての見解は?」
『上からの通達はなし。相手の思惑に乗っかる形で自分の利益にするような行為は、ロイヤルダークソサエティ特有の動きだわ』
「手を貸してほしい。私達を助けてくれ」
『ええ、了解したわ。参戦理由としてはシャルトルーズの暴走の危険性かしらね』
「世話をかける」
『いいわ。こちらとしても、貴方が死んでシャルトルーズの首輪が外れるのは問題だもの。要塞都市を使いなさい。前回の戦いから脆弱性を潰して再建したわ』
「了解」
魔法通信を終えると、聖女エミーリアの前で膝をついて、目を見て話す。
「エミーリアさん。この地域から離脱する。世界封鎖機構の要塞都市へ避難するつもりだ。もし良ければ、貴方も一緒に連れて行くが、どうする?」
「は、はい。お願いします!」
「よし、行くぞ」
ラスティは魔法で翼を生やして、空を飛ぶ。飛行魔法と併用した高次元制御での空中飛行は、下からの投げ槍や、魔法をきれいに避けて、要塞都市まで逃げ延びた。
要塞都市の中央制御機構があるセントラルタワーの周辺に降り立つ。そして内部に入ると、血の匂いで噎せ返りそうだった。
「酷い……」
「かなりやられたな」
そこにいたのは負傷したダークレイス達……つまり慈善活動組織アーキバスの管理下にあった女の子達だった。
動けるものは清潔な服に着替えて治療をしているようだが、すぐに赤く染まってしまう。
着替えをする時間が惜しいとばかりに、次々と運ばれる負傷者達に治癒魔法をかける。
「私も手伝います! 治癒魔法なら得意なので!」
エミーリアは傷だらけの子達を見て、すぐに治療に加わった。
ラスティは、ネフェルト少佐の下へ急いだ。
ネフェルト少佐の周囲には、シャルトルーズ、デュナメスの姿があった。
「すまない、遅れた」
「……いえ、大丈夫よ。別に会議をしていたわけではなくてね、今は負傷者の搬送と治療を優先しているわ」
「ここに来るまでにいくつか見てきた。かなり手酷くやられたな」
「ああ、全くだぜ」
デュナメスの左目は眼帯で隠されていて、強い攻撃を受けたのを感じさせた。
デュナメスは苛立ちの様子を隠さず、強い口調で吐き捨てる。
「あいつら、思考操作が効かないとみるやガスを使いやがった。毒に、酸に、呪いだ」
それに付け加えるようにネフェルト少佐も苦々しく言う。
「それだけではなく、生物兵器の使用も確認されているわ。人為的に改良された異常特異型ゴブリンや、寄生発達型のスライムね。負傷者の治療中に、腹からスライムが出てきて被害を撒き散らすみたいな事が多発したわ」
「報復しようぜ、ボス。やられっぱなしで黙っていられるか」
デュナメスの提案に、ラスティも頷く。
「報復はする。しかし今は生存者の救出が優先だ。生存者を救出し、治療して、装備やアイテムを整え、最後に奴らを一人残らず殲滅する。詳しい話は……ネフェルト少佐、頼んで良いか?」
「任せて」
「私は少し、休む」
「なんや、ゲームマスターからルール説明されてへんの? ざっくり言えば地球出身から転生なり転移なりしてきた人達で殺し合いしましょうって話なんよ」
おかっぱ頭の青年は軽薄そうな笑みを浮かべて喋る。
「地球から異世界へ自我を保ったまま移動できる人間は高い素養を持っているから、その人間を殺し合わせたらオモロイこと起きるんちゃう? って思想らしいで」
「……なるほど。厄介な者に目をつけられたものだ。殺し合い……殺し合いか。不愉快だな」
「俺もそういう暑苦しいの嫌いやねん。殺し合いとか頭おかしいでホンマ。君とは友達になれそうで良かったわ」
「そうか、私はラスティ・ヴェスパー。君の名前は?」
「俺はオーディンや。よろしゅうな、ラスティ」
「ああ、よろしく。そしてすまないが、エミーリアさんを解放して上げてくれないか? ここは一つ、お願いだ」
「……まぁええよ。せっかくできた友達の頼みやしな。別の子捕まえることにするわ。ここも物騒だし、もう行くわ。バイバイ、ラスティ」
そう言うとオーディンはその場から跳躍して、消えていった。
ラスティは息を吐くと、自分の着ていた上着をエミーリアにかけた。
エミーリアは怯えた様子で、ラスティを見る。
「貴方はあの人と知り合いなんですか?」
「彼とは初対面だ。しかし同じ出身地ではあるようだ。エミーリアさん、簡潔に説明するから聞いて欲しい」
「は、はい」
「今、この地域では思考操作が行なわれ、同士討ちが起きている。この原因はわからない。先程まで私は妹と戦っていて、仲間に後を任せてしまう形になっている。すぐに救援に行く必要がある」
その言葉の途中で、ラスティに魔法通信が届く。
『否定。救援の必要はありません』
「シャルトルーズ?」
『マスターの妹であるメーテルリンク・ヴェスパーは撃墜しました。拘束を完了し、思考操作の解除も完了しています』
「流石だ。ありがとう、シャルトルーズ」
『感謝を受け取ります。マスターはマスターの好きなようにやってください。メーテルリンク嬢の安全は、このシャルトルーズが保証します』
「了解した。まずは体勢を立て直し、情報を集め、現存する味方戦力を救出する必要がある」
『了承。マスターの方針に賛成します。撤退地点はいかがしますか?』
「……そうだな、ネフェルト少佐に頼み、世界封鎖機構の施設を借りる。要塞都市に避難してくれ。ネフェルト少佐への話はこちらから通しておく」
『了解』
シャルトルーズとの通信を終えると、今度はネフェルト少佐へ魔法通信を繋ぐ。
『こちら、世界封鎖機構のネフェルト少佐です。ラスティ・ヴェスパーね?』
「その通りだ。ネフェルト少佐、事情はどこまで知っている?」
『全て。広域思考操作がミッドガル帝国の首都で作動して、同士討ちをしているのは中継されているわ』
「中継……? 何故そんな事を」
『元々、貴方が自分の父親を殺す瞬間を広く認知させるのが目的だったみたいだけど、乗っ取られたわね。いまやミッドガル帝国の政治戦力的な空白として、支援をするか攻撃をするかで各国の意見は割れている』
「……世界封鎖機構としての見解は?」
『上からの通達はなし。相手の思惑に乗っかる形で自分の利益にするような行為は、ロイヤルダークソサエティ特有の動きだわ』
「手を貸してほしい。私達を助けてくれ」
『ええ、了解したわ。参戦理由としてはシャルトルーズの暴走の危険性かしらね』
「世話をかける」
『いいわ。こちらとしても、貴方が死んでシャルトルーズの首輪が外れるのは問題だもの。要塞都市を使いなさい。前回の戦いから脆弱性を潰して再建したわ』
「了解」
魔法通信を終えると、聖女エミーリアの前で膝をついて、目を見て話す。
「エミーリアさん。この地域から離脱する。世界封鎖機構の要塞都市へ避難するつもりだ。もし良ければ、貴方も一緒に連れて行くが、どうする?」
「は、はい。お願いします!」
「よし、行くぞ」
ラスティは魔法で翼を生やして、空を飛ぶ。飛行魔法と併用した高次元制御での空中飛行は、下からの投げ槍や、魔法をきれいに避けて、要塞都市まで逃げ延びた。
要塞都市の中央制御機構があるセントラルタワーの周辺に降り立つ。そして内部に入ると、血の匂いで噎せ返りそうだった。
「酷い……」
「かなりやられたな」
そこにいたのは負傷したダークレイス達……つまり慈善活動組織アーキバスの管理下にあった女の子達だった。
動けるものは清潔な服に着替えて治療をしているようだが、すぐに赤く染まってしまう。
着替えをする時間が惜しいとばかりに、次々と運ばれる負傷者達に治癒魔法をかける。
「私も手伝います! 治癒魔法なら得意なので!」
エミーリアは傷だらけの子達を見て、すぐに治療に加わった。
ラスティは、ネフェルト少佐の下へ急いだ。
ネフェルト少佐の周囲には、シャルトルーズ、デュナメスの姿があった。
「すまない、遅れた」
「……いえ、大丈夫よ。別に会議をしていたわけではなくてね、今は負傷者の搬送と治療を優先しているわ」
「ここに来るまでにいくつか見てきた。かなり手酷くやられたな」
「ああ、全くだぜ」
デュナメスの左目は眼帯で隠されていて、強い攻撃を受けたのを感じさせた。
デュナメスは苛立ちの様子を隠さず、強い口調で吐き捨てる。
「あいつら、思考操作が効かないとみるやガスを使いやがった。毒に、酸に、呪いだ」
それに付け加えるようにネフェルト少佐も苦々しく言う。
「それだけではなく、生物兵器の使用も確認されているわ。人為的に改良された異常特異型ゴブリンや、寄生発達型のスライムね。負傷者の治療中に、腹からスライムが出てきて被害を撒き散らすみたいな事が多発したわ」
「報復しようぜ、ボス。やられっぱなしで黙っていられるか」
デュナメスの提案に、ラスティも頷く。
「報復はする。しかし今は生存者の救出が優先だ。生存者を救出し、治療して、装備やアイテムを整え、最後に奴らを一人残らず殲滅する。詳しい話は……ネフェルト少佐、頼んで良いか?」
「任せて」
「私は少し、休む」